デキるリーダーはどんな話し方をしているのか。長崎大学准教授・スピーチコンサルタントの矢野香氏は「周囲から一目置かれる人は、他者と違う一人称を使っている。
この一人称なら、人から舐められることはないだろう」という――。
※本稿は、矢野香『いい人で終わらないリーダーは「決めてから話す」 信頼される話し方の本質』(大和書房)の一部を再編集したものです。
■ビジネスの場で名乗りたい「一人称」
日常的な場であなたの存在感を高めるやり方があります。それは自分のことをどう呼ぶかです。
あなたはふだん自分のことをどう呼んでいますか。日本語には自分自身の呼称(一人称)にもいろいろな言い方があります。「わたし」「おれ」「あたし」「ぼく」。大学生が「うち」と呼んでいるのを聞いたこともあります。「矢野が」など自分の名前で呼ぶ人もいるでしょう。
本書のテーマであるリーダーとしての信頼感を表現したいなら、「わたくし」と名乗ることをおすすめします。
その響きには重みがあります。特に自信が持てない、自己肯定感が低いと感じている人ほど、あえて「わたくし」と名乗ってみてください。

言葉は内面を映すだけでなく、内面をも形作ります。
たとえば、「わたくし」と言いながら、ドカドカと乱暴に歩くのはどこかちぐはぐです。「わたくし」と名乗ることで、自然と背筋が伸びます。歩き方や座り方、物の扱い方まで整えようとするでしょう。人は、使う言葉にふさわしい自分であろうとするのです。
あなたの振る舞いが変われば周囲の接し方も変わります。「わたくし」と名乗る人に、軽く馴れ馴れしい態度で接することはしにくいものです。
自分の呼び方もまた一種の「宣言」です。周囲に対して自分をどう扱ってほしいかを先に示していく戦略です。
■一人称を「わたくし」に変えた効果
気をつけたいのは、場面によって一人称を変えないことです。今日は「わたくし」、明日は「おれ」「あたし」、友達といる時は「ぼく」「うち」……。この揺れは印象の揺れにつながります。
10年後の自分をイメージし、少し背伸びをして「わたくし」と名乗るようにしましょう。
友人とのランチで食後の飲み物を尋ねられ、「わたくしはコーヒーで」と言うのは、最初は気恥ずかしいかもしれません。しかし言葉は習慣です。しばらく続ければ違和感はなくなります。
クライアントにも、役員になったのをきっかけに自分の呼称を「わたくし」に変えた女性がいます。男性ばかりの役員会で「わたくしどもの部署では……」などと言うと、場の空気が変わるそうです。声を荒らげたわけではない。主張を強めたわけでもない。しかし存在感が際立ち、強いインパクトを与えているようだとおっしゃっていました。自分をどう名乗るかで、その場での立ち位置が決まるのです。
「わたし」ではなく「わたくし」。たった一音の違いであなたの品格を一段引き上げる力があります。
言葉から人格を設計する、まさに「なりたい自分像」である「セルフ・パペット」の実践です。
■相手からどう呼ばれるのが好ましいか
自分自身を「わたくし」と呼ぶのに対して、相手からはどう呼ばれればよいでしょう。今、あなたは周囲の人からどのように呼ばれていますか。
名字で○○さん、下の名前で○○さん。「さん」ではなくて「ちゃん」。または呼び捨て。中にはニックネームで呼ばれているという人もいるでしょう。
以前、入社3年目の若手にもかかわらず、年上からも「社長」と呼ばれている方がいました。頼りがいがあり、世話好きな性格で、本人の人柄も伝わるニックネームでした。もともとは父親が社長だからというのが由来だそうです。
ニックネームで呼ばれている人は、親しみやすく話しかけやすい人である印象を残します。さらに「新入社員の頃こんなことをして、以来この名前がついた」などと語れるエピソードがあれば、それだけで立派な自己紹介になります。

外資系企業のようにファーストネームで呼び合う文化や、肩書きを外して「○○さん」に統一しようという会社が増えてきました。今はニックネームがないという方は、自分から「私のことは○○と呼んでください」とお願いするのもひとつの方法です。
■呼ばれ方を周囲に委ねてはいけない理由
呼ばれたい名前が決まったら、メールなどのサインやSNSの表記もそれで統一します。「名前(ニックネーム)」のように()書きで併記してもいいでしょう。サインに記すということは、相手に「この名前で呼んでいい」という許可を出していることになります。次第にその呼び方が浸透していくでしょう。
呼ばれ方もキャッチコピー同様に、自分のキャリアアップとともに変えていく必要があります。
ある企業のジェネラルマネージャーの肩書きがついている方が、後輩の前で同期の人に「○○ちゃん」と呼ばれて引きつった表情をしているのを目撃したことがありました。新人の頃なら微笑ましく受け取れたニックネームも、やがて肩書きがついてふさわしくなくなったり、もうその呼び方はやめてほしいと思ったりすることもあるでしょう。そんな時は異動の挨拶などのタイミングで「これからはこの呼び方でお願いします」と宣言しましょう。組織内の紹介プロフィールを変えてもらうのもひとつの方法です。
どう呼ばれるかはあなたの立場そのものです。

