試験や本番前にパフォーマンスを上げるには何を意識するといいか。スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長の星友啓さんは「試験前に鮮明に成功した姿を思い描くと、脳は『あ、もう目標は達成されたんだ』と錯覚し、満足してしまう。
そうではなく脳を『夢を見るモード』から『問題解決モード』へと切り替えることで、実行力が高まる」という――。
※本稿は、星友啓『スタンフォード大学オンライン高校の校長が教える 世界の研究に基づいた 勉強法大全』(KADOKAWA)を再編集したものです。
■「合格した自分」を想像してはいけない
「成功した姿をありありとイメージすれば、夢は叶う」。よく聞くテクニックですが、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の有名な研究によると、これは半分間違いで、時には危険にすらなりえます。
その実験ではまず学生を、試験前に「A判定を取って大喜びしている姿(結果)」をイメージするグループと、「図書館でテキストを開き、問題を解いている姿(プロセス)」をイメージするグループ、何もイメージせずにそのまま試験を受けるグループの3つに分けました。
試験結果は、「結果」をイメージしたグループは、何もしなかったグループよりも勉強時間が減り、実際の成績も下がってしまったのです。一方、結果までの過程をイメージした「プロセス」グループは、勉強時間が増え、成績も向上しました。
脳は現実と想像の区別が苦手です。鮮明に成功した姿(ゴールテープを切る瞬間など)を思い描くと、脳は「あ、もう目標は達成されたんだ」と錯覚し、満足してしまいます。その結果、血圧が下がり、リラックスしてしまい、目標達成に必要なエネルギー(やる気)が湧かなくなってしまうと解釈されています。
■成功までの「道のり」と「障害への対処」を
プロセスをイメージするのにとても効果的なのが「WOOPの法則」です。これは、「願い(Wish)」と「最高の結果(Outcome)」をイメージした後に、必ず「現実の障害(Obstacle)」を直視し、それに対する「計画(Plan)」をセットでイメージする手法です。

成功までの「道のり」と「障害への対処」を脳内でシミュレーションすることで、脳は「夢を見るモード」から「問題解決モード」へと切り替わり、実行力が高まります。
実践ステップ
① W(Wish=願い):本番で達成したい目標を特定する。(例:試験で実力を出し切る)
② O(Outcome=結果):それが叶った時の最高の気分を一瞬だけイメージして、モチベーションを高める。
③ O(Obstacle=障害):その成功を阻むトラブルをリアルに想像する。「難問が出てパニックになる」「隣の人の貧乏ゆすりがうるさい」「時間が足りなくなる」。
④ P(Plan=計画):「もし(If)その障害が起きたら、その時は(Then)こうする」という対処法を決めておく。「もしパニックになったら、一度ペンを置いて深呼吸する」「もし貧乏ゆすりが聞こえたら、耳栓をして問題用紙に没頭する」。
アドバイス

学習目標や計画を立てたら、定期的に振り返りをしましょう。

その時に、WOOPを使うのが効果的です。
■緊張する場面で「落ち着こう」としてはいけない
見知らぬ大勢の観衆。スポットライトが照らすステージ。これからあなたは、大観衆の前でカラオケを歌います。
心臓はバクバク、喉はカラカラ。緊張感で逃げ出したい。
そんな時はだれしも必死に平常心を取り戻そうとするはずです。しかし、そんなごく当たり前の気持ちの持っていき方が、あなたのパフォーマンスを劇的に下げてしまっているかもしれないのです。
ハーバード大学の実験で、参加者にプレッシャーカラオケのお題を出した後、それぞれ自分のパフォーマンスの前に「私は不安だ」「私は落ち着いている」「私はワクワクしている」など異なる言葉をつぶやいてもらいました。
「落ち着いている」グループは、心拍数は下がらず、音程を外し、声が震えるパフォーマンスに終わりました。「ワクワク」グループは、客観的な歌唱スコアが平均して高く、聴衆からも「自信に満ちている」「説得力がある」と評価されました。
■感情のラベルを変える
不安な時に、いきなりリラックス状態になろうと、無理に心臓のバクバクを忘れようとすると、脳のリソースが「感情の抑え込み」に浪費され、肝心のパフォーマンスに使えなくなってしまうのです。
対して、不安を「興奮」と言い換えても、「心臓がバクバクしている」という事実を否定する必要はありません。それでいて、もともとの「不安」という感情の再評価をすることができ、「これは体が頑張ろうとしているサインだ」と新しい感情のラベルに張り替えてくれるのです。
そうすると、脳はスムーズに「脅威モード」から「機会モード」へとシフトし、高まったエネルギーをそのままパフォーマンスに活かすことができるのです。
実践ステップ
① 心拍上昇を歓迎する:本番前、心臓が高鳴り始めたら「やばい、緊張してきた」と思うのをやめ、「お、エンジンがかかってきた。
体がエネルギーを送ってくれている」と歓迎する。
② 声に出してラベリングする:「ワクワクする」とつぶやく。脳は自分の内面よりも、自分の発した言葉(外面)を事実として認識する。
③ 「機会」にフォーカスする:「失敗したらどうしよう」ではなく、「うまくいったら、こんなに良いことがある」というポジティブに意識を向ける。
アドバイス

