2023年8月に突如「Lucy」をリリースし、一発で多くの人の心を射抜いた。私も「このバンドは何者だ?」と、たった1曲から非常に気になった。
【撮り下ろし写真を見る】HOME
―HOMEにとって、音楽を作るうえでのいちばんの原動力は何ですか?
o-png(PC):「ビビらせたい」かもしれないです。まず、メンバーの2人をビビらせたい。まだないものを発明したい、みたいな気持ちで音楽をやっているかなと思います。
shun(Gt):僕はどちらかというと「めっちゃいいものを作りたい」という視点が強くて。もともとロックバンド育ちの人間なので、純粋に「いい曲」みたいなものに惹かれちゃうんですよ。僕の軸には「グッドソング」「グッドメロディ」があって、『HOME EP2』でいうと「Memories」はその意識で書いた曲です。でもギタリストとしては「発明」みたいに弾くことが面白かったりもします。
seigetsu(Vo):最終目標は、俺の歌で人を殺したいです。
shun:すごいなあ、めっちゃいいね。
seigetsu:(歌は)人の心を動かす最大のエネルギーだと思うから。救うこともできるし。俺の歌を聴いて自分から命を絶つという選択ができるくらいの力を持ちたいですね。
seigetsu(Photo by Mitsuru Nishimura)
―誰かの人生における究極の選択まで変えられるくらいの力ある歌を歌いたい、ということですよね。HOMEはデビュー曲「Lucy」から脚光を浴びましたが、そもそもどういう音楽をやろうとして集まったバンドなのか、原点から聞いてもいいですか。
shun:「Lucy」をリリースするまで、いろんなことがありすぎました。もともとは、こっち(shunとo-png)が同じ高校で、seigetsuは隣の高校の「歌うまTikTokバズりボーイ」だったんです。高2の後夜祭でRADWIMPS「そっけない」を歌っていたのを誰かが撮影してTikTokに載せて、それがめっちゃ注目されて。その噂をo-pngが聞きつけて、ちょうど2人で「ボーカリストがいたらいいね」という話をしていたので声をかけて、結成したのが2020年の高3の夏休み終わり。seigetsuは野球をやってたから、「甲子園の予選大会が終わるまではしばらく忙しい」って言われたのかも。
seigetsu:ああ、そうだったかも。
shun:ピッチャーだったもんね。
―そのときは、どういう音楽をカバーしていたんですか?
shun:いちばんハネたのはORIGINAL LOVEの「接吻」。あとは松田聖子、yonawoとか。
o-png:歌謡っぽいものが多かったです。もともと「yonawoみたいなバンドがやりたい」って言って集めたんですよ。その頃はチルとか、そういうムードだったじゃないですか。よりオーガニックなシティポップみたいなものをやりたかったんですよね。
―1st EP『HOME EP』(2023年12月リリース)には、「愛のうた」とか、今言ってくれた要素が濃い楽曲もありますよね。
shun:1stは「Lucy」の前にできてたいい曲を詰めよう、という一枚だったんです。
seigetsu:「愛のうた」は、18歳くらいのときに作った記憶があります。
―そこからどのようにして「Lucy」のサウンドにたどり着いたんですか? これを1曲目に世に放ったということは、ここで「HOMEはこれだ」と思える何かがあったということですよね。
shun:実は鍵盤がいた時期があって、2022年3月の初ライブは4人編成だったんです。
―どんな想いから書いた曲だったんですか?
shun:めっちゃいい曲を書いたろうと思って。時代背景でいうと、The Weeknd「Blinding Lights」、The Kid LAROI & Justin Bieber「STAY」、Vaundy「踊り子」とかが流行ってて、それまでの音楽のトレンドはリズムがスローだったイメージがあるんですけど、そのタイミングからちょうどBPMが上がってきて、なおかつ、80sの要素もこれまでの10年とはまた違う形で取り入れられてるなと思って。HOMEはリズムが打ち込みという制約もあるので、その中で自分が何を持ってこられるかというと、ポストパンク以降のニューウェーヴとか、キラキラした感じのポップスだろうなと。そういうところから作ったのが「Lucy」でした。でも最初はメンバーから嫌がられた気がします。そもそもHOMEはロックバンドではなかったもんね。
o-png:僕らが作っていた曲の中で「Lucy」だけ違ったので、最初は「どうやって手をつけたらいいかわかんない」みたいな感じだったんです。でもライブでやっていくごとにどんどんフィットしていって、最初の曲がようやくできたのかなと思います。「Lucy」はHOMEにとって革命みたいな曲ですね。
o-png(Photo by Mitsuru Nishimura)
HOMEが考える「今の音」とは
―1st EP『HOME EP』を出したあと、2024年は『HOME EP2』にも収録されている3曲がシングルとしてリリースされました。前作からさらに音楽性の模索をした1年だったのだろうなと思うんですけど、どんなことを考えながら『EP2』の5曲を作っていたといえますか?
