電気代の高さが家庭を直撃している。住まいるサポートの高橋彰社長は「電気代をめぐっては、家電の性能や、エネルギー価格の高騰に目が向けられがちだ。
しかし本当の原因はもっと根本的なところにある」という――。
■電気代の高騰は止まらない
寒い冬が終わり、ようやく高い電気代からも解放された……。
そんな安心もつかの間。アメリカのイラン攻撃に端を発するホルムズ海峡事実上の閉鎖でエネルギー危機に直面。6月にも電気代が上がる見通しと報じられています。
エネルギーの大半を海外に頼っている日本にとって、世界情勢に翻弄されるのは、ある種「避けられない宿命」といえます。
冬は寒く、夏は暑い。さらにエネルギー価格の高騰で、電気代は右肩上がり……。
多くの人が「気候もエネルギー価格も自分ではどうしようもできないのだから仕方ない」と受け止めています。
しかし、果たして本当にそうなのでしょうか。
実はそこには見落とされがちな要因があります。
それは「住宅そのものの性能」です。

筆者は高性能な住まいづくりをサポートする会社を経営しています。
今回、米ウェントワース工科大学大学院の客員教授で、マサチューセッツ州認定設計士の岡田早代さんに、日米の住宅性能の違いについて話を伺う機会を得ました。
岡田さんは、こう指摘します。
「日本の住宅の断熱や気密の水準についての認識は、設計者の間でもかなりばらつきがあります。しかし、米国の先進的な州・自治体の住宅と突き合わせると、日本の住宅性能は低く、日米の差は想像以上に大きいのです」
岡田さんが最初に指摘したのが、「窓」の問題でした。
本稿では、岡田さんが指摘する「3つの性能」を軸に、世界的に見た日本の住宅が抱える問題と、その根本にある原因についてお話ししたいと思います。
① 窓

② 気密

③ 断熱

まず、「窓」の問題からお話ししましょう。
■熱が逃げていく日本の窓
国が制度を定める日本とは異なり、米国では、州や自治体ごとに建物の省エネ性能に対する基準や規制は異なります。
例えばニューヨーク市では、住宅の窓に明確な断熱性能の最低基準が設けられています。
その一つが「U値」です。
U値(熱貫流率[W/(㎡・K)])とは、窓を通してどれだけ熱が出入りするかを示す指標で、数値が小さいほど断熱性能が高くなります。たとえば、U値2.5の窓は、U値1.25の窓と比べると、同じ面積で約2倍の熱が逃げることを意味します。
冬であれば暖房の熱が流出し、夏は外の熱がそれだけ外に流入してきます。
ニューヨーク市の集合住宅の場合、窓のU値はおおむね1.1~1.8W/㎡K以下が求められます。
一方、日本の鉄筋コンクリート造(RC造)や鉄骨造の分譲マンションで一般的に採用されている「ビル用サッシ」の多くは、U値2.5~3.5W/㎡K程度にとどまっています。
2.0を下回る「ビル用」の高断熱サッシは値段が高く、市場にあまり流通していません。
つまり、日本の一般的な新築マンションの窓は、ニューヨーク市の最低基準に達していない可能性が高いのです。
■“アルミサッシ”は1400倍の熱を通す
ここで誤解してはいけないのは、日本に技術がないわけではないという点です。
木造戸建住宅では、U値1.0前後の高性能な樹脂サッシがかなり一般的になってきています。
また、新築の戸建住宅ではアルミサッシはあまり採用されなくなっていますが、新築分譲マンションでは、いまだにアルミサッシが一般的です。アルミは、樹脂の約1400倍も熱を通すため、諸外国ではほとんど使われていません。
RC造の分譲マンションでは、コスト構造やマーケットニーズが顕在化していないことから、そうした高性能窓は採用されにくいのが現状です。
2025年の東京23区の新築分譲マンションの平均販売価格は約1億3600万円と過去最高を記録しています。非常に高価な住宅であるのにも関わらず、「窓の断熱性能」という観点では、北米の最低水準を大きく下回る仕様が一般的になっています。

