※本稿は、金間大介、酒井崇匡『仕事に「生きがい」はいりません 30年の調査データが明かすZ世代のリアル』(SB新書)の一部を再編集したものです。
■仕事と“生きがい”のデカップリング現象
この点について、他のデータも使って、さらに深掘りしていこう。
内閣府が実施している時系列調査「国民生活に関する世論調査」には、働く目的について、「お金を得るため」「社会の一員として務めを果たすため」「自分の才能や能力を発揮するため」「生きがいを見つけるため」の中から自分の考えに近いものを1つ選ぶという項目がある(図表1)。
まず2001年以降、4つの選択肢の中でずっと一番低い値で推移しているのが「自分の才能や能力を発揮するため」だ。値も大きくは変動していない。
その次に低いのが「社会の一員として務めを果たすため」で、こちらは徐々に上昇していたが、その後下降し、2023年の値は2001年の値と結局ほぼ一緒だ。
二十数年間でそこまで変化が見られなかったこれら2つの選択肢に対して、残る上位2つの選択肢は明快で対照的な変化が見られる。
まず、「お金を得るため」はもともと2001年段階で約5割と高かったが、2015年頃からさらに上昇し始め、2023年には64.5%にまで上昇した。
それに対して、「生きがいを見つけるため」は、2001年には24.4%あったのが、2023年には12.8%にまで減少している。多くの人が働くことの第一目的を「お金のため」と割り切りつつあり、その分だけ、「生きがい」のような働く充実感を高める要素はあまり求められなくなってきているのだ。
こうして、仕事と生きがいが切り離されていく、すなわち「デカップリング」していく傾向がはっきりしてきたのは2015年頃からだ。
■「仕事を生きがいにする」は視野狭窄に
これは2013年に「ブラック企業」が新語・流行語大賞でトップ10入りするなど、「働き方改革」の気運が世の中で盛り上がり、2018年の働き方改革関連法の成立とその後の施行の中で社会実装されていったタイミングと一致している。
実際のところ2010年代後半以降、懸命に働くということは、やや時代にそぐわないスタイルとして受け取られてきた。これは過労死などの痛ましい事件に対して社会全体が問題意識を持ち、法律も含めセーフティネットが定められたという点では間違いなく前進だっただろう。
ただその一方で、この頃から、「仕事を生きがいにする」ということ自体が、なんだか少し視野狭窄(きょうさく)な印象を持たれ始めた部分もある。
人生をもっと広い視野で見れば、面白いことややりがいのあることはたくさんある。そもそも日本人は働きすぎって言われているじゃないか。そんなに必死になる必要なんてなくて、生活するのに必要なお金が稼げさえすれば、後はプライベートを楽しもうよ――。
そんな時代の気分がこのデータからは透けて見えてくる。
■生きがいが多様化する時代
前述の内閣府が実施している「国民生活に関する世論調査」では、生活の中でどんな時に充実感を感じるのかをたずねた項目もある。
こちらは8つの選択肢から当てはまるものをいくつでも選ぶ形式だが、「ゆったりと休養している時」と「趣味やスポーツに熱中している時」に充実を感じる人は2001年から2023年まで徐々に増え続けている(図表2)。
一方で、「仕事にうちこんでいる時」に充実を感じると答えた人は、2001年から横ばいが続いていたが、2014年の34.5%以降は減少傾向にあって、2023年には27.4%まで減ってしまった。
減少に転じたタイミングは、やはり前述の働き方改革以降、と考えてよさそうだ。
いずれにせよ、現代人の多くは仕事よりも私生活で充実感を得るように変化している。
「ゆったりと休養している時って、リラックスはするにしても充実感があるのか?」と思う人もいるかもしれないが、今は休養しながら楽しめるコンテンツがいくらでもある。
それに推し活も含め、確かに趣味に充実感、ひいては生きがいを感じる人が増えている。
■全年代を通して増加した推し活
推し活は、自分の中に明確ながんばる目標がなかった人たちにも、推しの活動を応援する、みんなで一緒に推しが抱いている夢を実現させる、という文脈を与えた。推しを応援するのが生きがい、という人は、いまや若者だけでなく全年代を通して増加している。
こうやって見てみると、若者が仕事にやりがいをあまり見出(みいだ)さなくなったことには、現在の時代環境が大いに影響していそうだ。若者はある意味、とても素直にこの時代でクローズアップされている価値観を吸収しているだけだとも言える。
生きがいは自分で持てればよいのだから、他の人から理解不能であったとしても構わない。そもそもSNSのお陰で、かなりマニアックなことだったとしても、同じことに生きがいを感じる人たちが容易に見つかる環境が成立している。
それだけ多様でニッチな生きがいの形が包摂される世になったことは、社会の進歩や成熟の証とも言えるだろう。
■仕事からの自由を求める価値観
こうした価値観の広がりは日本だけに限ったことではない。
「仕事はそこそこにして、その分、趣味を楽しもう」という動きは、アメリカでも見られている(意外と知られていないが、アメリカ人の平均労働時間は日本人のそれより長い)。
例えば、アメリカでは2012年前後から若者の間でYOLOという言葉が流行した。
「今この瞬間を楽しんで後悔しない生き方をしよう」という考え方だが、YOLOは衝動的な旅行や高価な買物、危険な遊びなど、無謀で無責任な行動を正当化する口実として使われた結果、批判も多く、そのうち下火になった。
YOLOと同時期に始まったムーブメントでありつつ、長期的な視点で仕事に依存しない人生を目指すという対極的なアプローチを取ったのが、日本でも話題になったFIRE(Financial Independence, Retire Early)だ。