shun:『EP2』に関しては、よりモダンなポップスとして聴けるものを作りたいというイメージが僕の中でかなり明確にありました。『HOME EP』はわりとノスタルジー的なところが強い作品だと僕は思っていて、それはそれで素晴らしいものだけど、やっぱり僕らはノスタルジーだけで生きてないというか、ちゃんと今を生きているバンドだと思うので。今の音で、なおかつポップソングである、というものを作ってみたいというのが『EP2』の構想でした。
―打ち込みとオルタナティブロックの掛け合わせだとか、グローバルトレンドと共鳴している部分もありつつ、でもちゃんとオリジナリティがある。そういう音だなと感じるんですけど、HOMEは「今の音」というものを具体的にどのように捉えていますか?
shun:まず音響的にモダンに聴けることを意識しました。具体的にいうと、前作よりリバーブをかなり減らして、要は音が面で存在する感じではなくて、点で配置するようにしました。逆にリバーブを増やすところは思いっきり増やして、メリハリがつくようにもしたり。特にドラムのリバーブをかなり減らしましたね。
shun(Photo by Mitsuru Nishimura)
―シンセとギターがそれぞれ効果的に鳴るように、その2つの絡み方をうまくデザインすることも意識を新たにした部分があるんじゃないかなと思ったんですけど、そこはいかがですか?
shun:そうですね。ギターでいうと今までよりも点で弾く部分と、逆に押し出す部分をわけました。前はもっと線っぽいものがずっと続いていくイメージだったんですけど、今作はよりミュートの効いたものがあったり、逆にシューゲイズとかオルタナにもっと寄った歪んだギターを今までのパッドの位置に配置したり、そういうところがかなり変化したと思います。
―o-pngさん的に特に手応えが強い曲は?
o-png:「Tell Me」。さっきshunが言ったようなビートの鳴りもいちばんフィットしてる感じがします。後半はshunがシューゲイズとかの感じのギターを詰め込んでいたので、そこにシンセがうまく乗っかるように上の方でフレーズ弾いたんですけど、それがフィットしたなと思います。
shun:あの音色もいいよね。ポストハイパーポップ時代におけるシンセっぽい。「Tell Me」を作ったきっかけは、The Cure「Close To Me」を聴いたときに、1985年の曲なんですけどすごくポップで、音がミニマルで、現代的なふうに僕は感じて、それを今やることに意味があるなと思って。僕の好きなギターポップの要素を入れたり、リズムはかたくてモダンで、っていうバランスのものができあがって、最初のデモから手応えがありました。HOMEにおける新しいポップスの形がひとつできたなって思いましたね。
―最初にshunさんが「Memories」を挙げてくれましたよね。多くの人はこれを聴くとどちらかというと懐かしさを感じるんじゃないかなと思うんですけど、これこそがトレンドで。HOMEがこの曲で意識したモダン感について、言葉にしてもらうとどうですか? しかもこれ、最初はseigetsuさんではない人が歌ってますよね?
shun:今作の「モダンポップス集」というテーマの中でいえば、「Memories」と「Tell Me」の音が核だと思ってます。
―そもそも、普段どうやって曲が作ることが多いんですか? 基本、shunさんがトラックを作って、seigetsuさんがメロディと歌詞を書いてる?
shun:僕の曲は、僕がスマホのGarageBandでデモを作って、それをo-pngのパソコンに移し替えて、みんなでセッションしながらトラックを変えてもらったり、僕もその場でギターを考えたり、seigetsuにメロディや歌詞を作ってもらったり、という感じで作ってます。『EP2』は僕主導の曲が多かったので、ほとんどその方法でした。
―スマホのGarageBand!?
shun:あ、そうです。僕、パソコンが全然できなくて。クレジットカードも持ってないような男なんで、何もわかんないんですよ。現代人としての条件が何ひとつ揃ってない(笑)。
効果的な「歌」と「メロディ」とは
―seigetsuさんの歌や声質に関しては、どんな表現ができるものであると捉えていますか? モダンなサウンド感にseigetsuさんの歌声が乗ることで、ただ平坦なモダン感には収まりきらないのがHOMEのよさになっているんじゃないかと思うんです。
seigetsu:たとえば「Plastic Romance」は、よりモダンなポップスということで、ボーカルで聴かせた方がいいなと感じながらレックしてました。俺、あんまり目立ちたくないんですけど、これはボーカルで持っていく歌だなって感じて、前に出た方がいいなと思って。
shun:主役を引き受けるようになったよね。
seigetsu:……あんまりやりたくない。フロントマンには向いてない……。
shun:(笑)。そんな~!
