■何度も話題になる日本式お弁当問題
海外在住者による「子どもが日本式のお弁当でいじめられた」というポストが、またもやSNSで盛り上がった。この話題は過去から現在に至るまで、繰り返し、繰り返し、何度も俎上に載せられてきたもの。白いご飯に色とりどりのおかずを何種類も詰めた、見た目にきれいで栄養も満点のお弁当は、いわば日本の文化でさえある。それがなぜ海外(今回は北米)でいじめの対象になるのか。
元のポストに付けられた大量のコメントは、居住国によって意見が分かれていた。日本在住と思われる人からは、「おいしそうなのになぜ?」「うらやましいのでは?」「いじめられるなんて、かわいそう」「お母さん、こんなにがんばって作っているのに」といったものが多い。ただし日本在住者であっても親が他国からの移住者である人からは「子どもの頃、親の祖国式のお弁当が恥ずかしかった」とのコメントがあった。
海外在住者からは「わが家も子どもに頼まれて現地式に変えました」が多く見られたが、居住国や同じ国の中であっても居住エリアによっては「日本式で特に問題ない」とするものも見受けられた。
そんな中、もっとも強い反応を見せたのは海外で育った日本人や日系人で、「今すぐ現地式ランチに変えてあげて!」と強い語調で訴えるコメントが少なからずあった。自身の子ども時代の苦い体験から出たものだ。
■初めて見る食べ物やにおいへの抵抗
日本人は、日本式のお弁当に入っている全ての食材の外観とにおいに慣れ切っている。ところが他国の人にはすべて「初めて見るもの」「初めて嗅ぐにおい」となる。
近年、海苔は海外での寿司の浸透や、味付け海苔がスナックとして売られていることなどもあり、昔ほど「ギョッ!」という反応を引き出すことは少ない。それでも「真っ黒」な食材に抵抗を示す人はやはりいる。
醤油のにおい、魚介類のにおいが苦手な人もいる。お弁当に魚そのものは入っていなくとも、ふりかけのにおいが意外と強く感じられ、形状も相まって「魚のエサ?」と言われたケースもある。日本人には思いもつかないことだ。
日本式のお弁当に比べると、欧米のランチはにおいを発しないものが多い。そのため、余計ににおいが強く感じられるのかもしれない。
先のSNSへのコメントの中にも「海外では本当に映画に出てくるような、ポテチとリンゴだけ?」という質問があった。確かに北米では小袋に入ったスナックやリンゴはランチによく添えられるが、メインはサンドイッチが多い。
■「PB&Jサンドイッチ」が大定番
私が住むアメリカでは、日本の食パンより小さな四角いパンにハムとチーズだけ、もしくはピーナツバター(PB)とジェリー(J)を挟んだ「PB&Jサンドイッチ」と呼ばれるものをスクールランチにすることが多い。
ジェリーとは果肉の少ないジャムで、PB&Jサンドイッチ用にはグレープジェリーが好まれる。一見、質素に見えるが、ピーナツバターはタンパク質を豊富に含んでおり、ジェリーの糖分と合相まって育ち盛りの子どもには有効であり、アメリカの大定番だ。
アメリカの子どもが大好きな既製品のランチもある。商品名をランチャブルズ(Lunchables)といい、小さめのランチボックスくらいの箱にクラッカー、ハム、チーズが入ったもの。子どもは箱を開けて自分でクラッカー・サンドイッチを作って食べる。
どの子もランチャブルズが、とにかく好きだ。子どもを連れてスーパーに行くと必ずねだられる。親は「なぜ、これがそんなに好きなの?」と不思議に思いながらも「ま、たまにはいいけど」と買う。実のところ、忙しい朝に日本式のお弁当のように手間と時間のかかるランチを作る家庭はなく、ランチャブルズは親にとっては「自分で作る手間が省けてありがたい」ものでもある。
■給食にはベジタリアンもハラルも
ただ、実際のところはアメリカも持参のランチより学校給食を食べる子どものほうが多い。メニューは州や行政区によって異なるが、私が住むニューヨーク市では朝食(シリアルなど簡単なもの)と昼食を無償で出している。朝食は家庭で食べてから登校する生徒もいるし、昼食もアレルギーなど特に理由がなくとも家庭からお弁当を持参してもよい。
学校での給食ランチのメニューは日替わりで、ベイクド・トルティーヤ(メキシコ)、ベジ・ジンジャー・醤油ライス(アジア)、カリビアンスタイル・ビーフパテ(カリブ海諸島)、ヒヨコ豆のシャワルマ(中東)、マカロニ&チーズ(アメリカ)、ピザ(イタリアではなく、アメリカを代表するメニューとして)など、多様性の都市ニューヨークを表している。これらのメインメニューとは別に、PB&Jサンドイッチは常に置かれている。メインメニューだけでは食べ足りない生徒、メインメニューが口に合わなくて食べられない生徒のためだ。ピーナツアレルギーの子どものために、代替のヒマワリのタネのバターを使ったバージョンもある。
給食ランチにはハラル、ベジタリアンのオプションもある。ハラルは特に中東風メニューというわけではなく、先に挙げたメニューとほぼ同じ。イスラム教徒は中東系だけでなく、アジア系、アフリカ系にも多く、ハラル=中東料理ではない。
なお、夏休みや冬休みに毎食を家庭で食べさせると食費がかさみ、低所得家庭には厳しいことから、近隣の学校や図書館などに出向いて無償の朝食とランチを受け取ることができる。その際、事前の登録やIDは不要で、18歳未満(に見えるなら、ということになる)なら誰でも受け取れる。
