■一度の航海で燃油代が2~3億円もかかる
中東情勢の緊迫化による原油の供給不足や価格高騰の影響が、漁業・水産業に大きな打撃を与えている。大量の燃料を消費するマグロやカツオ漁などではコスト増で操業に支障が出ているほか、漁港や豊洲市場などの魚市場でも資材不足や経費増に頭を悩ます魚のプロたちが増えている。
「こんなに燃油が高騰したら、いくら稼いでも油代だけで消えてしまう。そもそも国際機関のルールに合わせてマグロの漁獲量には上限があり、獲る量を増やしてカバーするわけにもいかない」
宮城県気仙沼市で遠洋マグロはえ縄漁船6隻を保有する漁業会社・臼福本店の臼井壯太朗社長は、燃油の高騰で操業がままならない状況に苛立ちを隠せない様子だ。
臼井社長によると、一度で半年ほどの航海の間に使用する燃油は年間1000キロリットルほど。これまでも1億数千万円の燃料代がかかっていたが、イラン情勢の悪化で急上昇。給油地となるケープタウンでは、軍事衝突以前はキロリットル当たり12万円ほどだったのが3月には一時、同36万円に跳ね上がるなど、2~3倍に高騰した。4月以降も高止まりとなり、漁業経営を逼迫させている。
■外国漁船のマグロが日本から欧米へ
マグロはえ縄漁船は大西洋やインド洋などでクロマグロやミナミマグロ、メバチマグロなどを獲り、船上で急速冷凍する。静岡県の焼津港や清水港、神奈川県の三崎港などに陸揚げして漁業者側が得られる対価は、年間1隻当たり3~4億円。燃油代が2倍、3倍になれば利益は上がらない。
ただ、昨年の終わりごろから、焼津港などの冷凍マグロ類の価格は上昇傾向にある。ミナミマグロの上昇幅はわずかだが、ウェイトの高いメバチマグロとキハダマグロは、昨年3月の平均価格が1キロ当たり700円前後だったところから今年3月は両魚種ともにキロ1000円を超え、5割ほど魚価が上昇した。
これについて魚市場関係者は「外国漁船のマグロが、日本よりも高く売れるヨーロッパやアメリカなどに流れたことで、供給量が減ったことが要因」とみている。
マグロの供給減で単価は上がったものの、この月に顕著になった燃油価格の高騰は上昇分を相殺している。人件費やさまざまな資材費などを含めると、むしろ赤字にもなりかねない状況だ。臼井社長は「せっかくいい兆しが見え始めたのに残念。油代の上昇分をマグロ価格に乗せられるわけではないから、これまでのようにマグロを獲りに行けるかわからない」と嘆く。
漁港や魚市場で行われるマグロ取引は、買い人が指で希望値を示す「手ヤリ」で落札する「競り」や、札などに希望値を示して高い値を付けた仲買人などが落札する「入札」によって行われる。
上場数量によって値動きはあるものの、生産者の経費などを含めて勘案した最低落札価格が提示されているわけではないから、コスト分が反映されることはない。
■燃料代節約で早めに帰港する漁師も多い
一方、初ガツオシーズンで漁が活発化するはずのカツオの一本釣りにも、燃油高の影響が出ている。
千葉県の勝浦港では昨年、宮城県の気仙沼港を抜いて29年ぶりに生鮮カツオの水揚げ日本一となった。しかしこの春は低調な漁模様で、漁港関係者は浮かない様子だ。
そもそも昨年日本一になったといっても、全体として水揚げは低水準だった。今年4月にかけて不漁傾向は続いており、「まとまった漁場が見つかる保証もないため、燃油高の今は、最短で漁を切り上げる漁師が多いのではないか」と別の漁港関係者は説明する。
■カツオ節工場が一斉休業する事態に
鹿児島市の魚市場では、「カツオ漁に必要なカタクチイワシなどの餌を取る巻き網漁船が出漁を控えており、餌を確保できない一本釣り船が、漁港で待機していることが少なくない」といい、水揚げ量にも影響が出ているという。
燃油高は、生鮮カツオだけでなく、和食の要・カツオ節の生産にも支障を来している。鹿児島県枕崎市山川では、工場のボイラーを稼働させるために必要な燃油の高騰に加え、原料である遠洋漁場で獲れた冷凍カツオの価格も値上がりしているため、地区に16社ある加工業者のうち11社がゴールデンウイーク明けに一時休業する事態に陥っている。
■魚流通用のさまざまな資材が値上げ
燃油高はマグロ、カツオ漁だけでなく、アジやサバ、イワシなど、大衆魚の生産・流通にも悪影響をもたらしている。
静岡県熱海市網代の定置網漁師は、「水揚げした魚を出荷するために使う発泡スチロールの価格が上がり続けているほか、原油由来の漁船用塗料が入手困難になるなど影響は小さくない」と嘆く。
定置網は網を固定して魚を待ち受ける漁法。網代の漁師は「経費がかさんでも、その分、魚を多く獲れるわけではないし、水揚げした魚を高く売れるわけでもない。どうしたらよいかわからない」と困り果てた様子だ。
遠洋船が漁獲し陸揚げする冷凍のマグロやカツオは水揚げされて最初に取引される港が数市場と限られており、供給量の増減によって相場が動く。
豊洲市場のような規模の大きい中央卸売市場で水産物を扱うのは全国34カ所。このほかに規模の小さな地方卸売市場が数百カ所点在しているため、競争が激しく、一部の高級魚を除いて買い手市場となっており、漁師のコストが魚価に上乗せされる余地はまったくないと言っていい。
さらに「魚より肉」の消費傾向もあって、特に天然・大衆魚の流通価格は低水準となり、都市部に流れにくくなっている。
■大衆魚・青魚の流通にも支障来す
こうした状況下で、首都圏の台所である東京・豊洲市場では、燃油高に伴う発泡スチロールや魚の保冷シート、「パーチ」と呼ばれる魚に被せるビニールシートなどさまざまな資材の値上がりが、魚の入荷に影響を及ぼし始めた。
じわじわ上昇してきた鮮魚用の発泡スチロールの価格が、同市場では5月1日からさらに30%値上がりすることになった。仲卸によると、鮮魚5キロ入りの標準的スチロール箱の値段は1箱500円ほど。氷やシート、運賃などを含めると、漁港から運ばれるアジやサバなど1箱当たり800円ほどの固定経費が必要という。
これに対し、例えば今春、石川や富山県などで豊漁となったイワシの卸値は1箱2000円以下。同市場で取引されれば関係業者への手数料なども必要となり、出荷元である産地側の利益は一層少なくなる。経費が圧迫し「単価の安いイワシなどの大衆魚は、豊洲に呼びづらい環境になっている」と卸会社の競り人は打ち明ける。
サンマやスルメイカ、サケなどの大衆魚は不漁続きだ。
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川本 大吾(かわもと・だいご)
時事通信社水産部長
1967年、東京都生まれ。専修大学経済学部を卒業後、1991年に時事通信社に入社。水産部に配属後、東京・築地市場で市況情報などを配信。水産庁や東京都の市場当局、水産関係団体などを担当。2006~07年には『水産週報』編集長。2010~11年、水産庁の漁業多角化検討会委員。2014年7月に水産部長に就任した。著書に『ルポ ザ・築地』(時事通信社)、『美味しいサンマはなぜ消えたのか?』(文春新書)、『国産の魚はどこへ消えたか?』(講談社+α新書)などがある。
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(時事通信社水産部長 川本 大吾)

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