日本と韓国の領土問題や歴史認識のズレは、なぜ起きてしまうのか。東大生集団「東大カルペ・ディエム」の著書『世界の歴史教科書を読み比べてみた』(星海社)より、紹介する――。

■竹島(独島)は教科書にこう書かれている
日本と韓国の関係を語る上で避けられない問題が、竹島(韓国名:独島)をめぐる領土問題です。そもそも島の呼称自体、日本では「竹島」、韓国では「独島」とされています。
日本は竹島が自国固有の領土であるとして、これを実効支配する韓国との間に領土問題があると主張しています。一方、韓国は、独島は自国の領土を自ら支配しているだけであって、他国のものではないから、そこに領土問題は存在しないという立場です。
こうした立場は、『韓国史』386ページからの「私たちが克服すべき東北アジアの歴史摩擦」でも明確にされています。この項目では、日本と中国との尖閣諸島をめぐる問題は、単に両者が領有権の主張で対立しているとされています。
一方、竹島――独島の問題については、「日本はわが国の領土である独島の領有権を主張し、これを紛争地域化しようとしている」と記されています。すなわち、韓国からすれば紛争地域でない(領土問題が存在しない)ところに、日本が紛争を持ち込もうとしているというのです。
他方で日本の教科書では、「竹島は日本固有の領土であるが、韓国が不法に占拠している」という記述が一般的です。2014年以降の検定基準改定で、政府見解に基づく記述が義務付けられました。
つまり、日本側は「韓国が不法占拠している」と、韓国側は「日本が紛争地域化しようとしている」と主張し、双方が相手側を「問題を作り出している側」と見なしているのです。
■生徒に日本の主張を「論破」させる授業
さらに興味深いのは、その後に設けられた「探求活動」のコーナーです。
ここでは、竹島に関する日本の主張が表にまとめられています。具体的には、このような日本の主張が列挙されています。
「17世紀半ばには、日本は竹島の領有権を確立していた」

「1905年、竹島を島根県に編入し、領土として確認した」

「サンフランシスコ講和条約で、日本が放棄する領土に竹島は含まれていない」
そして、この教科書を使う生徒は、表にまとめられた日本の主張について、韓国側の主張に基づいて批判すること、このような問題を解決するための手法を考えることが求められているのです。
■認識のギャップは両国関係の「しこり」
日本の教科書で、領土問題に関する相手国の主張を列挙した上でそれを批判させるワークを用意したものはほとんどないでしょう。日本の教科書では、通常は日本政府の見解が記述されるだけです。
この「探求活動」は、生徒に批判的思考を促すという点では評価できます。相手の主張を知り、それに対して自分なりの反論を考えることは、重要な学習活動です。
しかし同時に、この活動は「日本の主張は間違っている」という前提に立っていて、「日本の主張にも一理あるかもしれない」という可能性は、最初から排除されているともいえるのです。
こうした教育を受けてきた人が、「領土問題」を日本とは全く違う形で認識することになるのは当然と言えます。日本人は「韓国が竹島を不法占拠している」と学び、韓国人は「日本が独島を紛争地域化しようとしている」と学ぶのです。
この認識のギャップは、両国関係における重要な「しこり」となっています。
■「慰安婦問題」では日本が完全な悪者に
もうひとつ、日本と韓国の間に残る問題が、「慰安婦」と賠償をめぐる問題です。
そもそも「慰安婦」そのものに対する認識について一定の議論がある上に、そこへの賠償については、未だに訴訟が提起されるほどの根深さがあります。
『韓国史』は、「日本の戦争責任問題は未解決の問題だ」という立場を取っています。そして「慰安婦」等の動員について、次のように続けます。
強制動員された周辺国の人々は、日本政府を相手に強制動員の事実の認定と被害補償を求めている。これに対し国際連合人権委員会などは日本政府が責任ある措置を取るように勧告した。

しかし日本政府は強制動員の問題について政府責任を否定し、周辺国との間に摩擦を生じさせている。

ここでは、日本政府が責任を否定していることだけを取り上げ、そこに至る経緯などは書かれていません。これだけ見れば、日本がただ身勝手であるような印象すら受けうるでしょう。
日本の占領行為のひどさがあれほど詳細に紹介されていたこととは、ある意味で対照的といえます。占領政策については2ページを使って詳細に記述されているのに対し、戦後賠償問題については数行の記述に留まっています。
何かを書かないということも、一種の表現行為です。なぜ日本政府が「責任を否定」しているのか、その理由や経緯を説明しないことで、教科書は暗黙のうちに日本を批判しているともいえます。

