俳優ジョー・キーリーが、ミュージシャンとして名乗る別名義、Djo。彼が2022年にリリースした2ndアルバム『DECIDE』収録の「End of Beginning」は、2024年にTikTokでバイラル・ヒットし、Billboard Hot 100で最高11位を記録した。
そして2026年初頭、『ストレンジャー・シングス 未知の世界』の完結を機にふたたび火がつき、ついに最高6位までのぼりつめる。リリースから3年以上を経た、遅咲きのヒットだ。

そんなタイミングで、その『DECIDE』の日本盤がリリースされた。最新作『The Crux』(2025年)も高い評価を獲得するなか、来日した彼に、予期せぬバイラルの受け止め、パンデミック下に作られた『DECIDE』の再評価、そしてニューヨークのエレクトリック・レディ・スタジオで作った最新作『The Crux』までを訊いた。「ラッキー、っていう感覚かな」。そう語り始めた彼の口から、3枚のアルバムを経て見えてきた、Djoというアーティストの輪郭が浮かび上がってくる。

Photo by KIZEN ZHAO

「Djo」ジョー・キーリーが日本で語る、音楽家としての数奇な歩み「ラッキー、っていう感覚かな」


いま振り返る『DECIDE』の価値

ー「End of Beginning」が、リリースから3年以上経って大ヒットしました。今年はBillboard Hot 100のトップ10にも入っています。この現象を、いまどう受け止めていますか?

Djo:ラッキー、って感覚かな。今でもしょっちゅう自分に言い聞かせているのは、これがどれほどランダムで、どれほどラッキーなことなのか、っていうこと。こういうことって毎回起こるわけじゃないから。そして、あの曲が自分からオーディエンスを見つけに行ったことは、本当にクールだよ。


ーデビューアルバム『Twenty Twenty』から『DECIDE』まで、Djoの歌詞はスマートフォンやSNSへの違和感をくり返し書いてきました。その一方で、今回のヒットはSNSが曲を広げた結果でもありますよね。

Djo:人生って面白いよね。本当にそれくらいしか言うことがない。正直、まったく予想していなかったから。今でも僕自身、SNSとの「押したり引いたり」がずっと続いている。中毒性が本当に高くて、いくらでも時間を無駄にできてしまう。これは本当のことだ。それに、SNSは自分の世界をすごく小さく感じさせる。

でも一方で、SNSがなかったら、あの曲があんなふうにならなかったのも事実なんだ。だからそれを受け入れて、感謝できるところには感謝して、そして「SNSの裏側にはちゃんと人がいて、その人たちが曲をシェアしてくれたんだ」って意識する必要がある。それは間違いなく大きな部分を占めていた。
そういうふうに物事が動くのって、なんだか面白いよね。

ー今「End of Beginning」経由で『DECIDE』に再び注目が集まっていますが、2026年のあなたから見てどんなアルバムに見えていますか?

Djo:あのアルバムで一番大きいのは、作っていた時期そのものに強く影響されてるってこと。パンデミックの最中で、(共同プロデューサーの)アダム・タインとはオンラインでやり取りしながら作っていた。だからサウンドにもその状況がそのまま反映されている。

正直に言えば、リリース当時はちょっとフラストレーションがあったんだよ。ライブで再現するのが難しかったから。でも今はぐるっと回って戻ってきて、新しい形で本当に評価できるようになった。あのときに自分たちが目指していたものに対しても、今のほうがきちんと向き合えている。一時期は「もう振り返るほどのものじゃない」とすら思っていたんだけど、いまは違う角度からインスピレーションをもらっている。こういうことっていつも起きるわけじゃないから、すごくうれしいよ。

ー『DECIDE』はとくにエレクトロニックなサウンドが特徴的だと思います。過去のインタビューでダフト・パンクからの影響に触れていましたが、そのことをもう少し詳しく聞かせてください。


Djo:ダフト・パンクって、たぶん両親が知らなかったバンドなんだ。だから自分だけのものっていう感覚があった。すごく未来的に響いたんだよね。あのサウンドのテクスチャに、僕の心にダイレクトに語りかけてくる何かがあってさ。このアルバムでは、それを少しエミュレートしようとしていた。

でも、その根っこにあったのは「自分たちで勝手に課している境界を全部取っ払ってみたい」ということ。「自分たちはバンドだから、ギター・ベース・ドラムでどう構築するか」と考えながら曲を作ってきたのを、一度全部窓の外に放り投げて、とにかく違うサウンドを出そうとしたんだ。

だからダフト・パンクからの影響は本当に大きかったし、今もそれは続いている。『The Crux』ではそこまで直接的じゃないかもしれないけれど、それでもいま、音楽全体への彼らの影響を考えると、もう「浸透しきっている」存在だよね。

ーそして今回、その『DECIDE』が日本盤としてリリースされます。自分の作品が日本であらためて出ることについてどう感じていますか?

