食後に胃酸が込み上げて胸の奥が激しく痛む「逆流性食道炎」の患者数が増えている。内科医の名取宏さんは「逆流性食道炎を治したいなら、薬を飲むこと以上に、生活習慣を改善することが大事だ。
今すぐ始められる3つの方法を試してみてほしい」という――。
■胸の奥が焼けるように痛む理由
食後しばらくすると胸の奥が焼けるように痛くなる、横になると酸っぱいものがこみ上げてくる……それは「逆流性食道炎」のせいかもしれません。
逆流性食道炎とは、胃の内容物――特に胃酸が食道へと逆流し、食道の粘膜に炎症を引き起こす病気です。胸やけや酸っぱいものが込み上げる以外にも、慢性的な咳やのどの違和感、ゲップなど、日常的に生活の質を損なう症状が現れることがあります。
逆流性食道炎の診断には、上部消化管内視鏡、いわゆる胃カメラが有用です。食道の粘膜を直接観察して炎症があるかどうか、傷(びらん)がないかを確認します。ただし、逆流に伴う症状があっても内視鏡で明らかな異常を認めない「非びらん性胃食道逆流症」もあります。
近年、日本における逆流性食道炎の患者数は増加しています。その背景には、食生活の欧米化、肥満、高齢化、そしてピロリ菌感染率の低下による胃酸分泌量の増加などがあると考えられています。日本人の成人の検診受診者等を対象にした研究では、内視鏡で確認される逆流性食道炎の有病割合はおよそ1割、胸やけなどの症状まで含めるとそれ以上であり、決してめずらしい病気ではありません。
■どうして胃酸の逆流が起きるのか
では、どうして胃酸が逆流してしまうのでしょうか。
本来、胃の中にある強い酸は、食道と胃のつなぎ目にある「下部食道括約筋」という「弁」によって食道へ逆流しないようになっています。
しかし、この防御が弱まると胃酸が食道に逆流し、粘膜を刺激して炎症を引き起こすのです。
よく「胃酸が多いから逆流する」と思われがちですが、本質はそこではありません。重要なのは、胃の中のものが食道へ上がりやすい状態になっているかどうかです。
その原因は、人によってさまざまです。例えば、食べ過ぎや早食いで胃の圧が急に高まること、肥満や妊娠によって腹圧が慢性的に上昇することも原因の一つ。他にも食後すぐ横になる習慣、飲酒が弁の働きを弱めることも一因です。また、加齢による筋力低下も見逃せません。
さらに、胃の一部が横隔膜の上へ滑り出てしまう「食道裂孔ヘルニア」がある場合は、弁の機能が構造的に損なわれるため、逆流が起きやすくなります。
■薬を飲むだけの治療では不十分
逆流性食道炎の急な痛みには、水を一気に勢いよく飲むとよいという説があります。水を飲むことで食道に留まっている胃酸を洗い流し、胃の中の酸も薄まるためです。ただし、水の飲み過ぎは胃を膨らませ、かえって逆流を助長する可能性もありますし、これは一時しのぎの方法に過ぎません。
逆流性食道炎の治療の中心は、胃酸分泌を抑える薬であるネキシウムなどの「プロトンポンプ阻害薬」、タケキャブなどの「カリウム競合型アシッドブロッカー」を飲むこと。
こうした薬を服用すれば多くの人は症状が改善しますが、再発を繰り返すケースも少なくありません。理由は単純で、薬によって胃酸の量を減らすことができても、「逆流しやすい状態そのもの」は変えられないからです。
先に述べたように胃酸が逆流する背景には、食べ過ぎや飲酒、肥満といった生活習慣が関与しています。生活習慣を変えなければ、薬をやめると症状が戻るパターンに陥りがちです。逆流性食道炎は「薬で治す病気」というよりも、「生活を整えながらコントロールする病気」と考えたほうがいいでしょう。
薬は有用ですが、一方で副作用もありますし、お金もかかります。逆流性食道炎にお悩みの方には生活習慣の改善をおすすめします。
■つらい症状に効く3つの生活習慣
そこで、国内外のガイドラインから逆流性食道炎に効く3つの生活習慣を紹介します。
①体重を適正に保つ
ガイドラインでも強く推奨されている項目です。体重が増えると腹部への圧力が高まり、胃の内容物が食道へ押し上げられやすくなります。過体重や肥満の人では、減量によって症状が改善することは複数の研究で示されています。大幅な減量でなくても、無理のない範囲で体重を減らすことが、症状改善と再発予防につながります。

