岡本:「Exhibitionism-ザ・ローリング・ストーンズ展」はご覧になりましたよね。いかがでしたか?
高橋:もちろん行きました。ストーンズの楽曲を自由にミックスできるところが面白かったです。この曲のチャーリーのドラムはどうなっているんだろう? とか、音楽に携わっている人ならみんなすごく興味があるんじゃないかと思いました。それに、ストーンズって独特のギターサウンドがありますし、ギターだけ聴いてみたいとかあると思うんですよ。近藤さん(書籍にも登場している近藤雅信氏・岡村靖幸所属事務所〈V4 Inc.〉代表)は、ロン・ウッドが好きなので、ロニーとチャーリーとビル・ワイマンだけのミックスをしたそうで、その様子を写真に撮ってSNSにアップしてました。
岡本:あれは楽しいコーナーですよね。
高橋:内覧会のときに行ったら、キースのレスポールTVモデルを観ている派手なファッションをした人がいて。
岡本:志磨さんは今何歳ぐらいでしたっけ?
高橋:30代半ばぐらいだと思います。ちょうど『Love You Live』(1977年リリースのライブアルバム)の頃のミックやキースと同じぐらいの年齢ですね。

岡本:清志郎さんの年齢で言うと、ちょうど高橋さんが関わりだした頃ですかね?
高橋:いや、僕が仕事をするようになったのは、清志郎さんが30代後半の頃でした。
岡本:その頃はストーンズは動いていない時期ですよね。
高橋:『Dirty Work』と『Steel Wheels』の間ぐらいです。ミックは『Shes The Boss』『Primitive Cool』と、既に2枚のソロアルバムを出してました。僕が清志郎さんと初めて会ったのはミックがソロで初来日した後ぐらいです。
岡本:ドラムにサイモン・フィリップス、ギターにジョー・サトリアーニというバンドで東京ドームでライブをやったときですね。
高橋:ミックの1stソロアルバム『Shes The Boss』は、まわりのストーンズ好きで色々批判的なことを言う人もいましたけど、僕は好きでした。
岡本:「Throwaway」なんかはすごく頻繁に耳にした覚えがあります。ストーンズが動いていない分、精力的にソロ活動をしていましたよね。清志郎さんの話に戻しますけど、ロックバンド編成になってからのRCサクセションって、意識的にストーンズのイメージを真似てましたよね。でも80年代後半になるとRC自体が大物バンドになってきてそういうイメージもなくなってきたんじゃないですか。
高橋:1979年にチャボさんが加入して、はじめてローリング・ストーンズをモデルにしたと思います。曲やアレンジ、ライブもモチーフにしています。80年代後半は、それを消化して自分たちの音楽として、RCサクセションを確立。日本のロックバンドではじめて日本の音楽のリスナーと洋楽リスナーの両方が支持する存在になりました。
岡本:曲のモチーフというと、例えば?
高橋:「雨あがりの夜空に」のイントロのキース的なsus4のギターリフが代表的なモチーフです。メジャーなバンドでキース的なsus4をやったのは、チャボさんがはじめてだと思います。「ブン・ブン・ブン」もそうですね。「エンジェル」は「Angie」で。1985年に西武球場でやった「ステップ!」は、後半で「フッフー」って「悪魔を憐れむ歌」のコーラスを入れていたり。あと、「たとえばこんなラヴ・ソング」は「Tumbling Dice」から持ってきたって、森川(欣信)さんがおっしゃってました。全然「Tumbling Dice」には聴こえないですけど、そう言われてみればそうかなって(笑)。
岡本:僕は1994年の清志郎さんとチャボさんのライブ「GLAD ALL OVER」のときに野音の外でリハーサルを聴いていたら、清志郎さんがアコースティックアレンジの「たとえばこんなラヴ・ソング」をサム・クックの「Wonderful World」の歌詞で歌っているのを聴いたことがあります。だからメロディはそういうところからきていたのかなって。
高橋:ああ、なるほど。森川さんがおっしゃっているのは、バンドアレンジとしては、「Tumbling Dice」をモチーフにしたということだと思います。他にも、「トラブル」は『Tattoo You』の「Slave」で、チャボさんが歌っている「ノイローゼ・ダンシング(CHABOは不眠症)」とかも明らかにストーンズをフォーマットにしている。
岡本:RCが休止してから清志郎さんはブッカー・T&ザ・MGsとソロ・アルバム『Memphis』を作りましたよね。僕はそこではじめてオーティス・レディングの存在を知りましたし、清志郎さんが最も影響を受けたヴォーカリストがオーティスだということを初めて知ったんです。当時そういうファンは結構多かったんじゃないかと思うんですよね。RCは清志郎さんとチャボさんがミック、キースのイメージでストーンズっぽさを感じていたけど、清志郎さん個人だとオーティスからの影響の方が大きいのかなって。
高橋:清志郎さんがチャボさんをRCに誘ったときに、「Angie」をBGMにして電話したのは有名な話ですが、「俺がミックをやるからチャボはキースをやってよ」と言ったというエピソードがあります。きっと『Love You Live』(1975年の北米ツアーを中心にライブが収録されている)の頃の映像をすごく観ていて、「売れたい」という気持ちが強くあったのだと思います。メンバーにフュージョンのギタリスト小川銀次さんとニューウェーブのG2を入れて、ジャンルレスでチャーミングなバンドとして『Love You Live』の頃のローリング・ストーンズをモチーフにしたライブをやっていました。
アルバム『Love You Live』には入っていないんですけど、「Outta Space」という曲で、サポート・メンバーのビリー・プレストンとミックが2人でダブルステージの上に乗って踊って、最後に下に降りてきてミックが空中ブランコに乗ってステージに入るっていうシーンがあるんです。RCは『THE KING OF LIVE』でそのままやっている。そのときのRCのステージもダブルステージになっていたので、「ダンスパーティー」でメンバー紹介をした後、「NEW SONG」でG2と清志郎さんがビリー・プレストンとミック・ジャガーのように踊る。

