※本稿は、内山真『やってはいけない睡眠の習慣』(SB新書)の一部を再編集したものです。
■意外と知られていない「光と眠り」の関係
夜間、動物に一定期間光を当てると、睡眠を促す作用を持つホルモンのメラトニン分泌が抑制されます。また、体内時計の発振する約24時間のリズム(概日(がいじつ)リズム)をずらし、乱してしまいます。動物での光の作用は知られていたのですが、人間は普通の室内光では影響がないことから、もともと光の強い影響を受けないと考えられていたのです。これが覆されたのが1980年の実験報告です(※1)。
※1 『Science』1980年「Light Suppresses Melatonin Secretion in Humans」(Lewy AJ ら)
眠っていた人を午前2時に起こして2500ルクスの強い光を2時間当てると、メラトニン分泌が明らかに抑制され、1時間以内に昼間に近い水準まで下がりました。一方、500ルクスの光を2時間当てても、メラトニン分泌は抑制されませんでした。人間も強い光によってホルモンのレベルが大きく変化することが明らかになりました。
動物は体内時計の光に対する感受性が敏感なため、そこまで強くない光でも概日リズムが乱れますが、人間は動物よりも光に鈍感です。こうした鈍感さがあるので、私たちは夜間に照明を利用しても、体内時計のリズムが大きくは乱れないのです。
寝る前のスマートフォン利用はどこまで睡眠に悪影響を及ぼすのかについて考えてみましょう。まず、夜寝る前、しかも寝床に入ってスマートフォンを使うというのは、子どものしつけには悪いでしょう。
■ミドル世代は寝る前のスマホは問題ない
スマホに夢中になって、眠ること自体が遅くなり、朝の起床困難の原因になるからです。とくに若い人ほどこうした夜型の生活習慣が促進されやすく、固定しやすいので注意が必要となります。深夜遅くまで起きていることは、子どもの成長や発達によくないですから、しっかりしたしつけが必要です。
ミドル世代以降の場合は、寝る前にスマホを見たところで、常識の範囲内であればそれがもとで睡眠が大きく乱れることはありません。私もベッドでスマホを見ることがありますが、眠たい時はそのまま眠ってしまいます。
それと、人間の体はうまくできていて、光が強いと瞳孔が小さくなります。この調節もブルーライトを利用して、メラノプシンの発現した網膜神経節細胞が行っています。ブルーライトが強い状況になると瞳孔が閉まるため、光が100%入るのを防いでくれている。光をそこまで恐れる必要はないのです。子どもの夜ふかし癖に関するスマホの影響は、光よりも利用しているスマホアプリの内容やコンテンツのほうでしょう。寝床で仲のいい友達とやりとりをしたり、刺激の強い映像を見たりする。するとその後も興奮・覚醒して、眠れなくなります。
■「ブルーライトは良くない」の意外な裏側
夜にそのアプリは開かない、SNSのチェックは22時まで、などルールを決めたほうがいいでしょう。ただし10代になって親に隠れて夜に自分なりの活動をしたいと思うのは、子どもの正常な発達の中に含まれているものです。私が10代の頃は深夜放送、その後はテレビゲーム機などが子どもの発達を阻むといわれていて、それが2010年代以降はスマホとされているのが現状だと思います。
「スマホのブルーライトが睡眠に悪影響を与える」という主張がなされる際、よく引用されるのがペンシルベニア州立大学の研究チームが行ったiPadを使った実験です(※2)。確かに信頼できる実験ですが、この実験設定が端折<ルビ:はしょ>られて、結果だけが独り歩きしています。
※2 『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America』2015年「Evening use of light-emitting eReaders negatively affects sleep, circadian timing, and next-morning alertness」(Chang AMら)
少し長くなりますが、実験内容の概要を説明します。参加した健康な成人に規則正しい生活をしてもらいました。22時から6時までの8時間を就寝スケジュールとして固定して、18時から寝る時刻の22時までの4時間、5日間連続で読書をしてもらいました。
読書のやり方は2通りです。一つはiPadを使った読書です。光は最大輝度に固定され、端末にスタンドが置かれ、目から30センチから45センチで固定しました。
■iPadを毎晩4時間×5日という特殊条件
