頭と体にいい毎日の習慣は何か。精神科医の和田秀樹さんは「一歩外に出て、花を眺め、犬と出会い、太陽を浴びる。
そんなささやかな“想定外”と出会う時間が、前頭葉を刺激し、老化のスピードをゆるやかにしてくれる」という――。
※本稿は、和田秀樹『これだけでいい!老けない!ボケない!和田式「アウトプット健康法」』(祥伝社)の一部を再編集したものです。
■血糖値を半分近くまで下げた毎日30分の習慣
正直に言うと、現在65歳の私は血圧も血糖値も高く、心不全も抱えています。いわば「病気のデパート」のような状態です。
心不全の治療で利尿剤を飲んでいるため、尿が近くなるという不便はありますが、それ以外はとくに仕事にも生活にも支障は出ていません。年齢のわりに元気で、クリエイティブな活動もできています。
とはいえ、実は、いまから8年前に糖尿病が見つかるまで、私はほとんど運動をしていませんでした。移動は、もっぱらタクシー。オフの日も、意識して体を動かすことなど、まずなかったのです。
ところが、あるとき強いのどの渇きが続き、血糖値を測ると660mg/dLという異常な数値が出ます。空腹時の正常値はだいたい100。その6倍以上の数値ですから、さすがに危機感を覚えました。

そこで始めたのが、毎日の散歩です。
最初は20~30分ほど歩くだけでしたが、効果はすぐに現れました。薬を使わなくても、血糖値が半分近くまで下がったのです。この経験から、歩くことの力を実感し、いまでも1日30分を目標にウォーキングを続けています。
■特別な道具も、ジムに通う必要もない
人間の筋肉は、40歳を過ぎると毎年約1%ずつ減っていくといわれています。何もしなければ、80歳になるころには、若いときの6割ほどの筋力で体を支えなければなりません。その結果、転びやすくなり、大ケガに至ることすらあります。
しかし、歩けば、この筋力低下を防ぐことができる。そのうえ、足腰の筋肉を使うだけでなく、心臓や血管、さらには脳にもよい刺激を与える。つまり、「歩く」という行為は、頭と体双方にプラスになるアウトプット健康法なのです。
しかも、特別な道具も、ジムに通う必要もありません。ただ外に出て歩くだけ。
しかも、この「ただ歩く」が脳全体に大きな刺激を与えてくれるのです。
室内に閉じこもっていると、目に入る景色も音も、ほとんど変わりません。
ところが一歩外に出ると、あとは“想定外”の連続です。
道端に季節の花が咲いている。昨日までつぼみだった桜が、今日はほころんでいる。名前も知らなかった草花が、風に揺れている。花をめでるという行為は、ただ単に視覚から満足を得るだけではありません。「きれいだな」と感じる感性そのものが、脳を刺激しているのです。
■前頭葉がフル回転する知らない世界との出会い
さらに、犬の散歩中の人と出会うこともあるでしょう。人なつこい犬が近づいてきて、思いがけず会話が始まります。
「かわいいですね。何歳ですか?」