―(笑)。shunさん、o-pngさんは、seigetsuさんの歌にどんな印象を持っているんですか。
shun:seigetsuはR&B、ジャズとかブラックミュージックも聴き込んでいて、初めてseigetsuの歌声を生で聴いたときから思っていることは、いわゆるカラオケ的なうまさというよりかは、曲の中でどう響くかということをすごく考え抜かれた歌だということで。『EP2』は、オートチューンの導入もありつつ、そもそもメロディに対してどう歌詞をはめるかが、リズム的な部分においても、かなり進化した作品だと思います。その中で、彼の言語感覚もまた面白くなっていたり、日本語、英語、韓国語まで混ざった歌詞があったり。「木目」の”木目はアトランダム~”の音ハメなんかは、「ようやるな」って感じ。ポップなんだけど、彼にしかできない領域のことをやっているなと思います。
o-png:seigetsuは裏声を入れるタイミングがめっちゃ面白いなと思います。ポップに裏声が入ってるから面白いですね。歌が覚えやすい感じで裏声を入れるけど、技術っぽくもある、そのバランスがいいなと思います。もともと僕はメロディのあるものがあまり好きじゃなくて、でもHOMEを通して好きになってる感じがあって。
shun:Skrillex生まれ、Suchmos育ちだもんな。
o-png:ギターでコードをジャカジャカ弾いて歌うような、フォークっぽいものとかが苦手なんですよ。今のUKポストパンクの人たちも結構好きで、それも理由はメロディがないから(笑)。だからHOMEは僕みたいな人にも刺さるかもしれないですね。普段はポップスを聴かなくて、ダンスミュージックとかを聴く、みたいな人たちも聴けるんじゃないかなと思います。
shun:邦ロック的なジャカジャカとしたバッキングを意図的に入れないようにしているから、それもデカいかも。それはHOMEにおけるマイルールのひとつだったりします。
o-png:助かるわ(笑)。
―苦手だから(笑)。でもそれは重要なポイントですね。ポップスに寄りすぎず、ポップスである、という線で新しい音楽を作ろうとしているのがHOMEである。
shun:俺、こいつと会ったのが高1なんですけど、軽音部の部室でギターを弾いてたら「6弦全部鳴らしてるのダサくね?」って言ってきて。それが俺の人生においてすげえ示唆を持った言葉になって。もっと少ない要素で成立させられるのであればその方がいいっていうのは、ある種のミニマリズムに基づいた考え方だと思うんです。それ以来、僕のギターに対する捉え方、弾き方が変わって、それがそのままHOMEに活かされていて、よりデザインするような感覚でギターを弾くようになった気がします。
o-png:確かに、その感覚があって今のHOMEの音楽性がある感じはしますね。
Photo by Mitsuru Nishimura
「海外でやればやるほど、日本語がいいなと思う」
―歌詞においては、どんなことを大事にしているといえますか。社会や時代に対しての言葉も含まれているなと思うんです。
seigetsu:ラブソングっぽく違うことを言う、というやり方にハマってます。全部、ラブソングっぽいですけど、ちゃんと読んだら違うというか。
―ラブソングを装いつつ、奥では、世の中に対して思っていることとかも表現しているということですよね。「木目」という言葉がポップスの歌に入ってて、しかもそれがタイトルになっているのがユニークだなと思うんですけど、これはどういう着眼点から生まれたんですか。
seigetsu:「木目」は喫茶店の木のテーブルを見て思いついたんですけど……エネルギーの流れ、というか。血管が詰まってるみたいで。人生の行き詰まりとか不安を、木目にたとえて書きました。
―「Still Dreaming」は、どういうことを表現しようと思ったのかを聞いてもいいですか?
seigetsu:自分のことをあまり話したくないんですけど、「Still Dreaming」は……最近の若者について書きました。なんていうか、健全じゃない考え方とか本能をしてるなと思って。間違ってんなあと。
shun:「魂を安売りするなよ」みたいなニュアンスをseigetsuから聞いて、そのことについては僕も最近色々考える機会があったから、「Still Dreaming」の歌詞はグロくてとてもいいなと思いました。seigetsuの歌詞には、『HOME EP』から明確な違いを感じていて。『HOME EP』は、表面的には「愛してる」が見えるように作られている気がしていて、『EP2』は「愛していた」というか、何かから離れていくこととか断絶みたいなものが印象的だった。単純にHOMEのメンバーの中でケンカしたり、あとは僕が妙な寂しさで狂ってた時期があったりして、僕の感情がソングライティングに反映されていたとも思います。
seigetsu:それを感じ取ってはいたかもしれないですね。
―HOMEはすでに韓国、台湾、シンガポール、モンゴルからもライブに呼ばれていますけど、そもそも英語の歌詞が多いのは世界の人に届くように、といった意識ですか?
