『孤独のグルメ』原作者で、弁当大好きな久住昌之が「人生最後に食べたい弁当」を追い求めるグルメエッセイ。今回『孤独のファイナル弁当』として取り上げるのは「豚焼肉弁当」。
孤独のファイナル弁当 vol.28「豚焼肉弁当499円は、安すぎるのか?」
朝の散歩をしている時にこの連載の締め切りを思い出し、帰りに弁当を買った。駅前のスーパーで「豚焼肉弁当」。見てすぐ「豚焼肉弁当、長いこと食べてないかも」と思って、手に取った。499円は安い。安すぎる気もする。ごはんがなんとなく白すぎるのが気になった。家では玄米ごはんとか麦ごはんだからだろうか。
「500W電子レンジで約2分」と書いてある。今日は仕事場でなく自宅で食べるので、帰ってさっそく書かれてあるとおりに温めた。取り出して蓋を開けたら熱い湯気が出た。こういう弁当は久しぶりだ。
さて、まずはゴマのかかった白いごはんをひと口食べた。
あー、見た目に思った「白すぎるごはん」の味がする。それが熱い。熱すぎるかもしれない。なんというか、味があまりしない。なぜだろう。これは冷たいままのほうがまだよかったかもしれない。
それから肉を食べた。普通においしい。甘い焼肉のタレでないのがいい。玉ねぎが一緒に炒められているのがいい。玉ねぎうれしい。ショウガは入ってないようだ。
で、ごはんを食べる。豚焼肉とごはん。合わないわけない。それは口の中で咀嚼しながらそう思う。が、何か決定的に物足りない。やっぱりごはん、かなぁ。熱いごはんに、おいしさをあまり感じない。俺は贅沢を言っているのか。口が奢っているのか。
試しに、白ゴマを出していっぱい振りかけてみた。玄米ごはんはこれが効く。格段においしくなる。
ところが、白ゴマがいつもの働きをしない。効果があまり感じられない。なぜ?
でも豚焼肉はなかなかおいしい。間違いなくごはんに合う味。どうしたことか?
お新香的なものがあったらいいのか。そういえば香の物は入っていない。それで考えて、冷蔵庫から梅干しを出した。福井若狭の紅さし梅の梅干しで、現地で買って以来こればかり。添加物の味がせず、塩っぱすぎず甘くなくて最高においしい。
これは効果がありました。ごはんが助けられた。梅干しに励まされた、と言ってもいい。
いつもは弁当に入っている付け合わせのスパゲティ、意味がなさそうなのに好きなんだけど「今日は別にいらないかな」という気持ちになっていた。それが、梅干しの登場で最後の楽しみに返り咲いた。
もちろんここに家で作った豆腐とネギの味噌汁でもあればもっとよかった。ピーマンとミニトマトを五島列島の塩で炒めたやつがあったらずいぶん違っただろう。いや、思い切って目玉焼きを焼いて、このごはんの上にのっけて醤油をひとたらししたら、別のものになっただろう。
そういう妄想を抱きながらなんとなく完食。スパゲティも最後の一本まで楽しかった。よれよれのレタスもおいしゅうございました。妙な自宅弁当だった。白すぎるごはんには少し気をつけよう。
―[連載『孤独のファイナル弁当』]―
【久住昌之】
1958年、東京都出身。漫画家・音楽家。代表作に『孤独のグルメ』(作画・谷口ジロー)、『花のズボラ飯』(作画・水沢悦子)など。Xアカウント:@qusumi
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