「たぶん、3歳くらいです。
この子、保護犬なんです」
こうした偶然のやりとりも、まさに想定外です。どう応じるか、何を話すか、その瞬間に前頭葉がフル回転します。
ウォーキングは単なる有酸素運動ではありません。こうした知らない世界との出会いそのものが、最高のアウトプット健康法となるのです。
もうひとつ重要な利点が、歩きながら日光を浴びること。
太陽の光を浴びると、体内でビタミンDが生成されます。ビタミンDは骨を強くするだけでなく、免疫機能を高め、感染症予防にも効果ありです。近年では、うつ症状の改善や認知機能の向上とも関連があることが指摘されています。
■太陽を浴び、体を動かすことの効果
高齢になると、外出が減り、日光を浴びる機会も少なくなりがち。その結果、ビタミンDが不足してしまいます。さらに、骨折のリスクが高まるため、余計に外に出なくなり、活動量が減ってしまうという悪循環に陥るわけです。
ところが、1日30分歩くだけで、この悪循環を未然に防げます。
太陽を浴び、体を動かすことで、血流がよくなり、脳に酸素が行き渡る。気分も自然と明るく開放的になります。
とくに速いスピードで歩く必要はありません。競争する必要もありません。大事なのは、毎日続けること。ただそれだけです。
花を眺め、犬と出会い、太陽を浴びる。そんなささやかな時間が、確実にあなたの前頭葉を刺激し、老化のスピードをゆるやかにしてくれます。
30分のウォーキングは最高のアンチエイジングです。
今日から早速一歩、外へ出てみましょう。そこには、脳を若返らせる「想定外」が待っています。
■海外に行かずとも、日帰りや1泊2日の小旅行を
行動系のアウトプットとして、私がとくにおススメしているのが旅行です。
といっても、わざわざ海外まで行く必要などありません。
近場の観光地への日帰りや1泊2日の小旅行で十分です。むしろ、近いほうが気軽に行くことができ、回数も重ねられます。
旅行の最大の効果は、まだ見ぬ景色を目の当たりにして「感動すること」にあります。写真や動画では味わえない、その土地の空気、匂い、光の加減。実際に行って初めて、「わあ、すごい」と心が動く。
知らない土地に足を踏み入れると、すべてが想定外です。道に迷うこともあるでしょう。ランチに予定していた店が、休業の場合もあるかもしれません。
逆に、偶然入った店が驚くほどおいしいこともある。こうした予想外の連続が、脳を活性化させるのです。
さらに、旅行中は幸せホルモンのセロトニンの分泌も高まります。
自然光を浴び、歩き、景色に感動し、おいしいものを食べる。これらはすべてセロトニンを増やす行動です。
セロトニンは心を安定させ、ストレスを軽減します。旅行後に「なんだか元気になった」と感じるのは、決して気のせいではありません。
90代の母がいる女性に話を聞きました。彼女の母は施設に入所し、要介護度も進み、車イス生活。日中はほとんど口を開かず、表情も乏しかったそうです。ところが、その女性は、思い切って泊まりがけの温泉旅行に連れ出しました。
海が見える露天風呂に入り、旅館の料理を堪能し、窓の外の夕焼けを眺める。
帰ってきた翌日、これまでほとんど話さなかった母が、ぽつぽつと「海がきれいだった」「お刺身がおいしかった」とスタッフに語り始めたのです。スタッフも驚いたといいます。
■“行き当たりばったり”の時間をつくる
普段とは違う景色を見て感動する。楽しかったことを誰かに伝えたくなる。
この「伝えたい」という気持ちこそ前頭葉の働きです。想定外の刺激が心を動かし、言葉を引き出したのでしょう。旅行は、行動する、話す、想定外の事態に出会うという要素が含まれた「最高のアウトプット健康法」なのです。
私は講演会で地方へ行くことが多いのですが、その際、できるだけ“行き当たりばったり”の時間をつくるようにしています。
主催者との会食をやんわりお断りし、地元で評判の寿司屋を自分で探す。昼も用意されたお弁当ではなく、ご当地ラーメンを食べに行く。帰りの日、ギリギリの時間に、通りを1本入ったところで隠れた名店を発見することもあります。
「こんなところに、こんないい店があったのか」という思いがけない感動は、記憶にしっかりと刻み込まれるでしょう。
歳を重ねると、何かと安全策をとりがちです。しかし、旅行くらいは少々無計画でいい。むしろそのほうが、記憶に残る体験になるはずです。
電車で1時間の温泉地でも、隣県の城下町でもいい。あえてネットなどで情報を調べず、ぶらりと向かってみる。そうして日常からほんの少し離れるだけで、生きている世界がグッと広がります。
見たことのない風景に感動し、自然に癒やされ、その土地の味に舌鼓を打つ。そうした体験が、あなたの心を揺さぶり、若さをよみがえらせてくれます。
次の休日は、ぜひ小さな旅に出かけてみてください。
想定外の体験が、あなたを待っているはずです。

----------

和田 秀樹(わだ・ひでき)

精神科医

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。立命館大学生命科学部特任教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、40年にわたり高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。

----------

(精神科医 和田 秀樹)
編集部おすすめ