『ドライブ・マイ・カー』出演の韓国人俳優ジン・デヨンが日本で...の画像はこちら >>

第74回カンヌ国際映画祭では日本映画初の脚本賞ほか4冠、第94回アカデミー賞では国際長編映画賞を受賞した、村上春樹の短編小説を原作に映画化された話題作『ドライブ・マイ・カー』。本作で演劇祭の韓国人スタッフ・ユンス役を演じていた俳優ジン・デヨンが芸能事務所「サンズエンタテインメント」に所属し、日本での芸能活動をスタートさせた。

身長180cmの高身長で、俳優としては遅咲きとなるジン・デヨンさん。作中では優しい笑顔が印象的だったが、実際はどんな人なのだろうか。2024年春公開の映画『ペナルティループ』への出演もすでに決定している彼に、『ドライブ・マイ・カー 』の撮影エピソードや今後の目標などの話を聞いた。

――アカデミー賞で国際長編映画賞に輝いた『ドライブ・マイ・カー』。昨年、濱口竜介監督や主演の西島秀俊さんらキャストの方々と出席した授賞式はいかがでしたか?

デヨン いつかは韓国の映画祭で賞をもらいたいなと思っていたんですけど、アカデミー賞授賞式なんて行きたくても行けない場所なので「アメリカの授賞式!? 私も行くの?」って思いました。会場に着いてもずっと「私、今ここに存在しているの?」みたいな感じでした。

どこを見ても映画で見てきた俳優さんばかりで、ここは素晴らしい世界だなと思って! 子供に戻って夢の中にいるような気持ちになりました。あの世界を一度見てしまったから、またいつか行ってみたいって思っています。

――あの舞台に立った人しかわからない貴重な経験ですね。好きな日本の俳優さんは西島さんだそうですが、共演する前から知っていたんですか?

デヨン はい。初めて見た日本のドラマは『僕とスターの99日』(フジテレビ系)で、西島さんと韓国の女優さん(キム・テヒ)が出ていたんです。気になって日本の友人に聞いたら、西島秀俊さんと言う方で日本でも素晴らしい俳優さんだと知りました。

そこから他の作品も見るようになって大ファンになったんです。

『ドライブ・マイ・カー』出演の韓国人俳優ジン・デヨンが日本での芸能活動をスタート!「"隣のおじさん"みたいな俳優になりたいんです」
ジン・デヨン

――西島さんと共演したくてオーディションを受けたんですか?

デヨン 最初は詳しいことは分かりませんでした。韓国のオーディション情報サイトで見つけたんですけど、タイトルも監督や出演者の名前も非公開で「日本語を話せる韓国人の俳優を探しています」だけでした。リモートの一次審査で濱口監督と初めてお会いして、二次審査通過の電話で「受かりました。主演は西島秀俊さんです」って言われて「え? 西島さん !?」ってそこで知りました(笑)。

――運命的に導かれていますね。

デヨン 私は運命だと思っているんです。本読みのときに初めてお会いしたのですが、画面で見るよりもっとカッコ良くて緊張してしまいました(笑)。西島さんは私の緊張に気づいて、「デヨンは日本に来たことがありますか? 何が好きですか?」って声をかけてくださり、それからいつも現場で声をかけてくださいました。

――濱口監督の現場はどうでしたか? 

デヨン 撮影が終わった後、夜遅くても毎日本読みをしました。私がいつも「頑張ります!頑張ります!」と言うので、監督は「いや、頑張らなくていいです。デヨンさんは笑顔が本当にステキだと思うので笑顔を忘れないでください」と言ってくださいました。

――濱口監督といえば、本番まで感情を入れず何度も本読みすることでも知られています。『ドライブ・マイ・カー』でもそういうシーンありましたね。

デヨン 同じです! たぶん、西島さんの演じた役は濱口監督なんだと、みんなそう思っていました。舞台って1ヶ月ぐらい稽古して合わせたものを本番で出しますが、濱口監督はキャラの解釈とか分析とか、何もいらないんです。「ただ読んでください」って、でもこれが本当に難しいんです! だけど撮影はずっと楽しかったです。この作品に出演できたことで私もやればできるのかなって勇気をもらいました。



『ドライブ・マイ・カー』出演の韓国人俳優ジン・デヨンが日本での芸能活動をスタート!「"隣のおじさん"みたいな俳優になりたいんです」
ジン・デヨン

――そんな笑顔がステキなデヨンさんですが、日本の芸能事務所サンズエンタテインメントに所属。どういう経緯で入ったんですか?

