1991年10月5日、当時ザ・コミットメンツという名前で知られていたアイルランドはダブリンのソウルバンドが米音楽チャート・ビルボード200のトップ10入りを果たした。
1991年8月14日、映画監督のアラン・パーカーはアイルランドの作家ロディ・ドイルの小説『おれたち、ザ・コミットメンツ』(1987)をもとに映画『ザ・コミットメンツ』を完成させた。同作のキャストのほとんどは、映画に出演するのに十分な演技力を持つミュージシャンたちが占めていた。だからといって、このソウルバンドだけが劇中バンドの代名詞というわけではない。『ピッチ・パーフェクト』(2012)のアカペラ・コンクールのチャンピオンや『シング・ストリート 未来へのうた』(2016)のアイルランドのパンク少年など……映画の世界には、実在したらいいのに! と思わずにはいられない才能あふれるアーティストやバンドが目白押しだ。
架空のヘビメタオタク、グラムロックの歌姫、ブルーグラス歌手、未成年のスーパーロックスターなど……今回は、スクリーンを彩り、ごく稀に本物のステージでも輝いた史上最高の25組の”フェイク・バンド”をランキング形式で紹介する。なかには『ブルース・ブラザーズ』(1980)のジェイクとエルウッドのように本当にツアー活動まで行ったものもいれば、監督の「はい、終了!」のひと声を最後に、二度とプレイすることのなかったバンドもいる。だが、どれもそうそうたる顔ぶれだ。ぜひ、大音量で楽しんでほしい。
[編集者注:本記事は2016年8月に米ローリングストーン誌に掲載されたものです]
25位『シング・ストリート 未来へのうた』(2016)
シング・ストリート
『ONCE ダブリンの街角で』(2007)のジョン・カーニー監督の最新作のタイトルにもなっているバンド、シング・ストリートは、1980年代のポップス版ザ・コミットメンツといえるだろう。
24位『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)
マーヴィン・ベリー&スターライターズ
本当なら、マーティ・マクフライ&スターライターズと呼ぶべきところだ。というのも、チャック・ベリーの従兄弟という設定のスターライターズのリードシンガーのマーヴィン・ベリーに”懐メロ”とエディ・ヴァン・ヘイレンふうのいくつかの超絶テクニックを教えたのは、マイケル・J・フォックス演じるタイムスリップ高校生のマーティ・マクフライなのだから。その結果、マーティは両親を無理やり両想いにさせて未来の自分が消滅するのを防いだだけでなく、事実上ロックンロールの先駆者となった(リビアの過激派とドクのプルトニウムについて語るのは、別の機会にしよう)。
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23位『ロック・スター』(2001)
スティール・ドラゴン
1980年代の大御所メタルバンド、スティール・ドラゴンの熱狂的なファンからリードシンガーに転身したクリス・”イジー”・コール役のマーク・ウォールバーグは、スタジアムいっぱいの音楽ファンの前でまったく臆することなくパフォーマンスを披露した。ジューダス・プリーストのリードシンガー、ロブ・ハルフォードの代役をいっとき務めたティム・”リッパー”・オーウェンズの実話をもとに製作された『ロック・スター』はどちらかといえば駄作の部類に入るが、音楽だけは完璧だ。ウォールバーグとドミニク・ウェスト(HBOのクライムフィクション・ドラマ『THE WIRE/ザ・ワイヤー』でジミー・マクノルティを演じているウェストの完璧なヘビメタオタクっぷりは圧巻)といったキャストのほか、バンドメンバーのほとんどはジェフ・ピルソン(元ドッケンのベーシスト)、ジェイソン・ボーナム(故ジョン・ボーナムの息子)、ブラック・レーベル・ソサイアティのザック・ワイルドなどの本物のミュージシャンが演じている。ぜひ、メタルの世界観を堪能してほしい。
22位『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』(2005)
ウィアード・シスターズ
