■イントロダクション
「SNSによる炎上」が社会問題として取り沙汰されることが増えた。中には人命に関わるような深刻な炎上事例もあり、早急な対応が求められている。そうした中、子どものSNS利用を禁止・規制すべきという議論が世界各国で持ち上がっている。
子どものSNS禁止は本当に有効なのか。そして炎上の本質はどこにあるのか。
本書では、破壊的な炎上を食い止めるには、子どものSNSを禁止するのではなく、大人のX利用を規制すべきだという主張を展開。SNSで形成された閉じたコミュニティを、見境なく接続するXの機能に着目し、その拡散力を削ぐ方向の対処法を提案している。
また、多様性が謳われる現代に、インターネット上で意見の「激突」が起こる構造についても掘り下げている。
著者は中央大学国際情報学部教授。富士総合研究所勤務、関東学院大学経済学部准教授・情報科学センター所長を経て、2019年から現職。中央大学政策文化総合研究所所長、学校法人神戸学園顧問も務める。
第1章 世界のSNS規制状況
第2章 拡散系サービスの歴史
第3章 X上での政治的対立はなぜ起こる?
第4章 正義棒は魔法の棒
第5章 子どものSNS禁止より、大人のX規制が必要な理由
第6章 どうすれば誹謗中傷合戦を解決できるか?
■SNSの本質は「閉鎖空間」
そもそもSNSとは何か? 一言で言い切ってしまうならば、フィルターバブルを作るサービスがSNSです。本書はSNSをこう定義します。SNSの本質は閉鎖空間で、そのサービスの核心とは、仲良ししかいない閉じたコミュニティを作って利用者を閉じ込めることです。
利用者はタイムラインというフィルターバブルの中で、自分の触れたい情報にだけ触れて時間を過ごします。それが許されていた時期の子ども部屋のような、幸せな体験がSNSの商品価値です。
SNSの機能はむしろ喧嘩を回避する方向へ働きます。怒られそうなことをやっても親や先生や対立集団が発見しにくくなります。でも、事実としてSNSに由来した炎上は頻発しています。なぜ、このような矛盾が生じるのでしょうか? それは「SNSでないサービスをSNSと呼んでいるから」だと私は考えています。
■Xが「グループ同士の橋」になる
SNSではないのに、SNSと呼ばれているサービスの典型例はXです。Xは(*SNS的機能も持つが)フィルターバブルが作る殻を突き崩す機能が傑出しているので、偏った考えが生まれたときにそれを殻の中に閉じ込めることができません。
まさにX自身がツイッター時代に自称していたように、彼らの力の源泉は「世界をあまねく接続する能力」です。
SNSの特定の友だちグループの中では常識として通用していた考えは、グループの外にいる人にとっては嘘であり、不快であり、不正義にもなり得ます。こうした話題はたちまち炎上します。SNSがその機能で分割していたグループ同士がXという橋で結ばれ、考えの合わない人同士の相互接触が幾重にも重ねられ、炎上の確率は跳ね上がります。
■規制すべきは「拡散系サービス」
Xに限らず伝播させることを主眼に設計されているサービス(YouTubeやTikTok、インスタグラム等)は、まさに世界を分け隔てなく結びます。こうした拡散系サービス(Amplification-Oriented Services:AOSとしておきます)の存在価値はその利用者数と拡散性、アテンション獲得能力です。そして、そのアテンションを得るよく知られた、極めて効率的なやり方は人の怒りです。
彼らが表立って認めることはありませんが、アテンションを獲得するために怒りを利用するテクニックは年々進歩・拡大しています。こうした状況がある中で、炎上とその二次被害を押さえ込もうとするならば、まず規制すべきはSNSではなく拡散系サービスだと考えられます。その利用、拡散デザイン、運用に制限をかけることは、現実的な解決策となるでしょう。
また、炎上の主戦場としてのXを観察したとき、もとから児童・生徒の年代の利用者比率が高いサービスではありませんでした。
■新幹線で「豚まん食べていいのか」問題
戦後の社会は、みんなだいたい同じ価値観を共有している社会(「大きな物語の社会」)から、みんな違ってみんないいという社会(「ポストモダン社会」)へと移行していきます。多くの人にとっても、基本的にはこの移行は歓迎だったと思うのです。ただ、誤算が2つありました。一つめは「みんな違ってみんないい」への過度な期待。二つめは「みんな違いすぎる」状態への予想外の増速です。
一つめの「みんな違ってみんないい」状態を多くの人はユートピア的に捉えました。「みんな違ってみんないい」ので、自分の居場所が確保されていそうに思えます。しかしそれは、自分にとって嫌な奴や嫌な考えにも居場所があるということです。
新幹線には優雅に乗りたい、乗車時間はイコール読書時間だ、などと考える人にとって、隣席に強烈な旨味を放つ豚まん喫食者が座ったら移動時間は地獄と化すかもしれません。でも、「ふざけるな、遠慮しろ」とは言えないでしょう。
■「蕎麦をすする音」が論争になる理由
