健康な毎日を過ごすには、どうすればいいのか。内科医の奥田昌子さんは「長年、大腸がんは、食の欧米化や加工肉の摂取などが原因として指摘されてきた。
だが、健康意識が高まる中でも、日本人の大腸がんが減っていると言い難い。調べてみると、原因は別にある可能性が見えてきた」という――。(第1回)
※本稿は、奥田昌子『最新 欧米人とはこんなに違った日本人の「体質」』(ブルーバックス)の一部を再編集したものです。
■「食の欧米化」で増えた大腸がん
大腸がんは昔から欧米で多いがんで、日本でも1960年頃からぐんぐん増えました。図表1の下の図は、75歳未満の男性のうち、大腸がんで死亡した人の割合を国別に比較したグラフです。日本と韓国の死亡率がうなぎのぼりに上がって欧米に追いつき、とくに日本は欧米各国より高くなってしまいました。1990年代なかばから下降しているものの、欧米各国や韓国より動きが鈍いようです。
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日本で大腸がんが増えた原因として、必ずあがるのが食の欧米化です。米国に移住した日系移民の興味深い統計を図表2にかかげました。ハワイに住む米国人、ハワイの日系一世、日系二世、日本で暮らす日本人に分けて、年齢を追って大腸がんによる死亡率を比較したものです。
1985年に掲載されたデータなので、まだ日本人の死亡率が米国人よりかなり低いのですが、変化の傾向を見てください。日系一世、日系二世となるにつれて、死亡率が米国人に近づいていくのがわかります。
しかし、本書で取り上げている胃がんや乳がんでは、日系人の発症率が米国人の水準に追いつくのに2世代以上かかったのに対し、大腸がんは発症率の上昇が速く、日系一世ですでに米国人に近づいています。カリフォルニアに移住した日系人でもよく似た現象が観察されました。
■盲腸と直腸に一番できやすい
ではここで、先ほどの図表1の上の図を見ながら、大腸のなかでもがんが発生しやすい場所を確認しておきましょう。大腸は口に近いほうから順に結腸と直腸に分かれ、結腸の始まりの部分が盲腸です。いわゆる盲腸炎は正式には虫垂炎と言い、盲腸からちょろんと伸びた短い虫垂に起きる炎症のことです。結腸の終わりで直腸につながる部分がS状結腸です。
日本では、以前は直腸がんが多かったのが、次第に結腸がんが増えて、今では結腸がんのほうが発症率が2倍高くなりました。発生原因にも違いがあって、直腸がんは塩分のとりすぎが関係することが知られています。本書で説明するように胃がんにも同じ性質があるため、直腸がんは、結腸がんと胃がんの両方の性質を持っていると指摘する専門家もいます。
もう少し詳しく、粘膜1㎠あたりのがんの発生率でくらべると、一番できやすいのは盲腸と直腸です。
大腸全体の入り口と出口にあたる部分で、盲腸は胃と小腸を通過した食物が流れ込む場所、直腸と、近年がんが増えているS状結腸は便が最後にとどまる場所です。これらの部位に大腸がんが発生しやすいのは、食べ物に含まれる物質か、それに関連する何かが、がんの発生に関係していることを示しています。
■お通じ毎日の人、週2~3の人「発症率変わらない」
「私は便秘がちだからなあ」と心配する人がいますね。便に含まれる有害な物質が腸に長くとどまることで大腸がんが発生するのではないかというのですが、日本で実施されたコホート研究から、厚生労働省は、「お通じが毎日ある人も、週に2~3回しかない人も大腸がんの発症率は変わらない」と発表しています。(*1)
便秘について言うと、排便のリズムは個人差が大きいので、はっきりした便秘の定義は存在しません。とくに大切なのが残便感があるかないかです。たとえ週に1回しかお通じがなくても、すっきり出るのであれば心配ないことが多いものです。
また、食べたものが出て行くまでの時間は、日本人は平均1日半とされていますが、消化によいものを食べれば1日もかからずに体内を通過しますし、逆に消化に悪いものを食べると3~4日かかることもあります。食事の内容によって大きく変わるのです。
日本人は伝統的に炭水化物中心の食生活を送ってきたので、脂質や蛋白質が豊富な動物性食品の消化が苦手です。そのため、肉、肉製品、揚げ物、乳脂肪を多く含むケーキやクリーム、ナッツ類、チョコレート、スナック菓子などは消化に時間がかかり、お通じが遅れる原因になります。便秘が気になる人は動物性食品の摂取をひかえてみてください。

