本格導入から1年、中央線グリーン車の楽しさを市川紗椰が解説の画像はこちら >>

楽しい楽しい、中央線グリーン車、一度乗ってみてください

『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。

今回は「中央線グリーン車」について語る。

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中央線にグリーン車が導入されると聞いたとき、多くの人が「え、いまさら?」という軽い違和感を抱いたと思います。すでに東海道線や宇都宮線には当たり前のように存在していた〝座れる普通列車〟が、なぜあれほど混雑する中央線に限ってなかったのか。不在のほうが不思議だったとも言えます。

導入の背景はシンプルで、中央線というあまりに混む路線で「全員は救えないけれど、座りたい人には選択肢を用意する」という現実的な判断。そうしてグリーン車導入が発表されたのはずいぶん前で、2015年のこと。10両編成を12両に延ばし、2階建てグリーン車を差し込むというものでした。

コロナ禍や半導体不足で、その工事や調整に時間がかかり、24年10月にようやくサービス開始。当初は「グリーン車お試し期間」としてグリーン料金無料とし、25年3月にようやく有料化に至ったという遠回りも、いかにも中央線らしい慎重さでした。中央線で通学する〝中央線っ子〟として高校時代を過ごした私にとっては、「待ってました!」と言いたくなるような気持ちでした。

そして、本格的な導入から1年余り。評価はきれいに割れてるような印象です。

確かに座れる安心感は圧倒的で、特に30分以上、中央線に乗る人にとっては「もう戻れない」という声もある。

一方で、そもそも短距離利用のユーザーが多い中央線では、価格に対する心理的ハードルが高く、「そこまでして乗らない」という拒否感も根強い。無料期間には満席だったのに、有料化すると急に空席が目立つようになった、というあたりも妙に正直(時間帯や時期によっては、グリーン券を購入していても座れないこともあるけど)。

そして何より象徴的なのは、グリーン車ができても普通車の混雑はほとんど変わらないという事実。快適な空間と、いつもの満員電車が、同じ編成の中に同時に存在している。この分断された世界の同居こそが、中央線という路線のリアルな姿なのかもしれない。

けれど、そういった議論とは別に、実際に2階席に座ってみると楽しさが立ち上がってきます。

御茶ノ水から四ツ谷へ向かう外堀沿いの区間では、線路が地形の断面に沿って走っていることがよくわかる。外堀の水面と石垣、その上に積み重なる都心の建物。御茶ノ水の駅が川と崖に挟まれた立体構造なのを体感できるし、四ツ谷駅周辺は外堀の水面に近いこともよくわかる。

釣り堀と電車が共存している市ケ谷の不思議な光景など、普段は通過してしまう景色が、少し高い視点からゆっくりとほどけていく感じがして、最高に楽しいです。

高層ビルが立ち並ぶ新宿から西へ進み、中野を過ぎて杉並区に入る辺りでは、低層の住宅地が連なり始める。

高円寺や阿佐ケ谷、荻窪へと続く車窓では、住宅の屋根の高さがちょうど目線に合い、庭の木やベランダの気配がふと現れる。地上からは見えない生活の断片が、ふいに窓の外を横切る。都市を観察する装置としての中央線グリーン車、素晴らしいです。

まだ乗ってない方、ぜひ! 大都会で静かなひと時を過ごし、リフレッシュできます。

●市川紗椰
米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。2階の席から見る三鷹車両センターと、神田駅と御茶ノ水駅の間にある松住町架道橋もオススメ。公式Instagram【@its.sayaichikawa】

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