カミーロ(Camilo)の初来日は、今年のサマーソニック/ソニックマニア屈指のサプライズだったと改めて強調しておきたい。彼の最新アルバム『De Adentro Pa' Afuera』のデラックス・エディションにはスペイン・マドリード公演のライブ音源が追加収録されているが、当日の会場には10万人ものLa Tribu(カミーロのファン)が訪れていたという。
絶大な人気を誇るコロンビアのスターが、ラテンポップの馴染みが薄い日本のフェスに出演してくれたのは奇跡に近い。

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午前0時過ぎのソニックマニア、アップリフティングな「KESI」で幕を開けた本邦初ライブは、ポジティブな音楽の力に満ち溢れていた。最前列には熱心なオーディエンスが詰めかけ、熱狂的な歓声がわき起こる。陽気な歌声とバンドの演奏によって、祝祭感に満ちたヴァイブスがたちまち広がっていく。カミーロの妻であるエバルナ・モンタネールも一緒に歌い、クロージングを飾った「Índigo」はひときわハッピーな盛り上がりを見せた。楽曲総再生数150億回というド派手な実績を誇る一方で、ソロでのブレイク以前に長い下積みを経験してきたアーティストでもある。
真の実力者による極上のステージだった。

さらに翌日は、星野源がキュレーターを務めたサマーソニック東京会場BEACH STAGE「”so sad so happy” Curated by Gen Hoshino」に出演し、星野とUMI、ジェイコブ・コリアーとの共演も果たしている。このインタビューはその数時間前、昼下がりの幕張メッセで実施したもの。日本への愛情をたっぷり語ってもらうところから始まったが、彼の思想や音楽的バックグラウンドを掘り下げていくうちに、本人及びラテンポップにまつわる深い話が聞きだせたような気がする。音楽性そのままの温かい人柄に感激したことも付け加えておこう。

ー昨夜のライブ、本当に素晴らしかったです。


カミーロ:まずは観に来てくれて本当にありがとう。僕にとってコンサートはいつだって人々の団結、多様性、喜びを祝福するための場所だけど、東京での初めてのコンサートは特別な経験になった。お客さんの大半は自分の曲を知らなかったはずだから、日本のみなさんとコネクトするためにどうすればいいのかをずっと考えていたよ。昨夜のコンサートは僕らがつながりを築くための機会になったと思う。

カミーロが語るラテンポップ論 自分らしさを肯定し、愛と多様性に満ち溢れている理由

サマーソニック東京初日、BEACH STAGE「”so sad so happy” Curated by Gen Hoshino」にて(©︎SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

ー日本は残念ながら、現行のラテンポップが他の国ほど人気があるわけではありません。だからこそ、カミーロさんのような正真正銘のスターが来てくれたことに感激しましたが、なぜ日本を訪れようと思ったのでしょうか?

カミーロ:別に野心もなければ、何かしらのプランがあったわけでもなくて。
「この未開のマーケットを征服してやろう」なんて微塵も考えていなかった(笑)。僕は日本に来ることをずっと夢見ていたんだ。世界で最も魅力的な国の一つだと思っているからね。日本の歴史、食べ物、カルチャー、精神性、スピリット、ファッション、美的センス……どれも大好き。自分が音楽をやってきたことで、実際にこうして来ることができたのは本当に恵まれていると思う。

ー日本に来たあと、さっそく素敵なネイルにしてもらったみたいですね。


カミーロ:そうそう、『となりのトトロ』と『千と千尋の神隠し』のキャラクターを入れてもらったんだ(笑)。

カミーロが語るラテンポップ論 自分らしさを肯定し、愛と多様性に満ち溢れている理由

Photo by Masato Yokoyama

ーそもそも、どのような経緯で音楽を始めようと思ったんですか? 音楽キャリアの出発点はEl Factor Xs(オーディション番組)だったそうですが。

カミーロ:自分がまだ幼かった頃、3歳か4歳くらいのときに、父が肩車しながらマーチングバンドの演奏を観に連れていってくれたんだ。人生における最初の思い出のひとつで、父の肩のうえでバンドの演奏に大きな衝撃を受けた僕は、たちまち音楽に魅了されていった。その経験が本当の意味でのスタート地点になったんだ。僕が世界的にデビューしたのは4~5年くらい前なんだけど、(原体験として)すごく大きな出来事だったね。


ー2018年にソロとしてブレイクする前に、アニッタベッキー・Gの楽曲制作に携わるなどソングライターとしてキャリアを積んでいた時期があるそうですね。

カミーロ:そう、作曲家としての最初のチャンスをくれたのは女性たちだった。実のところ、僕がマイアミで暮らすようになったのは愛するガールのためだったんだよね。彼女は僕の妻となり、娘の母親になってくれた。もう一つの理由は、スタジオに行って他のアーティストに曲を書くためで、その大半が女性だった。そして、彼女たちのサウンドを見つけることが、僕自身のサウンドを見つけることにもつながった。
だから当時、ラティーナ・アーティストたちのストーリーの一部となれたことに心から感謝している。僕のキャリアにおける「最初の一歩」で、かけがえのない財産になっているよ。

カミーロが語るラテンポップ論 自分らしさを肯定し、愛と多様性に満ち溢れている理由

Photo by Masato Yokoyama

ーカミーロさんの作る曲は、様々な要素がカラフルに組み合わさっている印象です。どんな音楽から影響を受けてきたのでしょう?