seigetsu:最初は日本人がわからないように、と思って英語にしてました。もともと歌詞を書いていたわけじゃないので、最初は歌詞のない状態でライブしていて、英語風に歌っとけば大丈夫だと思って(笑)。でも最近はそれだと怒られるから、ちゃんと書くようになって、日本語が書けるようになりました。レベッカとかも通っているので、日本人の耳に聞き馴染みある曲は日本語が出てきます。本当は、日本語と英語を極力半々くらいにはしたいと思ってます。
shun:海外でやればやるほど、日本語で歌う方がいいなと思う。実をいうと僕は、むしろ日本語詞の方が海外にはウケる気がしてます。やっぱり英語は僕らのネイティブ言語ではないし、日本語に自分らの感覚が詰め込まれてる方がむしろいいんだろうなって。それこそフィッシュマンズとかゆらゆら帝国が評価されているのは、そういうところもあるんだろうし。
seigetsu:わかる。海外で日本語をやりたい。
―今後、バンドとしてはどんなことを成し遂げたいと思っていますか? そもそも結成した頃から、こうやってメインストリームで活動したいという想いはありました?
o-png:それは思ってました。
shun:今は自由にやりたいこともできているから、かなりいい状態にあると思います。でも全然満足しきってないですね。
o-png:この形態でやってる人がいないから、「やってるスポーツが違う」みたいな感覚で見られるところもあるんですよ。この形態のバンドが主流になったらいいなと思います。これが流行ったら、ようやく認められるんだろうなと思うから。
―日本はバンド文化も根強かったりするから、ライブハウスで、ドラムがいない編成でお客さんにどう熱量を伝えるのかは大きな挑戦ですよね。ライブの作り方で意識していることはありますか?
o-png:ドラマーに負けないように、というのはやっぱり強いかもしれないですね。
shun:バンドって、人が楽器を鳴らしているから、いつもと違う感じになったりミスが起きたりするわけじゃないですか。そこにバンドマジックみたいなものがある。最近はo-pngがシンセを弾くパートも増えたんですけど、HOMEはリズムやシンセがトラックで。そんな中でライブアクトとして何ができるかなと思ったときに、僕はバグを引き起こす存在でありたいと思いながらギターを弾いてます。ライブは我々が生きているということを刻みつけるものだと思ってますね。
―seigetsuさんから見て、最近のバンドの状況についてはどうですか?
seigetsu:(そっと親指を上げる)いい感じです。そろそろやりたいことと求められることの塩梅を考え出す時期なのかもしれないですけど、やりたい音楽をやるのが僕らの仕事なので。
shun:客が求めているものに僕らが反応するなんてナンセンスだと僕は思っていて。僕らが「これをかっこいいんだ」と信じているものを出していく。それに反応する人がちゃんといたら嬉しい。まずは我々が本当に満足できるものを作っていくことが最重要だと思ってます。僕らがやってることがどれだけ先鋭的で洗練されたものなのかもまだ伝わりきってないと思っているので、それを伝えきるまではやめられないです。「Still Dreaming」ということですね。
<INFORMATION>
HOME
『HOME EP2』
配信中
https://orcd.co/home-ep2
『HOME PARTY'24 FALL - ONEMAN LIVE』
2024年11月8日(金)東京 渋谷WWW
しかし、その時点では情報があまりに少なかった。沖縄を拠点に活動する3人組・HOME。2枚目のEP『HOME EP2』を発表したタイミングで、「Lucy」をリリースする前のことからじっくりと話を聞き出し、オルタナティブロックやビートミュージックを混ぜながらトレンド最先端をいく彼らの美意識と鋭い音楽的センスについて探らせてもらった。
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―HOMEにとって、音楽を作るうえでのいちばんの原動力は何ですか?
