■「年収」へのこだわりは薄くなっている
「年収1000万以上、身長175cm以上、できれば次男……」
かつて婚活市場を席巻したこのような条件は、今、形を変え始めています。
婚活中の女性たちに聞けば、「自分と同じ400万円台からでも探す」「スペックより価値観」という言葉が返ってくるのです。
世間はこれを「女性たちが現実を見た」「高望みをやめた適正化だ」と言うかもしれません。
しかし、婚活現場のリアルを凝視すると、また別の景色が見えてきます。
スペックという大きな数字を譲歩した分、微細な「振る舞い」を巡る男女の対立は、熱を帯びているのです。
その象徴とも言えるのが「奢り・奢られ論争」です。
この時期は自ら動く人たちにとっては、婚活サービスを通じた出会いや飲み会、コンパが増える季節です。SNSでの「奢ってくれなかった」「割り勘にしたら連絡が途絶えた」という投稿も、さらに熱を帯びることでしょう。
なぜ、「100万円単位の年収」へのこだわりは薄れているにもかかわらず、「数千円単位」には、固執してしまうのでしょうか。
■令和男性が直面する“お金の現実”
かつての結婚において、年収はわざわざ口に出すまでもない「前提」でした。
バブル期から90年代にかけて、女性たちは「年収」という生々しい数字ではなく、「社名」で男性を見ていました。
そのため、この時代の「奢り・奢られ」もまた、男女双方にとってポジティブなステータスでした。
男性にとっての「奢り」は、自らの経済的な強さを誇示し、自尊心を満たすための「投資」。女性にとっての「奢られ」は、そんな男性から選ばれたという「承認の証」。
潤沢な資金背景をもとにした「お互いを高め合うロマンス」としての意味合いが強いものでした。
もちろん、今も「奢り」が消えたわけではありません。
2月に発表された明治安田総合研究所の「2026年 恋愛・結婚に関するアンケート調査」によれば、初デートで「すべて支払う」と回答した男性は43.6%にのぼります。
しかし、この数字には既婚者かつ54歳までの方が含まれている点は注意が必要です。
一方で、婚活の主戦場にいる未婚男性の現実は過酷です。
最新の「出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」(2021年、国立社会保障・人口問題研究所)によれば、25~34歳の未婚男性で最も多い年収帯は300万円台。600万円を超える層は極めて限定的です。
多くの未婚男性にとって、全額を負担し続けるという行為は、自身の生活を削る「切実な代償」へと変質しているのです。
■「金額の大きさ」の問題ではない
終身雇用が崩壊し、「看板」を失った私たちに残されたのは、剝き出しの「年収」という指標だけです。しかし、SNSで繰り返される「奢り・奢られ論争」の本質は、実は金額の多寡にはありません。
女性にとっての「奢られ」は、自分の価値を確認するための「特別扱いの証」へと変質しました。
かつての「選ばれた証(承認)」は、この不透明な時代において、自分を優先してくれるかという「特別」の確認へと重みを増したのです。
「女性はコスメや服に投資し、準備コストをかけている。だからこそ食事代くらいは奢ってほしい」――。
この主張の裏にあるのは実利への執着ではありません。
「そこまでして準備した私を、あなたはどれほど大切に扱ってくれるのか」という、切実な感情の測定なのです。
一方で、男性側にも言い分はあります。現代のデートでは男性にも高い「清潔感」が求められ、美容院やスキンケア、服装への投資、さらには店選びのリサーチといった目に見えないコストを、彼らもまた等しく支払っています。
「自分もこれだけ準備したのだから、食事くらいは対等(割り勘)にしたい」。
そんな男性側の切実な論理と、女性側の特別扱いへの渇望が、レジ前で正面衝突しているのです。
だからこそ、男性が放つ「じゃあ、2000円だけちょうだい」という言葉は、致命的な失望を呼ぶのです。
■自分との時間は処理すべき「コスト」なのか
数千円が払えないわけではない。
ただ、その回収しようとする姿勢に、自分との時間を「共同の楽しみ」ではなく「割り勘にすべきコスト」として事務的に処理された冷たさを感じてしまうからです。
SNSの「奢られなかった」という嘆きは、お金への不満ではなく、「私は、数千円すら譲ってもらえない程度の存在なのか」という、大切にされなかった悲しみの吐露なのです。
ここで一つ、極端な例をあげます。
年収1000万の男性が割り勘を提示し、年収300万の男性が奢ってくれたとします。後者の場合、女性の感情は「無理をしてまで大切にしてくれた」という喜びで満たされるでしょう。
しかし、いざ「結婚」という現実を前にした時、女性たちは立ち止まります。
