太りにくい体を手に入れるにはどうすれば良いか。生活習慣病の専門医・青木厚さんは「現代人の体は、常に栄養が入り続けることで本来の代謝機能が働きにくくなっている。
一定の空腹時間を設けることで、脂肪燃焼や抗炎症作用を担う“ケトン体代謝”が活性化する」という――。(第4回)
※本稿は、青木厚『「空腹」は最高の健康習慣』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■空腹が生む究極の脂肪燃焼スイッチ
オートファジーと並行して理解しておいていただきたい体のシステムがあります。それは、メタボリック・スイッチです。
近年、『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』という世界的に権威ある専門誌にも「空腹の効果」に関する論文Effects of Intermittent Fasting on Health, Aging, and Disease(間欠的な断食が健康、老化、病気に及ぼす影響)が掲載されるなどして、大変話題になりました。
その他数多くの論文が、「空腹」は代謝、循環、神経、精神などに対してさまざまなメリットをもたらすことを示しています。
メタボリック・スイッチもその一つですが、私はメタボリック・スイッチについての知識や理解も、多くの人に是非共有していただくべきだと考えています。メタボリック・スイッチとは、体が糖から脂肪へとエネルギー源を切り替える代謝の転換点のことを指します。
断食、絶食や糖質制限などによって体内のブドウ糖が欠乏すると起こります。それ以後は、脂肪を燃焼させることで生まれるケトン体を主なエネルギー源として利用するようになるのです。これを「ケトン体代謝」といいます。この代謝の切り替えは、人類が飢餓に耐えるために進化の過程で獲得した重要な生存戦略だと言えます。

■16時間空腹で体が若返る理由
つまり、「16時間断食」のように数時間以上の空腹の時間ができると、メタボリック・スイッチがオンになり、体の中で「ブドウ糖代謝」から「ケトン体代謝」にシステムが切り替わるということなのです。
なお、前述の論文Effects of Intermittent Fasting on Health, Aging, and Diseaseには、上記のような図が掲載されています。体の酸化作用を抑制し、老化を防ぐ効果もある「ケトン体代謝」「1日3食」しっかり食べているときは、細胞にとってはとても平和な状態です。
このようなとき、細胞はまじめには働きますが、必死に頑張る必要はありません。この状態では人の体は「ブドウ糖代謝」を行なっています。取り入れた食物から作ったブドウ糖をエネルギーに変えればいいので、手間いらずの単純作業でエネルギーを確保できています。エネルギーの代謝の過程では、エネルギー源からアデノシン三リン酸(ATP)、すなわち体内で必要なエネルギーを供給する分子が生成されます。
■「断食」で疲れ知らずの体に
ブドウ糖代謝では、ブドウ糖代謝から解糖系・クエン酸回路・電子伝達系の3つの代謝経路を利用して、ブドウ糖1分子からアデノシン三リン酸という物質が38分子も生まれます。かなり効率的なエネルギー転換だといえます。ところが、「16時間断食」のようにかなりの空腹時間が作られたことによって、ブドウ糖がなくなると、体は飢餓状態に対する危機を感じ始めます。
すると、体内で、「ケトン体代謝」が始まるのです。「ケトン体」とは何かというと、「アセト酢酸」「β-ヒドロキシ酪酸」「アセトン」など、脂肪酸をもとにして生成された代替エネルギー源です。
最後に何かを食べてから12時間ぐらい経過すると、血液や肝臓に蓄えられたブドウ糖は完全に消費されてなくなってしまいます。
そうなってしまうと細胞は、ブドウ糖の代わりに中性脂肪や筋肉のタンパク質をケトン体に替えて、代謝のエネルギー源として使っていくのです。このメタボリック・スイッチの効用も数多くあります。
①脳機能の向上:ケトン体は脳の神経細胞を保護し、記憶力や認知機能を高めるBDNF(脳由来神経栄養因子)を増加させます。