o-png(PC):「ビビらせたい」かもしれないです。まず、メンバーの2人をビビらせたい。まだないものを発明したい、みたいな気持ちで音楽をやっているかなと思います。
shun(Gt):僕はどちらかというと「めっちゃいいものを作りたい」という視点が強くて。もともとロックバンド育ちの人間なので、純粋に「いい曲」みたいなものに惹かれちゃうんですよ。僕の軸には「グッドソング」「グッドメロディ」があって、『HOME EP2』でいうと「Memories」はその意識で書いた曲です。でもギタリストとしては「発明」みたいに弾くことが面白かったりもします。
seigetsu(Vo):最終目標は、俺の歌で人を殺したいです。
shun:すごいなあ、めっちゃいいね。
seigetsu:(歌は)人の心を動かす最大のエネルギーだと思うから。救うこともできるし。俺の歌を聴いて自分から命を絶つという選択ができるくらいの力を持ちたいですね。
seigetsu(Photo by Mitsuru Nishimura)
―誰かの人生における究極の選択まで変えられるくらいの力ある歌を歌いたい、ということですよね。HOMEはデビュー曲「Lucy」から脚光を浴びましたが、そもそもどういう音楽をやろうとして集まったバンドなのか、原点から聞いてもいいですか。
shun:「Lucy」をリリースするまで、いろんなことがありすぎました。もともとは、こっち(shunとo-png)が同じ高校で、seigetsuは隣の高校の「歌うまTikTokバズりボーイ」だったんです。高2の後夜祭でRADWIMPS「そっけない」を歌っていたのを誰かが撮影してTikTokに載せて、それがめっちゃ注目されて。その噂をo-pngが聞きつけて、ちょうど2人で「ボーカリストがいたらいいね」という話をしていたので声をかけて、結成したのが2020年の高3の夏休み終わり。seigetsuは野球をやってたから、「甲子園の予選大会が終わるまではしばらく忙しい」って言われたのかも。
seigetsu:ああ、そうだったかも。
shun:ピッチャーだったもんね。
結成してから1年半くらいはカバーをたくさんやって、それをひたすらTikTokとかに載せたり、YouTube配信をしたり、そういうことばかりやってました。
―そのときは、どういう音楽をカバーしていたんですか?
shun:いちばんハネたのはORIGINAL LOVEの「接吻」。あとは松田聖子、yonawoとか。
o-png:歌謡っぽいものが多かったです。もともと「yonawoみたいなバンドがやりたい」って言って集めたんですよ。その頃はチルとか、そういうムードだったじゃないですか。よりオーガニックなシティポップみたいなものをやりたかったんですよね。
―1st EP『HOME EP』(2023年12月リリース)には、「愛のうた」とか、今言ってくれた要素が濃い楽曲もありますよね。
shun:1stは「Lucy」の前にできてたいい曲を詰めよう、という一枚だったんです。
seigetsu:「愛のうた」は、18歳くらいのときに作った記憶があります。
―そこからどのようにして「Lucy」のサウンドにたどり着いたんですか? これを1曲目に世に放ったということは、ここで「HOMEはこれだ」と思える何かがあったということですよね。
shun:実は鍵盤がいた時期があって、2022年3月の初ライブは4人編成だったんです。
それで2、3回くらいはライブをやったんですけど、2022年の夏頃に鍵盤が抜けることになって、「この三人でできることは何かな」と考えるようになったところから、それぞれが曲を書いて持ち寄るようになって。o-pngはJPEGMAFIAとかが好きで、バッキバキのエクスペリメンタル・ヒップホップみたいなものを持ってくるようになって、僕はオルタナロックとかが好きなのでノイジーな要素をぶち込みまくったりして、そうやって徐々に形が変わっていきました。「Lucy」は僕が持ってきた曲ですね。
―どんな想いから書いた曲だったんですか?
shun:めっちゃいい曲を書いたろうと思って。時代背景でいうと、The Weeknd「Blinding Lights」、The Kid LAROI & Justin Bieber「STAY」、Vaundy「踊り子」とかが流行ってて、それまでの音楽のトレンドはリズムがスローだったイメージがあるんですけど、そのタイミングからちょうどBPMが上がってきて、なおかつ、80sの要素もこれまでの10年とはまた違う形で取り入れられてるなと思って。HOMEはリズムが打ち込みという制約もあるので、その中で自分が何を持ってこられるかというと、ポストパンク以降のニューウェーヴとか、キラキラした感じのポップスだろうなと。そういうところから作ったのが「Lucy」でした。でも最初はメンバーから嫌がられた気がします。そもそもHOMEはロックバンドではなかったもんね。
o-png:僕らが作っていた曲の中で「Lucy」だけ違ったので、最初は「どうやって手をつけたらいいかわかんない」みたいな感じだったんです。でもライブでやっていくごとにどんどんフィットしていって、最初の曲がようやくできたのかなと思います。「Lucy」はHOMEにとって革命みたいな曲ですね。
o-png(Photo by Mitsuru Nishimura)
HOMEが考える「今の音」とは
―1st EP『HOME EP』を出したあと、2024年は『HOME EP2』にも収録されている3曲がシングルとしてリリースされました。前作からさらに音楽性の模索をした1年だったのだろうなと思うんですけど、どんなことを考えながら『EP2』の5曲を作っていたといえますか?
