日本代表が、ワールドカップで優勝した。
そう聞くと、多くの人はFIFAワールドカップを思い浮かべるかもしれない。
しかし今回、世界の頂点に立ったのは、弁護士たちのサッカーチームだった。
2026年5月、スペイン・ベニドルムで開催された「MUNDIAVOCAT」。世界中の弁護士、法曹関係者が集まる“弁護士のサッカーワールドカップ”で、日本のJAPAN UNITEDがクラシックカテゴリーを制した。
大会には様々なカテゴリーがあるが、すべてのカテゴリーを入れると合計で90チーム、1,800人、40以上の国籍が参加する国際大会。そこには、元プロ選手や欧州・南米の強豪チームもいる。決して“お楽しみの親善大会”ではない。
その舞台で、日本の弁護士たちは世界一になった。
チームを率いてきたのは、栃木県足利市と群馬県高崎市に拠点を持つ弁護士法人中央法律事務所の代表弁護士である小沼正毅氏だ。
「弁護士になった強い動機の一つが、この大会だったんです」
そう語る小沼氏に、JAPAN UNITEDの優勝までの道のり、弁護士たちが世界と戦う意味、そして日本サッカーへの思いを聞いた。
弁護士になれば、日本代表としてサッカーを続けられる
小沼氏は、子どもの頃からサッカーを続けてきた。
ただし、自身が語るように「プロになるようなレベルではなかった」。大学時代、進路を考える中で耳にしたのが、弁護士だけのサッカーワールドカップの存在だった。
「弁護士になると、弁護士だけのワールドカップがあるんだよ、と聞いたんです。
サッカーを続けるために、弁護士になる。
冗談のようにも聞こえるが、小沼氏にとっては真剣な動機だった。2008年から大会に出場し、2016年からは現在の母体となるJAPAN UNITEDを創設。以降、キャプテンとしてチームを率いてきた。
だが、世界の壁は厚かった。
「私が大会に参加を始めた2008年以降では、予選のグループリーグを突破したことが一回もなかったです。まずグループリーグ突破が目標でした」
それでも挑戦をやめなかった。日本国内の法曹サッカー大会で活躍している選手に声をかけ続け、少しずつチームを強化していった。
今回のメンバーは、優秀な選手が多くそろい、FC町田ゼルビアのユースでキャプテンを務めた選手、大学の体育会のサッカー部で活躍していた選手などハイレベルなサッカー歴を持つ若手も加わった。
平均年齢はおよそ30代前半から半ば。45歳の小沼氏は、チーム最年長だった。
「今回はかなりいいメンバーが揃ったので、優勝の可能性はあると思って大会に臨みました」
90チームが集まる“弁護士のワールドカップ”
MUNDIAVOCATは、1983年から続く弁護士・法律関係者のための世界大会だ。クラシック、マスター、レジェンド、スーパーレジェンドなど、年齢別のカテゴリーが設けられている。
JAPAN UNITEDが出場したクラシックカテゴリーは年齢制限がなく、基本的に若い選手が中心になる最も競技性の高いカテゴリーだ。
試合は40分ハーフ。交代は自由で、一度退いた選手も再び出場できる。大会には各国、各地域の法曹チームが参加し、ヨーロッパ、南米、アジアなど、地域ごとのサッカー文化が色濃く出る。
「この大会は弁護士の大会なので、プロとは違う、その国のサッカー文化がもろに出るんです。その集大成だと思っています」
大会には、過去にファビオ・ペッキア氏のような元プロ選手も参加している。選手時代にユヴェントスでジネディーヌ・ジダンとプレーし、指導者としてもパルマやアビスパ福岡などを率いた人物だ。
小沼氏は、ペッキア氏とは今でも交流があり、昨年もイタリアで食事をしたという。
「そういう、いろんな国で活躍している人と関われる。非常に面白い機会だと思っています」
サッカーで世界とつながる。
JAPAN UNITEDという名前には、小沼氏自身がこの大会を通じて感じてきた、サッカーが世界をつなぐ力への思いも込められている。
初戦から苦戦。世界の基準に適応する難しさ
今回の日本は、グループリーグでパリ、トルコのボスポラスと対戦した。
初戦のパリ戦は1-1の引き分け。2戦目のボスポラス戦は5-3で勝利したが、内容は決して楽ではなかった。
「初参加の選手は、外国人のウォーミングアップを見て『動きが遅そうだから楽勝だろう』と思うんです。でも、やってみると強くて苦戦する。それが恒例なんです」
日本の選手たちが毎回苦労するのは、海外勢のフィジカルとコンタクトの強さだ。
「特徴的なのは、ボディコンタクトがものすごく激しいことです。ヨーロッパの基準だと思います。今回、体育会でやっていた選手もいるわけですが、彼らですら相手の体の強さには苦戦していました」
ボールの扱いだけなら、日本にも自信はある。だが、体をぶつけられながらプレーする、相手にぶつけながらボールを前進させる。その基準が違う。