■「予防できるだけの食物繊維」は摂取できている
欧米食の特徴の一つでもある食物繊維の摂取不足は、以前から大腸がんの発生を促すと考えられていました。そのため、日本でも約10万人を対象に大規模な調査がおこなわれましたが、意外なことに、食物繊維を多くとっても大腸がんの発症率が下がる傾向は認められなかったのです。ただし、食物繊維の摂取量を細かく分けて分析し直したところ、摂取量が最も少ない女性のグループは、摂取量が最も多いグループより大腸がんに2倍以上なりやすいことがわかりました。(*2)
この結果が示しているのは、食物繊維の摂取量が非常に少ない人をのぞくと、大部分の日本人は大腸がんを予防できるだけの食物繊維を摂取できていて、それ以上とっても効果は変わらないということです。
もう一つ、大腸がん発症との関連が疑われているのが肉の摂取です。肉は脂質を多く含んでいます。図表3に示すように、脂質を摂取すると、肝臓から胆汁という消化液が分泌されます。胆汁の主成分は胆汁酸で、肝臓でコレステロールが変化してできたものです。役目を終えた胆汁は大部分が小腸から吸収されますが、脂質の摂取量が多ければ胆汁も大量に分泌され、こうなると小腸で吸収しきれずに、一部が大腸まで流れ込みます。
■ハム・ソーセージなどの加工肉「発がん性がある」
入ってきた胆汁を大腸の悪玉菌が分解すると、発がんと関連する物質ができるのです。発がん性物質まではいきませんが、発がんを手助けする物質です(*3)。つまり、脂質を多く摂取して胆汁の分泌が増えれば増えるほど、大腸がんが発生しやすくなるということです。

「亜麻仁油、オリーブ油などの植物性油なら大丈夫」と言う人がいますが、これは間違い。どんな脂質も体内で分解される経路は同じなので、とりすぎれば大腸がんの発症率が上がります。
肉の摂取量と大腸がんの発症率の関係については日本でも調査が実施され、男性は鶏肉を含むすべての肉、女性は鶏肉をのぞく牛、豚、羊などの肉を多く食べると、どちらも結腸がんの発症率がおよそ1.5倍上がるというデータが得られています。
世界中で同様の研究結果が集まってきたことから、国際がん研究機関(IARC)は2015年に、赤肉は「おそらく発がん性がある」、ハム、ソーセージなどの加工肉は「発がん性がある」と発表しました。赤肉とはモモ肉、ヒレ肉などの脂の少ない肉のことではなく、牛、豚、羊、山羊、馬などの獣肉のことです。ただし、このくらいまでなら食べても問題ない、と線を引くことはできていません。
■日本人の大腸がんは「食肉が理由ではない」可能性
そして、それ以上に問題を難しくしているのが、大腸がんの発生を促す要因が肉以外にもあることです。まず、図表4の上のグラフを見てください。これは2020年の、国民1人あたりの年間の食肉摂取量を国ごとにくらべたものです。日本で食の欧米化が進んでいますが、こうやって見ると日本人の肉の摂取量は欧米の足元にもおよびません。1位の米国の半分以下です。
では、各国の大腸がんの発症率はどうでしょう。
それを示したのが下のグラフで、こちらは2019年に報告された調査結果です。驚いたことに、たいして肉を食べていない日本は世界5位。肉の摂取量が日本と大差ない中国や、それどころか、米国の2倍近く発症率が高いのです。
同じ東アジアの国で遺伝的素因が似ているはずの日本と中国で、大腸がん発症率がここまで違うとなると、肉の摂取以外の影響を考えるしかありません。欧米との差についても同様です。日本人は、欧州系米国人より大腸がんになりやすい遺伝的素因を持っていますが、それに加えて、米国は1970年代から大腸がん対策を続けてきました。政府主導のキャンペーンにより、牛肉に代わって豚肉、鶏肉、魚の消費が伸び、運動する習慣を持つ人が増え、大腸がんの発症率が順調に下がっています。生活習慣全体の変化が効果をあげているようです。
■魚を食べると発症率が4割下がる
肉とは対照的に、発がんを防ぐとしてよく取り上げられるのが野菜と果物です。しかしながら、日本でおこなわれた大規模な調査では、野菜をどれだけ食べても大腸がんの発症率はまったく変わりませんでした。
ただし、これは、野菜を食べても意味がないということではありません。日本で調査を実施した研究者らは、日本人は欧米人より野菜の摂取量が多いので、あまり食べていない人と、より多く食べている人を比較しても、発症率に差が見られなかったのではないかと述べています。