shun:『EP2』に関しては、よりモダンなポップスとして聴けるものを作りたいというイメージが僕の中でかなり明確にありました。『HOME EP』はわりとノスタルジー的なところが強い作品だと僕は思っていて、それはそれで素晴らしいものだけど、やっぱり僕らはノスタルジーだけで生きてないというか、ちゃんと今を生きているバンドだと思うので。今の音で、なおかつポップソングである、というものを作ってみたいというのが『EP2』の構想でした。
―打ち込みとオルタナティブロックの掛け合わせだとか、グローバルトレンドと共鳴している部分もありつつ、でもちゃんとオリジナリティがある。そういう音だなと感じるんですけど、HOMEは「今の音」というものを具体的にどのように捉えていますか?
shun:まず音響的にモダンに聴けることを意識しました。具体的にいうと、前作よりリバーブをかなり減らして、要は音が面で存在する感じではなくて、点で配置するようにしました。逆にリバーブを増やすところは思いっきり増やして、メリハリがつくようにもしたり。特にドラムのリバーブをかなり減らしましたね。
shun(Photo by Mitsuru Nishimura)
―シンセとギターがそれぞれ効果的に鳴るように、その2つの絡み方をうまくデザインすることも意識を新たにした部分があるんじゃないかなと思ったんですけど、そこはいかがですか?
shun:そうですね。ギターでいうと今までよりも点で弾く部分と、逆に押し出す部分をわけました。前はもっと線っぽいものがずっと続いていくイメージだったんですけど、今作はよりミュートの効いたものがあったり、逆にシューゲイズとかオルタナにもっと寄った歪んだギターを今までのパッドの位置に配置したり、そういうところがかなり変化したと思います。
シンセでいうと、今回はo-pngがかなり弾いてくれたりアレンジをやってくれたりして、彼の貢献度も高かったです。
―o-pngさん的に特に手応えが強い曲は?
o-png:「Tell Me」。さっきshunが言ったようなビートの鳴りもいちばんフィットしてる感じがします。後半はshunがシューゲイズとかの感じのギターを詰め込んでいたので、そこにシンセがうまく乗っかるように上の方でフレーズ弾いたんですけど、それがフィットしたなと思います。
shun:あの音色もいいよね。ポストハイパーポップ時代におけるシンセっぽい。「Tell Me」を作ったきっかけは、The Cure「Close To Me」を聴いたときに、1985年の曲なんですけどすごくポップで、音がミニマルで、現代的なふうに僕は感じて、それを今やることに意味があるなと思って。僕の好きなギターポップの要素を入れたり、リズムはかたくてモダンで、っていうバランスのものができあがって、最初のデモから手応えがありました。HOMEにおける新しいポップスの形がひとつできたなって思いましたね。
―最初にshunさんが「Memories」を挙げてくれましたよね。多くの人はこれを聴くとどちらかというと懐かしさを感じるんじゃないかなと思うんですけど、これこそがトレンドで。HOMEがこの曲で意識したモダン感について、言葉にしてもらうとどうですか? しかもこれ、最初はseigetsuさんではない人が歌ってますよね?
shun:今作の「モダンポップス集」というテーマの中でいえば、「Memories」と「Tell Me」の音が核だと思ってます。
「Memories」は、去年10月に韓国へ遠征に行ったタイミングに作った曲で。ソウルの街中はいろんなところで音楽が鳴っていて、韓国のインディロックっぽいバンドの曲とか、あいみょんの曲も流れていたんですよ。そういう空気に触発されて、泊まっていた宿で1時間くらいで書き上げました。seigetsuの専売特許的なメロディがHOMEをHOMEたらしめていると思っているから、自分がHOMEでメロディを書く必要はそんなにないと思っているんですけど、「Memories」は僕がメロディもほぼ作っちゃって、リードボーカルを取ることになりました。1番とサビは僕が歌ってるんですけど、2番のAメロで急にTohjiみたいなやつが乱入してきた感じが欲しいなと思って、そこはseigetsuが歌ってます。だからフィーチャリングっぽいイメージですね。曲自体はインディロックで、究極をいえばPixiesみたいなものを打ち込みでできないかなという発想で、なおかつ、そこにフィーチャリングでラッパーが入ってくるようなイメージで作りました。
―そもそも、普段どうやって曲が作ることが多いんですか? 基本、shunさんがトラックを作って、seigetsuさんがメロディと歌詞を書いてる?
