■「さすが三越」と言わしめる危機管理術
謝罪においてスピードはきわめて重要です。しかしただ早ければ早いほど良いのかといえば、そんな単純な話ではありません。謝罪の目的は「事態収拾」と「ダメージコントロール」であり、「事情はともかくとりあえず謝っておく」というような機械的対応は消費者に見透かされ、かえって事態を悪化させます。
このゴールデンウィーク期間中、日本橋三越本店の催事で起きた出展テナントの炎上事件において、見せた三越の振る舞いは、まさにこの「スピード」と「質の伴った判断」が融合したものでした。
三越という、日本を代表する老舗百貨店が自らのブランドをどう守り抜こうとしたのか。その行動はきわめて理にかなったものであり、ブランド防衛において有効な手立てであったといえます。
事件は、連休の賑わいを見せていた日本橋三越本店の名物催事「イタリア展」で発生しました。出店テナントである高級サンドイッチ店において、店長自らのSNS発信が炎上の端緒となったのです。
■「映え」を狙った動画が炎上の火種に
問題となったのは、店長の女性自らが顔出しで調理工程を映し出した動画でした。そこには、食品を扱うプロとしては目を疑うような光景が収められていました。
・手づかみでつまみ食いのように試食する姿
・ヘアキャップなどで髪をまとめることもなく、不衛生な状態で調理台に立つ風景
これらは、食の安全を第一に考える消費者から見れば、衛生観念に欠けたものだと映り、批判が集中したのです。
もっと規模の小さい個店だったとしたら、自撮り風の調理シーンや試食する様子なども、頑張る店長、親しみやすくキラキラした仕事ぶりプラスおちゃめな一面、そしてオシャレで映えるビジュアルには効果があったかも知れません。過去にはこうしたインフルエンサー的広報で成功した経験もあるのかも知れません。しかし実際は違いました。
SNSを転載によって拡散し、5月4日頃にはネット上で炎上騒ぎとなりました。個人店ではなく「日本橋三越の催事」という信頼と品格が担保された場所において、高額なデリカテッセンを販売する店舗の情報としては、明らかに不適切でうかつであったと言わざるを得ません。
自ら広報も担うライブ感の発信力は現代では強みとなる一方、信頼ある老舗百貨店の看板(ブランド)の下で売るという文脈において、顧客が求めているのは「親しみやすさ」よりも「レストラン並みの徹底した衛生管理」と、それに見合う「品格」だったのです。
■謝罪文から伝わる三越の本気と怒り
SNSでキラキラした自分をアピールする「自己顕示欲」と、食の安全に対する「無頓着さ」が同居した映像は、ネット社会において格好の「燃料」となりました。この店長の動画が拡散され、不衛生だという批判が一気に広まりました。そしてYahoo!ニュースをはじめとする大手メディアにまで取り上げられる問題へと膨れ上がっていったのです。
こうした動きに対し、三越は非常にすばやく対応しました。今回の事案において、三越はあくまで催事の「場」を提供した主催者であり、直接的な過失は出店テナント側にあります。通常であれば、法務的な責任の切り分けや、事実関係の詳細な調査、さらにはテナント側との協議などに時間を費やし、対応が後手に回るのが組織の常です。
しかし三越は、SNSでの拡大がネットニュースなどに広がるやいなや、5月5日には三越として公式な謝罪ステートメントを発表したのです。
特筆すべきは、その謝罪文の内容です。「今回の事案は明らかに不適切なものであると認識しております」という一文には、抑えた中にも同社の事件への怒りとも取れる絶妙なニュアンスが含まれているように感じます。言い訳できない問答無用の事件であるからこそ、このような明確な姿勢を示すことが、最も効果的であると判断したのでしょう。
■百貨店のプライドを見せた決断力
展開の速さから考えると、この三越の「異例のスピード」は炎上発生を把握した直後から判断を進めていたのではないかと考えられます。そしてこのスピードは事態収拾において、企業の危機管理として、極めて適切だったと思います。
百貨店というビジネスモデルが経営的に厳しい環境を迎える中、それでも天下の「日本橋三越」というブランドエクイティ(ブランド資産)は彼らにとって死守すべきものです。もしここで「当社の失態ではない」「事情をしっかり把握してから」などともたついていたりすれば、炎上の矛先は三越本体へと向かっていたはずです。
一般の利用者にとって「テナント=三越そのもの」という認識は強く、その期待を裏切ることはブランドの根幹を揺るがす行為です。
何より三越がこの事件を「他人事」ではなく「自分事」として、自らの責任の所在を明確にしたことは、伝統ある大きな組織として、非常に意味があります。自らの責任として、高速で謝罪した結果、すでにメディアの露出が急速に減少し、事態は沈静化に向かいました。これはまさに、危機管理の「理想形」であったと言えます。