緊張しそうな場面を想像して、ドキドキをワクワクに読みかえるリアプレイザルの練習をしておくと、本番での効果がアップします。
■ムカデは足の動かし方を考えると歩けなくなる
ある日、カエルがムカデに聞きました。
「100本もの足をどうやって動かしているの? どの足の次にどの足を動かすの?」
ムカデは考え込みました。
「ええと、右の23番目の次に左の……」
考え始めた途端、ムカデは足が絡まって動けなくなってしまいました。
この逸話のイメージは、人間が本番で失敗する「チョーキング」のメカニズムをうまく表しています。
スポーツや楽器演奏、計算といった熟練したスキルは、反復練習によって小脳や大脳基底核といった「無意識の脳」に記憶されています。普段は「自動パイロット」でスムーズに動いているわけです。
しかし、プレッシャーがかかると、私たちは失敗を恐れて「絶対にミスしちゃいけない」と考え、意識的に動作を監視し、コントロールしようとしてしまいます。

すると、処理が前頭前皮質(意識的な脳)に戻ってしまい、初心者のようなたどたどしい動きになってしまうのです。ムカデが足の動かし方を考えたせいで歩けなくなったのと同じです。このままでは、テスト本番で実力を100%出し切れません。
■外側のものを意識する
本番であがらず実力を発揮するコツは、意識を「内側(自分の体の動きやフォーム)」から「外側(結果やターゲット)」に向けることです。
これを「外的焦点化」と言います。
また、本番直前に「左手でボールをギュッと握る」ことも有効です。左手を使うことで右脳(空間的・直感的な処理)を活性化させ、あれこれ考えすぎてしまう左脳(言語的・論理的な処理)の活動を相対的に抑える効果が期待できるとされています。
実践ステップ
① 意識を外に向ける:

● スポーツなら、「肘の角度(内側)」ではなく、「ボールの軌道(外側)」や「リング(的)」を見る。

● 演奏なら、「指の動き(内側)」ではなく、「響いている音色(外側)」に耳を澄ませる。
② 左手の拳を握る:本番直前に、左手でボールやハンカチなどを30秒ほどギュッと握る。これにより、考えすぎ(左脳の暴走)を抑制し、感覚的な右脳モードへスイッチ。
アドバイス

単純作業やルーティンワークなら、頭の中で好きな歌を歌いながら行うことで、ワーキングメモリを適度に埋め、余計な思考が入り込む隙間をなくしてしまうのも有効です。


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星 友啓(ほし・ともひろ)

スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長

1977年生まれ。2001年東京大学卒業。2008年Stanford大学修了後、同大学哲学部講師として論理学で教鞭をとり、 2016年よりスタンフォード・オンライン・ハイスクールの校長に就任。日本では慶應義塾大学特別招聘教授、横浜市立大学特任教授を務めている。著書に『スタンフォード式 生き抜く力』『脳科学が明かした!結果が出る最強の勉強法』などがある。

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(スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長 星 友啓)
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