子育てしながら夫婦で一生懸命働いても手取りは減る一方。経済評論家の頼藤太希さんは「年収1200万円子育て世帯の手取り年収は26年で106万円減った。
会社員は3つの方法を駆使して手取りを増やす努力をしたほうがいい」という――。
■子育て世帯の手取り収入は減り続けている
2023年2月に「高年収層『子育て罰』のリアル」という記事を執筆しました。その後、2024年10月に「児童手当」の所得制限が撤廃、2026年4月に「高等学校等就学支援金制度」の所得制限が撤廃となりました。
子育て世帯の所得制限は順次撤廃しているものの、いまだ所得制限の影響が大きい制度も残っています。例えば、「高額療養費制度」です。この制度は高年収層ほど恩恵が受けられない制度となっています。
年収500万円世帯(70歳未満)であれば「区分ウ」となり、自己負担限度額は8万100円+(総医療費-26万7000円)×1%、となります。月の医療費が100万円だった場合の自己負担限度額は8万7430円です。
年収1200万円世帯(70歳未満)であれば「区分イ」となり、自己負担限度額は16万7400円+(総医療費-55万8000円)×1%、となります。月の医療費が100万円だった場合の自己負担限度額は17万1820円です。
しかも高額療養費制度は、2026年8月・2027年8月の2段階で改悪が予定されています。詳しくはこちらの記事でご確認ください。

医療費が最大で月約10万円の負担増…今年8月と来年8月の2段階で進む「高額療養費」改悪で要注意の人
これらは高年収で手取りが多いのだから、その分生活費、教育費、医療費に回せるだろうということで設計されている(いた)のでしょう。
しかし、年収は高いといっても、2000年以降、子育て世帯の「手取り」は減り続けている現実があります。手取り計算のオタクである筆者が、過去を遡って細かく計算した結果をお見せします。
■年収と手取りの違いをおさらい
「年収」は1年間に勤め先から支払われた金額の総額です。
年収からは、税金(所得税・住民税)と社会保険料(健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・雇用保険料)が差し引かれます。介護保険料は40歳以上になると差し引かれます。そうして天引きされた残りの金額が、実際に受け取れる「手取り」の金額です。
2026年現在、40歳以上で専業主婦の妻と15歳以下の子供が2人いる会社員の場合、年収1200万円の手取りは846万3101円、手取りの割合は70.5%です。年収から30%近く差し引かれた金額が手取りになります。
■年収1200万円子育て世帯の手取り推移
2000年以降の年収1200万円子育て世帯の手取りの推移を見てみましょう。
前提条件は次のとおりです。
・年収1200万円(賞与は年2回・各2カ月分)

・40歳以上で専業主婦の妻と15歳以下の子供が2人いる会社員

・協会けんぽ加入
ひと目でわかるのが、手取りはズルズルと減り続けていること。

2000年から2026年までの26年間で手取りは106万円減っていて、子育てしづらい環境が進んでいることが伺えます。
2000年時点では、年収1200万円子育て世帯の手取りは952万円。差し引かれる税金・社会保険料が248万円だったのに対し、2026年の手取りは846万円ですから、354万円も差し引かれています。
手取りが大きく下がる要因は税制改正ですが、この26年間で次のような改正がありました。
●2003年:賞与から引かれる社会保険料アップ
1994年度から「特別保険料」という名目で賞与から社会保険料が引かれはじめました。しかし、当時の社会保険料の徴収率は一律1%で、労使折半を考慮すると給与所得者は0.5%。給与よりもずっと少ない割合なので、当時は給与を減らして賞与を増やすという手法が横行していました。
これが問題視され、2003年度に特別保険料が廃止。賞与からも社会保険料を大幅に徴収するシステムへと変わりました。
●2004年・2005年:配偶者特別控除の上乗せ廃止
配偶者を扶養している人が受けられる控除には、配偶者控除と配偶者特別控除があります。当時は、配偶者控除38万円に上乗せする形で、最高38万円の配偶者特別控除の上乗せがありました。配偶者特別控除の上乗せが廃止されたことで、専業主婦(夫)やパートタイマーの配偶者がいる世帯の手取りは大きく減ることになりました。

●2006年・2007年:定率減税の縮小・廃止
所得税は2006年分まで所得税額の20%を控除(25万円を上限)、住民税は2006年度まで住民税額の10%を控除(12万5千円を上限)できる「定率減税」の仕組みがありました。しかし、所得税は2007年分、住民税は2007年度に控除できる割合が半減。所得税は2008年分以降、住民税は2008年度以降、定率減税が廃止となりました。
これにより、手取りは大きく減ることになりました。
■年少扶養控除の廃止で子育て世帯に大打撃
●2011年・2012年:年少扶養控除の廃止
年少扶養控除では、15歳以下の子供を扶養していることで、子供1人あたり所得税38万円、住民税33万円の控除を受けることができました。子供が2人いる場合は所得税76万円・住民税66万円の控除となります。
年少扶養控除廃止の代わりに「子ども手当(現:児童手当)」が創設されましたが、2012年から所得制限が付されることになりました。
年少扶養控除が廃止されたことで、子育て世帯の手取りは大きく減ることになりました。
●2017年・2018年:高年収層の給与所得控除が引き下げに
高年収層の給与所得控除が引き下げとなり、年収1200万円の給与所得控除は230万円→220万円となりました。所得税は2017年分から適用、住民税は2017年度から適用です。
●2020年・2021年:基礎控除引き上げ、高年収層の給与所得控除が引き下げ、所得金額調整控除の創設、標準報酬月額の上限引き上げ
所得税の基礎控除が38万円→48万円、住民税の基礎控除が33万円→43万円に引き上げになりました。しかし、高年収層の給与所得控除がまたもや引き下げとなり、年収1200万円の給与所得控除は220万円から195万円となりました。