それなら魚はどうでしょう。魚には、悪玉LDLが増えても動脈硬化になりにくくするほどの威力があります。動脈硬化と同じく、欧米で多い大腸がんも防いでくれそうな気がしませんか?
はい、そのとおりです。動物実験や、実験室でおこなわれた研究から、魚に含まれるEPAとDHAが大腸がんを予防するという報告が寄せられています。日本でも詳しい調査がおこなわれ、魚からEPA、DHAを多く摂取しているグループは、結腸の入り口付近にできる大腸がんの発症率が40%下がることが明らかになりました(*4)。半分近くになるということです。
■鬼門は「アルコール」か
いやいや、ちょっと待って。魚は少し増やすほうがよいにしても、食物繊維は足りている。肉は食べてはいるが欧米ほどじゃない。野菜も十分摂取できている。となると、なぜ日本で大腸がんが減らないのでしょうか?
大腸がんの大部分は、がん遺伝子の作用によって細胞が異常な増殖を開始して、さらに、がん抑制遺伝子が正常に働かなくなることで発生すると考えられています。ここまで早くて5年、たいていは10年から、ときには20年くらいかかります。そして、ほとんどの大腸がんで、多数のがん遺伝子とがん抑制遺伝子にエピジェネティクス変化が起きていることが観察されています。
とくに日本人に「悪いエピジェネティクス」を起こすと考えられているのが飲酒です。大規模なコホート研究から、日本酒に換算して1日2合以上飲む日本人男性は、まったく飲まない人とくらべて大腸がんに2倍なりやすいことがわかりました。男性も女性も、1日に飲む量が増えるにつれて大腸がんの発症率が上がります。この傾向は結腸がんでも直腸がんでも認められました(*5)。
さらに、飲酒による影響は、欧米人より日本人のほうが深刻なことが確認されました。ここにも、日本人が遺伝的にアルコールに弱いことが関係していると考えられます。
■飲酒・喫煙と同じくらい危ない「デスクワーク」
そして、日本人男性が日本酒に換算して1日2合以上飲み、タバコを吸うと、飲酒も喫煙もしない人とくらべて大腸がんの発症率が3倍になります。タバコの煙にはさまざまな発がん性物質が入っていて、煙に直接ふれることのない大腸の粘膜からも発がん性物質が検出されます。
男性は、年齢で調整した大腸がんの発症率と死亡率が、ともに女性の2倍高いことが知られており、直腸がんに限ると男女差はさらに広がります。飲酒、喫煙する人の割合が高いからでしょう。そのため専門家らは、日本人男性がはじめから飲酒も喫煙もしなければ、大腸がんの半数近くを予防できると試算しています。
飲酒、喫煙と同じく大腸がんを招くのが、机に向かう仕事、デスクワークです。なかでも結腸がんの発症率が上がります。オーストラリアの研究者らは、デスクワークを10年間続けた人は、デスクワークについたことがない人とくらべて、大腸がんに2倍なりやすいと述べています。
また、日本でおこなわれた研究で、立ち仕事の人はデスクワーク中心の人より大腸がんの発症率が70%以上低かったと報告しているものがあります。他に、日本人約6万5000人を対象とした大規模な調査によると、立つ、歩く、走る、重いものを持つ、激しいスポーツなど、すべてをひっくるめた身体活動が多い男性は、結腸がんの発症率が40%以上低くなりました(*6)。女性については、はっきりしたデータが得られていません。
■大腸がんは現代病だ
大腸がんは、北海道、東北、山陰という、冬に雪が積もる地方で多い傾向があります。厚生労働省の「全国がん登録2020」によると、発症率が高い順に、秋田、青森、鳥取で、4位は車社会の沖縄でした。すべて年齢で調整したデータです。これも、体をあまり動かさない生活と大腸がん発生の関連を裏づける証拠の一つと言えます。
机に向かう時間が長いと結腸がんが増える原因については、肥満になりやすいこと、胆汁分泌の乱れ、免疫機能の低下などが考えられています。
日本で大腸がんの発症率が上がり始めた1960年代は、会社でデスクワークにつく人が増え、乗用車が普及した時期と一致します。これらは糖尿病増加の原因でもありました。先のデータで中国の発症率が低かったのは、運動量の違いによるのでしょうか。大腸がんは欧米病と言うより、現代病なのかもしれません。