■日韓の教員・学者が共同作成した教材
これに対して、日本と韓国の教員・学者が共同して作成した『日韓歴史共通教材 日韓交流の歴史 先史から現代まで』(明石書店、2007年)では約2ページを費やして、日本の占領行為についての戦後賠償問題と「慰安婦」問題が扱われています。
そこでは、賠償をめぐって起こる訴訟についても言及されています。
「日本政府は、サンフランシスコ講和条約と日韓基本条約によって、国家賠償は決着済みとの公式見解を固持し、個人賠償については、そのほとんどが敗訴している」
つまり、ほとんどの場合個人賠償は認められていないのです。そして、日本政府の見解及び訴訟の帰趨についても具体的に紹介されています。
・サンフランシスコ講和条約(1951年):日本が連合国との間で結んだ講和条約で、賠償問題の枠組みが定められた

・日韓基本条約(1965年):日本と韓国の国交正常化に際して結ばれた条約で、日本が韓国に経済協力資金を提供し、両国間の請求権問題は「完全かつ最終的に解決」されたとされた

・個人賠償請求:条約によって国家間の賠償は解決したが、個人の賠償請求権は消滅していないという議論があり、これをめぐって訴訟が続いている
このように日本政府の立場を説明することで、問題の複雑さが理解できるようになっています。単に「日本が責任を否定している」というだけでなく、「なぜそのような立場を取っているのか」が示されているのです。
日本政府が責任を否定する理由について、その是非はともかく一定の説明がなされているのは、先の『韓国史』とは大きな違いでしょう(なお訴訟については、この教科書が執筆されて以降も状況が変わっているため一概には言えません)。
■相手の視点を理解することが和解への第一歩
また、『日韓歴史共通教材』では、両国の民間団体によるさまざまな取り組みが紹介され、一定の歩み寄りや解決に向けた動きがあると分かるのもポイントです。例えば、このような取り組みが紹介されています。
韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協):1990年に設立された市民団体で、慰安婦問題の解決を求める活動を継続している
アジア女性基金:1995年に日本政府の主導で設立された基金で、元慰安婦への「償い金」の支給を試みた(ただし、韓国では「法的責任を回避するもの」として批判も受けた)
日韓の市民団体の交流:両国の市民団体が協力して、慰安婦問題の真相究明や被害者支援に取り組んでいる
こうした、両国が協力してなされる取り組みが進めば、一方的な視点が入り込むことが避けられない歴史叙述が修正され、後の世代の現実における歩み寄りにもつながることでしょう。
この『日韓歴史共通教材』は、両国の教員・学者が協力して、複数の視点を提示しながら、歴史の複雑さを伝えようとしているのです。
ただし、『日韓歴史共通教材』は正式な教科書ではなく、補助教材としての位置づけです。
したがって、その影響力は限定的であり、多くの韓国や日本の生徒がこの教材に触れる機会は少ないのが現状です。
それでも、こうした試みの存在自体が重要です。一方的な歴史叙述を相対化し、相手の視点を理解する機会を提供することは、将来的な和解への第一歩となりうるからです。

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東大カルペ・ディエム
東大生集団

2020年6月、西岡壱誠が代表として株式会社カルペ・ディエムを設立。西岡を中心に、貧困家庭で週3日バイトしながら合格した東大生や地方公立高校で東大模試1位になった東大生など、多くの「逆転合格」をした現役東大生が集い、日々教育業界の革新のために活動している。漫画『ドラゴン桜2』(講談社)の編集、TBSドラマ日曜劇場『ドラゴン桜』の監修などを務めるほか、東大生300人以上を調査し、多くの画期的な勉強法を創出した。そのほか「リアルドラゴン桜プロジェクト」と題した教育プログラムを中心に、全国20校以上でワークショップや講演会を実施。年間1000人以上の学生に勉強法を教えている。

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(東大生集団 東大カルペ・ディエム)
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