多くの購入者は、自分のマンションの窓のU値を知らないと思います。
もちろん諸外国を比較しての相対的な性能についてもまったく知らないと思います。
そもそも、販売資料に窓のU値が明示されることもほとんどありません。
外観や設備仕様は詳しく説明される一方で、非常に高価な住宅なのに、暮らしの快適さや省エネ性能に直結する断熱性能という住宅の根幹部分は十分に可視化されていないのです。
寒さや光熱費の高さは、気候の問題ではなく、制度と市場構造の問題である可能性が高いのだと思われます。
■北米にあって日本にない“重要な基準”
岡田さんがもう一つ指摘したのが、「気密性能」の違いです。
「ニューヨーク市では、断熱だけでなく、建物がどれくらい“すき間だらけ”かを数値で測定することが多くの建物が義務の対象になっています。Air Leakage Rateという気密性能に関する義務基準も定められています。この点も日本と大きく異なる点です」
「気密性能」とは、建物のすき間の量を示す指標です。いくら断熱材を厚く入れても、建物にすき間が多ければ、暖房した空気は外へ逃げ、冷たい外気が入り込みます。断熱と気密は、セットで初めて意味を持ちます。
米国の多くの州やカナダのブリティッシュコロンビア州などでは、新築住宅の完成時にブロワードア試験と呼ばれる気密測定が義務付けられています。
設計時に想定された基準を満たさなければ、使用許可は下りるまでできる限りの修正を要求されます。そのため、手戻りがないように、中間検査、部分的な気密検査をすることが多いです。
つまり、見た目が立派であっても、性能基準を満たさなければ「完成」とは認められないのです。
ところが日本では、気密性能の測定は義務ではありません。それどころか、住宅の省エネ基準にも、気密性能に関する基準は設けられていません。どんなにすき間だらけの住宅であっても、法律上は問題なく販売できてしまうのです。
岡田さんは言います。
「北米では、気密を確保せずに断熱性能だけを語ることはありません。日本では、その重要な部分が制度として担保されていないのです」
この違いは、単なる技術水準の差ではありません。法制度の根本的な違いです。
■「高性能住宅」の基準ですら、海外より緩い
さらに岡田さんの話を伺う中で、もう一つ見過ごせない事実が浮かび上がりました。
日本では、省エネ住宅として補助金の対象になるZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)という基準があります。
一般には「高性能住宅」の象徴のように扱われており、マンションも一定の基準を満たすと“ZEH-M”として省エネ性能の高いマンションとして売り出されています。
しかし、このZEH基準で求められている断熱性能が諸外国に比べると圧倒的に低いのです。
図は、国土交通省の資料をもとに各国の同程度の暖房が必要な地域の外皮平均熱貫流率(UA値)基準を比較したものです。値が小さいほど高断熱な基準であることを意味します。
日本のZEHの断熱基準は、ほとんどの気候区分(暖房ディグリーデー:暖房の必要度を示す気温指標)で、諸外国の最低基準よりも緩い水準にとどまっています。例えば東京・横浜・大阪などが属する6地域では、韓国、スペイン、イタリア、さらには冬が温暖な米国カリフォルニア州の基準に比べてかなり緩い基準になっています。
さらに、日本で新築住宅に義務付けられている断熱性能(省エネ基準)はとんでもなく緩い基準にとどまっていることが図からお分かりいただけると思います。
つまり、日本では「補助金が出る高性能住宅」であっても、海外では最低基準を満たしていない住宅になってしまうのです。
岡田さんはこう総括します。
「日本の住宅が劣っているのは、技術がないからではありません。性能を問わない制度を、長年選び続けてきた結果です」
この言葉は重いものです。
■日本の住宅性能が低い根本原因
「性能を問わない制度を、長年選び続けてきた」のは誰なのか。

もちろん、制度をつくる国側の問題は大いにあります。
これまでお話してきた通り、日本では最低基準自体が緩く、しかも気密性能のように基準自体が存在しない分野もあります。
さらに、諸外国に比べてかなり低い断熱性能のマンションが、ZEH-Mという国のお墨付きを得て、高性能マンションとして売られているという現状もあります。
しかし、長年、住宅にかかわる仕事をしてきて感じるのが、消費者側の問題です。
住宅を購入する際、多くの人は立地、間取り、価格、デザイン、ブランドを重視します。さらに、日本の分譲マンション市場では、外観や共用部の豪華さが差別化要素になりやすく、躯体性能や断熱性能は“裏側”に追いやられがちです。
結果、住宅販売の現場でも、設備仕様の話に終始し、窓のU値や気密性能の測定値が前面に出ることはほとんどありません。
もちろん、性能が法律で担保されていれば、消費者が個別に調べる必要はありません。
ただ、法律が不十分な現状では、性能へのこだわりは市場に左右されます。国際的にみて十分な高気密・高断熱住宅に対するニーズが顕在化しない限りは、マンションディベロッパーが性能を引き上げることはないと思われます。
■技術ではなく、住宅のマーケット構造の問題だった
今回、岡田さんのお話から見えてきたのは、日本が「遅れている」という単純な構図ではありません。
日本には高性能サッシもありますし、高断熱・高気密住宅をつくる技術もあります。実際、戸建住宅については、一部の工務店・ハウスメーカーは世界水準の性能を実現しています。
しかし、それは、住宅業界の標準ではなく、特にRC造のマンションの取り組みは圧倒的に遅れているのです。
北米では、多くの地域で「最低でもここまでは確保する」という基準を法制度として明確に定めています。一方、日本では、市場に委ねる形で性能が決まる構造が続いてきました。
一方で、消費者の多くは住宅性能に頓着していません。
この法制度と市場構造の違いが、寒さ、光熱費、結露、そして長期的な建物の劣化にまで影響を及ぼしています。
家が寒いのは気候のせいではありません。高い光熱費も、エネルギー価格だけの問題ではありません。
私たちは、どのような住宅性能を“当たり前”とする社会を選ぶのか。
それは消費者側の意識が問われています。
岡田早代(おかだ・さよ)

マサチューセッツ州認定設計士、 ウェントワース工科大学大学院客員教授

2004年よりマサチューセッツ州で学校・保育園等の公共建築物の新築・改修、低所得者層の集合住宅の設計に従事。環境コンサルタントとしても活動している。

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高橋 彰(たかはし・あきら)

住まいるサポート社長/日本エネルギーパス協会広報室長/一般財団法人 ひと・住文化研究所理事

東京大学修士課程修了。リクルートビル事業部、UG都市建築、三和総合研究所、日本ERIなどで都市計画コンサルティングや省エネ住宅に関する制度設計等に携わった後、2018年に高気密・高断熱住宅の工務店を無料で紹介する「高性能な住まいの相談室」を運営する住まいるサポートを創業。著書に、『元気で賢い子どもが育つ! 病気にならない家』(クローバー出版)、『人生の質を向上させるデザイン性×高性能の住まい:建築家と創る高気密・高断熱住宅』(ゴマブックス)、『結露ゼロの家に住む! ~健康・快適・省エネ そしてお財布にもやさしい高性能住宅を叶える本~』などがある。

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(住まいるサポート社長/日本エネルギーパス協会広報室長/一般財団法人 ひと・住文化研究所理事 高橋 彰)
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