ありとあらゆる魔法や空飛ぶ箒でプレイするクィディッチなど、マグル(訳注:魔法を持たない普通の人間)には理解不能なホグワーツ魔法魔術学校の架空の世界にクールなオルタナティブロックバンドが存在するなんて意外かもしれない。ここで、ウィアード・シスターズの登場だ。イギリスの作家J・K・ローリングの『ハリーポッター』シリーズを原作とした映画のシリーズ4作目には、リードボーカルにパルプのジャーヴィス・コッカーを、そしてレディオヘッド、All Seeing I、Add N to (X)のメンバーといった見事なブリット・ポップのスターたちが集結し、魔法使いの少年少女たちの前で「Do the Hippograff」を披露している。何それ? という人は、ビートルズのヒット曲をモチーフにした青春ラブコメ『キャント・バイ・ミー・ラブ』(1987)の「African Anteater Ritual」のハリポタ版を想像してみよう。
21位『ワイルド・パーティー』(1970)
キャリー・ネイションズ
アメリカの作家ジャクリーン・スーザンのベストセラー小説『人形の谷』(1966)を原作としたマーク・ロブソン監督の映画の大ヒットから3年。セックスを産業化したレジェンド、ラス・メイヤー監督とのちにピュリツァー賞を受賞するロジャー・イーバートがタッグを組み、セックスとドラッグとロックンロール漬けの3ピースガールズロックバンドのライフスタイルを描いたサイケデリックな続編を製作した。まさかりでアルコール店を叩き壊したことで知られる前禁酒法時代のアメリカの禁酒主義活動家キャリー・A・ネイションに由来するバンド名にふさわしく大胆不敵な彼女たちは、保守主義とは程遠い存在だった。映画化にこぎつけたことに驚きながらも脚本を務めたイーバートは、「オープニングのタイトルバックにもあるように、”ときに悪夢にもなり得るエンターテイメント業界”をさらけ出す、風刺、真剣なメロドラマ、ロック・ミュージカル、コメディ、過激なB級映画、ポルノ映画、道徳(当時はシャロン・テート殺害事件の直後だった)といった要素をすべて揃えた作品であるべき」とかつてメイヤー監督が語っていたことを明かした。
20位『グリーンルーム』(2016)
エイント・ライツ
現代版エクスプロイテーション映画(訳注1970年代にアメリカで生まれた映画のジャンルで、金銭的利益のために社会問題や話題の題材を利用する傾向がある)の名作と呼べる『グリーンルーム』の撮影前、ジェレミー・ソルニエ監督は架空のパンクバンド、エイント・ライツのメンバーを演じるカラム・ターナー、英BBCのギャングドラマ『ピーキー・ブラインダーズ』のジョー・コール、米FOXのコメディドラマ『アレステッド・ディベロプメント(ブルース一家は大暴走!)』のアリア・ショウカット、そして故アントン・イェルチンをパンクロックのブートキャンプに送り込んだ。その成果は明確だ。ハードコア4人組によるデッド・ケネディーズの「Nazi Punks Fuck Off」の堂々たるパフォーマンスはまさに必見。部屋いっぱいのネオナチのスキンヘッドたちの前で披露していることを踏まえると、なおさら鳥肌が立つ。
19位『シングルス』(1992)
シチズン・ディック
キャメロン・クロウは、昔から音楽業界と関わりの深い映画監督だ。シアトルのグランジシーンがポップカルチャーにもたらす影響を事実上予測したX世代のロマンチックコメディ『シングルス』には、クロウ監督と音楽のつながりが明確に描かれている。同作を支えているのは映画のサントラだが——同作が公開される数カ月前にはやくもヒットを記録——真の主役はマット・ディロン率いる新進気鋭のグランジロック・バンド、シチズン・ディックだ。ディロンのほかには、エディ・ヴェダー、ストーン・ゴッサード、ジェフ・アメンといったパール・ジャム(当時はムーキー・ブレイロックというバンド名で活動)のメンバーが名を連ねる。劇中歌の「Touch Me, Im Dick」がマッドハニーの有名なシングルであることも本物らしさにこだわる同作の良い点だ。
18位『エディ&ザ・クルーザーズ』(1983)
エディ&ザ・クルーザーズ