カミーロ:僕はいろんなものから幅広く影響を受けてきた。ラテンアメリカ、それから私の母国であるコロンビアはすごく彩り豊かで、多種多様なフレーバーやサウンドに満ち溢れている。僕らの国は多文化(マルチカルチュラル)かつ多人種(マルチレイシャル)で、メスティサへ(混血=多様な民族的ルーツの文化的複合)でもあり、そのことを自分としても誇りに思っている。だから、僕の作る音楽もコロンビアのみならず、ラテンアメリカの多様なサウンドがカクテルのように溶け合っているんだ。アルゼンチン、アンデス、メキシコのフォルクローレや伝統音楽から多大な影響を受けているし、ビートルズのようなイギリスの音楽にも親しんできた。

ー例えばメキシコ音楽の影響は、カミーロさんの最新アルバム『De Adentro Pa Afuera』を聴いても伝わってきますが、どういったところに影響を受けているのでしょう?

カミーロ:父にホセ・アルフレド・ヒメネスを聴かせてもらったのは、最初の音楽的体験のひとつとしてよく覚えている。彼はメキシコ音楽における最も重要なルーツのひとつだ。ちなみに、ボレロもコリードもノルテーニョもバンダも大好きだし、僕はあらゆるメキシコ音楽に影響を受けてきた。メキシコはコロンビアとすごく親密で兄弟のような関係にある。自分としては最新作だけではなく、その前のアルバム2作でもメキシコ音楽への愛情とルーツへの敬意を示してきたつもりだ。

ー個人的に気になっていたのですが、カフェ・タクーバ(メキシコのロックバンド、2008年にサマソニ出演)はお好きですか?

カミーロ:大好きだよ。新しいアルバムに収録されている「Pesadilla」はカフェ・タクーバの音楽にインスパイアされた曲で、僕自身も気に入っている。

ラティーノはひとつの大きなコミュニティ

ー昨年はコロンビア出身のカロルG、今年はプエルトリコ出身のバッド・バニーが、コーチェラ・フェスティバルでラテン音楽の歴史にオマージュを捧げていましたよね。カミーロさんはラテン音楽の伝統とどのように向き合ってきましたか?

カミーロ:ラテンアメリカの人々は、他のいろんな国のアイデンティティにも好意を持っていて、すべて自分たちのものであるかのように感じているんだ。例えば、バチャータはドミニカ共和国から生まれたリズムだと思うけど、あらゆるラティーノをハグしてくれる音楽でもあり、誰もが「自分の音楽」として享受している。だから、ラテンアメリカのルーツというのはすごく多様で幅広いんだけど、僕たちラティーノはひとつのコミュニティのような感じでもある。そういうマルチカラーなところがすごくいいと思うんだ。

それに多様性というのは外見だけでなく、内面にもあると思うんだよね。僕の曲は自分がどんな人間なのか、みんなの中にある多様な人間性を祝福するためのものでもありたい。

ジョン・バティステが先ごろ発表したシングル「Be Who You Are (Real Magic)」で、NewJeans、J.I.Dと一緒にカミーロさんもフィーチャーされていましたが、あの曲についてはいかがですか?

カミーロ:みんなバラバラな個性をもつ4人だよね、だからこそ参加することにしたんだ。自分とはまったく違うアーティストと分かち合うというアイデアも興味深いし、歌詞には「ありのままの自分であることに価値がある」というメッセージと熱意が込められていて、僕が伝えたいメッセージとも共鳴するものがあるように感じた。歌うのが楽しかったし、彼ら全員を尊敬している。NewJeansのパフォーマンスをさっきスクリーンで見たけど素晴らしかった。

ローリングストーンUS版のインタビューで、自分のライブは「愛とダイバーシティを祝福する場所」であると語っていましたよね。日本は残念ながらLGBTQコミュニティに対して肝要な社会とは言いづらく、だからこそお聞きしたいのですが、なぜ「愛とダイバーシティ」が大切だと思いますか?

カミーロ:非常に重要なイシューだね。ラテンアメリカでもその問題はずっとあって、ほとんど毎日のように議論されてきた。やっと最近になり、そういったコミュニティの多様性を尊重し、祝福しようという旗が掲げられるようになってきたんだ。音楽というアートは議論を深めるための問いを投げかけ、門戸を開くための素晴らしいツールだと考えている。 自分がどんな人間で、どのようにリスペクトしてほしくて、どんなふうに話し合っていきたいのか。そういう対話を生みだす場所になりうると思うんだ。

そういったコミュニティが僕の音楽に、開かれた扉や歓迎の旗のようなものを見出してくれているのは幸せなことだ。これからも僕の音楽が、LGBTQコミュニティだけでなく、自分たちの権利のために戦っているすべてのコミュニティとの対話を生み出し続けることを願っているよ。

カミーロが語るラテンポップ論 自分らしさを肯定し、愛と多様性に満ち溢れている理由

Photo by Masato Yokoyama

ー胸元に入っているタトゥーの「INDIGO」は娘さんの名前ですよね。昨夜のライブでは妻・エバルナさんとのデュエットも印象的で、曲名どおり娘さんに捧げられた「Índigo」はとりわけ素晴らしかったです。愛する人とのクリエイティブな共同作業を通じて、カミーロさんはどんなものを得てきましたか?

カミーロ:僕は妻を深く愛しているだけでなく、深く尊敬しているんだ。彼女と出会って以来、僕はすごく成長することができたし、彼女が僕のそばで大きく成長し、お互いの成長を目の当たりにできたことを誇りに思っている。彼女は僕の大好きなアーティストであり、すべてのミュージックビデオを手掛けてきた映像監督であり、クリエイティブ・ディレクターであり、僕のキャリアを方向づけるコンセプト・ディレクターでもある。

僕が創ったものは彼女が目を通してから世に出ていく。彼女のために書いた曲も、彼女にインスパイアされた作品もたくさんある。愛、尊敬、賞賛、喜びが組み合わさったとき、愛の産物である娘のインディゴみたいに、ポジティブで美しいものだけが生まれるんだ。

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