―[貧困東大生・布施川天馬]―

みなさんは、いまの自分の仕事や立場は、自分の手で選んだと言い切れますか?
実家の都合や地元の風習など地縁・血縁に縛られながら、本当に目指したかった夢を諦めた……なんて方も、多いのでは。

令和の世の中では、「子どもたちの将来は子どもたち自身が決めるべき」が大前提。


探究活動に、学習支援、キャリアアドバイザーの常駐など、とにかく子どもたちが自分の進みたい道を早期に発見でき、そこへ突き進めるように、あらゆる手段が講じられます。

ただし、これですべてが解決するわけではありません。

地方が故の情報の少なさや、金銭的余裕のなさなど、様々な外的要因によって、私たちの未来は容易に規定されます。

恐ろしいのは、これがみなさんを表立って縛り付けないこと。

「東大に行けるのに行かない」“地方の秀才”の問題点。「アンダ...の画像はこちら >>

令和の進路指導が抱える闇

例えば、これまでに本気で『東大やハーバードを目指そう』と考えたことが何度あるでしょうか?

逆に、「お前は東大に行くな」「ハーバードなんて行くな」なんて、言われたことが何度あるでしょうか?

もちろん、全てがそうとはいいませんが、「行くな」と明言された経験がある方は、きっと少数派なのでは。

それにも関わらず、様々な人が「東大」「ハーバード」などを無意識のうちに選択肢から外している。

おそらくここまでを読まれた方は、「そんなこと言われても、だって無理じゃないか」と反論しているでしょう。誰にも、あなたに面と向かって「無理だ」といったことが無いとしても。

これこそが「自由」を謳う令和の進路指導が抱える最大の闇である「アンダーマッチング」。

あまり知られていないかもしれませんが、実はあなたが、周りの子どもたちの未来を奪っているかもしれない。日本全土を覆う病理の正体に迫ります。

子どもの未来をふさぐ空気

アンダーマッチングとは、「本来ならば優れた学力やポテンシャルを持つ学生が、自分の学力水準よりも低い難易度や選択性の低い大学・教育機関に進学する現象」を指します。

要するに「本当なら東大に行けていたかもしれないのに、なぜだか地元の国立大学に進学してしまう」といった事象です。

日本の大学受験は、どんな身分、地域の方にも門戸が開かれています。


特に、ペーパーテストの点数をもってして合否を判断する一般入試の支持率が未だに下がらないのは、「どんな人間でも、テストの点数さえ取れれば認められる」高度な透明性のおかげでしょう。

だからこそ、ここまでを読んだ方は「いやいや、学力が十分にあるならば、地元の大学なんて選ばないだろう。それは、勝手に東大にビビって出願を取り下げただけで、地元の大学にした自分が悪い」と思われた方もいるのでは?

なるほど、確かに「出願していないのは自分の責任」と言われれば、そうである気もする。

では、冒頭で聞いた質問に戻りますが、みなさんは「東大(ハーバード)に行こう!」と思ったことがありますか?

または、「そんな大学行くな!」といわれたこともないでしょう。

なぜなら、自分も周囲も無意識のうちに「無理だから」と思い込み、選択肢から除外してしまっている……。

モデルケースの不在がアンダーマッチングを増加させる

アンダーマッチングが起きる要因は、様々です。

ひとつは経済的不安。学費はもちろんのこと、地元を離れて一人暮らしを始めるにも、お金がかかります。

さらに、「情報とサポートの不足」も挙げられる。

「お子さんは天才だ!イギリスの大学に進学されては?」と勧められても、首を縦には振りにくい。

ビザの取得は?大学入学時の書類は誰が書いて、誰が内容をチェックする?現地での住居は?そもそも、生活費はいくら必要か……パッと思いつくだけでも、これだけの疑問が浮かぶ。そして、これにすらすらと答えられる専門家は、そう多くありません。

せめて、先輩(モデルケース)がいれば、その人に聞けるのに。


日本で一番東大合格者が多い開成をはじめとして、毎年東大合格者数を2桁以上出す学校はある程度同じ顔触れがそろいます。

それは、「校内順位○位くらいが東大合格ライン」「遊んでばかりいた○○先輩ですら、東大に行ったらしい。なら、俺も……」と、とにかく参考にできる情報が多く、東大受験へのハードルが低いことが大きな要因なのです。

ちなみに、日本で一番東大”不合格者”を出すのもまた、開成高校であるといわれています。

100人以上の学生が「とりあえず東大」と挑みに来ては散っているのです。例年の合格者数を見る限りは、せいぜい上位150~200名あたりまでの学生までしか、勝算はないというのに。

これは、同校の「東大を受けやすい雰囲気」が多分に影響しているのではないでしょうか。

学力や指導体制だけをみれば東大生が続出してもおかしくない学校は全国にごろごろあります。

ですが、「医学部進学」「地元旧帝大進学」のモデルが「東大進学」より多いがゆえに、東大志望者自体がなかなか出ない。

バットを振る回数が少なければ、必然的にヒットも少なくなる。ヒット数が少ないから、バットを振るのが怖くなる……。そんな負のループが、今も全国の進学校で繰り返されています。


地元を出るのが怖い。お金で苦労をかけたくない。そもそも、自分にそんな実力があるのかわからない。だって、東大生なんてひとりもみかけたことがないのだから。

その結果、優秀な学生たちが、今年もまた地元の学校に引きこもってしまう事態が発生しているのです。

大人世代が「自由になる練習」を

確かに、東大や京大など、難関大進学が全てではありません。

ですが、「東大に行こうかな?」と考えてから「東大より、地元の大学に行きたい!」と選んだ場合と、東大進学をハナから諦めて、「行けそうな範囲」で選んだ場合では、全く意味が異なります。

挑戦できなかったと気づいたとき、その後悔は重くのしかかるでしょう。

挑戦に成功するか失敗するか、そしてその価値をどうとるかは本人次第です。私は「挑戦のタイミングすらわからず、機会を見送ってしまう子どもたち」を、日本からなくしたい。

日本の子どもたちに今一番足りないのは、英才教育を与える塾でも、屈強な体を鍛えるジムでもなく、きっと「夢を見る余裕」です。

挑戦するには、夢がいる。
そして、私自身が深く実感していますが、夢を見るには、金が要るんです。

子どもたちが、足元ではなく、上を見て安心できる世界を作る。そのために、我々大人ができることとはなんでしょうか。

少なくとも、「勉強をしろ」と行動を縛るものではないことだけは確か。きっと言葉では伝わらない抽象的な思いの伝播が必要です。

我々大人世代が、率先して「自由になる練習」を行うべきなのかもしれません。

<文/布施川天馬>

―[貧困東大生・布施川天馬]―

【布施川天馬】
著述家、教育ライター。 一般財団法人「ドラゴン桜財団」評議員。 1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を編み出し、一浪の末東大合格を果たす。著書に最小コストで結果を出すノウハウを体系化した『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』など。株式会社カルペ・ディエムにて、お金と時間をかけない「省エネスタイルの勉強法」などを伝える。
MENSA会員。(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)
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