映画『エディ&ザ・クルーザーズ』を観ると、ジョン・キャファティ&ザ・ビーバー・ブラウン・バンドに対してなんだか申し訳ない気分になってくる。エディ&ザ・クルーザーズという伝説的なバンドの隆盛を描いたミュージカル・ミステリ作品のサントラ制作を打診されたとき、米ロードアイランド州を拠点としていたジョン・キャファティ&ザ・ビーバー・ブラウン・バンドは、どうにかして音楽業界でキャリアを築こうともがいていた。同作がカルト的人気を獲得するまで時間はかかったものの(それも米HBOが何度も繰り返しオンエアしたおかげ)、サントラは瞬く間にヒットした。だが、映画ファンは劇中の楽曲がジョン・キャファティではなく、エディによるものだと思い込んでしまった。いまも、同作のサントラはジョン・キャファティ&ザ・ビーバー・ブラウン・バンド最大のヒットであり続けている。
17位『すべてをあなたに』(1996)
ワンダーズ
もしトム・ハンクスが俳優の道を選ばなかったら、音楽プロデューサーとして成功していた可能性は大きい。1996年、『すべてをあなたに』で初監督を務めたハンクスは、英国文化がアメリカを席巻したブリティッシュ・インヴェイジョンを想起させる架空のバンド、ワンダーズの力を借りて映画の原題と同名の「That Thing You Do!」という映画史上もっとも耳に残る主題歌のひとつをオーディエンスに初披露した(”Oneders”というワンダーズの別名は、たった1曲のヒットを残して消えたバンドに対する見事な皮肉でもある)。
16位『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』(2010)
セックス・ボブオム
カナダの漫画家ブライアン・リー・オマリーのコミックシリーズ『スコット・ピルグリム』を映画化したエドガー・ライト監督の『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』は、主人公スコットの恋愛をもとにストーリーが展開する。だが、ジェットコースターのようにオーディエンスをワクワクさせてくれるのは、次から次へと繰り広げられる(ときには自由奔放な)バトルアクションと劇中バンド、セックス・ボブオムの存在だ。ル・ティグラとホワイト・ストライプスとバズコックスをひとつにしたようなパワートリオの右に出るものなんていない。演奏中に繰り出されるイナズマといった漫画ふうの描写も最高!
15位『ベルベット・ゴールドマイン』(1998)
マックスウェル・デイモン&ヴィーナス・イン・ファーズ
1970年代のグラムロックシーンにオマージュを捧げたトッド・ヘインズ監督作品『ベルベット・ゴールドマイン』の主役は、ジギー・スターダストふうのロックミュージシャン、ブライアン・スレイド/マックスウェル・デイモン(ジョナサン・リース・マイヤーズ)とイギーふうの友人カート・ワイルド(ユアン・マグレガー)だ。しかし、同作のサントラの真の主役はデイモンのバックバンド、ヴィーナス・イン・ファーズである。ロキシー・ミュージックに傾倒ぎみのこのバンドの正体は、レディオヘッドのトム・ヨークとジョニー・グリーンウッド、スウェードのバーナード・バトラー、さらには本物のロキシー・ミュージックのアンディ・マッケイなどが名を連ねるスーパーUKバンドでもある。まさにグラムロックのグランドスラム的作品だ。
14位『CB4』(1993)
CB4
MCガスト、スタッブマスター・アーソン、デッド・マイクの3人組ラッパーに拍手。主演のクリス・ロックと脚本家のネルソン・ジョージによるコメディ・ドキュメンタリー『CB4』では、主にギャングスタ・ラップ、犯罪とカネにまつわるライム、クリントン政権時代のヒップホップブームが描かれている。同作では、MCハマーからX・クランまで、誰もが嘲笑の的になる一方、映画のタイトルと同名のCB4は、ノーティー・バイ・ネーチャーやウルトラマグネティック・MCs、さらにはN.W.Aといったこの世代を代表するスターラッパーをバランスよくミックスしたラップ・グループであり、ステージの盛り上げ方も十分心得ている。「Sweat From My BALLS!!!」のような名曲でオーディエンスを沸かせられるのはCB4くらいだ。
13位『オー・ブラザー!』(2000)
ソギー・ボトム・ボーイズ
『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』(2013)を手がけたジョエルとイーサンのコーエン兄弟は、この10年前に『オー・ブラザー!』という歴史映画を世に送り出していた。
12位『ハイ・フィデリティ』(2000)
