■なぜ魚肉ソーセージは開けにくいのか
Umios(旧・マルハニチロ)において、業界全体で低調だった魚肉ソーセージがV字回復を見せた。その基軸は、主要な購買層である50~60代により深く訴求しようと健康に着眼し、特定保健用食品(トクホ)の認可を得た”「リサーラ」シリーズ”だった(あえて50~60代の客に絞ったら大成功…40年低迷の「魚肉ソーセージ」を蘇らせた老舗メーカーの“逆転の一手”)。
魚肉ソーセージと言えば、商品そのもの以外に見過ごせない点がある。「正直、魚肉ソーセージは開けにくい」。そんなイメージを持つ人は少なくないはずだ。だが同社は、「1秒OPEN」と銘打った技術を開発。開封までにかかる時間が1秒というものだが、そこに至るまでには地道な試験が繰り返されていた。その秘話に迫った――。
お酒を片手に持ち、もう片手で魚肉ソーセージを持つおじさん。オレンジフィルムの先端、金具の根本を口元まで持ってきて、奥歯で開けようとしかめ面になった――昭和の時代の魚肉ソーセージは、遠からずそんなイメージだろう。
この印象は決して間違っていないはずだ。取材当時に同社で魚肉ソーセージ事業の全般を担当していた、チルド食品事業部(現・Umios推進部)の綿引悠太さんも「そんな印象を抱くお客様も少なくありませんでした」と振り返る。
同社が魚肉ソーセージをリリースしたのが1950年代。全盛期の70年代を過ぎ、1986年には、イージーオープンテープと呼ばれる赤い小さなシールつきの魚肉ソーセージが発売された。このテープを剥がすと切れ込みが入れられており、魚肉ソーセージを剥きやすくなるというものだ。
■オレンジ色フィルムの“負のイメージ”
「弊社はお客様からのお声を頂戴し、さまざまな改良を行っております。確かに、以前は『そもそも魚肉ソーセージが開けづらい』というご意見をいただくことがとても多かったようです」
商品開発の仕事は、単に魚肉ソーセージの中身についてのプロデュースに留まらない。フィルムやパッケージといった、トータルでの視座が必要とされる。もちろん、トータルのなかに“イメージ”も含まれる。
いくら技術力があっても、それが消費者に届かなければ意味がない。
「私自身は魚肉ソーセージが好きで、積極的に1日1本は食べています。本当にいいものだと思っていますので、家族にも勧めているほどです。ただ、多くの皆さんの開けづらさに関するイメージは非常に深刻で、それを魚肉ソーセージを食べない理由として挙げられるお客様さえいらっしゃいました。
実は当社は、すでにイージーオープンテープではなく、『くるんパック』という技術に転換し、昭和の頃よりは格段に開けやすいフィルムが魚肉ソーセージに使用されていました。実際、多くのお客様からもご好評でしたが、まだすべての年代のお客様に浸透しているとはいえない状況だったのも事実かもしれません」
■開けやすさを追求
大切なのは「開けやすさ」が伝わるネーミングだ。2015年から、「1秒OPEN」のネーミングで世間に打って出ていた。綿引さんがこの部署に異動してきたのは2019年。並行して、引き続き開封のしやすさを追求することになった。当然ながら、自社のみならずフィルムメーカーとの折衝が必須となる。その起点となるのは、綿引さんが主任を務めるチルド食品事業部だ。
「この部署に異動するまでは福岡と東京で営業を担当していました。
開けやすさを追求した取り組みは、社内で10年以上にわたって試行錯誤が繰り返されていました。私が当該部署に着任した2019年は、すでに実装段階がみえてきた頃だったと思います。
開けやすいフィルムを開発することは重要ですが、微弱な力で開いてしまっては流通上開いてしまうリスクがあり、食品の安全性が脅かされます。密閉と開封は相反するものであり、過度に開けやすくなることは同時に食品としての安全性のリスクが増してしまうという、トレードオフの関係にあります。問題はどれくらいの圧で密閉するかという点にあると考えました」
■「密閉度」と「開けやすさ」のバランス
開けやすさと同時に、密閉力も落とさないという最適なバランスを求める。そのシビアな条件をクリアできる技術にたどり着いたのは、2021年だった。密閉と開封の技術的課題が本当に計算通り機能するのか。綿引さんは、最終テストの段階に立ち会うことになったという。
先行していた「1秒OPEN」のネーミングも相まって多くの消費者の支持を得た実績があるが、一方で「現場はある種の緊張感を伴います」と綿引さんはその当時を述懐する。
「もしも『ぜんぜん1秒で開かないじゃないか』という声があったら、ネーミングが偽りになってしまいます。そのため、非常に入念にあらゆる角度からのテストを試みました」
たとえば社員が実際に開封を試みるのは当然だが、外部モニターによる開封テストで集めた人数は600人ほどと、力の入れ具合がうかがえる。