徹底的な節約と資産形成を通して早期リタイアを目指すというもので、YOLOが「今」の快楽を優先したのに対して、FIREは「未来」の自由を優先しているという点で、一見すると真逆のように感じられる。
ただ、つまらない仕事や長時間労働から早期に解放され、人生の時間を自分の好きなように使いたいという点で、仕事からの自由を求める価値観には共通しているところがあった。
■米国若者の「静かな退職」ムーブメント
コロナ禍を経た2020年以降になると、仕事を辞めるわけではないが努力は最低限にしよう、というアプローチが出てくる。
「静かな退職(Quiet Quitting)」がアメリカの若者の間でムーブメント化したのは2022年頃からで、退職はせずに仕事を続けつつも、必要最低限の努力だけを行い、それ以上の貢献(残業、ボランタリーな活動、積極的な意見表明など)をしないという働き方だ。
さらに2023年頃からは、「レイジー・ガール・ジョブ(Lazy Girl Job)」という言葉も流行した。直訳すると「怠惰な女の子の仕事」だが、その意味合いは少し異なる。
TikTokで広まったこの言葉は、「最小限の努力で高い給料を得られ、私生活に支障をきたさない仕事」を指している。よしとされている仕事の特徴は、
・対人関係のストレスが少なく、定型的な業務が多い
・リモートワークが中心
・残業がほとんどなく、定時で帰れる
・十分に生活できるだけの給料を得られる
といったもの。「静かな退職」は今している仕事に対して必要最低限の働き方をすることだが、「レイジーガールジョブ」はストレスの少ない仕事そのもの(職種や業務内容)を積極的に探すというアプローチだ。
この他にも、週全体のストレスを軽減するために月曜日は最低限の業務だけをこなす、「ベア・ミニマム・マンデー(Bare Minimum Mondays)」という、より実行しやすそうなスタイルが同時期に提唱されていたりもする。
■グローバルトレンドとしての脱・仕事
こうした、YOLO、FIRE、静かな退職、そしてレイジー・ガール・ジョブといった一連のムーブメントは、「仕事は自分の人生を豊かにする手段に過ぎず、そのために生きるものではない」という、現代の共通した価値観を反映している。
ただし、こうした海外のトレンドと日本の違いは、その割合にあるかもしれない。本書のパートナーで、2024年に『静かに退職する若者たち』(PHP研究所)を執筆した金間さんによると、アメリカにおいて静かな退職を実行する人(Quiet Quitter)は、いくつかの主要な調査会社の統計によると、せいぜい1割から2割程度だ。
少数派とはいえ、そのくらいの割合になると、一つのトレンドを巻き起こすという意味では、アメリカらしいとも言えよう。
さらにアメリカらしいという意味では、Quiet Quitterたちに対し、国内で多くの批判的な意見も集まっているという。
「努力は若者の権利であり社会に対する義務でもある」「がんばらない姿勢は現実逃避に過ぎず、仕事の不満や燃え尽きに対する万能薬ではない」「本当に休息を必要とする人もQuiet Quitterと思われてしまう」、といった具合だ。こうして対立した議論をぶつけ合い、価値観の違いをクリアにしていこうという姿勢は、日本にはあまりないかもしれない。
それに、そもそも日本では、はるか以前から脱・仕事の代表格である「指示待ち人間」は存在している。「窓際族」も「働かないおじさん」も健在だ。
この辺りは、さすが課題先進国ニッポンというところか。アメリカで最近話題になった現象を、何十年も前から先取りしている。
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金間 大介(かなま・だいすけ)
金沢大学融合研究域融合科学系教授、北海道医療大学客員教授
北海道生まれ。横浜国立大学大学院物理情報工学専攻(博士〈工学〉)、バージニア工科大学大学院、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、文部科学省科学技術・学術政策研究所、北海道情報大学准教授、東京農業大学准教授等を経て、2021年より現職。専門はイノベーション論、マーケティング論、モチベーション論等。若手人材や価値づくり人材の育成研究に精力を注ぐ。大手企業の他、医療機関や社会福祉法人との連携も多数。主な著書に『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』(東洋経済新報社)、『静かに退職する若者たち』(PHP研究所)、『ライバルはいるか?』(ダイヤモンド社)、『無敵化する若者たち』(東洋経済新報社)など。一般社団法人WE AT(ウィーアット)副代表理事、日本知財学会理事。
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酒井 崇匡(さかい・たかまさ)
博報堂生活総合研究所 主席研究員
2005年、博報堂入社。マーケティングプランナーを経て、2012年より現職。ビッグデータを活用した生活者研究の新領域「デジノグラフィ」を開拓。長期時系列調査や定性調査などあらゆる生活者データを駆使した発見と洞察を行う。著書に『Z家族 データが示す「若者と親」の近すぎる関係』(光文社新書)、『デジノグラフィ インサイト発見のためのビッグデータ分析』(宣伝会議)、『自分のデータは自分で使う マイビッグデータの衝撃』(星海社新書)がある。
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(金沢大学融合研究域融合科学系教授、北海道医療大学客員教授 金間 大介、博報堂生活総合研究所 主席研究員 酒井 崇匡)

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