Djo:本当にクールだよ。僕が大好きなアーティストの多くも、こうやって国ごとにリイシューを出してきている。
だから、こうしてこの国に来て同じことができて、しかも少し滞在する時間まで取れるっていうのは、本当にありがたいんだ。

それに日本のカルチャーからは間違いなく影響を受けていたし。『DECIDE』のジャケットを見れば伝わると思うけど、子どもの頃にアニメ『遊☆戯☆王』をたくさん観ていたし。

最新作『The Crux』と音楽に向き合うこと

ー最新作『The Crux』はこれまでの2作が割とベッドルーム的な制作プロセスだったのに対して、よりクラシックなロック・サウンドが前面に出てきていますよね。

Djo:『DECIDE』の終盤で、何曲かを家じゃなくスタジオで仕上げる機会があったんだ。そのときに「うわ!スタジオで録音するほうが圧倒的にいい」って思った。だから次のプロジェクトに入るときには、最後だけスタジオを使うんじゃなくて、最初からスタジオで作りたかった。
とはいえ、そこにたどり着くには、自分で段階を踏んでいく必要があったんだ。「こいつならスタジオで作業できる」って周りに信用してもらわなきゃいけないからね。だから今回の決断は、つきつめれば「スタジオで録音できる手段が手に入ったかどうか」、それだけの話だった。前からやりたい気持ちはあったけど、お金もコネもなかった。でも、今回はそれができたんだ。


ー今回はジミ・ヘンドリックスが創設し、数々の名盤がレコーディングされたエレクトリック・レディ・スタジオでレコーディングされていますよね。あのスタジオを選んだ理由は?

Djo:うん、ちょっとした「キスメット (kismet)」だった。運命的な巡り合わせというか、まあチャンスだね。マネージャーが、あのスタジオを20年所有してマネジメントしている人物を知っていて、ちょうど僕がニューヨークに引っ越すタイミングで出会ったんだ。スタジオを見に行ったら、「これは縁だな」っていう感じになった。

あそこのリソースは本当に無限で、信じられないような機材が全部揃っている。あの場所にいられるだけでインスピレーションをもらえるし、いろんなアーティストが入ったり出たりしていて、ニューヨークという街そのものの感覚もある。ああいう場所は本当に珍しいよ。マンハッタンの賑やかなど真ん中に、あんなにユニークなスタジオがあるんだから。

「Djo」ジョー・キーリーが日本で語る、音楽家としての数奇な歩み「ラッキー、っていう感覚かな」


ー『The Crux』を聴くと、ジョン・レノンやLCDサウンドシステム、ヴェルベット・アンダーグラウンドを連想する瞬間があって、「ニューヨークの作品」という印象を受けました。実際にニューヨークへ移り住んだのには、何か理由があったのでしょうか?

Djo:ニューヨークに住むっていうのは、それ以前から自分の中で決めていたことだったんだ、純粋に自分のためにね。ずっとあそこに住みたいと思っていた。
僕はボストン出身ですごく近いし、双子の妹がニューヨークに住んでいる。だから僕にとって移る理由はたくさんあった。

でも、いま名前を挙げてくれた人たちの少なくとも何人かは、エレクトリック・レディで録音している、と言われると面白いよね。あそこは「みんな人生のどこかで一度は通る場所」みたいなところがあるから。たくさんのクールなプロジェクトが生まれてきた場所と同じ場所で作業できるのは、本当にインスパイアされるよ。

ーこうして3枚のアルバムを並べてみると、最初は俳優ジョー・キーリーと切り離されていたDjoが、だんだん重なってきたように見えます。匿名の別名義から、素顔に近づいてきた。その変化は、自分でも感じていますか?

Djo:うん、まさにその通りだと思う。初期の頃の意図はまさにそうだった。

そして今回は、すべてに対してもう少し自分でオーナーシップを持つこと、そして、ある種「音楽に向き合う」ことが軸になっていたと思う。匿名性っていう部分の重要度はどんどん下がっていって、その代わりに「音楽を通じて正直であろうとすること」、そして「その時々の自分の人生で抱えているものを、音楽でカタルシスとして処理していくこと」のほうがずっと大事になってきた。自分にとっては、人生で起きていることに向き合う手段として音楽を使うのは、本当に楽しい作業なんだ。

「Djo」ジョー・キーリーが日本で語る、音楽家としての数奇な歩み「ラッキー、っていう感覚かな」


本記事を執筆した照沼健太は、「てけしゅん音楽情報」でもDjoにインタビューを実施

「Djo」ジョー・キーリーが日本で語る、音楽家としての数奇な歩み「ラッキー、っていう感覚かな」

Djo ジョー
『Decide ディサイド』
国内盤:2026年6月3日(水)発売
2,700円+税 Blue-spec2
日本語入り独自アートワーク仕様、解説・歌詞・対訳つき
予約・視聴:https://SonyMusicJapan.lnk.to/Djo_DECIDEjp

ソニー・ミュージックによるジョー日本公式サイト
https://www.sonymusic.co.jp/artist/Djo/
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