小沼氏は、それを「ワールドカップの醍醐味」だとも言う。
「今回は南米系とは当たりませんでしたけど、ブラジルとかとやると、ずっとボールを握られてしまう。そういう体験ができるのが、非常に楽しい大会です」
準決勝と決勝は、2試合連続のPK戦
決勝トーナメント初戦、JAPAN UNITEDはフランスのマルセイユに5-1で勝利した。
「初めて楽な試合ができた」という一戦だった。
しかし、準決勝のインドネシア戦は一転して大接戦となる。
「インドネシアのサッカーはヨーロッパと違って、日本と似ているんです。ものすごく速くて、テクニックがあって、ちょこちょこ動く。体はそんなに強くないんですけど、かみ合ってしまう感じでした」
試合は0-0のままPK戦へ。日本は勝利したが、ポストに救われる場面もあり、逆に決定機を逃す場面もあった。
「本当に互角で、どっちが勝ってもおかしくない試合でした」
決勝の相手はルーマニア。こちらも0-0のままPK戦にもつれ込んだ。
「ルーマニアは非常にディフェンシブな戦いをしてくる相手でした。ピンチらしいピンチは一回だけ。
準決勝、決勝と2試合連続のPK戦。
その重圧の中で、日本は勝ち切った。
若手だけでは勝てなかった。優勝の理由は“総力戦”
今回のJAPAN UNITEDには、若くて優秀な選手がいた。経歴だけを見れば、彼らがチームの中心になるのは自然だった。
だが、小沼氏は「若手だけに頼って勝てるほど大会は甘くない」と考えていた。
実際、世界大会は甘くなかった。
前線には優秀なアタッカーがいた。それでも、その選手たちだけでは崩せない試合があった。拮抗した試合でゴールを決めたのは、40歳を超えた選手や30代後半の選手だった。
「本当にチーム全体が融合して戦えたことが、一番勝てた理由だと思います」
交代自由のレギュレーションも活用した。20人近い選手を連れて行き、選手を出し入れしながら、高い強度を保ち続けた。
「とにかく高い強度でやり続けようと。それを全員がやれたのが、一番の要因だと思っています」
日本らしさが出たのは、走力とアジリティだった。
「ヨーロッパの相手は、とにかく大きい。一見うまそうではないんだけど、体を当ててボールを収めるのがうまい。日本チームの強みは走力とアジリティ。とにかく動き切って、相手に優勢を取ろうと意識していました」
大柄な相手に、真正面から力でぶつかるのではない。動き続ける。強度を落とさない。総力戦で相手を上回る。
それが、JAPAN UNITEDの勝ち方だった。
「弁護士だから賢くサッカーをする」は本当か
弁護士のサッカーと聞くと、多くの人は知的なプレーを想像するかもしれない。
しかし小沼氏は、そこを冷静に否定する。
「よく『賢くやるんですか?』と言われます。でも、勉強で弁護士になる頭の使い方とサッカーは全く別だと思っています。頭で理解しても、ピッチで表現できるかは全く別の問題なので」
弁護士だから特別なサッカーをするわけではない。
ただし、この大会に出る選手たちは、例外なくサッカーが好きだ。普段から見て、考えて、プレーしている。そういう意味では、工夫しながら戦う選手が多いという。
小沼氏が難しさを感じたのは、むしろチームマネジメントだった。
若くて動ける選手もいれば、経験豊富なベテランもいる。サッカーキャリアも違えば、試合に出る時間にも差が出る。全員が海外まで来ている以上、当然、試合に出たい気持ちはある。
「試合に出たくても十分なプレー時間が確保できない選手もいた。その中でも、チームが優勝することを一番の目標として全員が協力することの重要性を共有していきました」
そのチームを支えたのが、A級ライセンスを持つ監督と、トレーニングや身体のメンテナンスを担った元プロサッカー選手の大友慧氏だった。
かつては、選手だけで大会参加をしており、サポートスタッフはいない状況だった。しかし世界の上位チームは、監督やトレーナーを帯同させ、プロチームのような体制で大会に臨んでいた。
「そこから変えないと、日本としても世界で戦えないと思っていました」
個人の力だけではなく、チームとして世界と戦う準備をする。
その積み重ねもまた、今回の優勝につながった。
日本の弁護士は、現地入りしたその日に試合をする
世界大会で戦う上で、日本チームには大きなハンディもある。
それは、コンディションだ。
「日本の弁護士は、ものすごく忙しい人が多いんです。今回の主力選手の中にも、試合当日の朝に現地に到着して、そのまま試合をした人がいました。帰りも、羽田に着いたらそのまま出勤します、という人たちがいる」
ヨーロッパのチームなら、前日入りで済む。移動距離も短い。
しかし日本からスペインへ向かうには、長時間の移動が必要になる。時差もある。しかも多くの選手は、仕事の合間を縫って参加している。