岡本:一番ブームになっていた頃のRCのライブは、もろにストーンズのステージを踏襲したものだったんですね。
高橋:ライブは『Love You Live』に絞っていたと思います。曲のモチーフとしては、後期だと『Baby a Go Go』収録の「あふれる熱い涙」で、チャボさんが『Its Only Rockn Roll』の4曲目の「Till The Next Goodbye」のフレーズを入れています。
岡本:よくそんなところに気が付きますね(笑)! さすがです。
高橋:すごくセンスが良い。だから、そういう影響はRCがエレキバンド編成になってからの10年間、最後まであったと思いますよ。だから、RCとは何かと言われたら、音楽的な意見は色々とあると思いますけど、僕はローリング・ストーンズを踏襲して最も成功したバンドの1つだと思います。有賀(幹夫)さんがおっしゃっていたのは、世界でそういうバンドは2つしかいなくて、それはRCとエアロスミスであると。あのフォーマットを踏襲して成功したバンドは他にはいないんじゃないでしょうか。
岡本:清志郎さんの曲作りとしては、ビートルズからの影響も大きいと思いますが、そのあたりはどう思われますか。
高橋:石坂(敬一)さんが、「世界3大ヴォーカリストはハウリン・ウルフ、ミック・ジャガー、忌野清志郎」と言っていたように、ジョン・レノンやポール・マッカートニーとは違う、黒人的なヴォーカル・スタイルがあったので、ビートルズから影響は受けていたとは思いますけど、全部それをストーンズという包装紙にくるんで出していたと思います。
岡本:それは、いわゆる暗黒時代から抜け出してエレキ編成のロックバンドとしてブレイクするために?
高橋:売れるためだったというところは、若干あったと思います。
岡本:メイクするようになったのはKISSからの影響という説もありましたけど、本当なんですかね?
高橋:チャボさんはそれを聴いて驚いてました。「それは新説だな」って(笑)。他の説として、当時、新井田さんがドラムを叩いていたミスタースリムカンパニーというミュージカル劇団がいて、ある日、彼らの公演を観に行ったら革ジャンにリーゼントでメイクしているのを見て、これはいいなと思ったらしいです。でも、本人はそれを全く覚えていなくて、メイクはKISSからの影響だって言ってました。
岡本:にわかには信じがたいですが(笑)。
高橋:当時のRCは、チャボさんも新井田(耕造)さんも、みんなメイクしてました
岡本:『BEAT POPS』のジャケットなんかは全員どぎついメイクしていますもんね。
高橋:あれこそ、『Its Only RocknRoll』『Black and Blue』『Love You Live』のストーンズだと思います。キースもメイクしていたし。まだ「リチャーズ」じゃなくて、「リチャード」名義時代のキースですね。影響を受けていると思いますよ。
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第3回「忌野清志郎がレコーディング作品を通して現代に残したものとは?」
<書籍情報>

『I LIKE YOU 忌野清志郎』岡本貴之 編有賀幹夫 / 太田和彦 / zAk / 佐野敏也 / 角田光代 / 近藤雅信 / 高橋靖子 / 高橋 Rock Me Baby / 蔦岡晃 / 手塚るみ子 / のん / 日笠雅水 / 宗像和男 / 森川欣信 / 百世 / 山本キヨシ / 渡辺大知 (五十音順)
発売元:河出書房新社現在発売中224ページ ソフトカバー並製本体定価:1400円http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309290188/