■アイデンティティと愛国主義を形成
2023年8月、ロシアで初めての国定歴史教科書が発表されました。『ロシアの歴史 1914-1945年』『ロシア史:1945-21世紀初頭』の2冊です。
編纂を主導したのは、元文化相で現大統領補佐官のウラジーミル・メディンスキー氏と、外交官・諜報員養成機関として知られるモスクワ国際関係大学学長のアナトリー・トルクノフ氏です。
教科書の冒頭には、その目的が明確に記されています――「この教程を学ぶことの最大の結果は学生達にロシア市民アイデンティティと愛国主義を形成することになるはずだ」。
この言葉からは、この教科書は客観的な歴史の記述ではなく、国家が望む歴史観を植え付けるための装置として設計されているものだと、暗に示されているようにも感じられます。
そして実際に中身を見てみると、ロシアの教科書は客観的な記述というよりも、ロシアの愛国主義を作り上げる装置としての機能を感じる部分も多く、実際、同様の指摘はイギリスのニュースメディアBBCからもありました。
そしてこの教科書では、2022年からのウクライナ侵攻についても触れられています。本稿ではロシアの歴史教科書が語る愛国主義について、具体的な記述をもとに見ていきます。
■プーチンが大統領に就任すると教育は一変
まず前提として、ロシアの歴史教育は、ソ連時代とは大きく様変わりしています。
ペレストロイカ期のソ連では、生徒が史実に対する異なる解釈の存在を知り、史料に基づいて自ら歴史を分析する能力を身につけることが重視されていました。
1990年代のエリツィン政権下でも、この方針は継続されていました。この年代までのロシアの歴史教育は、他の国の歴史教育とあまり変わらなかったと考えられます。
しかし2000年にプーチンが大統領に就任すると、状況は一変します。ソ連崩壊後の混乱、経済の低迷、アイデンティティの危機……こうした中で、プーチンは国民統合の手段として愛国主義の高揚と歴史記憶の政治的利用に注目したのではないかと考えられています。
その背景には、2003年のジョージアの「バラ革命」、2004年のウクライナの「オレンジ革命」といった旧共産圏における民主化運動「カラー革命」で、青少年層が政権交代の主役となったことが、ロシア政権に大きな衝撃を与えたのではないかという説があります。
■異なる解釈を許さない単一の歴史認識
欧米諸国の自由・民主主義の価値観に同調するロシアの若者は、プーチンの考える「一体不可分のロシア」にとって脅威と映ったのではないか、そしてそれがロシア政府に歴史教育の方向転換をさせるきっかけになったのではないかというのです。
2009年、メドヴェージェフ大統領(当時)はロシアの国益を損なう歴史捏造の試みに対抗するための対策委員会を設置しました。2012年には「ロシア歴史協会」が設立され、教科書の統一が本格化します。
2014年には、ニュルンベルク裁判で確定したナチス・ドイツの戦争犯罪の否定や、第二次世界大戦時のソ連の活動について「虚偽の情報」を流布する行為に対して高額の罰金を科す法律が成立しました。
こうして、異なる解釈を許さない単一の歴史認識に基づいた教科書の作成が国家プロジェクトとして推進されるようになったのです。その成果こそが、現在使われている教科書『ロシア史:1945-21世紀初頭』なのです。
■軍事行動は「人類を救う世界史的使命」
教科書には次のような記述があります。
「ウラジーミル・プーチン大統領がウクライナに対する『特別軍事作戦』を開始していなければ、人類の文明はおしまいだったかもしれない」
つまり、ロシアによる主権国家への侵略戦争が、「人類の文明を救う行為」として描かれているのです。この論理は、単なる自衛や地政学的利益の追求を超えて、ロシアの軍事行動を「世界史的使命」へと昇華させています。
教科書は、もしウクライナがNATOに加盟してから「クリミアかドンバスで挑発行動を起こし紛争を仕掛けていたら」、ロシアはNATO全加盟国と戦争になり、「そのようなことになれば、文明の終わりだったかもしれない」と主張しています。
つまり、第三次世界大戦を防ぐために先制攻撃が必要だった、というロジックです。
■生徒に植え付ける「強烈な被害者意識」
また教科書では、西側諸国がロシアの敵として明確に位置づけられています。
「西側諸国は、ロシアの国内情勢をなんとしても不安定化させようとしている。この目的実現のため西側は『あからさまなロシア嫌悪』を広めている」
「西側がロシアをさまざまな紛争に『引きずり込む』ようになった。西側の究極的な目的は、ロシアを破壊してロシアの天然資源を奪うことだ」
西側は一枚岩の悪意ある勢力とされ、ロシアの豊かな天然資源(石油、天然ガス、鉱物資源など)を奪おうと画策していると書かれています。