shun:僕の曲は、僕がスマホのGarageBandでデモを作って、それをo-pngのパソコンに移し替えて、みんなでセッションしながらトラックを変えてもらったり、僕もその場でギターを考えたり、seigetsuにメロディや歌詞を作ってもらったり、という感じで作ってます。『EP2』は僕主導の曲が多かったので、ほとんどその方法でした。
―スマホのGarageBand!?
shun:あ、そうです。僕、パソコンが全然できなくて。クレジットカードも持ってないような男なんで、何もわかんないんですよ。現代人としての条件が何ひとつ揃ってない(笑)。
効果的な「歌」と「メロディ」とは
―seigetsuさんの歌や声質に関しては、どんな表現ができるものであると捉えていますか? モダンなサウンド感にseigetsuさんの歌声が乗ることで、ただ平坦なモダン感には収まりきらないのがHOMEのよさになっているんじゃないかと思うんです。
seigetsu:たとえば「Plastic Romance」は、よりモダンなポップスということで、ボーカルで聴かせた方がいいなと感じながらレックしてました。俺、あんまり目立ちたくないんですけど、これはボーカルで持っていく歌だなって感じて、前に出た方がいいなと思って。
shun:主役を引き受けるようになったよね。
seigetsu:……あんまりやりたくない。フロントマンには向いてない……。
shun:(笑)。そんな~!
―(笑)。shunさん、o-pngさんは、seigetsuさんの歌にどんな印象を持っているんですか。
shun:seigetsuはR&B、ジャズとかブラックミュージックも聴き込んでいて、初めてseigetsuの歌声を生で聴いたときから思っていることは、いわゆるカラオケ的なうまさというよりかは、曲の中でどう響くかということをすごく考え抜かれた歌だということで。『EP2』は、オートチューンの導入もありつつ、そもそもメロディに対してどう歌詞をはめるかが、リズム的な部分においても、かなり進化した作品だと思います。その中で、彼の言語感覚もまた面白くなっていたり、日本語、英語、韓国語まで混ざった歌詞があったり。「木目」の”木目はアトランダム~”の音ハメなんかは、「ようやるな」って感じ。ポップなんだけど、彼にしかできない領域のことをやっているなと思います。
o-png:seigetsuは裏声を入れるタイミングがめっちゃ面白いなと思います。ポップに裏声が入ってるから面白いですね。歌が覚えやすい感じで裏声を入れるけど、技術っぽくもある、そのバランスがいいなと思います。もともと僕はメロディのあるものがあまり好きじゃなくて、でもHOMEを通して好きになってる感じがあって。
shun:Skrillex生まれ、Suchmos育ちだもんな。
o-png:ギターでコードをジャカジャカ弾いて歌うような、フォークっぽいものとかが苦手なんですよ。今のUKポストパンクの人たちも結構好きで、それも理由はメロディがないから(笑)。だからHOMEは僕みたいな人にも刺さるかもしれないですね。普段はポップスを聴かなくて、ダンスミュージックとかを聴く、みたいな人たちも聴けるんじゃないかなと思います。
shun:邦ロック的なジャカジャカとしたバッキングを意図的に入れないようにしているから、それもデカいかも。それはHOMEにおけるマイルールのひとつだったりします。
o-png:助かるわ(笑)。
―苦手だから(笑)。でもそれは重要なポイントですね。ポップスに寄りすぎず、ポップスである、という線で新しい音楽を作ろうとしているのがHOMEである。
shun:俺、こいつと会ったのが高1なんですけど、軽音部の部室でギターを弾いてたら「6弦全部鳴らしてるのダサくね?」って言ってきて。それが俺の人生においてすげえ示唆を持った言葉になって。もっと少ない要素で成立させられるのであればその方がいいっていうのは、ある種のミニマリズムに基づいた考え方だと思うんです。それ以来、僕のギターに対する捉え方、弾き方が変わって、それがそのままHOMEに活かされていて、よりデザインするような感覚でギターを弾くようになった気がします。
o-png:確かに、その感覚があって今のHOMEの音楽性がある感じはしますね。
Photo by Mitsuru Nishimura
「海外でやればやるほど、日本語がいいなと思う」
―歌詞においては、どんなことを大事にしているといえますか。社会や時代に対しての言葉も含まれているなと思うんです。
seigetsu:ラブソングっぽく違うことを言う、というやり方にハマってます。全部、ラブソングっぽいですけど、ちゃんと読んだら違うというか。
―ラブソングを装いつつ、奥では、世の中に対して思っていることとかも表現しているということですよね。「木目」という言葉がポップスの歌に入ってて、しかもそれがタイトルになっているのがユニークだなと思うんですけど、これはどういう着眼点から生まれたんですか。
seigetsu:「木目」は喫茶店の木のテーブルを見て思いついたんですけど……エネルギーの流れ、というか。血管が詰まってるみたいで。人生の行き詰まりとか不安を、木目にたとえて書きました。
―「Still Dreaming」は、どういうことを表現しようと思ったのかを聞いてもいいですか?
