■ドラマ公開で注目される「細木数子の功罪」
細木数子の生き様がNetflixでドラマ「地獄に堕ちるわよ」になった。私は2006年、週刊現代で『細木数子 魔女の履歴書』を連載し、同年、同名の単行本も出した。このドラマにも私の本が参考文献として掲げられている。
公開の前、ドラマを見た。彼女の功罪は多岐にわたるが、善悪バランスよく取り合わせたドラマになっている。興味と関心を持って観てくれる視聴者も多いにちがいない。
細木は1971年ごろ、稲川会の滝沢組組長・滝沢良次郎の情人になったが、その後、新宿を仕切る小金井一家総長・堀尾昌志の実質的な女房、姐さんへと乗り換えた。
彼女はこの堀尾を「お父さん」と呼んだ。「お父さんが賭博を開帳すると、賭博場開帳図利罪でパクられるから、あたしがやる」と賭博の胴元を引き受けたこともある。
■細木数子は女やくざだった
細木はやくざの女というより、やくざそのもの、女やくざだった。新宿・歌舞伎町で若い組員たちにビニ本(ビニールで包装し、立ち読みできないようにしたエロ本)屋2軒をやらせたことがある。
ところが組員の1人が月の売り上げの半分くらいを持ち逃げした。
やくざでさえ、下の者に指詰めさせることを嫌う者がいる。にもかかわらず、細木は組員に断指させた。女やくざといわれるゆえんである。
やくざの情婦には水商売上がりの人が多いが、細木もその通り。銀座や赤坂でいくつかクラブなどを経営していた。そのため人の注意をそらさない会話や接客術を心得、その上、やくざの情人になって人を人とも思わない不遜さを身につけた。
■若いころから「男は金づる」
テレビや講演会などでは断言や決めつけを多用し、歯切れのよさ、明快さ、迷いのなさなどを印象づけ、それが彼女に呑まれた者にとっては説得力となり、占いや墓石の販売で大いに力を発揮した。
若いころはたしかに美人だった。静岡の老舗の眼鏡屋の跡継ぎ息子が銀座を歩いているとき、出勤する細木に目を奪われ、後をつけて店を突き止め、後で結婚したという逸話もあるくらいだ(1年で離婚)。
「男は金づる」という男性観・人生観も若いころから身につけていた。
当時、安岡は老人性認知症が始まり、細木にすれば、安岡はたぶらかすのが容易なボケ老人にすぎなかった。
そのころ「どう安岡先生と懇(ねんご)ろになったの」と質問した知り合いの女性に、細木はこう答えたという。
「お酒よ、お酒。家じゃ飲ましてもらってないようだから、わたしが好きなだけ飲ましてる。お酒で“殺した”のよ」
「酒で殺すんならドジョウと同じじゃない?」
「そうよ、ドジョウと同じ」
と細木は笑ったという。
■戦後日本を生き抜いた典型的な女性
ところで私は、もともと細木について書こうとは思っていなかった。彼女出演のテレビ番組も見ていなかったから、なにやら目障りな女がいるなぐらいの認識だった。もちろん過去、彼女に会ったこともない。
しかし2006年3月、たまたま週刊現代編集長(当時)の加藤晴之さんに会ったとき、彼から「細木数子について連載しないか」といわれた。なるほどよく考えると、細木は扱うに値する女かと思い、引き受けることにした。
4月から編集者と下調べを始め、彼女は戦後日本の焼け跡で育って泥水の中で生き、勝ち抜いた一人の女として、典型的な女性かもしれないと思い始めた。
だが、細木数子は連載を始める前から、編集部が出した「取材インタビューのお願い」に、弁護士を通じて拒否の回答を寄越(よこ)し、「名誉毀損などの部分があれば、そのときはまた対応する」などと牽制(けんせい)球を投げてきた。
また事前取材の段階で会った広域暴力団の最高幹部、元最高幹部から、連載の中止を求められもした。しかも細木は『週刊文春』誌上で反論インタビューの連載を始めた。
当初、連載は細木批判を意図したものではなかった。事実を掘り起こし、淡々と客観的、中立的にリポートできればと考えていた。
■6億円もの損害賠償を求めてきた
だが、細木がこう出てくる以上、取り澄ましてもいられない。連載は歯に衣着せなくなった。おまけに細木は6億円もの損害賠償を版元の講談社に求める民事裁判まで起こしてきた。
連載は8月まで14回続いた。連載中、一貫して感じていたことだが、細木はあまりに敵が多すぎる。「反細木」で踏ん張り、旗幟鮮明にした我々には多くの読者がついてくれたし、細木が過去に袖触れあった人々も、一も二もなく我々に取材協力してくれた。何人もの元関係者が細木や暴力団に対する怯えを捨てて、「秘密の暴露」に踏み切ってくれたのだ。
連載4回目にはタイトルに「細木数子は暴力団最高幹部に私の原稿つぶしを依頼した」と記した。