「誠意はあるがお金がない」相手か、「お金はあるが誠意(献身の意志)がない」相手か。
もちろん、奢るという所作だけで誠意のすべてを測ることはできません。しかし、このレジ前の振る舞いを通じて、私たちは「生存能力」と「献身の意志」のどちらかが欠落しているという、残酷な現実を突きつけられてしまうのです。
■知りたいのは“自己犠牲のキャパシティ”
この構造の根底には、社会が「平等」を掲げても解消されていない、ライフイベントにおけるリスクがあります。
理想のタイムラインは「二部構成」になっています。
まず「第一部」の恋人期間は、男性のリードを求める「昭和モード」で相手をテストします。ここで献身を確認したいのは、単に楽をしたいからではありません。
結婚・出産という「第二部」に入れば、どれだけ平等を謳っても女性側にはキャリア断絶や心身の負担という不可避なリスクが降りかかる。だからこそ、「いざという時、この人は自分の利益より私を優先してくれるか」という自己犠牲のキャパシティを測らざるを得ないのです。
東京都の「家事・育児実態調査」によると、女性が家事育児介護にかける時間は1日平均7時間48分で、男性は3時間29分。前回の調査と比べると女性の時間が減少したものの、依然として、日本の家事育児負担は女性に偏っています。
ただし男性もまた、この二重基準に疲弊しています。
「男ならリードしろ」と言われながら、家に入れば「家事も仕事もやって当たり前(令和モード)」という平等を突きつけられる。
昭和的な性役割と令和的な平等意識が混在する矛盾そのものが、男女双方に二重基準を強いているのかもしれません。
■「安心したい」が空回りする
現代の「奢り・奢られ」を巡る攻防は、男女双方が将来背負うであろうリスクに対する「感情の前払い請求」です。
女性は「奢り」という形で肯定されることで将来の負担に対する担保を求め、男性は「割り勘」にすることで将来の経済的重圧を分かち合う約束を取り付けようとする。
しかし、この「前払い」を求める必死さが、皮肉にも相手との対話の機会を奪っています。
私たちは恋愛や婚活にまで「タイパ(タイムパフォーマンス)」を求め、支払いという「単一の決済ログ」だけで相手をジャッジしようとしています。
どれだけコスパやタイパを叫んでも、結局、私たちは感情を切り離すことができません。「2000円」という金額で心が凍りつくのは、私たちの幸福が「効率」ではなく、相手からの「特別扱い」という非効率な熱量の中にしか存在しないことを、本能的に知っているからです。
「奢られたから安心」「割り勘だから対等」。
そうやって安易な正解をシステムに委ね、効率的に相手を振り分けようとするほど、私たちは最も大切な「言葉による対話」から、遠ざかっていくのかもしれません。
■論争が永遠に終結しないワケ
しかし、現実問題として、しっかりと「対話」ができる人が多いわけではありません。
それでも、時代は確実に変わっており、20代では割り勘が基本ルールとして浸透しつつあるようです。
彼らは最初から「共助」が前提の世代であり、会計時に探り合いをする必要がありません。一方で、上の世代ほど、過去のロマンスの記憶と今の厳しい現実との間で、支払いという行為に過剰な意味を乗せて自滅してしまいます。
この論争はいずれ収束するかもしれません。
しかし、そのたびに形を変えた「パートナーとしての適性を測る新たな儀式」は、これからも続いていくことでしょう。
そのとき私たちは、それをうまくクリアしようとするのか。それとも、違和感ごと相手と共有しようとするのか。
問われているのは、スマートに正解を「クリア」する姿勢ではなく、違和感ごと相手と共有しようとする姿勢のほうなのだと思います。
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平田 恵(ひらた・めぐみ)
タメニー 広報
立命館大学卒業。新卒で人材派遣会社に入社し、入社後わずか7カ月で課長に昇進。その後約5年間、高校野球のリポーターなどフリーランスとしてさまざまなメディアの現場を経験。再び人材業界の勤務を経て、2016年9月にタメニー(旧パートナーエージェント)に未経験広報として入社。2019年8月に人事部マネジャーへ異動(広報も兼任)、2020年10月からグループ広報の立ち上げをひとりで行う。2023年第1子を出産し、産後8週で仕事へ復帰。結婚式や婚活のプロとして数多くのメディアへ出演中。
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(タメニー 広報 平田 恵)

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