■テレビ番組に「ワイプ」は必要なのか
思わぬところで、テレビのワイプ(出演者が映る画面の隅の小窓)が批判の的になっている。5月4日に放送されたザ・ドリフターズ(以下、ドリフ)のコント特番で、「ワイプが邪魔」といった“ワイプ不要論”が巻き起こったのだ。いまバラエティ番組などで当たり前になっている演出は適切なのか? この機会に改めて考えてみたい。
ワイプへの批判が起こったのは、「伝説のバラエティ番組『8時だョ!全員集合』がGWの夜に復活!」(TBSテレビ系)というゴールデンタイムの特番。往年の高視聴率番組「8時だョ!全員集合」で放送された名作コントをそのまま流すという内容だった。世代に関係なく笑えるという点では、ドリフの笑いはいまもまったく色あせていない。
ところが、その番組を見ていた視聴者の不満の声がSNSで続々とあがる事態になった。なかでも目立ったのが、ワイプに対するものだ。
ワイプは、スタジオにいる出演者の顔、表情を映すためのもの。出演者が発する「すごい」「おいしそう」といった声も流れる。要するに、出演者のリアクションを見せるための演出である。
■「いらんことするな」の声
このドリフ特番でも、ワイプがあった。放送された2時間半のあいだほぼ全編にわたって画面の左上にワイプが出ている状態。時には出演者のリアクションが拡大されて、一瞬画面いっぱいに映し出されることもあった。
これに対し、「ドラマはそのまま再放送するのに、ドリフはおかしな演出を加えて再放送 わざわざ手を加えないとドリフのコントの面白さが伝わらないとでも? それって、ドリフターズに対して非常に失礼じゃないか」「シンプル再放送でいい。あの頃のあの笑いがみたいんや。いらんことすんな」など手厳しい意見がSNSに投稿された(『FLASH』2026年5月7日付記事)。つまり、ワイプは余分であり、不要という声である。
「全員集合」が放送された1969年から1985年までの当時、ワイプはここまで一般的ではなかった。むろん「全員集合」にはない。その点、当時を知る視聴者からすれば、余分なものに感じたとしても不思議はない。
■演出側の意図が窮屈に
ただ、ワイプへのこうした声は、ドリフの番組だけに限らない。4月に放送された「月曜から夜ふかし」(日本テレビ系)の街頭インタビューに登場した年配の男性も、「ワイプはいらない」と熱弁していた。
「今のね お笑いつまらない」と語る男性は、ワイプが「邪魔でさ」と言い、さらに「ワイプがさグズグズしゃべるんだよ」「あれが大っ嫌いなのよ俺」「ちゃんと見させてくれよ」「助言はいらねえよテメェの」「俺画面見てるんだから」と怒り心頭。イライラするので、テレビ画面の上のワイプが出ているところに自分でティッシュをかけて隠していると言っていた。
ここまで毛嫌いする人はさすがに珍しいだろう。だが、この男性が、ワイプに「ここが驚くポイント」「ここが笑うポイント」と指示されているような感覚、番組の見方を半ば強制されているような感覚になってイライラしているというのは紛れもない事実だ。
実際、ワイプからは、視聴者にしてほしい理想的な反応を先取りするという演出側の意図が読み取れるときもある。ただ、そうされると逆に窮屈と感じるひとがいてもおかしくない。
■起源となった日テレ番組
そもそもワイプを使った演出はいつ頃から始まったのか? 以前、ある情報番組が調査していたのでそれを紹介しよう(読売テレビ「す・またん!」、2023年6月15日放送)。
技術自体は昔からあって、番組でも使われていた。たとえば「オールスター水泳大会」のような番組で、競技をしている画面の片隅にワイプを出し、そのなかでアイドル歌手が歌っていたことを覚えているひともいるだろう。
ただ、この場合のワイプは出演者のリアクションを見せるためのものではない。現在のようなワイプの起源とされるのが、1990年代初頭に始まった「世界まる見え!テレビ特捜部」(日本テレビ系)である。
収録の1回目に、演出スタッフは20分にも及ぶドキュメンタリー映像を見せたいと考えた。
ご存じのように、レギュラー出演者にはビートたけしがいる。たけしは指折りの人気タレントで視聴率も期待でき、それだけ高額なギャラももらっている。そのたけしを20分間も画面に出さないとは何事か、というクレームだった。
そこでスタッフは、苦肉の策に出る。ドキュメンタリー映像の片隅にワイプを出し、たけしのリアクションを見せることにしたのである。それをきっかけに、この手法は定着していく。
■ワイプの役割の変化
ただ、次第に意味合いも変わり、ワイプは大物タレントを見せるためというよりは、これから売れたいというタレントのアピールの場になった。出演者が多ければ、自分のリアクションが必ず使われる保証はない。オンエアでまったく映らなければ、出だしのタレントにとって死活問題だ。
