―[連載『孤独のファイナル弁当』]―

『孤独のグルメ』原作者で、弁当大好きな久住昌之が「人生最後に食べたい弁当」を追い求めるグルメエッセイ。今回『孤独のファイナル弁当』として取り上げるのは「のり2段重ね高級海苔弁当」。
果たして、お味はいかに?

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孤独のファイナル弁当 vol.30「『高級2段海苔弁当』を買ってみた!」

「海苔弁」は昔から弁当の定番のひとつだ。

 子供の頃から、母親の作る弁当にも海苔弁はあった。

 白いごはんの表面に醤油をつけた海苔が敷き詰めてある。もうこれだけでおいしい。それが朝作られてお昼まで蓋を閉めて寝かしてある。時間が海苔弁を熟成した。

 もう少し凝ったものは、その白いごはんと海苔の間に鰹節が敷いてある。これはさらにおいしい。鰹節と醤油と海苔に醤油が染みたのを、午前中いっぱい寝かすと、味と香りが、弁当箱の中で「回る」。これがたまらない。

 さらに豪華な海苔弁は、この海苔が2層になっているものだ。断面図的にいうと下から「ごはん・鰹節・海苔・ごはん・鰹節・海苔」となっている。
これは作るのも面倒くさいだろうが(おかずはもはやなくてもいい)、それだけの価値ある弁当であった。その構造に気づいた瞬間は本当にうれしかった。この年になっても、その感激を忘れない。おかずなんてなくてもよかった。単調でも最後までずっとウマかった。

 今思ったけど、本当に一生の最後に食べたい弁当は、このシンプルな「2段重ね海苔弁当」かもしれない。

 その2段重ね海苔弁の既製品があり、その高級品があるのを、去年くらいに知った。その店の看板商品で、お昼近くなると並んで買っている人々がいるのだ。

 いつか買ってみよう、とずっと思いながらも「そんな高級な海苔弁は邪道だろう」という気持ちもあった。もしかして思い出の海苔弁の作者である母親に対しての遠慮があったのかもしれない。でもボクの「ココロの海苔弁」を作った母もすでに90歳を超えて施設にいる。

 よし、話の種に買ってみよう。
お値段は税込み1404円。さすが高い。いわゆるほか弁屋では300円台でも買える一番安い弁当だ。あれも好きだ。名称は「のり2段幕の内弁当」。幕の内と付くだけあって、おかずが充実している。高いのも頷ける。

 買ってきて、本当はもっともっと「寝かし」たかった。が、この弁当の場合に限り、できるだけ出来立てに近いほうがおいしいように思えた。実際、おかずは全部おいしかった。鶏唐揚げとカシューナッツなんて、母親の弁当では逆立ちしても出てこない。ゴボウの肉巻きもめっちゃ旨かった。
エビフライにウスターソースも最高。鮭もふっくらして高級感みなぎる。ポテサラもおいしい。がんもどきもしっとりして味がよい。

 ただ一点、海苔が箸で切れなかった。ごはんと一口分ずつ取って食べたいのに、一枚全部くっついてきてしまう。2段とも。食べにくい。海苔は主役なのに。味はいいのに。しかたなく両手で箸を交差して行儀悪く切った。これはボクの感激した海苔だけの海苔弁ではない。
快適に食べるにはナイフが必要だ。昔、海苔弁は子供でも箸でひと口ずつ食べられた。おいしかったが、ずっともどかしかった。

『孤独のグルメ』原作者が1404円の“高級海苔弁当”を食べてみた…食べ終えてもどかしく思ったこと/久住昌之
「のり2段幕の内弁当」(税込み1404円)。かつて感激したリッチな2層の海苔弁とは残念ながら違ったが、おかずも味つけも高級感がたしかに漂うおいしさ


―[連載『孤独のファイナル弁当』]―

【久住昌之】
1958年、東京都出身。漫画家・音楽家。代表作に『孤独のグルメ』(作画・谷口ジロー)、『花のズボラ飯』(作画・水沢悦子)など。Xアカウント:@qusumi
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