ソニック・デス・モンキー
スティーブン・フリアーズ監督によるイギリスの作家ニック・ホーンビィの小説『ハイ・フィデリティ』(1995)の映画化には、評価すべき点がいくつもある(映画の舞台はロンドンではなくシカゴになっている)。そのなかでも、ジャック・ブラック率いるソニック・デス・モンキー(のちにKathleen Turner Overdriveとしてブレイクし、現在はBarry Jive and the Uptown Fiveに改名)によるマーヴィン・ゲイの「Lets Get It On」のカバーは最高だ。ジャック・ブラックがロックデュオ、テネイシャスDとしても活動していたことは当時あまり知られていなかったため、おかしなルックスの男が突然ソウルの名曲を見事に歌い上げたときのオーディエンスの反応ときたら。誰もが聴き惚れるシーンに注目。
11位『ピッチ・パーフェクト』(2012)
バーデン・ベラーズ
米FOXの大ヒットミュージカルドラマ『glee/グリー』がようやくアカペラという芸術形式に光を当ててから3年。アナ・ケンドリックとレベル・ウィルソンは、一過性のブームで終わろうとしていたアカペラを世界的なミュージカル・コメディとしてヒットさせるのに一役買った。『ピッチ・パーフェクト』は、いまもミュージカル・コメディ部門の歴代興行収入3位という記録を保持している。(2015年公開の同作の続編が現在は1位)。ボーカルブレイクダウンとくれば、劇中アカペラグループのバーデン・ベラーズは無敵だ。
10位『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』(2013)
ジム&ジーン
最初に言っておこう。ジム&ジーンは1960年代に実在したフォークデュオで、ふたりは私生活でもカップルであり、いっときは結婚もしていた。たしかに、これだけ聞くとジャスティン・ティンバーレイクとキャリー・マリガン演じるフォークデュオの着想源にふさわしいかもしれないが(『みんなのうた』のキャサリン・オハラとユージン・レヴィ扮するミッチ&ミッキーにも同じことがいえる)、監督のコーエン兄弟版ジム&ジーンは実在のモデルとはかなり違う。でも、ふたりのパフォーマンスを聴くと、実在のモデルに寄せても十分上手くいった可能性はあったのではないだろうか。というのも、マリガンの歌声には当時の女性歌手特有の美しいトリルがある。それにティンバーレイクって人も意外と悪くない。
9位『スクール・オブ・ロック』(2003)
スクール・オブ・ロック
映画のなかとはいえ、マイクを渡され、舞台を任されたロックデュオ、テネイシャスDのジャック・ブラックがここまで生き生きとした姿を見せることはないかもしれない。リチャード・レインクレイター監督の『スクール・オブ・ロック』のブラックは、まさに水を得た魚のようだ。ブラックが演じる主人公は代用教師として小学校に潜り込み、そこで音楽史を教えるうちに生徒たちとスクール・オブ・ロックというバンドを結成する。水を得たブラックは同作にもっと大人向けのユーモアを盛り込むこともできたかもしれないが、実際にはPG-13指定が同作にいい味を与えている(そのおかげでファミリー層のあいだでもヒットした)。先生のお気に入りになりたいなら、ベイビー、そんなことは忘れちまえ。
8位『マペットの夢みるハリウッド』(1979)
ドクター・ティース&エレクトリック・メイヘム
たしかに、人形劇コメディ『マペット・ショー』といえば「Bein Green」や「Rainbow Connection」といったセンチメンタルな楽曲を連想する人が多いかもしれない。だからといって、もっとハードな楽曲がないと決めつけるのは禁物だ。『マペットの夢みるハリウッド』の主役はカエルのカーミットだが、ジム・ヘンソンの遊び心あふれる人形王国の真の音楽家はドクター・ティース、アニマル、フロイド・ペッパー、ジャニス、ズートのバンド、エレクトリック・メイヘムだ。バンドは1970年代らしいブギーファンクを見事に取り入れているだけでなく、リンクで取り上げた動画のように決まって絶妙なタイミングで登場するのだ。当時のエレクトリック・メイヘムは、レオン・ラッセルやエイプリル・ワインとツアーすることだってできたはず。そう考えると、なんて愉快なんだ!