だから、少しでも多く自分のリアクションを使ってもらうため、表情や言葉に工夫をする。かつて「ワイプモンスター」と呼ばれた元モーニング娘。
実は、ドリフ特番についてあがっていた不満がもうひとつある。テロップに対するものである。「テレビを見なくなって25年以上、その大きな理由の1つ『過剰なテロップがウザい』昔の再放送につけるとか地獄やん」(前掲記事)。実際、「ドリフ伝説コント20連発」「製作費1500万円超え【アパートコント】」といった二段組みのカラフルなテロップが、やはり常時画面右上に出ていた。
ここでポイントは、「過剰」という点だろう。
■「めちゃイケ」に見るテロップの役割
テロップ、つまり画面上の字幕は必要な場合もある。ニュース番組や情報番組で政治用語や経済用語の意味を説明・補足するテロップは、視聴者の便宜に資するものだ。またその意味でのテロップは昔からあった。
だが現在のテレビで特徴的なのは、バラエティ番組のテロップだ。画面の上下左右に出演者の名や見どころなどのテロップが出っ放しということも珍しくない。大げさではなく、画面の半分くらいがテロップに占められているようなときもある。
では、なぜバラエティ番組でテロップがここまで多くなっているのか? ワイプと同様、こちらも1990年代がひとつの分岐点だったと言える。
典型的だったのは、「めちゃ×2イケてるッ!」(フジテレビ系、1996年放送開始)のテロップだろう。
ここで駆使されたのが、ナインティナインなど出演者の言ったワードをそのまま画面に出すテロップ、つまり「なぞるテロップ」である。この場合のテロップは説明のためではない。テロップを出すタイミング、その際の大げさな効果音、さらに文字のフォントや色合いによって出演者の言葉を強調し、笑いを増幅させるためのものである。
さらには、「!」「?」のような記号のテロップも同様だ。誰かが面白いことや意味不明なことを言ったとき、絶妙のタイミングで効果音とともにこれらの記号を画面に出す。お笑いで言えば、ボケに対するツッコミの役割を果たすわけである。
しかし、いまやこうしたテロップ演出を「過剰」と受け取る視聴者もいることを先ほどあげた投稿は物語っている。
■90年代の演出をいまだに使う
少し性質は違うが、「CMまたぎ」についても不満の声を聞くことがある。CMに入る直前、クイズの正解やトークのオチをピーという音やテロップで隠して視聴者を焦らす演出である。
CM中にチャンネルを変えさせないようにする対策として、これも1990年代くらいから一般的になった印象だ。
そう考えると、ワイプやテロップもそうだが、1990年代を境に一連の演出手法が定番化していったのがわかる。だがそれから数十年という時間が経過し、そうした演出へのフラストレーションが顕在化してきた。
■テレビ番組をめぐる主導権の交代
背景には、テレビ番組をめぐる主導権の交代があるだろう。
まだ家庭用ビデオデッキもなかった時代、テレビ番組はリアルタイムで見るしかなかった。その場合、視聴者は受け身の立場。放送時間に合わせてテレビの前にいなければならない。主導権はテレビの側にあった。
だがいまやテレビ番組は録画したり、後からTVerやサブスクなどで見たりできるものになっている。むろんスポーツのように生中継に限るような場合もあるが、大きく主導権が移り、視聴者が自由に見る時間を選択できる時代になった。
その結果、テレビを見る際に不自由さを感じさせるものに対し、視聴者はますます敏感になった。その象徴が、ワイプでありテロップであり、はたまたCMまたぎなのではなかろうか。
些末なことに思えるかもしれないが、そこには意外にいまのテレビが抱える本質的な問題、時代とのずれが現れているように思う。
----------
太田 省一(おおた・しょういち)
社会学者
1960年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビと戦後日本、お笑い、アイドルなど、メディアと社会・文化の関係をテーマに執筆活動を展開。著書に『社会は笑う』『ニッポン男性アイドル史』(以上、青弓社ライブラリー)、『紅白歌合戦と日本人』(筑摩選書)、『SMAPと平成ニッポン』(光文社新書)、『芸人最強社会ニッポン』(朝日新書)、『攻めてるテレ東、愛されるテレ東』(東京大学出版会)、『すべてはタモリ、たけし、さんまから始まった』(ちくま新書)、『21世紀 テレ東番組 ベスト100』(星海社新書)などがある。
----------
(社会学者 太田 省一)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