いくら実験を繰り返しても、実際の流通現場に対応できるかどうかはわからない。消費者の手元に届くまでに、輸送の振動や衝撃といった負荷がかかるのは避けられないからだ。
■“フィルムが裂けないか”心配だった
「輸送テストは、実際に出荷されるルートにしたがって、北海道から九州まで、長距離を運んでもらいます。
自社のトラックなどではなく、列車や船など実際のあらゆる運輸業者に依頼して、商品が到着した段階ですべてが開封していないかを確認する地道な作業です。商品として出荷される際には、当然、ほかの商品とごちゃ混ぜになって運ばれます。さまざまな圧力を加えたときにもフィルムが裂けないことを確認することができました」
当時をそう思い返す綿引さんの顔色は、緊張から安堵に移り変わった。
「どうしても『輸送中に本当に開かないだろうか』という心配はありましたね。それが最も恐れていたことではあります。ただこの開け方が成立すれば、私たちの魚肉ソーセージがいいものであることを伝えられると。だからなんとか成功してほしいという気持ちが強かったです。どうか開かないでというのが率直な願いでした。
■コスト5割増になっても譲れない
1秒OPEN導入に際して、かかったコストも少なくない。
「だいたい、従来のフィルムの2~5割くらい高くなるとは思います。商品をしっかりと訴求して販売量を増やすことで、コスト面では将来を見据えると落ち着いてきます。それよりも、最優先すべきはお客様が商品に価値を見出していただくことですので、そのための対価としては、妥当だと考えております」
現在、工場で生産される魚肉ソーセージの量は非常に多い。具体的には、1分間に1つの充填機で180本のソーセージが詰められるという。完全に密閉されて安全に食べられ、また瞬時に開封できる商品を安定的に生産する技術力は、一朝一夕には得られないのだと綿引さんは話す。
「肉を詰めながらフィルムで巻いて密閉を行うのですが、この技術を確立させるまでに10年単位の年月がかけられたと聞いています。生産性を維持しながら、一方で開けやすくもする技術は、すぐには獲得できない弊社独自のものです。フィルムメーカーはこの技術の特許を取得しており、単に同じ機械を導入すればどんな企業でも1秒OPENが可能となるという性質のものではありません。
また、圧着作業自体はもちろん機械が行いますが、他方で、機械のそばには熟練したオペレーターが必ずいて、細かな調整が欠かせません。一例ですが、生産日の気温などの変化、魚肉ソーセージの配合やくっつきの度合いによって、圧着の強さを微妙に変えているのです。輸送や店頭陳列の際には開かないけれど、お客様がわずかな力を加えればきちんと開くラインをしっかり見極めることができるのは、精密な機械作業のなかに人間の調整があるからなせる技でもあります」
■“お申し出”に感じた復活の手ごたえ
フィルムが重なったわずかなスペースを指でつまみ、引っ張ることで即座に魚肉ソーセージが姿を現す。
「開封方法が浸透する前はわずかではありますが、あまりに簡単に開きすぎて、『もしかして最初から開いていたのではないか』とおっしゃられることもありました。不安を与えてしまったことは反省すべき点ですが、裏返せば、開封の際に力まずとも魚肉ソーセージを召し上がっていただけるということで手応えを感じました」
知名度のある商品でありながら、1970年代を境にその売り上げが下降線を辿った魚肉ソーセージ。社内ではその古豪復活ぶりを驚く声もあるという。
「私だけでなく、私たちは最初から魚肉ソーセージの価値を信じて、それを伝えるためにはどうすればいいかを考え続けてきました。ですから特別何かが変わったという感想を持ちません。ただ、周囲からは『いい方向に変わってきた』とよく言われます。それはお客様の本当のニーズに向き合って、課題をクリアできたことが大きいのではないかと考えています」
健康的で、瞬時に栄養素を摂取できる食品として浸透しつつある魚肉ソーセージ。消費者に驚きを与えられるほどの開封のしやすさが確立され、名実ともに同社の看板商品に返り咲いた。
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黒島 暁生(くろしま・あき)
ライター、エッセイスト
可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。
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(ライター、エッセイスト 黒島 暁生)

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