②エネルギー効率の向上:脂肪は糖よりも効率よくエネルギーを供給でき、長時間の活動に適しています。

③免疫機能の強化:ケトン体には抗炎症作用があり、感染症リスクを低下させる可能性があります。
■血液も肌もきれいになる老化ストップ法
つまり、メタボリック・スイッチが入るということは、「満腹」の時代の今、体にとってはとても望ましいことと言えるようです。ダイエットの経験がある方はおわかりだと思いますが、中性脂肪が代替エネルギー源として使われるということは、すなわち「脂肪が落ちていく」ということです。
まさにそう考えていただいてよく、ケトン体代謝が始まると、中性脂肪やコレステロールが使われて、その数値は改善します。筋肉内のタンパク質も落ちてしまうのはちょっと問題(この問題については後述します)なのですが、それ以外では、ダイエットとしても健康法としてもいいことずくめなのです。
ケトン体代謝が行なわれることによって、古くなった細胞成分が分解されて、抗酸化作用が発揮され、活性酸素が減少します。この流れは、体の酸化を改善するので、老化を抑制します。
傷ついた細胞のDNAが修復されて、病気の予防力も強化されていくのです。
メタボリック・スイッチがオンになって体内に起きる現象をまとめておきます。
◎血液…血糖、インスリン、総コレステロール、炎症マーカー、酸化ストレスマーカーの低下

◎心臓…心拍数の減少、血圧の低下

◎肝臓…インスリン抵抗性の改善

◎脂肪組織…脂肪の減少、体重の減少

◎脳…副交感神経が優位になる、集中力の増加、認知機能の改善

◎全身で炎症反応の減少、皮膚のアンチエイジング、アトピー性皮膚炎の改善

◎腸内環境の改善
■食べない健康法の盲点と正しい防衛策
体にとってありがたいことばかりではないでしょうか。「16時間断食」によって、まとまった空腹時間を作れば、体のシステムはそれに自動的に反応します。オートファジーの働きが呼び覚まされ、メタボリック・スイッチがオンになり、ブドウ糖代謝がケトン体代謝に切り替わります。
細胞内に余剰的に蓄えられていた脂肪やタンパク質が消費されて、細胞がリフレッシュされるのです。「16時間断食」は、これまでの食べ過ぎの習慣が体に与えてきたダメージをリセットし、体を細胞レベルから、内側からよみがえらせる素晴らしい健康法だと思います。
ここまで述べてきたように、いいことずくめの「16時間断食」なのですが、一つだけ注意してほしいことがあります。それは、ケトン体代謝が行なわれることによって、筋肉の成分であるタンパク質も消費してしまうということです。私たちの体は、外から食物が入ってこなくなると、脂肪だけではなく、筋肉も燃やしてエネルギーに変えようとするからです。
■16時間断食で太る人の共通点
筋肉は、運動性を支えていますから、必要量よりも少ないことは人体にとってはリスクになります。筋肉の減少は、基礎代謝の減少に直結するので、ダイエットをしている人にとってはかえって太りやすくなるという、大きなダメージとなります。

ですから、特別な筋トレでなくてよいので、生活の中に筋肉減少防止のための軽いトレーニングを取り入れて、「16時間断食」と並行して行なっていただければより安全です。私が行なっているのは、「朝、腕立て伏せと腹筋をそれぞれやり、しんどくなったらやめる」というものです。
3回とか5回とか、それぐらいでもいいので、やっていると効果はまちがいなく出てきます。階段の上り下りなども、立派なトレーニングになります。また、張り切ってやりすぎると、かえって体内に活性酸素を発生させることにつながりますから、本当に無理のない範囲でやることを心がけてください。

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青木 厚(あおき・あつし)

医学博士

あおき内科さいたま糖尿病クリニック院長。自治医科大学附属さいたま医療センター内分泌代謝科などを経て、2015年、青木内科・リハビリテーション科(2019年に現名称に)を開設。糖尿病、高血圧、脂質異常症など生活習慣病が専門。著書『「空腹」こそ最強のクスリ』(アスコム)がある。

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(医学博士 青木 厚)
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