「スピードを出して威嚇する」だけがあおり運転ではありません。今、路上で恐れられているのは、逃げ場のない場所で執拗に繰り返される「粘着型」の妨害行為です。

「令和7年版 警察白書」の最新統計によれば、路上でのつきまといと共通する心理を持つ「ストーカー事案」の加害者は、20代から50代まで幅広い世代に分布していることが浮き彫りになっています。「女性なら反撃されない」「自分より弱い」と踏んでターゲットを定める卑劣な心理は、世代を問わず路上で牙を剥いているのです。

今回は、過去に反響の大きかった実録エピソードから、温泉地へ向かう峠道や高速道路の出口で女性たちが遭遇した、ストーカーさながらの不気味な「つきまとい」の事例を振り返ります。警察官が明かした、卑劣な加害者が「ターゲットを定める基準」と、被害者が直面した恐怖の実態とは――。

記事の後半では、警察庁の膨大なデータを紐解き、数字が物語る「世代を問わず潜むつきまといのリスク」についてもさらに切り込みます。

【事例1】休憩所でも逃げ場を失った…恐怖の“あおり運転”


あおり運転してきた車に「なぜつけ回すんですか?」運転手の中年...の画像はこちら >>
 山口麻衣さん(仮名・30代)は、友人と2人で北海道の温泉へ向かっていた。峠道を走っていると、バックミラーに黒い車が映り込み、“ぴたり”と張りついてきたという。

「ずっと後ろにいて、友人も『これ、あおられてるよね』と不安そうでした」

 端に寄って追い越しを促しても、相手は一向に抜こうとしなかった。15分ほど続く緊張に、息が詰まりそうになったそうだ。ようやく小さな休憩所を見つけて停車したが、その黒い車もすぐ横に止まった。

「心臓がバクバクで、車から降りる勇気も出ませんでした」

 相手がトイレに立ち寄る様子を見て、少し安堵したのだが……。

「車を別の場所に移してから休憩をしたんですけど、再び戻ると黒い車がまた隣にあったんです。偶然ではないと思った瞬間、体が固まりました」

 そこへ、若い男性が「車の不調ですか?」と声をかけてくれた。
事情を説明すると、「もう一度移動してみましょう」と提案されたとのこと。恐る恐る車を動かすと、やはり黒い車はついてくる……。

 若い男性が黒い車の窓をノックすると、中から現れたのは無精ひげの中年男性だった。

「なぜ彼女たちをつけ回すんですか?」と問いただすと、「ムカつくから」と繰り返すばかり。意味不明の返答に、場の空気は凍りついたという。

 最終的に休憩所のスタッフが助けてくれたそうだ。スタッフと中年男性が話をしている隙に、「今のうちに、ここから出てください」と促してくれたことで、山口さんたちは無事に出発できたそうだ。

「助けてくれた人たちには、本当に感謝しかありません。あのときの恐怖は忘れられません」

【事例2】高速の出口で不気味な駆け引き


あおり運転してきた車に「なぜつけ回すんですか?」運転手の中年男性の呆れた答えとは…警察白書が物語る「女性被害」の実態も
高速道路
 高橋由紀さん(仮名・40代)は、高校生の娘を乗せて高速道路を走っていた。前の車が渋滞もしていないのに、低速走行や幅寄せを繰り返すなど、“不審な動き”をしていたという。

「距離をとろうと減速しても、相手も同じように合わせてくるんです。気味が悪くて仕方ありませんでした」

 高速道路の出口が近づいたためウインカーを出すと、前の車も同じタイミングで合図を出したそうだ。

 その異様さに高橋さんは咄嗟に直進へと切り替えた。
すると、相手は出口前で急停車。そしてその後も速度を合わせながら、執拗に前を走り続けた。

「娘が『警察に通報しよう』と言ってくれて、すぐに110番をしました」

 次の出口に差しかかるころ、相手の車はすでに出口を通り過ぎていた。高橋さんは、タイミングを見てウインカーを出し、先に出口に向かったという。

一瞬で行われたUターンと待ち伏せ


「やっと振り切れたと思ったんです」

 しかし、相手は広い車線を利用して一瞬でUターンをし、出口に進入したのだ。さらに、料金所へ向かう高橋さんの前に割り込んできたのだとか。

「本当に一瞬でした。“田舎の広い高速だからできた”動きだと思います」

 料金所を抜けると、相手は路肩に停車しており、まるで高橋さんを待ち伏せしているように見えた。その後、相手は対向車線へ戻り、再び高速へ消えていったという。

 警察と合流しコンビニで事情を説明すると、「女性2人は狙われやすい」と告げられ、恐怖が一層募ったそうだ。

「スピードを出してあおられるのも怖いですが、出口で待ち伏せされる執拗さはもっと不気味でした」

■数字が物語る「女性狙い」の実態

今回お届けしたエピソード。被害に遭った女性たちが感じた恐怖は、決して「運が悪かった」では済まされない、現代の路上に潜む構造的な問題を象徴しています。

最新の「令和7年版 警察白書」の統計によれば、路上でのつきまといと共通する歪んだ心理を持つ「ストーカー事案」は、極めて深刻な状況が続いています。


特に目を引くのは、被害者と加害者の年齢層のギャップです。

【ストーカー被害・加害の年齢分布(令和6年)】
※割合(%)

