※本稿は、竹林正樹『行動経済学トレーニング』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■丁寧な指導なのに苦痛と言われる理由
生命保険会社の地方支店に勤務するDさん(男性・44歳)は、4月に管理職に昇進しました。Dさんは以前から「管理職になったら、しっかりと時間をかけて部下をじっくり指導しよう」と考えていました。というのも、Dさん自身が上司から丁寧な指導を受けたお陰で成長できたと実感しているからです。
Dさんは着任の挨拶で「皆さんが納得感を持って仕事ができるように、何度でもしっかりと説明します。わからないことがあれば遠慮なく言ってください。風通しのよい職場にしていきます」と発表し、メンバーたちから拍手で迎えられました。
実際、Dさんは時間をかけ、自分が歩んできた道の話も含めて、部下に一から指導しました。その結果、Dさんは残業時間が増えましたが、それでも部下のためを思って頑張り続けました。
管理職業務に少しずつ慣れ始めた夏の日、Dさんは突然、本社の人事部長に呼び出されました。
人事部長は神妙な面持ちで「あなたの職場の多くのスタッフから、指導が苦痛との申し出がありました」とDさんに伝えました。
Dさんは「何かの間違いではないでしょうか? 丁寧に指導し、皆に受け入れられています」と答えましたが、人事部長は「あなたの話が長すぎて、スタッフは毎日残業を強いられ、疲弊しています。来週から長期研修に参加してください」と言いました。
コミュニケーション不足を指摘されるのならともかく、コミュニケーションそのものを否定されるとは……。Dさんは涙がこみ上げてきそうになりました。
■求められるのは「コンパクトで丁寧な指導」
「丁寧な指導」と「時間をかけた説明」は、似て非なるものです。相手が求めているのはあくまでも「コンパクトでわかりやすい指導」です。
それにもかかわらずDさんが「自分が長時間指導しても相手はじっくりと聞き、感謝してくれているはず」と考えたのは、「自信過剰バイアス(自分のことを実態以上に高く評価したくなる心理)」の典型例です。
小学校時代の朝礼の状況を思い出してください。校長先生は皆さんに一生懸命伝えようと、丁寧に、そして長々と話していました。一方、聞いている児童の多くは、ただただ苦痛で、話の内容なんてほとんど頭に残らなかったものです。
校長先生も、自分が小学生だった頃は長い話は嫌だったはずですが、大人になって「私の話は面白いから、児童たちはしっかり聞いてくれるはず」という幻想を抱き、話はどんどん長くなってしまったのです。Dさんも似た状況に陥っていると推測されます。
■かみ合わない「両者の思い」
また、Dさんは「自分は上司からの丁寧な指導に助けられた」という経験を美化して都合よく解釈している可能性があります。
その上司は単に丁寧だったのではなく、指導をするに当たって部下のニーズに沿って万全の準備をし、受け入れられやすい形にしていたのかもしれません。
一方、Dさんはその上司の「丁寧な口調」といったわかりやすいものばかりが頭に浮かびます(利用可能性バイアス)。
多くの人は、丁寧な口調で長々と話をする上司よりも、言葉が多少ぶっきらぼうでも行動指示を明確に伝える指導のほうを嬉しく感じます。
Dさんは「自分の穏やかな指導は皆に受け入れられている」と疑っていませんでした。でも、実際には、「時間を度外視してダラダラと抽象的な話を続け、結局何をすればよいのか伝わらない指導」だったため、部下にはムダで苦痛な時間と認識されてしまいました。
さらにDさんが率先して時間外勤務を行ったことで、他のスタッフたちは先に帰りづらくなりました(規範バイアス)。
労働生産性重視の時代に、Dさんのスタンスが受け入れられないのも仕方のないことです。
■「パワハラで訴えられている人」の共通点
冗長な指導が不満要因になっていることがわかった以上、指導時間を短くすれば解決できるはずです。しかし、加法バイアス(情報をどんどん加えたくなる心理)が働くと、無意識のうちに指導が長くなってしまうのです。ブレーキをかけるための仕組みが必要です。
ある公的機関で「最もハラスメントで訴えられているタイプの人」を統計解析したところ、「大声で怒鳴る人」「意地悪な発言をする人」「大勢の前で怒る人」を抑えて、第1位は「説教が長い人」でした。
指導する側にとっては、長い時間をかけて指導するのは丁寧さの表れのつもりでも、指導を受ける側にとって長時間指導は苦痛そのものだったのです。
これを受け、この機関では「指導は2分以内」というルールを設け、指導の最初に「この指導は2分で終わります」と相手に伝えるようにしました。
指導する大義名分がこちらにあり、相手は黙って自分の話を聞かざるを得ない状況では、準備をしておかないと「相手を動かす力のない冗長な話」を入れたくなります。だから制限時間をルール化しておくことで、縛りをかけることができるのです。
このルールを導入した当初、管理職たちは「たった2分で指導できるわけがない」と不満を漏らしましたが、実際にやってみたところ、ほぼ全員が2分で伝わる話ができました。
実際に1年後、この機関ではパワハラの訴えがほぼなくなったのです。
■「2分ルール」で伝わりやすく
この「2分ルール」は、ナッジ(認知バイアスに沿って合理的行動へと促す設計)の視点からパワハラ防止と相手の行動改善の効果が見込めます。
2分で指導を完結するには、事前に指導内容を書き出し、準備することが必要です。準備を通じ、頭がクールダウンでき、明確に伝えられるようになります(簡素化ナッジ)。
準備をしていると「相手に一発で伝わるようにしたい」という意欲が出てくるものです。
そこで推奨されるフレームワークが「PREP法(Point-Reason-Example-Point)」です。
そしてPREPの4つの要素を30秒ずつ時間配分すると30×4=120秒、つまり2分になります。
組織として「指導は2分以内」とルール化するのが理想ですが、それができない場合でも、自分の中でルール化し、指導の冒頭に「2分で終わります」と予告することによって、相手に受け入れ態勢ができます。これならすぐにできます。試してみてはいかがでしょうか。
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竹林 正樹(たけばやし・まさき)
青森大学客員教授
青森県出身。立教大学経済学部、米国University of Phoenix大学大学院(Master of Business Administration)、青森県立保健大学大学院修了(博士〈健康科学〉)。行動経済学を用いて「頭ではわかっていても、行動できない人を動かすには?」をテーマにした研究を行い、「ホンマでっか⁉TV」(フジテレビ)をはじめ、各種メディアでナッジの魅力を発信。
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(青森大学客員教授 竹林 正樹)

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