この論理でいえば、NATOの東方拡大も、ウクライナの民主化運動(オレンジ革命、マイダン革命)も、すべては西側がロシアを弱体化させるための「仕掛けられた罠」ということになります。
このような記述は、生徒たちに強烈な被害者意識を植え付けることになることは想像に難くありませんね。
■「ウクライナは西側に操られている」
ウクライナについての記述はさらに過激です。
「ウクライナは国家主義の過激派が支配する侵略国家で、西側に操られており、西側はロシア打倒の道具としてウクライナを利用している」
ここでは、ウクライナは独立した主権国家ではなく、西側の「道具」「操り人形」として描かれています。つまり、ウクライナ人自身の意思は存在せず、すべては背後の西側諸国が糸を引いているという認識です。
この認識は、国際法の基本原則である国家主権と民族自決権を根底から否定するものです。
マイダン革命では、親ロシア派のヤヌコーヴィチ大統領が民衆の抗議により退陣に追い込まれ、その後親欧米派のポロシェンコ政権、そして現在のゼレンスキー政権へと続きました。
これらはいずれも民主的な選挙によって選ばれた政権ですが、教科書では「過激派」と呼ばれています。
■BBCも批判した「疑惑の掲載データ」
また、こんな記述もあります。
「2014年までウクライナの人口の80%が、ロシア語を母語と認識していた」
これはイギリスのBBCでも大きく批判されていた部分で、明白な虚偽であるとの見方が強いです。
キーウのシンクタンクであるラズムコフ・センターが2006年に公表した世論調査によると、ロシア語が母語だと答えたウクライナ住民は30%に過ぎず、自分の母語はウクライナ語だと答えたウクライナ住民は52%に上ったとされています。
統計データの扱いに虚偽があるならば、歴史教育の根幹自体が揺るぎかねないものになってしまいます。
■2023年以前の教科書は客観的だった
本稿を書くにあたって、我々は今回の改訂の前に使われていた教科書についても確認してみました。すると驚くべきことに、本稿で紹介したような愛国主義的な記述は目立たず、客観的な歴史が記されていました。
現在の情勢を鑑みると意外に感じるかもしれませんが、以前のロシアの歴史教育はかなりレベルの高いものでした。
特にソ連時代に関しては、かつての諸民族に対する圧政やウクライナで起きた大飢饉ホロドモールに関してもしっかり教えられており、日本の世界史教科書以上に正確かつ詳細と思えるほどでした。
また、ゴルバチョフ元書記長に対するスタンスも注目に値します。
2018年に行われた調査ではソ連崩壊を残念に思うロシア市民が50%を超えるなど、ロシアではソ連へ肯定的な意見を持つ人も比較的多く、ソ連崩壊を実質的に引き起こしたゴルバチョフに対するロシア市民の評価は最悪です。
■プーチン版教科書で消えたもの
しかし、かつての教科書ではゴルバチョフの政策に関して、いい面と悪い面が非常に公平に書かれています。
教科書と市民の評価にこのような乖離があるのは、ソ連の崩壊とロシア連邦の成立からまだ日が浅く、ソ連崩壊による混乱の記憶がいまだ生々しく残っていることが原因だと思われます。
しかし、愛国主義的改訂以前の教科書に関しても、プーチン政権以降の記述には一部疑義が残る部分もありました。
プーチン政権以前の出来事はいい面と悪い面、双方の点から記述されていましたが、プーチン政権後の記述では経済回復や教育予算の増加など、明らかにポジティブな面が強調されていました。
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東大カルペ・ディエム
東大生集団
2020年6月、西岡壱誠が代表として株式会社カルペ・ディエムを設立。西岡を中心に、貧困家庭で週3日バイトしながら合格した東大生や地方公立高校で東大模試1位になった東大生など、多くの「逆転合格」をした現役東大生が集い、日々教育業界の革新のために活動している。漫画『ドラゴン桜2』(講談社)の編集、TBSドラマ日曜劇場『ドラゴン桜』の監修などを務めるほか、東大生300人以上を調査し、多くの画期的な勉強法を創出した。そのほか「リアルドラゴン桜プロジェクト」と題した教育プログラムを中心に、全国20校以上でワークショップや講演会を実施。年間1000人以上の学生に勉強法を教えている。
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(東大生集団 東大カルペ・ディエム)

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