2日目の初っ端、台湾からやってきたトップバッター落日飛車(SUNSET ROLLERCOASTER)に続いて登場したのは、今年6月に3枚目のオリジナル・アルバム『21世紀より愛をこめて』をリリースし、現在それを携えての全国ツアーを行っている真っ最中の4人組、Tempalayだ。

Tempalayが苗場に降り立つのはこれが3度目。
最初は2015年のROOKIE A GO-GOで、2度目は翌々年の苗場食堂……と順調にステップアップしていたはずだったのだが、なんと苗場食堂の年に、小原綾斗(Vo、Gt)が前夜祭で指を骨折し、ギターが弾けなくなるというハプニングに見舞われている。本番では、現地にいたドミコのさかしたひかるやMONO NO AWAREの加藤成順ら友人たちがギターで参加し、結果的にイレギュラーな編成でのTempalayを目撃できるという、思わぬサプライズをオーディエンスは味わうことが出来たわけだが、本人たちにしてみれば未練の残る内容だったに違いない。

あれから2年、ついにRED MARQUEEのステージ出演とあって、迎え撃つファンも気合十分。開演の時を今か今かと待っていると、突然爆音で流れ出したのは電気グルーヴの「Shangri-La」だった。かねてから表現規制などの問題に高い関心を寄せ、作品作りのモチベーションにしてきたTempalayにとって、電気グルーヴの一連の騒動には色々思うところがあったはず。続いてステージ後方のスクリーンに映し出されたのは、フォルダアイコンが並ぶPCのデスクトップ画面や、アダルトサイト登録をお知らせするウェブ画面。時おり映像を使った演出などで、エラーを起こしてPC所有者の情報が大画面に晒されてしまうという「マヌケな事故」を目撃することがあるが、それを逆手に取ったユーモアたっぷりのギミックだ。

Tempalayらしい、この一連の「茶目っ気」に驚き笑っていると、ステージ上にメンバーの小原、藤本夏樹(Dr)、昨年正式加入したAAAMYYY(Syn)と、最新作のレコーディングにも参加しているサポートのKenshiro(Aun Beatz)が現れる。そして「Shangri-La」をかき消すような、小原の凄まじい雄叫びとともにこの日のライブは幕を開けた。

1曲目は「のめりこめ、震えろ。」。岡本太郎にインスパイアされて作ったというこの曲は、スリリングな小原のファルセット・ボイスとタイトな藤本のドラミング、タメの効いたKenshiroのベース、そして奇妙なAAAMYYYのシンセが混じり合いながら次々と展開していく、一筋縄ではいかないサイケポップ・チューンだ。続く「Sonic Wave」は、今回のVRを手がけたPERIMETRONによる、チープで毒っ気たっぷりの映像が印象的。


「楽しんでますか? 本日Tempalay、RED MARQUEEかましていくんでよろしくお願いします」

フジロック現地レポ Tempalayのアンサンブルが紡ぎ出す多様性の塊

Photo by Genki Ito

2017年リリースの2ndアルバム『from JAPAN2』に収録された、プログレッシヴかつファンキーな楽曲「my name is GREENMAN」の演奏に乗せて小原が呼びかけると、オーディエンスも両手を頭の上にかざしながらそれに応えた。「どうしよう」は、トリッキーな藤本のドラムと、デチューンさせたAAAMYYYのシンセが異次元へと誘う、これまた一筋縄ではいかないポップソング。小原とAAAMYYYの歌声が、掛け合いになったりユニゾンになったりと目まぐるしく展開していくアレンジも、どこか官能的だ。

フジロック現地レポ Tempalayのアンサンブルが紡ぎ出す多様性の塊

Photo by Genki Ito

フジロック現地レポ Tempalayのアンサンブルが紡ぎ出す多様性の塊

Photo by Genki Ito

フジロック現地レポ Tempalayのアンサンブルが紡ぎ出す多様性の塊

Photo by Genki Ito

「失った指、取り返していくぞ」と、2年前の苗場食堂の「事件」をネタにして笑いを取った後、「やっとRED MARQUEEに来ましたTempalayです。最後まで楽しんで」とあらためて小原が挨拶すると、会場からは暖かい声援が上がった。そしてそのまま次の曲へと進むはず……だったのだが、機材トラブルによって演奏が一時中断してしまう。

「これが生です、フジロックマジック!(笑) 僕が今日、怪我もせずここに来られたというそれだけで成功でございます」と小原。「すごいね俺ら。ちょうど今、Tempalayはワンマンツアーを回っていて、12本くらいやったんですけど、本当にどの会場でも絶対にトラブルがあるんですよね。で、やっとフジロックに出られたと思ったら、ステージ上でトラブルに遭うっていう(笑)」藤本もそう言いながら苦笑する。

押し寄せる多幸感と切なさ

しばらくステージ上で話し合いが行われ、ロスした時間を取り戻すために「曲の途中からやります」と小原が言うと、会場は笑いと歓声に包まれた。「今日のために映像を作ってくれたPERIMETRONには申し訳ないんですけど……。
ごめんな、隕石落ちたところから演るわ」とPAブースのPERIMETRONに呼びかけ、「カンガルーも考えている」のエンディングからスタートし「新時代」に繋ぐ。こんなトラブルさえユーモアと機転で乗り切り、オーディエンスとの一体感へと繋げていく彼らの姿に思わず目頭が熱くなる。メンバー脱退などの試練を乗り越え、ここまでやってきたという絶対的な自信と信頼関係が今のTempalayにはあるのだろう。

フジロック現地レポ Tempalayのアンサンブルが紡ぎ出す多様性の塊

Photo by Genki Ito

続いて最新作より「そなちね」。先日、藤本に第一子が誕生したことなどをキッカケに、生と死、無垢なものへの憧憬と変わりゆくものへの諦観を、映画『ソナチネ』にインスパイアされながら書き上げたという、バンドのメイン・ソングライター小原の楽曲の中でも屈指の作品だ。Kenshiroのワウベースと、トム・ヴァーレイン(テレヴィジョン)を彷彿とさせる小原の痙攣ギター、アクセントを微妙にずらした藤本のドラムが変態的なアンサンブルを構築し、それが美しいメロディとの強烈なコントラストを生み出してゆく。エンディングでは、繰り返される転調に多幸感と切なさが同時に押し寄せてきて、「このまま時が止まってしまえばいいのに……」とさえ思った。

最後は、GAPとのコラボでも一躍有名になった「革命前夜」。サビのブレイクを全員でハンドクラップしながら、ファンにとってもメンバーにとっても、悲願だったフジロックのメインステージを一緒に乗り切った達成感を噛みしめたのだった。
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