②食後すぐに横にならない
食事中から食後にかけて、座るか立った状態を保つようにしましょう。ガイドラインでも、就寝前2~3時間の食事を避けることがすすめられています。重力が働いている間は、胃の内容物が自然と逆流せず、とどまりやすくなります。逆に、食べてすぐ横になると、その助けが失われ、逆流が起きやすくなります。「食べてすぐ寝る」習慣がある人は、まずここから見直すのが現実的です。
③寝るときは上半身を少し高くする
夜間の逆流対策として有効です。枕を重ねるより、上半身全体をなだらかに高くするのがポイント。また、「左側を下にして寝る」と逆流が起きにくいという報告もあります。胃の構造上、左側臥位では胃酸が食道側に流れにくくなるためです。
■食事制限はどこまで必要か
かつては、逆流性食道炎を悪化させる食品として、コーヒー、チョコレート、脂っこい食事、炭酸飲料などが挙げられていました。これらの食品が下部食道括約筋を緩めたり、症状を誘発したりする可能性を示した小規模な研究も報告されています。
しかし、その後の研究によると結果に一貫性はなく、特定の食品を一律に制限することで症状が改善するという証拠は十分とはいえません。
むしろ、食品と症状の関係には個人差が大きいことがわかってきました。
現在のガイドラインの考え方は、より現実的です。すべての人に同じ食事制限を課すのではなく、自分にとって症状を悪化させる食品を見極め、それだけを避けるというアプローチがすすめられています。食事の影響の出方には個人差があり、過度な制限は長続きしません。自分の症状のパターンを把握し、無理のない範囲で調整していきましょう。
■逆流性食道炎と他の病気との関係
さて、逆流性食道炎は食道がんのリスクをやや上げることがわかっています。食道がんは「腺がん」と「扁平上皮がん」に大別されますが、逆流性食道炎が関係するのは主に「腺がん」。長年にわたって胃酸の逆流が続くと、食道の粘膜が変質し「バレット食道」と呼ばれる状態になることがあり、腺がんのリスクをやや高めるのです。
ただし、逆流性食道炎のある人が全員そうなるわけではなく、がんに進展する頻度はそれほど高くありません。日本で多い食道がんは「扁平上皮がん」で、これは逆流性食道炎とはほとんど関係がなく、喫煙や飲酒が主な原因です。
なお、ピロリ菌に感染している人のほうが逆流性食道炎が少ない傾向にあります。ピロリ菌は胃酸の分泌量を低下させるため、またアンモニアなどを産生して胃内の酸を中和する方向に働くためだと考えられます。
こうした背景から、ピロリ菌の除菌後に逆流性食道炎が出現しやすくなる、あるいは症状が目立つようになるとする報告もあります。ただし、当然のことですが、ピロリ菌の除菌には胃がんや胃潰瘍を予防するという明確で大きなメリットがあるので、必要な場合は迷わず行ってください。
■逆流性食道炎を疑う場合は受診を
内科外来には、逆流性食道炎を疑う症状の患者さんは少なくありません。ただし、胸の痛みや違和感は、逆流性食道炎だけでなく、見落とすと命にかかわりのある病気である「狭心症」や「心筋梗塞」でもみられるので注意が必要です。
また、食べ物がつかえる感じ(嚥下障害)、体重減少、消化管出血を疑う黒色便といった症状があれば「食道がん」「胃がん」の可能性が高いので、速やかに上部消化管内視鏡検査をすることになります。逆流性食道炎のような痛みがあるときは自己診断をするのではなく、必ず病院を受診しましょう。
最後に、逆流性食道炎は生活習慣と深く結びついた病気です。薬は症状を和らげる助けになりますが、根本にある生活習慣が変わらなければ繰り返します。体重管理、食後の姿勢、寝るときの工夫。どれも今日から始められることばかりです。気になる症状があれば放置せず、まず医療機関を受診する。そのうえで、日々の習慣を少しずつ整えていく。
それが、この病気と上手に向き合う方法です。

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名取 宏(なとり・ひろむ)

内科医

医学部を卒業後、大学病院勤務、大学院などを経て、現在は福岡県の市中病院に勤務。診療のかたわら、インターネット上で医療・健康情報の見極め方を発信している。ハンドルネームは、NATROM(なとろむ)。著書に『新装版「ニセ医学」に騙されないために』『最善の健康法』(ともに内外出版社)、共著書に『今日から使える薬局栄養指導Q&A』(金芳堂)がある。

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(内科医 名取 宏)
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