(参考文献)

*1 お通じの頻度は大腸がんの発症率に関連しない

Otani T. et al., “Bowel Movement, State of Stool, and Subsequent Risk for Colorectal Cancer: The Japan Public Health Center–Based Prospective Study.”, Ann. Epidemiol., 16(12) (2006).

*2 大腸がんの発症率には人種差がある

Ollberding N. J. et al., “Racial/ethnic differences in colorectal cancer risk: the multiethnic cohort study.”, Int. J. Cancer, 129(8) (2011).

*3 脂質の過剰摂取は大腸がんの発生を促す

Ocvirk S. and O’Keefe S. J. D., “Dietary fat, bile acid metabolism and colorectal cancer.”, Semin. Cancer Biol., 73 (2021).

*4 魚の摂取で近位結腸がんの発症率が下がる

Sasazuki S. et al., “Intake of n-3 and n-6 polyunsaturated fatty acids and development of colorectal cancer by subsite: Japan Public Health Center–based prospective study.”, Int. J. Cancer, 129(7) (2011).

*5 男女ともに飲酒は大腸がんを招く

Mizoue T. et al., “Alcohol Drinking and Colorectal Cancer in Japanese: A Pooled Analysis of Results from Five Cohort Studies.”, Am. J. Epidemiol., 167(12) (2008).

*6 身体活動は日本人男性の大腸がんを遠ざける

Lee K.-J. et al., “Physical activity and risk of colorectal cancer in Japanese men and women: the Japan Public Health Center-based prospective Study.”, Cancer Causes Control, 18(2007).

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奥田 昌子(おくだ・まさこ)

内科医

京都大学大学院医学研究科修了。京都大学博士(医学)。博士課程にて基礎研究に従事。生命とは何か、健康とは何かを考えるなかで予防医学の理念にひかれ、健診ならびに人間ドック実施機関でのべ30万人以上の診察/診療にあたる。海外医学文献と医学書の翻訳もおこなってきた。航空会社産業医を兼務し、ストレス対応を含む総合診療を続けている。著書に『これをやめれば痩せられる』(東洋経済新報社)、『欧米人とはこんなに違った日本人の「体質」』(講談社ブルーバックス)、『内臓脂肪を最速で落とす』(幻冬舎新書)など。

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(内科医 奥田 昌子)

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