週刊誌では暴力団最高幹部の名や役職を伏せたが、今となっては時効だろう。実名を明らかにすれば、一人は山口組系弘道会の司興業・森健司組長である。
■細木の味方をした「弘道会の大物ヤクザ」
周知のように現六代目山口組の組長は司忍であり、司興業はこの司組長が創建し、森健司が後を継いで、弘道会でもピカイチの組である(司興業は現在山口組の直系組、森は司興業総裁)。
森健司には以前、取材したことがあり、顔見知りだった。06年4月24日、この森から私の携帯に電話が掛かってきた。用件らしきことは山口組の若頭補佐・滝沢孝総長がたった今、大阪高裁の判決で拳銃不法所持が無罪になったというもの。
暴力団の親分はボディガードの拳銃所持で利益を受けるのだから、拳銃所持で共謀共同正犯に問われるのは当然のことと私は考えていたから、この件もいずれ最高裁で有罪になるはずと踏んでいた。
森の話に興味は持てず、場つなぎのようにして、今度週刊誌で細木について書くことになりそうだと話した。
森は「ふーん、細木について書くのか」と一瞬考える気配になり、「後でまた電話するかもしれない」と電話を切った。私はもちろん森が細木と関係があるのか、ないのか、何一つ知らなかった。数分後、森から再び電話があり、「明日あたり会えないか。
■「細木の記事はやめられないか」
次の日、南青山3丁目の森東京事務所に出かけた。結局、表参道の交差点に近い喫茶店で会ったのだが、彼は「細木の記事はやめられないか。あんたがやめたと言えば、それで終わりだろう」と言い出した。
私は「やめるわけにいかない」と答えた。森は「そうか、やめる事はできないか」としばし考えていたが、そのとき後ろの席に控えていた若い者が「細木数子さんから電話です」と森に携帯電話を差し出した。森は受け取り、「ええ、やめられないみたいですよ。ええ、ええ」と受け答えしていた。
その後、彼は「あんたが書くのをやめないというのなら、仕方がない。彼女は悪い女じゃないし、テレビでもいいことも言っている。できるだけ柔らかく書いてほしいんだが」と言い、封筒に入った札束を私の背広ポケットにねじ込もうした。
ここで受け取れ、受け取れないというやりとりが続き、結局、森は渡すことを諦めてくれた。
私はこうしたやりとりを細木との裁判の準備段階で明らかにした。森はこの事実を否定するはずと読んでいたのだが、森は意外にも公正証書にした彼の言い分中50万円を溝口に渡そうとしたと認めていた。
■「細木は悪いことをしていないよ」
もう一人の元最高幹部は名刺に「住吉会会長補佐、住吉一家家根弥(やねや)八代目総長・金子幸一」とあり、ボールペンで肩書き部分を消した名刺を持ち歩く通称バービーこと金子(故人)である。
「今は現役を退いたが、新しい名刺を持たず、古い名刺で代用しているから」と彼は会った際、言い訳を言いながら名刺を渡したが、彼を「広域暴力団の元最高幹部」と表現することは間違いではない。
金子は私に電話を架けてきた際、ぬけぬけとこう言った。
「あんたの取材を受けた後、あんたから取材があったと細木に電話した。細木の家が置屋みたいなことをしていたのは事実だけど、自分はパン助みたいなことはしていないと細木は言っていた。細木はそこまで認めてるんだ。どうだろう。あんたがいまさら細木について二番煎じ、三番煎じのことを書いてもしょうがないじゃないか。細木は悪いことをしていないよ」
私と編集部はこうした暴力団からの妨害工作を跳ね返して連載を継続、完成させたし、裁判でも細木に訴えを取り下げさせ、実質的に勝訴した。
細木の周りには登場しただけでも稲川会、小金井一家、住吉会、山口組と錚々たるやくざの首脳部が雁(がん)首を揃えていた。彼女は彼らとツーカーの関係を結んで、これまで事業を回してきたのだろうが、それにしても、やくざにしては珍しく死後にもカネを残した女やくざであり、世評から逃げ切った女傑といえるかもしれない。
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溝口 敦(みぞぐち・あつし)
ノンフィクション作家
1942年生まれ。東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒業。『食肉の帝王』で2004年に講談社ノンフィクション賞を受賞。著書に『暴力団』『山口組三国志 織田絆誠という男』などがある。
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(ノンフィクション作家 溝口 敦)

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