また、所得金額調整控除が創設されました。子供や介護者がいる一部世帯と、年金を受給しながら給与収入のある世帯の税負担を軽減させる控除です。
子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除額は以下の式で算出します。
{給与等の収入金額(1000万円超の場合は1000万円)-850万円}×10%=控除額
1200万円の子育て世帯の場合、上限である15万円が控除できます。
所得税は2020年分から適用、住民税は2020年度から適用です。
2020年は、厚生年金保険における標準報酬月額の上限等級(31級・62万円)に1等級が追加され上限も引き上げられています。
年収1200万円(賞与年2回・各2カ月分)の場合、2020年9月分から標準報酬月額62万円→65万円で計算した厚生年金保険料を納めることになりました。
●2024年:定額減税
2024年は定額減税によって1人あたり所得税・住民税合わせて4万円が減税されたからです。今回の例では、4人家族で16万円の減税が受けられたので、その分手取りが増えています。
●2025年・2026年:基礎控除(所得税のみ)引き上げ
納税者本人の合計所得金額が2350万円以下の場合、所得税算定における基礎控除は、2025年に48万円→58万円(+10万円)、2026年に58万円→62万円(+4万円)増額となりました。
■年々増える社会保険料も手取り減の要因に
社会保険料率アップも手取り減の要因になっています。
2000年以降、健康保険料率、介護保険料率、厚生年金保険料率いずれも増加しています。
2026年4月分からは子ども・子育て支援金の引き去りが始まりました。支援金率は0.23%で、会社と折半するため、個人の負担率は0.115%です。
社会保険はもしもの時には役に立ちますが、手取りがその分少なくなるので、普段の生活はしづらくなっていきます。年収額面が増えなければ、手取りは確実に減っていきます。
■会社員が手取りを増やす3つの方法
とはいえ、ただ待っていても、手取りが少ない実態は変わらないので、会社員が税金を取り戻してお金を増やす方法を3つ紹介します。
①税制優遇を活用しながら資産形成
税制優遇であるNISAとiDeCoはフル活用したいところです。
NISAは投資の運用益(値上がり益・配当金・分配金)にかかる税金が非課税にできる制度です。つみたて投資枠・成長投資枠という2つの投資枠を使って、一生涯にわたって非課税の投資ができます。
iDeCoは自分で出した掛金を運用して、その成果を原則60歳以降に受け取る制度。iDeCoの掛金は全額が「小規模企業共済等掛金控除」という所得控除の対象となり、所得税や住民税を減らせます。そのうえ、NISAと同じく運用益が非課税です。
2026年12月から、掛金上限額の引き上げが予定されています。

会社員は月2万円・2万3000円→月6万2000円、公務員は月2万円→月5万4000円・月5万5000円、自営業者・フリーランス・学生は月6万8000円→月7万5000円に引き上げられます。
上記前提条件の年収1200万円の会社員が、iDeCoで月6万2000円を積み立てた場合(年74万4000円)、所得税(復興特別所得税含む)と住民税を合わせて年24万5000円の節税ができます。
合わせて、加入年齢の引き上げも予定されています。
現行制度では、「65歳未満」まで加入できるのが会社員・公務員といった厚生年金の加入者と、国民年金保険料の納付期間を延長して年金額を増やすために60歳以降も国民年金に加入している「任意加入被保険者」です。それ以外は60歳未満までとなっています。
2026年12月からは、60歳以上70歳未満でiDeCoに加入できなかった方のうち、「iDeCoの加入者・運用指図者だった」または「私的年金の財産をiDeCoに移換できる」方は、70歳未満まで加入できるようになります。ただし、老齢基礎年金またはiDeCoの老齢給付金を受取っていると加入はできません。
②給与以外の収入を増やす
副業収入、不動産収入、NISAの金融所得が増えても、社会保険料の負担は一切増えません。その分手取りが増えることになります。たとえば、NISAで投資した高配当株から配当金を得られた場合、税金は一切かからず、社会保険料の負担も増えないので、手取りは増え、生活費に充てやすくなります。
③世帯単位で効率よく手取りを増やす
この国は、累進課税制度を課しているため、高年収ほど税負担が重くなる仕組みなので、二人以上世帯で世帯年収1200万円の場合、夫婦どちらかが年収1200万円近く稼ぐよりも、共働きで「400万円&800万円」「500万円&700万円」「600万円&600万円」などと稼いだ方が手取りは増えます。子育てとのバランスがありますが、夫婦で世帯年収を増やすことを考えてみましょう。

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頼藤 太希(よりふじ・たいき)

経済評論家・マネーコンサルタント

Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。早稲田大学オープンカレッジ講師。ファイナンシャルプランナー三田会代表。日経CNBCコメンテーター。慶應義塾大学経済学部卒業後、アフラックにて資産運用リスク管理業務に6年間従事。2015年に現会社を創業し現職へ。日本テレビ「カズレーザーと学ぶ。」、フジテレビ「サン!シャイン」、BSテレ東「NIKKEI NEWS NEXT」などテレビ・ラジオ出演多数。ニュースメディア「Mocha」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」運営。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)など書籍110冊超、累計200万部。日本年金学会会員。ファイナンシャルプランナー(CFP®)。1級FP技能士。日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)。宅地建物取引士。日本アクチュアリー会研究会員。X(@yorifujitaiki)

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(経済評論家・マネーコンサルタント 頼藤 太希)
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