夜の睡眠の準備状態を表すメラトニンの分泌開始時刻がiPad読書のほうでは通常照明下の読書と比べ、5日後に1時間半も遅れたのです。これは体内時計のリズムが遅れたということを表します。寝つきまでにかかる時間はiPad読書で平均10分遅くなりました。
また主観的に、夜の就寝前にはiPad読書では通常の光のもとでの読書と比べて「眠くない」となり、翌朝には「より眠い」となり、覚醒にも時間がかかることがわかりました。これらもやはり体内時計の遅れによるものと考えられます。
この結果から、ブルーライトが体内時計を遅らせるため、寝つきが悪くなる、翌朝の覚醒が悪くなると結論づけました。この実験をどう読み解くべきか。読者の方は自分がこの実験に参加することを想像してみてください。
まず、iPadを最大光量にして、30センチから45センチほどの近距離で見ることを毎晩4時間、連続5日間繰り返す、このような極端な利用を私たちはしているでしょうか。仕事や用事もありますから、5日間もこのような日を繰り返すことはまずないと思います。
■ブルーライトの正体と付き合い方
さらに考えておく必要があるのは、実験に使われたデバイスのことです。この実験は、スマートフォンではなく、それより大きなiPadで行われました。これはなぜでしょうか。スマホのほうが小さくて軽く、寝床に持ち込む人も多いことは容易に想像できます。おそらくはiPadでこのくらいなので、小さなスマホではもっと影響が少ないと考えられます。
この実験結果をもって、「睡眠を悪くするブルーライトを発するため、寝る前のスマホは厳禁!」というのは、実験内容を正確に理解していないのだと思います。
むしろ、実験結果を引用したうえで、これほど長時間・長期間、特別な環境でブルーライトを見続ければ睡眠に影響を与えるが、通常の使用で睡眠に大きな影響を与えるという結果が出ているわけではないと指摘するのが正しいように思います。
寝る前のスマホ利用も大人の常識の範囲内であれば問題ないといえそうです。睡眠以外でも顕著ですが、最新技術はいつも悪役にされがちです。
また、睡眠に悪影響を与えるものとして、スマホと並んでテレビが槍玉にあがります。テレビも確かにブルーライトを出してはいるのですが、大きな影響を与えるほどではありません。テレビの光は2メートルくらい離れると200ルクス程度です。
■リビングの照明も暖色系にする必要はない
何を根拠にそういわれているのかわからないのですが、想像するに、テレビが悪いといっておけば、テレビをよく観ている皆がなんとなく「自分の不眠は、よく観るテレビが悪かったのか」と納得するうえ、その主張に誰かが目くじらを立てるわけでもないからだと思います。
私たちが白いと感じる光、たとえば太陽光や蛍光灯、LED、パソコン、テレビもそうですが、これらにはブルーライトが一定量含まれています。
一方、赤いと感じる光、赤色LEDや暗室用の赤いライトはブルーライトを含みません。
赤いと感じる夕日も、ブルーライトは含むものの、昼間の白い日光よりは少ない。このことから、「夕方以降は、リビングの照明は赤っぽい暖色系にしよう」というアドバイスがなされるのだと思います。リビングの照明を暖色系に変えると雰囲気も変わって、確かに好きな人にとっては心地よいものと思います。
しかし、そもそも家庭用の照明は200ルクス程度ですから、寒色系のままでも、睡眠に大きな影響を与えることはないでしょう。個人の好みや心地よさを重視するのがいいと思います。
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内山 真(うちやま・まこと)
東京足立病院名誉院長
1954年生まれ。80年、東北大学医学部卒業。 東京医科歯科大学神経精神科、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所部長を経て、日本大学医学部精神医学系主任教授(2006~20年)、日本睡眠学会理事長(17~21年)を務める。厚生労働省の睡眠や睡眠障害研究班等の班長を歴任し、検討会座長として「健康づくりのための睡眠指針2014」の作成に尽力した。2020年からこころの医療と高齢者医療を専門とする東京足立病院院長を務め、外来診療も担当。2026年4月より
同病院の名誉院長に。著書に『睡眠のはなし』(中公新書)、『眠りの新常識』(KADOKAWA)、『睡眠障害の対応と治療ガイドライン 第3版』(じほう)など。
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(東京足立病院名誉院長 内山 真)

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