中国メディアの界面新聞はこのほど、高精細度テレビ放送の4K放送が、日本では民放5社が撤退に向かうなど振るわないのに対して、中国では各放送局が次々に放送を開始している理由を紹介する記事を発表した。

日本の五大民間放送局は年間300億円の赤字を理由にBS4Kチャンネル事業から一斉に撤退し、周波数を返上して、代わりにインターネットのストリーミングで4Kコンテンツを提供する方向に転換した。

2018年の開始以来、4Kチャンネルの視聴率は極めて低く、ある局の地上放送の月間リーチ率(月度内にそのチャンネルを視聴した人の割合)83%であるのに対し、BS4Kチャンネルはわずか3.5%の状態だ。韓国や台湾でも、4K放送のビジネスモデルは確立されていない状態だ。

機器の買い替えが比較的安価で、スポーツや映画番組への需要が広い欧米市場でさえ、現状では継続的かつ大規模な国家レベルの介入がなければ、4K番組の常時放送はビジネス面で不可能と言っても過言ではない。興味深いのは、ネットフリックス(Netflix)やディズニープラス(Disney+)などの世界的なストリーミング大手が、韓国や日本などと広範な共同制作を行うことで、実質的に現地の4Kコンテンツ制作を支援する「唯一の希望」となっている点だ。

一方で中国では、今年になりすでに、省級テレビ局(省、中央直轄市、民族自治区の政府が所管するテレビ局)の3局が4K超高精細放送を開始した。北京衛視(「衛視」は衛星放送の意)の4K放送開始は3月28日、広東衛視と深セン衛視では6月28日だった。河南、天津、雲南などの省級テレビ局も4Kチャンネルの衛星試験信号を発射しており、年内には正式放送を始める見込みだ。

中国の4K放送は、政府が主導するトップダウン式に推進されている。すなわち、多くの省庁が連携し、産業チェーン全体が参加する国家レベルの取り組みだ。25年は国家広播電視総局が定めた「超高精細発展年」であり、超高精細の推進、HD(高精細映像)の普及とSD(標準精細映像)の廃止を統合的に進める方針だ。年末までに全国の4K超高精細チャンネル数を20以上に増やし、地級市(省レベル行政区のすぐ下に置かれた市)以上の放送機関は基本的にHD化を完了することが求められている。

トップダウン設計による供給側の改革は、市場発展初期にありがちな「鶏を先に出現させるか卵を先にするか」のジレンマを克服することを目指している。

超高精細コンテンツがあらゆる場所に存在するようになれば、ユーザーの消費習慣も自然に形成されるはずだ。

4K放送開始の最大規模の波は、9月28日だった。湖南衛視、東方衛視、浙江衛視、江蘇衛視、山東衛視がこの日、4K超高精細チャンネルを開局すると発表していた。4K放送の開始については、厳格な基準が導入された。例えば、以前に作られた4Kの精度を持たない番組を、形式だけ変更して「4K番組」として放送することは認められない。最も早く4K番組の本格放送を始めた北京衛視の方式が、各地の放送局による4K放送の模範とされた。

北京衛視は4K放送について「既存資産のアップグレード」の戦略を採用した。すなわち安定した視聴基盤と高評価を得ている看板番組を優先的に4K化する方針で、市場で未検証の4Kオリジナル番組を強引に投入することは避けている。番組の内容としては文化財の細部、手術シーン、料理の色彩など、より高画質が求められるものを選んだ。また、4Kだけでなく、4Kに比べて劣る画質の両方で放送するので、北京衛視の視聴者はこれらの番組を同時に視聴でき、より高画質へ視聴の需要が喚起される可能性がある。

一方で、上海に拠点を置く東方衛視は「ニュースを基盤とする局」としての強みを打ち出し、「大都市のニュース視点」を強調するとともに、ドキュメンタリー分野の拡充に力を入れている。また、短編ドラマやスポーツ中継にも注力している。

特筆すべきは、東方衛視の4K放送が衛星、ケーブル、インターネット・プロトコル・テレビ(IPTV)、モバイル端末のすべてで展開されることで、特に「看東方」アプリを通じて4Kのネット配信を直接受信できる点だ。

また、消費者が4K放送を評価すれば、4K放送を鑑賞するために受信機を買う人も増えるはずだ。このことは、景気回復に資する内需の拡大を求める中国政府の方針に完全に合致する。第一財経の報道によれば、上海では今年、超高精細テレビ、すなわち4Kテレビの普及が加速しており、あるメーカーでは販売比率がすでに95%に達した。また、120Hz以上の高リフレッシュレートや大容量メモリを備えたテレビも人気を集めている。

コンテンツ制作の面では、昨年始動した「超高精細先鋒行動計画」により、25年末までに中国全国で新たに制作されるドラマやドキュメンタリーは基本的に超高精細化され、ニュースやバラエティー番組などでも超高精細比率が大幅に向上する予定だ。さらに、愛奇芸、優酷、テンセント、芒果TV、咪咕動画、Bilibiliの六大ネット動画プラットフォームでは、年間新規番組のうち超高精細コンテンツの比率が40%以上になる目標が掲げられている。

中国の超高精細戦略で最も独創的な部分は、家庭用端末の全面的な刷新に加えて、映画館や屋外の大型公共スクリーンを、4K/8Kコンテンツの展開の重要なチャンネルとして改造する点にある。

中国中央広播電視総台(CMG/チャイナ・メディア・グループ)は2021年の春節番組から、4K/8K信号をリアルタイムで全国の一部都市の映画館に伝送している。この方式はその後、主要スポーツイベントや重要な国家的行事についても採用された。

中央政府の工業情報化部や国家広播電視総局など6つの省庁が共同で始動した「百城千屏(百都市・千スクリーン)」プロジェクトは、全国の100以上の都市にある商業施設、交通の要所、文化施設など人の集まる場所に、数千枚の4K/8K超高精細の公共大型スクリーンを設置することを目的にしている。

さらに重要なのは、こうしたプロジェクトが中国独自の超高精細技術標準の投入の機会になっている点だ。

中国映画界が主導する次世代型上映システムのCINITYは中国国内の映画館の導入数が急増し、カナダで開発されたIMAXと競合するようになった。「百城千屏」プロジェクトでも、AVS3などの国産音声・映像コーデック規格の大量採用が求められている。また、中星6E、中星9Cなどの新型国産衛星の運用が始まり、全国規模での4K超高精細信号のカバーに技術的な裏付けを提供している。

HDR(ハイダイナミックレンジ)規格の分野でも、中国は独自のHDRビビッド(HDR Vivid)という方式を打ち出している。この企画は世界で主流であるHDR10+やドルビー・ビジョン(Dolby Vision)に類似しており、しかもオープン規格だ。そのため中国国内の多くの機器メーカーや、テンセント動画、愛奇芸などのコンテンツプラットフォームから支持を受けている。HDR Vividは国家広播電視総局の業界標準にも採用され、今回の4K放送の開始でも重要な役割を果たしている。

中国は4K映像の普及過程における数々の課題をうまく乗り越えることができれば、世界最先端の超高精細技術標準の体系を有し、世界最大かつ健全な超高精細映像関連の産業エコシステムを手にすることができるだろう。このことは、国民の精神文化生活を大いに豊かにするだけでなく、次世代の業界標準の策定と主導において顕著な先行者優位を獲得し、世界の技術地図においてより有利な位置を占める可能性を秘めていることを意味する。(翻訳・編集/如月隼人)

編集部おすすめ