三ツ矢サイダー、コカ・コーラ、ペプシ……。さまざまな炭酸飲料があるなか、今まさにSNSや店頭で大きな話題となっているのが、サントリーの「ギルティ炭酸 NOPE(ノープ)」だ。

近年の健康志向のあえて逆をいく“ギルティ炭酸”を打ち出し、若年層を中心に人気が高まっているほか、機転の利いたプロモーションで認知度拡大につながっている。

同社にとって、約14年ぶりの大型飲料ブランドとなった今回の炭酸飲料。だが、なぜ王道の路線ではなくギルティ(背徳感)を軸にした商品を開発したのだろうか。

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NOPEのブランドマネージャーを務めるサントリー食品インターナショナル株式会社の大槻拓海さんに話を聞いた。

若者の「対人ストレス」や「SNS疲れ」を解消する行動に着目

まず、今回の新商品については「炭酸市場の成長鈍化」が背景にあるそうだ。

直近で目立った伸長が見られない要因を分析すると、特に20代~30代の若年層の流入が少なく、「この状況が続けば、炭酸カテゴリー全体が将来的に縮小していく可能性もある」と大槻さんは説明する。

こうした炭酸市場に新たな風穴を開けるべく、サントリーは2025年2月頃から新商品の開発に着手したわけだ。

開発にあたっては、「若年層が炭酸飲料に何を求めているか」を定量調査によって丁寧に掘り下げたという。その結果、「ストレスを解消したいときに炭酸飲料を飲む」という傾向が、他の年代と比べて若年層で特に高いことが分かった。

また、若年層とストレスの関係性を深掘りしていくと、上の世代とは異なるストレス解消行動が見えてきたと大槻さんは話す。

「少人数でサウナに行く。ひとりでカラオケを楽しむ。家で食事を摂りながら動画を観るなど、『個の時間』がストレス解消行動の主流になってきています。
その背景には、職場での人間関係やSNSなど、常に他者とつながり続ける環境による『対人ストレスの増加』があります。

こうしたストレスに対しては、従来のように『誰かと集まって発散する』よりも、『ひとりで距離をとりながら解消したい』というニーズが高まっていると考えました。今の20~30代の方々にとっては、“ストレスを溶かしていく”というアプローチが適していると捉えたのです」

さらに、人目を気にせず欲望のままに食べる「ギルティグルメ(背徳グルメ)」が食品市場のトレンドになっていることにも着目。高カロリーや高糖質など、ダイエットや健康に悪いとわかっていながらも美味しさに抗えずに食べてしまう、背徳感を伴うグルメのことだが、ラーメンやアイスクリーム、カップ麺といった「ギルティグルメ」が食品市場で軒並み成長しているという事実から、「炭酸飲料においても同様にチャンスがあると判断した」という。

「ひとりで自分の欲求に素直に向き合い、背徳感を楽しむ体験は、私たちが目指す世界観と非常に近いものでした。そこで、『ギルティ』というキーワードを飲料市場に根付かせ、新たな価値として定着させていくという方向性が固まりました」

炭酸飲料ではなく、「グミ」のトレンドから着想を得た

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2026年3月に発売した「ギルティ炭酸 NOPE」
では、炭酸飲料でギルティを具体的にどう表現するか。

目指したのは、「つい手が伸びてしまう、病みつきになる味わい」だ。

病みつきになる要素として、「甘さの濃さ(糖度)」「炭酸の強さ」「複雑で豊かな香り設計」の3点が揃うことで、“また飲みたくなる体験”につながることが調査で見えてきたとのこと。

NOPEはこれら3要素をバランスよく高め、「ギルティ炭酸」として満足感のある味わいの実現に向けて開発を進めたという。

特徴的なのは、類似商品の味わいをベンチマークにするのは意図的に避けた点だ。

特定の商品を参考にしてしまうと、新しいカテゴリーを生み出すのではなく、その延長線上に収まってしまうリスクがある。

そのため、開発チームで試行錯誤を重ねながら、「病みつきになる味わいとは何か」をゼロベースで積み上げていくアプローチを取った。そんななか、従来の枠にとらわれず、新しい価値を生み出すために注目したのが「グミ」だった。


「『甘さの濃さ』と『香りの複雑性』をどう担保していくかを考える際に参考としたのが、若年層を中心に伸長しているグミ市場でした。そのなかでも、特に完熟系やトロピカル系のフルーツフレーバーが強く支持されていることが分かり、まずはこれを軸にフレーバーの方向性を設定しました」

その一方で、炭酸飲料としての「飲みやすさ」と「また飲みたくなる体験」を両立させるためには、単純な甘濃さだけでは不十分だと考えたそうだ。

そのため、スパイスやバニラに含まれるバニリン、チョコレートに含まれるピラジン類といった、嗜好性や報酬性の高いフレーバーを掛け合わせ、味わいに奥行きを持たせることに着手した。

「最終的には99種のフルーツ&スパイスを使った複雑な香りになりました。どのフレーバーを配合していくかを考えていくうえでは、2000通り以上の中から選び抜いたものが今の商品に反映されています」

