高齢者は薬とどう付き合えばいいか。医師の和田秀樹さんは「薬は、少なくとも長期的に見れば効果がはっきりしないものが大半で、人によって合う、合わないの差が大きい。
『ラクになるなら飲む、ラクにならないのなら飲まない』というスタンスをもつといい」という――。
※本稿は、和田秀樹『老いの品格 品よく、賢く、おもしろく』(PHP文庫)の一部を再編集したものです。
■薬を飲んで頭がフラフラなら服用をやめる
血圧や血糖値が高い人が、それを下げる薬を服用することによって、頭がフラフラすることがあります。
40代や50代の人が動脈硬化を予防するためにそれらの薬を飲むのはわかりますが、すでに動脈硬化の進行が起きていると思われる年代であれば、頭がフラフラするくらいなら服用をやめるか、量を減らすという発想をもったほうがいいと思います。
そもそも日本では、それを飲めば長生きできるとわかっている薬などほとんど存在しません。たいていの薬は、それを飲むと血圧が下がる、血糖値が下がるなど、即時的な数値の変化はあります。
でも、飲みつづけることで10年後には心筋梗塞になる確率が下がるといった、長期間服用することによる効果があるのかまではわかっていません。それを検証する大規模調査は海外にはあっても日本人対象にはほとんど行われていないからです。
血圧などの薬を飲んでいても、年齢とともに動脈硬化は着実に進んでいくので、心筋梗塞になることはあります。
それなら心臓ドック(虚血性心疾患など心臓病のリスクを調べる検査コースの総称)を受けて、心臓をとりまく冠動脈に動脈硬化で狭くなっている部分がないかを調べ、見つかったら血管を広げる処置をするほうが心筋梗塞の予防には有効でしょう。
■認知症の進行は薬で遅くなるのか
また、認知症と診断されたら、認知症の治療薬を服用したほうがいいのかというのも、難しい問題です。日本では1999年に、認知症の進行を遅らせるための「ドネペジル(製品名『アリセプト』)」という薬がはじめて認可されました。

翌2000年に介護保険制度が始まり、その時期を境に、実際に全体的な傾向として高齢者の認知症の進行は遅くなっています。
ただ、それが薬による効果なのか、介護保険制度により、それまで家族介護で家のなかに閉じ込められがちだった認知症の高齢者が、デイサービスなどの利用で脳に刺激を受ける機会が増えたことによる効果なのかは、判断が分かれるところです。
アルツハイマー型認知症は、脳の神経細胞のなかまでアミロイドβというタンパク質が増えることで発症するとされています。
現在、認知症の治療で一般的に使われている薬は、アミロイドβが増えるのを防ぐものではなく、アセチルコリンという神経伝達物質を増やすことにより、脳内の神経の働きを活発にするものが中心です。
それらの薬は、認知症の進行を多少遅らせる効果はありますが、「多少」程度です。多少であっても効果があるなら飲むと判断してもいいし、その薬代を使って、月1回おいしいものを食べようという発想があってもいいのです。そこは個人の生き方、考え方しだいだと思います。
■うつ病の薬もすべての人に効くわけではない
現在のところ、認知症の根本的な治療薬はありません。アミロイドβが脳内で増えるのを防ぐ新薬として注目された「レカネマブ」は厚生労働省に承認されましたが、本当に認知症の進行を抑える効果があるのかまでははっきりしていません。
認知症の根本的な治療薬ができるかどうかは難しいところです。アミロイドβが脳内で増えるのを防ぐことができるとして、それが有効なのは、もしかしたら認知症になるずっと前の段階なのかもしれないし、認知症が一種の老化現象である以上、アミロイドβの蓄積だけを止めても、発症や進行を防ぐことはできないかもしれないからです。まだそこがわかっていません。

また、うつ病の薬に関しては、「幸せホルモン」とも呼ばれる脳内の神経伝達物質、セロトニンの働きを増強する「SSRI」(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という薬があります。
若者には効きにくいとか異常な興奮を引き起こすなどの問題が指摘されていますが、私の経験では、高齢者の場合は比較的効く人が多いようです。とはいえ、すべての人に効くわけではありません。
■「ラクになるなら飲む」というスタンス
薬は、少なくとも長期的に見れば効果がはっきりしないものが大半で、しかも、人によって合う、合わないの差が大きいものです。
あらゆる薬に対して、「絶対に飲まなければいけない」ではなく、「効果はよくわからないし、あまり期待はしていないけど、飲んでおこう」くらいのスタンスでいるほうがいいと思います。
また、もう1つおすすめしたいのは、「ラクになるなら飲む、ラクにならないのなら飲まない」というスタンスをもつことです。風邪薬や頭痛薬は飲まないのに、血圧の薬は後生大事に飲んでいる高齢者をよく見かけます。
すでに日常的に飲んでいる薬に加えて、別の薬を飲むのは体に悪いと考えているようですが、風邪の症状や頭痛がつらいなら、それを緩和する薬を飲むのをためらう必要はないと思います。
■長期にわたって飲みつづけると副作用が出やすい
むしろ血圧などの薬こそ、それを飲めば調子が悪いならば、無理をして飲む必要があるのかと思います。
どんな薬であれ、長期にわたって飲みつづける薬のほうが、副作用が出やすいことは明らかです。風邪薬のように一時的に服用するだけの薬によって、体に不可逆的な害が出ることはまず考えられません。
高齢になるほど、多くの人が、薬を日常的に何種類か服用するようになっていきます。
だからこそ、薬とのつきあい方をもう一度、考えてみる必要があると思います。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)

精神科医

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。立命館大学生命科学部特任教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、40年にわたり高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。

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(精神科医 和田 秀樹)
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