デヨン 以前から日本に住んでみたかったんです。初めて日本に来たときに日本人の知り合いができて、日本の映画やドラマも好きになって、『ドライブ・マイ・カー 』にも出演することができたので、人生初めての海外生活は日本にしたかったです。「日本で芸能活動をする方法はないですか?」って周りに相談していたらご縁がつながったんです。

――元イエローキャブの野田社長(野田義治)が会長を務める芸能事務所でもあります、もうお会いしましたか?

デヨン 「伝説の人物」って聞いていました。ご挨拶だけしたのですが、やっぱり伝説の人物みたいなオーラがありました。

私を拾っていただいたので、本当に感謝しているんです。

――すでに日本で、オンライン講座サービス「HAPPY PLUS ACADEMIA」内の韓国講座に出演するなど新しい仕事に挑戦しています。というか、日本語お上手ですね!

デヨン いやぁ、私やっぱり日本語はまだまだだと思っているんです。発音とかイントネーションがめちゃくちゃで、完璧な文章になってないです。ちゃんと通じていますか?

――日本語でインタビューしても全く問題ないですし、熱く語ってくれるので感情までバッチリ通じていますよ。日本語は独学で覚えたそうですね。

デヨン 韓国人の先生がやっている日本語の授業のYouTubeを見て知らない単語を覚えたり、日本の映画やドラマを見たりして勉強しました。ドラマは言葉がわからないときから見ていたんですけど、「だんだん字幕なしでも理解できるようになって、それがうれしくてもっともっと、と勉強していきました。後は日本人と喋るようにしました。語学って間違えてもいいから勇気を出して喋った方が身につくと思います。

『ドライブ・マイ・カー』出演の韓国人俳優ジン・デヨンが日本での芸能活動をスタート!「"隣のおじさん"みたいな俳優になりたいんです」
ジン・デヨン

――勉強になります。では今後、日本でやりたいことは?

デヨン 私は俳優だから、演技がしたいです。日本では新人ですし、ワンシーンでも構いません! 本気で頑張って、チャンスがあったら「日本アカデミー賞」で賞をもらいたいです。でも小さい頃から人を笑わせるのが好きで、俳優やコメディアンになるのが夢でしたので、機会があったらいろいろな番組に出てみんなを笑顔にしたい。それが今の抱負です。

――デヨンさん、こんなに気さくで話しやすい方だとは思わなかったです。取材開始の30分以上も前からいらっしゃっていて、背が高くてかっこいいので目立っていました。

デヨン 私が......? カッコいいと思ったんですか? それはヤバいです、カッコいいなんて言われたことない。だから私、 気楽にコミュニケーションできる"隣のおじさん"みたいな俳優になりたいんです。感謝の気持ちを忘れない人間になりたいです。

――ところで、日本のファンはなんて呼んだらいいですか? ニックネームというか。

デヨン 「私のデッちゃん」って呼ばれたいです! 私、意外とかわいいところもあるので(笑)そこも知ってもらいたい。日本でのお仕事お願いします!

『ドライブ・マイ・カー』出演の韓国人俳優ジン・デヨンが日本での芸能活動をスタート!「"隣のおじさん"みたいな俳優になりたいんです」
ジン・デヨン

●ジン・デヨン
1981年7月23日生まれ、韓国・釜山出身。身長180cm。
趣味=日本のドラマ鑑賞、散歩 特技=テコンドー二段
○2009年に韓国で俳優デビューし、コメディ、ミュージカル等の舞台、映画に多数出演。2021年公開の映画『ドライブ・マイ・カー』に出演して話題に。集英社のオンライン講座サービス「HAPPY PLUS ACADEMIA」内の「ドラマから学ぶ、生きた韓国語講座」にスペシャルゲストとして出演中。今年公開予定の映画でも出演が決まっている。
公式Instagram【@zin__dae__yeon】

取材・文/釣本知子 撮影/篠田直人