2007年に世界デビューし、日本で数々のドラマや映画主題歌のヒット曲を持つシェネル。出産や育児を経て、2023年12月に日本での活動を本格的に再開。
最新曲の「SOS」は、BS-TBSドラマ「夫婦の秘密」の主題歌だ。

本作は、作詞家・Kanata Okajimaとドラマ「ディア・シスター」の主題歌としてヒットした「Happiness」以来タッグを組み、一通の手紙をきっかけに夫婦の秘密がどんどん暴かれていくミステリードラマからインスピレーションを得て制作された。シャウト風のシェネルの歌から始まるダークでダイナミックなサウンドに、ただSOSを上げるだけでなく、これから先の人生を力強く生きるためのエネルギーを伝播させようという思いを乗せた楽曲だ。

ー「SOS」はどんなイメージで書いた曲なんでしょう?

シェネル:最初はドラマに忠実に沿った歌詞を書こうと思っていたんですが、メロディが出来上がった段階でKanataさんとかと、ドラマのストーリーのカオスの部分に焦点を当てたパワフルな歌詞にした方が面白いんじゃないかという話になり、歌詞を書いていきました。

ー作曲はシェネルさんとKAY-IさんとROVERさんが手がけています。スリリングなロックテイストが新鮮でしたが、どんなイメージがありましたか?

シェネル:サウンド面でも曲が放つエネルギーとしてもこれまでとは違うアプローチにしたかったんです。シェネルは日本では”ラブソング・プリンセス”して知られていて、バラードシンガーのイメージが強いです。それとは違う側面を見せ始めたのが2017年にリリースした「Destiny」でした。あの世界観を発展させたのが「SOS」だと捉えています。ダークではありますが、力を与える曲でもあると思います。心に秘めているモヤモヤした気持ちや不安を口に出して発散させなければいけないという思いが込められています。

ー作詞を手がけたKanataさんとKAY-Iさんとは歌詞についてどんなやり取りがあったんですか?

シェネル:デモの冒頭に「SOS」と叫んでいる仮歌が入っていて、それが強いインスピレーションとなって歌詞が湧いていきました。
悲しみに落ちてしまっているSOSではなく、自分のために抱えているものと対峙するSOSを書きたいという意見が一致しました。

ーまさに自分の意志を声を上げて伝えることの大事さが描かれていると感じましたが、シェネルさんがこの曲で一番伝えたかったことは何でしょう?

シェネル:やはり「強い思いを心の中にとどめないでほしい」ということです。特に日本の方はそういうことが多いのかもしれません。そもそも感情というのは内にとどめていると健康に良くないんですよね。思いを伝えることは勇気のあるエンパワメントな行為だと言われたりしますが、癒しでもあるんです。だから、相手に危害を加えない程度に、思いは伝えるべきだというメッセージを込めています。そして、思いを発散させたことで「これは自分にとっていらないもので、だからこそ前進できる」という気付きも得られると思うんです。

―そういったことは昔から思っていたことなのか、それとも年を重ねるうちに確信を得たのか、どちらなんでしょう?

シェネル:もともと感情豊かな子供ではありましたが、そこを意識的に伸ばそうという家庭ではありませんでした。だから「どうやってこの溢れる気持ちを昇華すればいいんだろう?」と思っていた中で、音楽で感情を伝える方法と出会いました。そのやり方はすごく自分に合ってたんです。

ー「SOS」の歌詞を書く上で参考にした実体験は何かありましたか?

シェネル:ドラマでは夫婦間の隠し事が描かれています。夫婦でも親子でも恋人でも、近い関係性の人間同士には何かしらの問題が生じます。
相手に対して何か思うところはあるけれど、それをどう伝えてもいいのか、どんな伝え方をするのかという悩みは大なり小なり皆さん経験されていると思います。私は結婚してから10年が経ちますが、その間夫婦の関係性はだんだん変わっていきました。一時期私も夫も仕事で世界中を飛び回っていて、全然会う時間がありませんでした。それについて「お互いにキャリアを積み上げていて、一緒に成長できていて素晴らしいよね。これが私たちに合ったライフスタイルだよね」という風に認識していたんです。

