中国の宅配便業界では長期にわたり、極端な価格競争が続いてきた。その結果、宅配便と契約して集荷や配達を業務を担当する会社の利益が圧迫されたり、従業員の報酬が不当に抑えられるなどの弊害が目立つようになった。
中国の宅配業界は長期にわたり「低価格で量を稼ぐ」という競争と成長の方式に頼って来た。加えて一時期の電子通販プラットフォームによる「とにかくコストダウン」が物流段階にも影響を及ぼした。また、主要な宅配企業は相次いで上場したが、市場シェアと時価総額が連動する現象が出現したために、宅配企業がより大きな市場シェアを獲得するために価格を下げる傾向がさらに強まった。
中国の宅配業者では、本社がシステム管理やネットワーク維持・全国運賃体系の設定、情報システムの構築と運営、幹線部分での輸送を行い、末端業務である集荷や配達は、規模が小さい末端業者がいわゆるフランチャイズ方式で担うことが一般的だ。そのため、価格決定権のある本社が推進する極端な値下げは、末端業者の利益圧縮をもたらし、ひいては宅配便関連の従業員の収入も抑えられ、その結果としてサービスの質が低下する「負の連鎖」が発生した。
今年上半期、A株上場の宅配便企業が定める単価(宅配便1件当たりの価格)は下落し続けた。第2四半期(4-6月期))には一部企業の月平均の単価が2元(約41円)を下回った。福建省宅配協会は7月30日に明らかにした「全省宅配業界の同仁への1通の手紙」と題した文章の中で、福建省全体の2025年上半期の宅配取扱量は前年同期比で11.41%増加したが、単価は前年同期比4.5%減で下落幅は約0.32元(約7円)だったと説明した。「手紙」はさらに、一部地域では「全国一律0.8元(約16円)発送」という極端な低価格が出現しており、その場合には末端業務を担う業者の宅配便1件当たりの粗利益が0.1元(約2円)未満にまで落ち込むと憂慮した。
また、宅配便企業には、値下げキャンペーンを行う際に、減収分を末端業者に負担させる行為がある。
しかし中国各地では最近になり宅配便の「値下げ競争による負の連鎖」を食い止めるための取り組みがみられるようになった。例えば浙江省の義烏市だ。日用雑貨を取り扱う会社が集中しており、宅配便の利用が極めて多い同市では7月中旬に、宅配便の最低料金がそれまでの1.1元(約23円)から1.2元(約25円)に引き上げられた。かつての「価格戦争」が最も激しかった時期には、宅配便料金が数件まとめて1元(約21円)を下回ったこともあったという。
広東省や浙江省の一部地域では8月初めに新たな値上げが導入された。宅配便の最低価格は1件当たり0.4元(約8円)引き上げられた。関係当局の要請により原価とみなされる1.4元(約29円)を下回る価格での引受けが禁止され、違反した場合は重い罰則を受けることになった。
宅配便業界での値下げ競争の防止は、各地の当局が指導し、地方別の業界団体が呼応する形で進められている。すでに多くの地域の業界団体が「最低ラインを守り、非理性的な競争に断固抵抗」「原点に立ち返り、(業務の)核となる部分での競争力の向上に注力」「企業の主体的責任を厳格に履行」「協力して業界の健全なエコシステムを共に構築」などと表明し、対策を進めている。
多くの業界団体はさらに、「宅配便企業は川上・川下の提携パートナーの合法的権益を尊重し、保障し、電子通販プラットフォーム、業者、サプライヤー、提携拠点などと長期的で安定した、公平で互恵的な提携関係を構築すべきだ」「公平な取引を行い、速やかに契約を履行して支払いを行い、産業チェーンとサプライチェーンの強さと安全、安定を共同で維持する」などと呼び掛けている。
中国では「以罰代管」という労働者や学生の「支配方式」が問題視されてきた。