▼年齢:被害者(件数/%) |加害者(件数/%)
・~19:2340件(12.2%)|1088件( 5.6%)
・20代:6740件(35.1%)|3972件(20.3%)
・30代:4037件(21.1%)|3169件(16.2%)
・40代:3253件(17.0%)|3098件(15.8%)
・50代:1819件( 9.5%)|2501件(12.8%)
・60代: 594件( 3.1%)|1360件( 7.0%)
・70~: 385件( 2.0%)|1028件( 5.3%)
・不詳: 10件( 0.1%)|3351件(17.1%)
(出典:令和7年版 警察白書より)

このデータが示す通り、被害者は20代(6,740件)が突出して多く、30代まで合わせると全体の半数以上(56.2%)に達します。一方で、加害者は20代から50代まで各層で数千件規模に上っており、卑劣な執着心を持つ者が、世代を問わず路上の至る所に潜んでいる現実が浮かび上がります。

こうした「自分より弱い相手を執拗に狙う」という卑劣な心理は、今に始まったことではありません。

「平成25年版 警察白書」では、女性をターゲットにした卑劣な実態を詳細に分析していました。

当時は、暴行や傷害といった「粗暴犯」における女性被害の増加が社会問題となっていました。被害者全体に占める女性の割合は、平成5年には14.8%(約1万4000人)でしたが、平成24年には29.7%(約1万9000人)へと急増。この20年間で女性被害の割合が約2倍に跳ね上がるという、極めて異常な推移を記録していたのです。

現在、最新の警察白書において「ひったくり」や「すり」といった手口別の女性被害データが大きく扱われることは少なくなりました。それは、街中の防犯カメラの普及やキャッシュレス化によって、こうした路上犯罪そのものが激減したというポジティブな側面もあります。

しかし、データが示していた「抵抗されにくい相手を狙う」という加害者の歪んだ心理までが消え去ったわけではありません。その矛先は今、形を変えて「ストーカー行為」や、今回のような「粘着型のあおり運転」となって路上に現れているのです。


あおり運転してきた車に「なぜつけ回すんですか?」運転手の中年男性の呆れた答えとは…警察白書が物語る「女性被害」の実態も
刑法犯認知件数及び女性の被害割合等の推移(平成5~ 24 年)※平成25年版 警察白書より
あおり運転してきた車に「なぜつけ回すんですか?」運転手の中年男性の呆れた答えとは…警察白書が物語る「女性被害」の実態も
包括罪種別女性の被害割合の推移(平成5~ 24 年)※平成25年版 警察白書より
あおり運転してきた車に「なぜつけ回すんですか?」運転手の中年男性の呆れた答えとは…警察白書が物語る「女性被害」の実態も
主な罪種・手口別女性の被害割合の推移(平成5~ 24年)※平成25年版 警察白書より
事例2で警察官が口にした「女性2人は狙われやすい」という言葉。それは、加害者が「女性なら反撃されない」「自分の優位性を誇示できる」と侮っていることの裏返しでもあります。しかし、現在の法律においてその「甘い考え」は通用しません。

2020年に創設された「妨害運転罪」により、こうした執拗なつきまといや割り込み行為は、事故を起こさずとも一発で免許取り消し、最長5年の懲役が科される重罪となりました。一時の身勝手な「怒り」や「嫌がらせ」の代償として、彼らはその後の社会生活そのものを失うことになるのです。

もし、路上で思いもよらない「標的」にされてしまったら、どうかパニックにならず、ご自身の安全を第一に考えてください。そんな時は、次の3つの行動をそっと思い出していただければと思います。

① まずは、人の目がある場所へ
サービスエリアやパーキングエリア、コンビニなど、周囲に人がいる安全な場所へ避難してください。

② 車外には出ず、鍵を閉める
相手が近づいてきても決して窓を開けたり外に出たりせず、すべてのドアをロックして身を守ってください。

③ ためらわずに「110番」を
「これくらいで……」と遠慮する必要はありません。その場ですぐに警察へ連絡することが、ご自身と大切な人を守る一番の近道になります。

ドライブレコーダーが普及した現代、卑劣な加害者の振る舞いはすべて記録されています。
ハンドルを握るすべての人が、「その一時の感情が、誰かの人生を、そして自分の未来をも壊しかねない」という重い現実を、静かに見つめ直してほしいと願わずにはいられません。

あおり運転という言葉が過去のものとなり、誰もが怯えることなく、穏やかな気持ちで目的地へと向かえる――。そんな当たり前で、優しい路上になることを、切に願っています。

<取材・文/chimi86 再構成/日刊SPA!編集部>

【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。
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