歳をとったら病気とどう付き合うといいか。医師の和田秀樹さんは「ある程度高齢で体のなかに悪いところがない人はほぼいない。
病気を抱えていても、悪いところがあるという前提で生きることが大切だ」という――。
※本稿は、和田秀樹『老いの品格 品よく、賢く、おもしろく』(PHP文庫)の一部を再編集したものです。
■根拠のない不安に振りまわされるのは不幸
これからどんどん体が弱っていくのでは……。
いずれこんな病気になるのでは……。
そんなふうに、まだ現実に起こっていないことに対する「予期不安」のようなものを、多くの人が抱えています。現代精神医学の世界では、予期不安とは、パニック発作を一度経験して、あの恐ろしい発作がまた起きるのではないかという不安感が生じることを指します。
ただ、多くの人が、さまざまなまだ起こっていないことに対してもつ不安も似たような心理と考えるので、私はあえて予期不安と呼ぶことにします。じつは多くの場合、不安に思っていることが実際に起こっても、恐れていたほどでもなかったということが多いようです。
また、予期不安に振りまわされて、結果的にリスクを高めているケースも少なくありません。たとえば、高齢ドライバーが事故を起こしたニュースを見て、「自分も事故を起こすのでは」と不安になり、自動車の運転免許を自主返納する人がいます。
では、実際に高齢ドライバーが事故を起こす確率はどれくらいでしょうか。
警察庁の統計によれば、2024年の年齢層別「免許保有者10万人当たり交通事故件数」は、85歳以上で519.9件となっています。
割合に直すと、85歳以上のドライバーが1年間に交通事故を起こす確率は、約0.52パーセントということになります。
同様に計算すると、30代、40代、50代、60代のドライバーが事故を起こす確率は、いずれも約0.3パーセント台とほぼ同じです。
つまり、高齢のドライバーが事故を起こす確率は、ほかの年代とくらべて少し高いといえます。むしろ突出して高いのは16~24歳の若年層で、16~19歳では約0.98パーセント、20~24歳でも約0.55パーセントと、高齢者を含むその他の年齢層より高い確率で事故を起こしています。
■活動量が低下し、要介護認定リスクが上がる
一方で、65歳以上で運転をやめた人が6年後に要介護認定となるリスクは、運転を続けた人の約2.2倍にもなるという、筑波大学などの研究チームによる調査結果があります。
それまで日常的に車を運転していた人が運転をしなくなれば、必然的に出かける機会も意欲も減少します。結果的に活動量が低下し、要介護認定リスクが上がると考えられます。
つまり、高齢者が運転を続けて事故を起こす可能性よりも、運転をやめて要介護認定になる可能性のほうが二ケタくらい高いと考えられるのです。ただ、これには「介護予防のために運転を続けて、死亡事故を起こしたらどうする」という声があるのも事実です。
でも、それを言うのであれば、高齢者以上に事故を起こしている24歳までに免許を与えつづけることは、高齢者差別だといえるのではないでしょうか。
また、生活の自立度を高め、それが高齢者の自尊心を支えることにつながるという面からも、私は、高齢者ができるかぎり運転を続けることに意味があると思います。
コロナ禍の時も似たようなもので私が診察している患者さんにも、コロナ禍で完全にとじこもりの生活をしていて、認知症が進んだ人や、歩く機能がすっかり低下した人が出ていました。

その一方で、「コロナにかかったらしようがない。でも、歩けなくなるよりはましだから」と言って、歩きつづけていた患者さんも少なからずいました。その人たちはいまも心身の機能維持ができています。
「○○が怖い」という不安にとらわれすぎて、かえって怖い状況に自分を追い込んでいるとしたら、それこそ怖いという気がします。
■不安を取り除くのではなく共存する
一般的にウイルスは、なるべく宿主を殺さないようにしつつ仲間を増やしていく、という生き残り戦略にしたがい、変異を重ねる過程で弱毒化するとともに感染力が強まっていきます。
ウイルスというものはつねに変異するので、強毒化することもあるのですが、弱毒化したウイルスに生存競争では勝てないので、結局は弱毒化したものが流行するのです。
すでに何回も変異を重ねた新型コロナウイルスは現在でもかなりの感染者数がいるのですが、その方向に向かっているとすれば、最終的には毎年数百万人から数千万人が罹患するものの、ほとんどがごく軽症ですむ風邪のようなものに落ち着くはずです。
ただし、感染力は以前のものより強くなっているものが生き残るのも事実です。
それをふまえれば、新型コロナをなくすことは現実的ではなく、あることを前提に、どう共存していくかを考えるしかありません。
同様に、歳をとるということは、「何かとともに生きる」ことだ、と私は思っています。どんなに病気にならないように気をつけていても、人間は病気になります。歳をとればなおのことそうです。

ある程度高齢で、体のなかに悪いところがない人はほぼいません。高血圧や糖尿病、アルツハイマー、がんなど、なにかしらの病気を抱えているのが普通です。それを全部なくそうとする発想ではなく、それがあるという前提で生きる必要があります。
■「顔が赤いと人に嫌われてしまう」への提案
精神科医の森田正馬さんが創始した、「森田療法」という心の治療法があります。森田療法の最大の特色は、不安をもつ人から不安を取り除こうとするのではなく、不安を抱えたままどう生きるかを考えようとすることです。
症状不問といって、症状のことはあれこれ聞かないのですが、これは症状を治すより大切なことに目を向けさせるための技法です。
たとえば、顔が赤いことが悩みで、それを治したいと思っている人がいるとします。森田療法ではそこで、なぜ治したいのかを尋ねます。
「顔が赤いと、人に嫌われてしまうから」という答えだとしたら、その人が本質的に求めているのは、「赤い顔を治すこと」ではなく「人から好かれること」です。
そこで、こう提案します。
「顔が赤くても人に好かれている人はいます。顔が赤くないのに人に嫌われている人はもっとたくさんいます。
顔が赤いのを治したところで、人に好かれる努力をしないかぎり、好かれるようにはなりません。私はあなたの顔が赤いのを治すことはできないけれど、あなたがどうやったら人に好かれるかを、一緒に考えることはできます」
■病気を抱えながら幸せに生きる
そして、たとえば話術を磨くとか、笑顔を絶やさない、あるいは、「尊敬する人の前だと顔が赤くなってしまうんです。すみません」というふうに、プラスの印象にもっていけるようなエクスキューズを用意するなど、顔が赤いままでも人に好かれる方法を考え、アドバイスします。
つまり、このケースの場合、「顔が赤いこととともに生きる」をめざします。同じように、病気になる不安を完全に取り除くことはできませんが、病気を抱えながら幸せに生きることはできます。そして、どうすればそれが可能かを考えるほうが建設的です。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)

精神科医

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。立命館大学生命科学部特任教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。
川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、40年にわたり高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。

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(精神科医 和田 秀樹)
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