シェネルが語る、夫婦の関係性 新曲「SOS」にかけた思いとは


でも会わない時間が続くと、コミュニケーションが断絶してしまう。人間はどんどん変わっていくところもあるので、2~3週間ぶりに会った時に、「あれ、こういう人だっけ?」と違和感を覚えました。それは辛いことですし、自分が思っていることを夫に伝えるかどうか悩んだんです。「伝えたら関係性が悪くなってしまうんじゃないか」とかいろいろと考えてしまった。結婚をしたことがないので、そういう状況に陥ったのは初めてなわけです。そこで私は二人で話すのではなく、セラピストを通してお互いの思っていることを伝えたり、アドバイスをもらうやり方を思いついたんですが、それを夫に相談するのも怖かった。「セラピストなんて必要ない」と言われるかもしれないし、「僕は何の問題もないと思っているのに」と言われてそこで話が終わってしまうかもしれない。
はっきり白黒つけられる問題でもないので、割と長い間悶々としていました。そういう自分も嫌でしたし、勇気を出すのに時間がかかりました。ただ、その問題があったことで私たち夫婦は成長できたと思っています。

ーネットの普及により、SOSを上げて多数の人に伝える機会は作りやすくなった一方で、ともすれば真意とは違う形で拡散されてしまうこともあります。今を生きる人たちがあげるSOSということについてどう考えますか?

シェネル:ネット上で発言しても自分の知らない不特定多数の人に対して、一部しか伝わらないことが多いので、私が「SOS」で伝えたいこととは別ものだと思っています。思いの対象である相手に伝えることが重要だと思います。直接でもいいし、メールでも手紙でもいいし、曲でもいい。社会的なメッセージをSNSを使って発信していくことは素晴らしいと思いますが、私が「SOS」で伝えたいのは、自分自身のパーソナルな思いを直接相手に伝えるというコミュニケーションです。

シェネルが語る、夫婦の関係性 新曲「SOS」にかけた思いとは


―シェネルさんは今はオーストラリアのパース在住ですが、マレーシアで生まれ、オーストラリアで育ち、LAを拠点にしていたこともあります。複数のルーツを持っているからこその強みをどう捉えていますか?

シェネル:複数のルーツがあるのはまさに私の強みだと思っています。どれだけの人が様々な国や地域に行くことを重視しているかはわかりませんが、個人的にはそういった経験はとても重要です。長く住まなくても、一定期間滞在することによって、型からはみ出ることができ、考え方が柔軟になる。
視野が広がり、新たな学びに繋がることもあります。もし何らかの理由で実際にどこかに行くのが難しいのであれば、今はネットで手軽に様々な文化に触れることもできますよね。

―オーストラリア出身のアーティストは日本でも活躍していて、昨年はコーディ・ジョンが初来日し、SIRUPとコラボ曲を発表しましたが、オーストラリアの音楽シーンをどう見ていますか?

シェネル:ずっと昔から活躍しているデルタ・グッドレムやジェシカ・マーボイは未だに第一線で活動しています。ジェシカ・マーボイは本当に素晴らしい声の持ち主です。また、ガイ・セバスチャンは革新的な作品を出し続けています。たくさん素晴らしいアーティストがいるので、私ももっといろいろなことを学んでいきたいです。

―日本のアーティストの中では、以前MIYAVIさんとコラボされていましたが、今コラボしたい日本のアーティストはいますか?

シェネル:これまでやったことのない方向性のコラボをしてみたいと思っています。以前、BE:FIRSTのラジオに出演し、RYOKIさんに英語でインタビューをされたことがあります。その共演がきっかけでBE:FIRSTの存在を知り、私もご一緒したことのあるトラックメイカーのSUNNY BOYさんとBE:FIRSTが繋がっていることもあり、強い刺激を受けました。彼らのようなボーイバンドとコラボすることができたら、これまでにない表現ができるのではないかと期待しています。

CheNelle (シェネル)
マレーシア出身のアーティスト、ソングライター。オーストラリア・パース在住。
2007年、米メジャー”キャピトル・レコーズ”より世界デビュー。日本では ヒット曲「ベイビー・アイラブユー」 「ビリーブ」「Happiness」などのヒット曲で、マルチ・プラチナ・ディスクを獲得し、「ラブソングのプリンセス」と呼ばれた。映画「ブレイブハーツ海猿」、TVドラマ「ディア・シスター」等の主題歌を担当し7つのゴールドディスク賞を受賞。出産や育児を経て、2023年12月には、6年ぶりとなる日本語詞の楽曲「I AM」をリリースし、日本での活動を本格的に再開。

シェネルが語る、夫婦の関係性 新曲「SOS」にかけた思いとは

Digital Single
『SOS』
編集部おすすめ