熱中症に負けない体をつくるにはどうすればいいのか。長年、熱中症研究を続けてきた東洋大学教授の加藤和則さんが数えきれないほどの試行錯誤の末にたどり着いたのは、意外と「身近な果物」に含まれる3つの成分だった――。

※本稿は、加藤和則『血管細胞を強くすれば熱中症は予防できる 熱中症やヒートショックに強い身体に変える3つの成分』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■100種類以上の成分から見つけた「希望の光」
私たちは、熱に負けない強い身体を作り、熱中症を予防する可能性を秘めた「機能性成分」を探すため、100種類以上の植物や果物由来の成分を検証しました。
40℃という過酷な環境下で、どの成分が細胞を守り抜くのか。数え切れないほどの試行錯誤の末、私たちはついに、素晴らしい力を持つ成分を見つけ出しました。
それが、柑橘類の皮に主に含まれる「オーラプテン」と「タンゲレチン」です。
特に、ハッサクや夏みかんに多く含まれる「オーラプテン」は、驚くべき効果を示しました。40℃の環境でも血管内皮細胞の生存を助け、さらにはミトコンドリアを活性化させることがわかったのです。
また、シークワーサーなどに含まれる「タンゲレチン」は、細胞内の脂肪代謝を司るためのスイッチを入れ、脂肪を効率よくエネルギーに変える手助けをしてくれます。いわば、壊れかけたエネルギー工場を修理し、再び稼働させる「エンジニア」のような役割を果たしてくれるのです。
■はっさくに多く含まれるある成分が
オーラプテンはハッサクにきわめて多く含まれる成分で、100種類以上の候補成分を探索する中で、比較的早い段階で効果が確認されました。「これは効くかもしれない」と感じた瞬間でした。
実験の結果、オーラプテンを事前に添加しておくと、40℃の状態に3日間という過酷な条件下でも血管内皮細胞が死なずに元気に生存していることが確認されました。