三越が示したこの「適切な振る舞い」がいかに難しいものか、過去の象徴的な事例を紐解くとより鮮明になります。
■誠実さが裏目に出た高島屋のケーキ事件
2023年末に発生した高島屋の「クリスマスケーキ破損騒動」、いわゆる「ぐちゃぐちゃクリスマスケーキ事件」は、対照的な教訓を残しています。有名店の監修によるクリスマスケーキが、配送されたものの、中味がぐちゃぐちゃに崩れた状態だったということで、大問題になりました。
有名店のケーキを、高島屋が通信販売で展開するという、正にブランディングに沿った企画となるはずだったものが、受注した3000個近いケーキの内、約800個が崩れていたというひどいものでした。
高島屋はクリスマス直後に記者会見で経緯の説明を行いましたが、結局「原因不明」だと説明しました。「当時と全く同じ環境を再現することは不可能であり、原因の特定はできない」という主張は、限られた時間と調査において、企業としての誠実な報告(真実)だったのかもしれません。
※高島屋プレスリリース
しかし真実であれば消費者から納得が得られる訳ではありません。せっかく「原因が特定できる管理体制を構築できなかった責任はすべて当社にある」と、全責任を負う覚悟を発表したにもかかわらず、高島屋に理解を示す声はほとんど聞こえず、本気で原因を追究する気がないなどの批判は残りました。
■虫の混入事件で炎上した「ペヤング」
事実であってもゼロ回答として「他人事」のように響く説明では、全く事態収拾には役立ちません。「現時点で原因特定ができていないが、徹底的に追及する」と発言すべきだったと思います。
三越が今回、あえて強い言葉でテナントを断じたのは、こうした「中途半端な説明による不信感」を回避するための高度な戦略だったとも解釈できます。
百貨店ではありませんが、これまた伝説的失敗からの逆転となったのは「ペヤングソースやきそば」のまるか食品です。
これに対し同社は商品の回収だけでなく、SNS投稿削除の依頼とともに、「混入は考えられない」というコメントを発表したことで、一気に炎上モードになりました。
しかしこの直後、同社は製造ラインを止め、製造業の本丸を自ら閉じるという徹底した対策に転換します。製造プロセスや環境の見直しに半年もの時間をかけ、再び操業が開始され、ソースやきそばが店頭に並んだ時には、同社を称賛するコメントが相次ぎました。
身を切る改善という、わかってはいてもなかなかできない反省と改善を示したことで、納得感が得られ、その後のV字回復的な伸長につながったといわれます。
■三越に学ぶ究極の「ブランドを守る謝り方」
ブランドの価値とは、すなわち「責任の所在」を明確にすることです。三越は、最初に挙げた高島屋の事例を他山の石としていたのではないでしょうか。「デパートの看板を信じて買った客」にとって、原因がどこにあるかは二の次です。
「配信内容が正当かどうか」や「法的に問題があるか」といった議論は、炎上の渦中においては何の意味も持ちません。三越が示したのは、自ら進んで素早く頭を下げる決断という姿勢による、圧倒的なブランド防衛術でした。この一気呵成な対処は危機対応として理想であり、自ら身を切る決断ができたことは成果でしょう。
不祥事をゼロにすることは、人間が関わる以上、不可能です。
今回の三越の対応は、いち早く決断し、行動に移すことの重要性を、改めて私たちに知らしめた極めて優れたケーススタディであったと言えるでしょう。
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増沢 隆太(ますざわ・りゅうた)
東北大学特任教授/危機管理コミュニケーション専門家
東北大学特任教授、人事コンサルタント、産業カウンセラー。コミュニケーションの専門家として企業研修や大学講義を行う中、危機管理コミュニケーションの一環で解説した「謝罪」が注目され、「謝罪のプロ」としてNHK・ドキュメント20min.他、数々のメディアから取材を受ける。コミュニケーションとキャリアデザインのWメジャーが専門。ハラスメント対策、就活、再就職支援など、あらゆる人事課題で、上場企業、巨大官庁から個店サービス業まで担当。理系学生キャリア指導の第一人者として、理系マイナビ他Webコンテンツも多数執筆する。著書に『謝罪の作法』(ディスカヴァー携書)、『戦略思考で鍛える「コミュ力」』(祥伝社新書)など。
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(東北大学特任教授/危機管理コミュニケーション専門家 増沢 隆太)

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