思わず目を引くフェイスアイコンの工夫

これまでとは違う商品開発のアプローチを行ったNOPEだが、プロモーションに関してもSNSを中心に話題を集めているのは、「できるだけ早くお客様の頭の記憶に残ることを意識したから」だと大槻さんは説明する。

まずは“欲望に溺れる”というコンセプトに沿った「ブラック×マゼンタ」のカラーリングだ。色が記憶に与える影響は非常に大きく、既存の炭酸市場にない色味を選ぶことで、ギルティの世界観を視覚的に伝える手段として機能している。

さらに、飲んだ後の背徳感や、欲望の沼に溺れていくような表情を象徴するフェイスアイコンを配したのもユニークな点である。

パッケージの中央に配置されたこのアイコンについて、大槻さんは「特定のモチーフを参考にしたわけではなく、ギルティな時間に浸る“気持ちよさ”をそのまま表現した」と語る。

「罪悪感を抱きながら消費する行動を否定するのではなく、それ自体をポジティブに肯定し、“気持ちよさ”として昇華できるかを重視しました。そのため、ギルティ炭酸そのものの美味しさを訴求しつつ、その先にある『心地よさ』や『解放感』といった情緒的価値を表現したのが大きな特徴です」

そして、もともと大槻さんが缶コーヒー「BOSS」のブランド担当だったことから、街中にあるサントリーの自動販売機を使った“奇抜”なマーケティングも展開。

「体に悪い」は褒め言葉?サントリーNOPEが“2000万本超え”の理由。担当者が明かす、王道を捨てた“ギルティ”の意図
NOPEのプロモーションで実施した“自販機ジャック”の写真
象徴的なBOSSのロゴの上から、NOPEのフェイスアイコンのステッカーを貼るという“自販機ジャック”の施策は、まさかの“事前確認なし”で実施したという。

そんな大胆な手法も結果的には功を奏し、大きな注目を集める契機となった。


以上のような創意工夫を随所で展開し、2026年3月より発売を開始したところ、発売から1週間で出荷本数2000万本を突破するヒットとなった。

「甘すぎ」「リピはない」の声も想定内。SNSの賛否両論に動じない姿勢

初速としての売れ行きは、近年サントリーが販売した新商品の中でも異例のものだという。

しかし、SNSでは「甘すぎ」「体に悪い」「リピはない」などの“批判”の声も……。こういった反応に対して、どのように受け止めているのか。

「予想外の反響が寄せられ、さまざまな意見が聞かれることは非常にありがたい」

そう語る大槻さんは、次のように回答を寄せる。

「開発段階では、“病みつきになる味わい”を徹底的に追求し、お客様の声も踏まえて作り上げてきた商品です。そのため、中身とパッケージには強い自信を持っており、さまざまなご意見をいただけること自体にすごく感謝しています。

だからこそ、いただいたご意見には真摯に向き合いつつ、SNS上の反応に一喜一憂するのではなく、改善が必要と判断した点については今後のリニューアル等に活かしていく予定です」

味については「甘すぎる」と「もっと甘くてもいい」、デザインについては「奇抜すぎる」と「見覚えがあって親しみやすい」といったように、相反する意見が寄せられている。

それでも個々の意見に振り回されるのではなく、どのような場面で楽しんでもらうのが最適なのか。そこを見極めながら、冷静に意見を受け止めていくという。

また、小売店でNOPEの箱が山積みになっている件も、「在庫が多く残っているのではなく、売り場自体が活性化している状況」だそうだ。


「当社の営業を通じてNOPEを各流通・小売店に紹介したところ、多くの店舗で共感いただき、発売初期から通常では考えられない規模の売り場を確保いただきました。発売から1ヶ月以上経った今も、目立つ位置で陳列を続けていただいています。

ただし、売れ行きはとても好調ですが、売り場の規模が大きいぶん、お客様からは『在庫が多く残っているのでは』と見える側面も一定あると認識しています」

一過性の話題で終わらせないための次の一手

今後の成長戦略については、単に売り場を維持するだけでなく、新しい飲用シーンや楽しみ方の提案が鍵を握ると大槻さんは語る。

例えば、お酒の割り材としての活用だ。

発売前から、社内でもお酒との組み合わせも一考していたそうだが、SNS上ではすでに、“NOPE割り”の飲み方を紹介する投稿が見られる。

こうした飲み方の提案や、サントリーの酒類を仕入れる飲食店でのメニュー展開など、新たな広がりを積極的に仕掛けていきたいそうだ。

さらに、SNS上ではNOPEのフェイスアイコンが擬人化され、キャラクターとして楽しまれるなど、ユーザーによる二次創作も広がっている。

こうしたエンタメ的な遊び方は既存のサントリー商品では珍しく、「新たな勝ち筋を探っていきたい」と意気込む。

SNSを中心に賛否両論を呼んでいるサントリーのNOPE。一過性の盛り上がりなのか。それとも、長く愛される炭酸飲料なのか。

その本当の真価は、これからの結果次第で変わるだろう。


<取材・文・撮影/古田島大介>

【古田島大介】
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている
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