seigetsu:自分のことをあまり話したくないんですけど、「Still Dreaming」は……最近の若者について書きました。なんていうか、健全じゃない考え方とか本能をしてるなと思って。間違ってんなあと。
shun:「魂を安売りするなよ」みたいなニュアンスをseigetsuから聞いて、そのことについては僕も最近色々考える機会があったから、「Still Dreaming」の歌詞はグロくてとてもいいなと思いました。seigetsuの歌詞には、『HOME EP』から明確な違いを感じていて。『HOME EP』は、表面的には「愛してる」が見えるように作られている気がしていて、『EP2』は「愛していた」というか、何かから離れていくこととか断絶みたいなものが印象的だった。単純にHOMEのメンバーの中でケンカしたり、あとは僕が妙な寂しさで狂ってた時期があったりして、僕の感情がソングライティングに反映されていたとも思います。
seigetsu:それを感じ取ってはいたかもしれないですね。
―HOMEはすでに韓国、台湾、シンガポール、モンゴルからもライブに呼ばれていますけど、そもそも英語の歌詞が多いのは世界の人に届くように、といった意識ですか?
seigetsu:最初は日本人がわからないように、と思って英語にしてました。もともと歌詞を書いていたわけじゃないので、最初は歌詞のない状態でライブしていて、英語風に歌っとけば大丈夫だと思って(笑)。でも最近はそれだと怒られるから、ちゃんと書くようになって、日本語が書けるようになりました。レベッカとかも通っているので、日本人の耳に聞き馴染みある曲は日本語が出てきます。本当は、日本語と英語を極力半々くらいにはしたいと思ってます。
shun:海外でやればやるほど、日本語で歌う方がいいなと思う。実をいうと僕は、むしろ日本語詞の方が海外にはウケる気がしてます。やっぱり英語は僕らのネイティブ言語ではないし、日本語に自分らの感覚が詰め込まれてる方がむしろいいんだろうなって。それこそフィッシュマンズとかゆらゆら帝国が評価されているのは、そういうところもあるんだろうし。
seigetsu:わかる。海外で日本語をやりたい。
―今後、バンドとしてはどんなことを成し遂げたいと思っていますか? そもそも結成した頃から、こうやってメインストリームで活動したいという想いはありました?
o-png:それは思ってました。
shun:今は自由にやりたいこともできているから、かなりいい状態にあると思います。でも全然満足しきってないですね。
o-png:この形態でやってる人がいないから、「やってるスポーツが違う」みたいな感覚で見られるところもあるんですよ。この形態のバンドが主流になったらいいなと思います。これが流行ったら、ようやく認められるんだろうなと思うから。
―日本はバンド文化も根強かったりするから、ライブハウスで、ドラムがいない編成でお客さんにどう熱量を伝えるのかは大きな挑戦ですよね。ライブの作り方で意識していることはありますか?
o-png:ドラマーに負けないように、というのはやっぱり強いかもしれないですね。
shun:バンドって、人が楽器を鳴らしているから、いつもと違う感じになったりミスが起きたりするわけじゃないですか。そこにバンドマジックみたいなものがある。最近はo-pngがシンセを弾くパートも増えたんですけど、HOMEはリズムやシンセがトラックで。そんな中でライブアクトとして何ができるかなと思ったときに、僕はバグを引き起こす存在でありたいと思いながらギターを弾いてます。ライブは我々が生きているということを刻みつけるものだと思ってますね。
―seigetsuさんから見て、最近のバンドの状況についてはどうですか?
seigetsu:(そっと親指を上げる)いい感じです。そろそろやりたいことと求められることの塩梅を考え出す時期なのかもしれないですけど、やりたい音楽をやるのが僕らの仕事なので。
shun:客が求めているものに僕らが反応するなんてナンセンスだと僕は思っていて。僕らが「これをかっこいいんだ」と信じているものを出していく。それに反応する人がちゃんといたら嬉しい。まずは我々が本当に満足できるものを作っていくことが最重要だと思ってます。僕らがやってることがどれだけ先鋭的で洗練されたものなのかもまだ伝わりきってないと思っているので、それを伝えきるまではやめられないです。「Still Dreaming」ということですね。
<INFORMATION>
HOME
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配信中
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『HOME PARTY'24 FALL - ONEMAN LIVE』
2024年11月8日(金)東京 渋谷WWW
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