そうは言っても多様性への齟齬や違和感はある程度折り込み済みでした。今までと違う社会の構造を築き上げていって、無傷でいられることはありません。しかし、誤算の二つめ、多様な社会の正義は予想以上に多様でした。
たとえば「蕎麦をすする音を聞かされることで傷ついている人がおり、これはヌードルハラスメントである。それを放置することは不正義である。そんな不正義を許すわけにはいかない」と主張することは、ただのわがままではありません。自分が不快なことには声を上げていいし、唯一無二の人生を謳歌するために自分の意見をしっかり持ちなさいと教育されたし、不正を見過ごすのは倫理的に許されないはずです。
したがって、蕎麦をすする人を撲滅するのは絶対的な正義になるはずです。視点を入れ替えると、蕎麦をすする側にも「そういう文化を守りたい」など個別の正義がいくつもあるので、なかなか撤退しにくい。
■「殴り合いの荒野」になるプロセス
正しいことを追求した結果、コミュニティが殴り合いの荒野になる現象は、概ねこのようなプロセスをたどります。
・コミュニティ間の価値観の齟齬
・コミュニティの外部にいる者がコミュニティの文脈や規範を無視して干渉
・そのコミュニティが基盤を置くプラットフォームが想定する事象と、起きている現象の差が激しく調停機能が働かない
この3点セットは、園児の喧嘩にも、国家間の諍いにも、SNSのフィルターバブル同士の揉め事にも、同じように当てはまります。多様性の尊重は各意見間の距離を増加させているので、中間点の落としどころを見つけることも困難です。
■人は本音の部分では「対話」を欲していない
Xは多様な意見を載せる器になっています。SNSと違って、自分と異なる意見もよく見えるサービスです。しかし、「多様な意見を見せること」は、多様な意見を怒りの燃料にして、同一勢力内でのサイバーカスケード(*インターネット上で一意見が急速に広がり社会のうねりとなること)を助長し、それら勢力を激突させる働きをしています。Xというプラットフォームでなくても、人はそのように振る舞うでしょう。人は本音の部分では対話を欲していないのだと思います。
では、どう情報流通のデザインを変えると多くの人々が幸せになれるのでしょうか? AOS(拡散系サービス)の増幅機能に基づいた、より的を絞ったルールを適用するという道筋を提案します。対処法の一つは、拡散系サービスの「仲間でない人とも容易につながる機能」を止めてしまうことです。
拡散力を弱めると、ネット上で形作られる友人関係は同属性の人に限定され、メンバーの入れ替わりの少ない、息苦しいコミュニティへと回帰していきます。ただし、炎上は起こりにくいです。技術的には難しくありませんが、(*大規模プラットフォーマーの抵抗で)現実的な難易度は極めて高いものになります。
■拡散系サービス規制か、コクーンの未来か
個人的には、もっと効果のありそうな解決策も持っています。個人が完全にパーソナライズされた快適な現実に引きこもるコクーン(繭)の未来です。SNSのフィルタリングをさらに推進して、同一属性の人の囲い込みを深化させるのです。電子的な隔離と言ってもいいかもしれません。
話し合っても喧嘩にならない、共感できる人しか、同じ生活範囲内に見えない(存在しない)ようにします。たとえばヘッドマウントディスプレイ(HMD)をかぶって出社・登校し、本当に意見の合う、気に入った人や物、音、匂いしか、自分のフィルターバブルの中には入ってこられないようにします。
AOS規制は、公共圏を再び居住可能、議論可能なものにするために手を入れる試みです。コクーンの解決策は、完全にコントロールされた私的領域を優先し、公共圏そのものを廃絶する試みです。公共の広場を修復するために戦うのか、究極の孤立を形成する私的な繭を作っていくのか、私たちは近い将来、これを選ぶことになるかもしれません。
※「*」がついた注および補足はダイジェスト作成者によるもの
■コメントby SERENDIP
著者のコクーン案は極端(著者自身、一つの思考実験と述べている)だが、ネット上のサービスを「仲間と閉じるサービス」と「世界へ拡散するサービス」と区別する視点は示唆に富む。異なるルール、世界観、志向性を持つサービスが何の準備もなく混じってしまい、無法地帯となっているのがSNSの現状なのだろう。利用者は「閉鎖系」「拡散系」の区別を意識するだけでも、XやSNSへの向き合い方が変わるように思われる。炎上やそれを生み出す感情がプラットフォームの技術によって触発されるならば、そうした「道具」の技術的構造を理解することは、一つの抑止になるのではないか。
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(書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」)

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