呼ばれ方を周囲に委ねてはいけません。
自分がどう見られたいのかを自ら定義し、先に提示するのです。受け身で誰かに決められるのではなく、自分自身で決めていきましょう。
■「舐められる人」の3つの悪習慣
なんとなくリーダーとしての品格が足りない人。仕事をきちんとこなし能力もあるのに、なぜか周囲から舐められてしまう人。そんな方に共通する残念なしぐさや口癖があります。ここでは代表的な3つをお伝えします。自分にも当てはまるものがないかチェックしてみてください。
謝り癖
何かあるとすぐ「すみません」「ごめんなさい」と言ってしまう謝り癖。実は、私にもこの口癖がありました。特に子どもが小さな頃は、職場から帰宅するときにまだ残っている仲間に対して「すみません、お先に失礼します」。保育園にお迎えにいったら子供に対して「遅くなってごめんね」と、いろんな場面で謝ってばかり。

気配りのつもりだったのかもしれませんが、無意識のうちにいつも頭を下げていました。謝りすぎは自分の価値まで下げてしまいます。謝り癖がついている方は、「すみません」を「ありがとう」という感謝の言葉に変えてみましょう。
たとえば、「すみません、お先に失礼します」は「お先に失礼します。いつもフォローしていただきありがとうございます」と言い換える。物を拾ってくれたり、エレベーターで扉を押さえてくれたりというちょっとした相手の親切にも「すみません」ではなく「ありがとうございます」で返す。感謝の言葉を自然に口にできる人を目指しましょう。
過剰敬語
ビジネスシーンでぶつかる難題のひとつが、敬語の使い方。中でも目立つのが「させていただく」の多用です。
本来「させていただく」は「させてもらう」の謙譲語。相手の許可が必要な場合に使う言葉です。なかなか時間を取れない相手が面会の機会を与えてくれた場合に「説明させていただきます」と言うのは適切です。しかし、相手からの問い合わせに対応する場合に「説明させていただきます」は過剰敬語といえます。「ご説明いたします」で十分です。
さらに、「詳細についてお話しさせていただこうと思います」というように、「させていただく」+「思います」を合わせて使ってしまうと、話の内容について自信あるようには聞こえません。へりくだりすぎて慇懃無礼になる場合もあります。丁寧であればあるほど良いというわけではないことを覚えておきましょう。
複数回のお辞儀
飲食店のお店のレジでときおり見かける光景。ご馳走してくださった相手に対して「ごちそうさまでした」「ありがとうございました」などと言いながら、何度も早いお辞儀を繰り返す方。お辞儀をするなら、心を込めて一度だけ。静かに、ゆっくりと深く頭を下げて、さっと上げる。何度も繰り返すより、1回の所作に誠意を込める方が凛とした印象を与えます。
■「理想の自分」を作り出すために
謝り癖、過剰敬語、複数回のお辞儀。この3つはセットになっていることも少なくありません。そんなに悪くないことにも反射的に「すみません」と言ってしまうと、自分の中で「私は迷惑をかけている」という前提が作られます。
その前提が自己暗示となり、複数回のお辞儀を生む。言葉も「~させていただきます」と過剰にへりくだっていく。こうして理想とかけ離れた自信がなさそうな弱々しい自己評価が出来上がってしまうのです。
まずは、「すみません」を「ありがとう」に言い換えてみましょう。自分は迷惑をかけている存在ではなく、支え合っている存在だと認識が変わります。すると必要以上にお辞儀をすることが減り、過剰敬語で自分を小さくすることも減ることでしょう。
言葉を変えると姿勢が変わる。姿勢が変わると自己評価が変わる。
悪い連鎖もあれば、良い連鎖もあります。どちらを回し始めるかは、あなた次第です。

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矢野 香(やの・かおり)

長崎大学准教授/スピーチコンサルタント

NHKで主にニュース報道番組を17年担当した後、現職。専門は心理学・コミュニケーション論。政治家、経営者やビジネスパーソンに信頼を勝ち取るコミュニケーションを伝授。著書に『世界のトップリーダーが話す1分前までに行っていること』(PHP研究所)、『最強リーダーの「話す力」』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。

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(長崎大学准教授/スピーチコンサルタント 矢野 香)
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