「コンディション調整という点では、ヨーロッパに比べると圧倒的に不利です」
小沼氏は、海外の弁護士と働き方の話をすることもあるという。
「イタリアの友人に、夜9時以降まで働いていたら『何のために生きているんだ』みたいな感じで言われます。日本の忙しい弁護士は、終電で帰れないのが当たり前という人も多い。平日にトレーニングするのは非常に難しいです」
それでも、彼らはサッカーをやめなかった。
土日に時間を作る。仕事の合間にトレーニングをする。忙しさの中で、工夫しながらサッカーを続けてきた。
だからこそ、この優勝には重みがある。
弁護士の大会だからこそ、日本サッカーの裾野が見える
今回の優勝を、小沼氏は「日本のサッカー文化の証明」と捉えている。
なぜなら、この大会はプロ選手の大会ではないからだ。
プロにならなかった人たち。別の職業を持ちながら、それでもサッカーを続けてきた人たち。その国の“サッカーの裾野”が問われる大会でもある。
「今回日本が優勝できたということは、日本の育成年代、弁護士になるような人たちのサッカーのレベルが上がったことを証明できた。裾野のレベルが上がったという意味で、すごく意義があったと思っています」
日本サッカーは、代表チームだけで成り立っているわけではない。
プロにならなかった人たち。仕事を持ちながらプレーを続ける人たち。地域でボールを蹴る人たち。
そうした無数のサッカー人生の積み重ねが、文化をつくっていく。
JAPAN UNITEDの優勝は、そのひとつの到達点でもある。
「日本代表よりも早く優勝したい」
小沼氏にとって、サッカーとは何か。
そう尋ねると、返ってきた答えはシンプルだった。
「生活の一部ですね」
小沼氏は、弁護士としてスポーツ法務にも携わり、選手の移籍やクラブ関連の仕事もしている。2023年にはFIFAのフットボールエージェント試験にも合格した。
見ることも、プレーすることも、仕事として関わることも含めて、サッカーは人生の中心にある。
そして今回、JAPAN UNITEDは世界一になった。
「僕らは勝手に、心の中で日本代表と競争しているつもりだったんです。日本代表よりも早く優勝したい、と。もちろん比べられる性質のものではないですけど、それができた。日本のサッカーが世界に通用することを証明したいという思いはあります」
ワールドカップ直前、日本サッカーは大きな期待を背負っている。
その少し前に、弁護士たちの日本代表が世界一になった。
それは、偶然のニュースではない。
日本サッカーの裾野が広がり、大人になっても本気でボールを蹴り続ける人たちがいて、その積み重ねが世界に届いたということだ。
次の世代へ、バトンを渡す
45歳の小沼氏は、本来であればクラシックカテゴリーに出る年齢ではない。
それでも、優勝するまではプレイヤーとしても関わり続けたいという思いがあった。
「先輩方がずっとチャレンジを続けてきて、私がこの大会に参加して、次にバトンを渡したいという思いでずっとやってきました。優勝して、次にバトンを渡したかったんです」
この優勝が、次の世代につながってほしい。
小沼氏はそう願っている。
「この記事を見て、『弁護士になって、そんなことができるんだ』と思う人がいてほしい。サッカーでプロにはなれなかったけれど、弁護士になって世界を相手にサッカーをしたいという人がいつか生まれてくれたら非常に嬉しいです」
サッカーは、プロになるためだけのものではない。
プロになれなかったとしても、競技をやめる必要はない。別の道に進んでも、仕事を持っても、家庭を持っても、世界を目指すことはできる。
ボールを蹴り続けていれば、人生のどこかで、思いもよらない場所へ連れて行ってくれることがある。
スペイン・ベニドルムで世界一になった弁護士たちは、そのことを証明した。
日本代表より少し早く、世界の頂点へ。
JAPAN UNITEDの優勝は、日本サッカーにとって“もうひとつのワールドカップ制覇”だった。
湘南ベルマーレ、株式取得企業の一つは『弁護士ドットコム』創業者が代表!その想いが熱い 「サッカーと湘南のおかげで今の自分がある」
筆者:KEI IMAI
桐蔭横浜大学サッカー部時代に風間八宏氏(現川崎フロンターレ監督)にサッカーの本質を学ぶ。同時期にスエルテジュニオルスで育成年代のサッカーの指導に携わる。その後半年間、中南米をサッカーしながら旅をし帰国。現在都内で働きながらブログ「大人になってから学ぶサッカーの本質とは」を運営し、育成年代の現場の取材、指導者や現役選手にインタビューをしサッカーの本質を伝える活動をしております。

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