顕微鏡で見ると、何も加えていない細胞が死滅してボロボロになっているのに対し、オーラプテンを添加した細胞はきれいに並んで生きているのが確認できます。
この鮮明な違いは、研究者としても思わず目を見張るほどの結果でした。
「事前に加えておく必要があるなら、すでに熱中症になってしまった後には効果がないのでは」という疑問を持つ方もいるでしょう。
■日頃から接種することが重要
そこで実際に調べると、40℃に1日さらした後にオーラプテンを添加しても一定の保護効果が得られました。ただし事前に添加した場合のほうが高い効果が得られます。これは、日頃から予防として摂取しておくことに効果があることを示唆しているといえます。
オーラプテンは熱ストレスに対してだけでなく、これまでの研究から活性酸素による酸化ストレスに対しても血管内皮細胞を保護することが示されており、抗酸化力も備えた成分です。顕微鏡観察では、オーラプテンを添加した細胞ではミトコンドリアが活発に伸びて細胞全体に広がり、エネルギーを作りやすい状態を保っていることも確認されました。
■シークワーサーとポンカン
もう一つの有力候補として後に登場したタンゲレチンは、シークワーサーやポンカンに含まれる成分です。タンゲレチンにも、オーラプテンほど強くはないものの保護効果が認められました。
タンゲレチンが最初に見つかったことで「この方向性は正しかった、まだまだ見つかるだろう」と期待していましたが、実際には次がなかなか出てこず、タンゲレチンを見つけるまでに相当な苦労が続きました。
オーラプテンとタンゲレチン。
この二つの成分は、どちらも柑橘類由来でありながら、含まれる果実の種類も、分子の骨格も、そして細胞を守るメカニズムも異なります。
オーラプテンはハッサクや夏みかんに豊富に含まれる成分です。グレープフルーツやユズ、カボスにも含まれますが、夏みかんとハッサクへの含有量が群を抜いて多いことがグラフで明確に示されています(図表1)。
■血管を守るタンゲレンチン
タンゲレチンはポリメトキシフラボンという分子の骨格を持ち、シークワーサーとポンカンにだけ特異的に高濃度で存在するという偏った分布を示します。オーラプテンが豊富な果実にはタンゲレチンがほとんど含まれず、タンゲレチンが豊富な果実にはオーラプテンがほとんど含まれない。1種類の柑橘に両方が高濃度で含まれているものは存在しないのです。
二つの成分の作用メカニズムも異なっています。オーラプテンは主にヒートショックプロテイン(HSP)の誘導とコレステロール合成の促進を通じて血管内皮細胞を守ります。タンゲレチンは脂質代謝全般の改善を通じてエネルギー産生を助けるという、やや異なる経路が関与していると考えられています。
■もう一つの注目はココナッツミルク
血管内皮細胞の保護作用についての研究を続けるうちに、ココナッツオイルなどに含まれる「中鎖脂肪酸(MCT)」も熱中症対策の強力な味方になることがわかりました。通常、脂肪がエネルギーに変わるプロセスは熱に弱い酵素に依存していますが、中鎖脂肪酸はそのプロセスをスキップして、効率よくミトコンドリアの燃料になってくれるのです。
実際、夏場の気温が42℃を超えるような米国アリゾナ州の過酷な地域では、人々は経験的にココナッツウォーターやココナッツオイルを愛用しています。
私も夏にアリゾナのスーパーマーケットに行きましたが、さまざまな種類のココナッツウォーターが目立つところに陳列されていました。科学的なエビデンスが、先人たちの知恵を裏付けた形です。
ただし、中鎖脂肪酸は熱に弱く、揚げ物を揚げるような温度では使えません。高温調理に使うと酸化・分解してしまい、本来の効果が失われてしまうのです。また日本では、普段の食事にココナッツを取り入れる習慣はありません。
そのため、実用的な摂取方法としては、MCTオイルを食品や飲み物に混ぜるか、ソフトカプセルに封入するかのいずれかになります。スムージーやコーヒーに数滴加える方法は、手軽に日常的な摂取を続けやすいやり方です。そこで比較的豊富に中鎖脂肪酸を含む食品としては、牛乳、バターなどがあげられます。また、高齢者向けの栄養補給剤にも中鎖脂肪酸が含まれていることが多く、医療・介護の現場でも活用されています。
■三つの果物を上手に取る「相乗効果」とは
私たちの研究では、熱中症対策として有効な3つの成分を特定しました。ハッサクなどに多く含まれるオーラプテン、シークワーサーに多く含まれるタンゲレチン、そしてヤシ油やパーム核油などに含まれる中鎖脂肪酸の三つです。
これらはそれぞれ独立した働きを持ちながら、組み合わせることで単独では到達できない高い効果、すなわち相乗効果を発揮します。

こうした研究成果を基に、現在ではオーラプテンを配合した「暑さを払う飴」や、アスリート向けのドリンクや羊羹などの開発が進んでいます。
私たちの研究は、研究室の中だけでは終わりません。この知見をいかに社会に役立てるか。次回は、夏の熱中症と冬のヒートショックに共通する「血管の弱さ」と、3つの成分がもつ可能性に迫ります。

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加藤 和則(かとう・かずのり)

東洋大学健康スポーツ科学部 教授

1963年、岩手県奥州市生まれ。東北大学大学院薬学研究科卒、薬学博士。薬剤師、公認スポーツファーマシスト。東洋大学健康スポーツ科学部教授、同大学院研究科長。順天堂大学医学部、UCサンディエゴ医学部、国立がん研究センター、札幌医科大学でがんと免疫に関する基礎と臨床研究に従事し、2011年から東洋大学に着任。東洋大学では、食品中の機能性成分に着目し、熱中症やアスリートコンディショニングに関わる研究を産官学連携で実施。順天堂大学大学院医学研究科客員教授を兼任。

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(東洋大学健康スポーツ科学部 教授 加藤 和則)
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