■「人種のサラダ」ニューヨークは特殊
ニューヨーク市は、アメリカの中でも特殊な都市だと言える。人口の3分の1が世界150カ国からの移民で、その移民からアメリカで生まれた二世も含めると、人口の半数が家庭では英語以外を話している。それぞれの家庭で料理も祖国のものがかなりの割合で食されている。
それでも小学生が日本式のお弁当を持参すれば、他の子どもの目には物めずらしく映る。中には多様性に慣れており――自分とは人種が異なる人、初めて見る料理や事象を「そういうものだ」と自然に受け入れ、かつ好奇心があり、お裾分けされれば喜ぶ子もいる。
以前、普段は給食を食べていた私の息子が急に「おにぎりを持っていきたい」と言ったのは、それを見越していたのかもしれない。「それなに?」と不思議がるクラスメートに息子がすすめると嫌がらずに食べ、「おいしい」と言ってくれたそうだ。なお、本来はアレルギー対策として食べ物のシェアは禁止されている。
■映画『ライスボーイ』の少年の苦悩
しかし、移民の少ない国や地域で同じようにことが運ぶだろうか。
日本人の子どもは、まずはアジア系の外見で極度に目立ってしまう。米国生まれの日系人であれば英語を話すが、移民であれば意思の疎通にすら苦労し、疎外感や孤独感に苛まれる。そこへクラスの誰も見たことのない日本式お弁当を持参するとなれば、どうなるか。
今、日本で劇場公開中の映画『ライスボーイ』(監督・脚本:アンソニー・シム)は、まさにそうした光景を描いている。母親とともに韓国からカナダに移民した幼い少年・ドンヒョンは、白人のみの学校でお弁当のキンパをからかわれ、「ライスボーイ」と呼ばれていじめられる。母の手作りのお弁当をこっそりとトイレのゴミ箱に捨てるドンヒョン。
多くの欧米人にとって東アジア人(日本、韓国、中国)の区別はない。映画のこのシーンに、米国生まれの日系人で「カルチャー×アイデンティティ×社会」をテーマに執筆するジャーナリストの竹田ダニエル氏が深い共感を寄せているのも、それが理由だ。
■子どもの世界は同調圧力が強い
大人が見過ごしがちなこととして、学校というシステムの中で生きる子どもが、大人以上の同調圧力に晒されているという事実がある。ゆえに、他の子と「違う」ことが時には非常に苦しい。
しかも短期滞在者でない限り、子どもはその国でこれからの一生を過ごすことになり、その国に同化していかなければならない。親は、子どもは睡眠時間を除けば家庭より学校で長い時間を過ごしていること、そこでの孤立がどれほどつらいかを意識しておく必要がある。
他方、親には祖国の文化を子どもに継承したい気持ちがある。大人になってから他国に移り住んだ親にも文化の相違からくるフラストレーションがある。自身の文化への愛着とプライドもある。加えて、子の祖父母が祖国にいれば、「子がばあば、じいじとコミュニケーションを取れるよう、祖国の文化を伝えたい」との思いもある。
しかし、親はその気持ちを抑えて、子どもに学校での状況と気持ちを聞き、本人がランチタイムを楽しめるお弁当を持たせるべきだろう。
つまり、家庭では食も含めて祖国の文化を継承させ、学校では現地のカルチャーを優先させることだといえる。
■大人が文化交流イベントを行うべき
一方でこうした移民のお弁当事情を描いた絵本はアメリカで何冊も出されており、学校側も「世界にはいろんなお弁当がある」ことを子どもたちに教える時間を作ればいいのではないかと私は思う。
また、お弁当に特化したものではないが、アメリカでは多くの学校で「国際文化デー」のようなイベントがあり、私の息子の学校でも外国出身の親や先生が、祖国のおやつを振る舞うブースを出す日があった。きれいなサリーをまとった科学の先生がインドの甘いデザート、イスラエル出身のお母さんがマッツォと呼ばれるクラッカーのようなパンにヌテラを塗ったものを出してくれたことを覚えている。私も毎年参加し、誰もが抵抗なく食べられるものを考え、エダマメやハッピーターンが大好評だった良い思い出がある。
近年、日本も急激に移民が増えており、学校の生徒たちが多様化している。しかし、欧米でアジアが一括りにされるように、多くの日本人にとっても日本以外のアジア諸国の文化の違い、欧米諸国の違い、アフリカ諸国の違い、中東諸国の違い……が浸透しているとはいえない。
学校や地域における子どもの多様化は、子どもたちがそれを直接的に学べる場となり得る。子どもたちの未来のためにも、大人が文化交流イベントを企画し、子どもも大人も楽しめる場を作ればいいのではないかと私は考える。
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堂本 かおる(どうもと・かおる)
ライター
大阪出身、ニューヨーク在住。CD情報誌の編集を経て1996年に渡米。ハーレムのパブリックリレーション会社インターン、学童保育所インストラクターを経てライターとなる。以後、ブラックカルチャー、移民/エスニックカルチャー、アメリカ社会事情全般について雑誌、新聞、ウェブに執筆。
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(ライター 堂本 かおる)

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