7位『ザ・コミットメンツ』(1991)
ザ・コミットメンツ
アイルランド音楽といえば、真っ先に浮かぶイメージはU2のボノや打楽器のバウロンかもしれない。だが、ダブリンの気まぐれな若者グループの一流ソウルバンドへの成長を描いたロディ・ドイルの1987年の小説の映画化を決意したアラン・パーカー監督は、アイルランドという国にソウルミュージックを注入した。機材の問題、気まずいロマンス、メンバー間の競争など、若者たちの前にさまざまな壁が立ちはだかるが、最終的には音楽こそがすべてなのだ。パーカー監督は、本物らしさにこだわってすべてのボーカル部分をセットでレコーディングし、当時若干16歳だったシンガーのアンドリュー・ストロングをバンドのリードボーカルに起用した。ギターを弾いているのは、アイルランドの人気バンド、ザ・フレイムスのフロントマンで、のちに『ONCE ダブリンの街角で』に主演するグレン・ハンサードだ。
6位『スター・ウォーズ』(1977)
フィグリン・ダンとモーダル・ノーズ
酒場のバンド(カンティーナ・バンド)ことフィグリン・ダンとモーダル・ノーズは、『スター・ウォーズ』の世界全体から見れば取るに足らない存在かもしれない。それでもどういうわけか、つるつる頭のビズ種族のインストゥルメンタル・バンドは、その存在感を示し続けてきた(たとえリピートされ続ける音楽がモス・アイズリー・カンティーナの騒音にかき消されてしまったとしても)。その理由は、19世紀末から20世紀初頭にかけて流行したラグタイムを連想させる時代錯誤で不思議なビートとバンドの目の前で繰り広げられる不穏な取引との明確なコントラストにあるのかもしれない。あるいは、作曲家ジョン・ウィリアムズの好意による一流の銀河系ラウンジモードのおかげかもしれない。いずれにせよ、ケッセル・ランを12パーセクで飛んだ伝説の船についてハン・ソロが延々と語るあいだもどこか懐かしいメロディを奏でている。
5位『みんなのうた』(2003)
ザ・フォークスメン
2003年、映画ファンはスーツ姿でビシッと決めたザ・フォークスメンにようやくスクリーンでお目にかかることができた。しかし、バンドの起源は20年近く前にさかのぼる。クセ者揃いのスパイナル・タップともいうべき架空のフォークトリオ、ザ・フォークスメンのメンバーを演じているのはクリストファー・ゲスト、マイケル・マッキーン、ハリー・シェアラーだ。1984年に米人気バラエティ番組『サタデー・ナイト・ライブ』でデビューした彼らは、その後数十年にわたって本物のフォークバンドとしていくつものパフォーマンスをこなした。それだけでなく、ときにはヘビーメタルに寄せてスパイナル・タップのオープニングアクトを務めたこともあった(訳注:ゲスト、マッキーン、シェアラーは架空のヘビメタバンドのフェイク・ドキュメンタリー『スパイナル・タップ』の主演俳優でもある)。クリストファー・ゲスト監督の『みんなのうた』に登場するいくつものパフォーマンス(ザ・ニュー・メインストリート・シンガーズとミッチ&マイキーなど)のなかからザ・フォークスメンだけを取り上げるのは不公平かもしれないが、この3人組が最年長なので年功序列ということにしておこう。
4位『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(2001)
ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ
インディペンデント映画『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』と同名のバンドが生まれた場所は、ニューヨークのオフ・ブロードウェイだ。そしてほとんどの優れたミュージカル作品がそうであるように、同作は歌とともにストーリーが展開する。だが、『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』は『雨に唄えば』(1952)とは対照的な作品である。同作は、どちらかというとロック・オペラのような展開なのだ。ゴーゴーブーツを履いた主人公ヘドウィグが舞台の上でハードロックチューンから感動的なバラードへとスムーズに移行できる理由のひとつは、そこにあるのかもしれない。映画化後、同作は主役のニール・パトリック・ハリスをはじめとする豪華キャストとともにブロードウェイに復帰した。だが、ジョン・キャメロン・ミッチェル監督のオリジナルに勝るものはない。前6インチ、後ろ5インチ……残った”怒りの1インチ”について熱唱するヘドウィグは必見。
3位『あの頃ペニー・レインと』(2000)
スティルウォーター
実話によると、当時15歳だったキャメロン・クロウはローリングストーン誌にポコというカントリーロック・バンドの取材担当に抜擢された。クロウ監督の作品のなかでももっとも自伝的な色合いの濃い『あの頃ペニー・レインと』に登場する15歳の大きな瞳の少年の名前はウィリアム・ミラーで、彼が取材するのはスティルウォーターというバンドだ(1970年代に同名のバンドが実在していたが、それは偶然にすぎない)。ビリー・クラダップやジェイソン・リーといった70年代俳優が演じたスティルウォーターが架空のロックバンドのなかでも一線を画している理由は、彼らの音楽性ではなく、バンド全体の音楽性の深さがそれぞれのメンバーの意思決定に影響を与えた点にある。最終的に同作はひとつのバンドではなく、その時代の音楽の存在証明となった。良いものも悪いものも、そしてロバート・プラントのような”ゴールデン・ゴッド”も含め、スティルウォーターはまさに当時のロッカーの象徴なのだ。
2位『ブルース・ブラザーズ』(1980)
ブルース・ブラザーズ
40年ほど前に『サタデー・ナイト・ライブ』に登場した当初、ブルースをこよなく愛する黒いスーツ姿のダン・エイクロイドとジョン・ベルーシは同バラエティ番組のお笑いキャラだった。だが、ますます高まる人気とともに彼らはデビュー・フルアルバム『ブルースは絆』(1978)のレコーディングを行い、1980年にはなんとジョン・ランディス監督のアイコニックなコメディ映画の主人公にまで昇格した。その後の話は、誰もが知るところだ。エイクロイドとベルーシはジェイクとエルウッドのブルース兄弟として複数のライブをこなし、豪華なバックバンドまで手に入れた(バックバンドのメンバーには、ブッカーT&MGs、バーケイズ、ブラッド・スウェット・アンド・ティアーズなどのアーティストが名を連ねる)。そして同作には、アレサ・フランクリンやレイ・チャールズも出演している。1982年にベルーシがこの世を去ってもエイクロイドはたまにブルース兄弟復活を試みた。だが、スタックス・レコードばりのレヴューらしいスウィングを生み出す、神様からの贈り物のようなエイクロイドとベルーシのユニットに勝るものはない。
1位『スパイナル・タップ』
スパイナル・タップ(1984)
パロディバンドというコンセプトは、なにも映画『スパイナル・タップ』から生まれたものではない。それでも、多くの人はパロディバンド=架空のヘビーメタルバンド「スパイナル・タップ」というイメージをいまも抱いている。コメディ好きのオーディエンスが辛辣でありながらも笑えるタイトルと歌詞(「ベイビーは肉のタキシードみたいにぴったりフィットする/ピンクの魚雷をお見舞いするのが俺は大好きだ」)に夢中になる一方、十数名ほどの有名ミュージシャンは、同作が人気ミュージシャンの人生を正確に描いていると告白した(メタリカのラーズ・ウルリッヒが同作をホラー映画と評価し、「正常に機能しているバンドであれば、この映画を観てぜったいに恐怖で縮み上がるはず」と言ったエピソードは有名)。ユーモア、描写の正確さ、小さすぎるストーンヘンジの舞台装置が小人に扮したパフォーマーたち壊されそうになるシーンを除いても、劇中バンドのスパイナル・タップは結構いい。むしろ、かなり良い。クリストファー・ゲスト、マイケル・マッキーン、ハリー・シェアラーはあまりに長いあいだ同作の登場人物としてレコーディングやライブを行ったせいで、もともとは架空のバンドだったことを時々忘れてしまうほどだ。これだけの年月を経ても楽曲は色褪せていないし、ジョークはいまでも笑える。フェイク・バンドとしてはいまでも超一流だ。
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