最近のサウナは、もはや「汗をかいて、水風呂に入る」だけの場所ではなくなっている。
音楽に合わせてスタッフがタオルを振り回すアウフグース、映画や文学をモチーフにした仕掛け、施設そのものにまつわるストーリーなど、まるで「テーマパーク」のようなサウナが増えている。


なぜサウナは、ここまでエンタメ化したのか。そして、なぜサウナーは「ただ気持ちいい」だけではなく、施設のコンセプトや物語に惹かれるのか。

サウナ好きから「西の聖地」と称される熊本県の「湯らっくす」を運営する西生吉孝氏に聞いた。

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サウナが「個人の癒やし」から「みんなで楽しむ場」へ

サウナのテーマパーク化の象徴として、まず思い浮かぶのがアウフグース。

サウナストーンにアロマ水をかけ、発生させた蒸気をうちわや大型のバスタオルで扇ぎ、入浴者に熱風を送るサービスのことだ。

「湯らっくす」などでは、単に熱風を送るだけでなく音楽を鳴らし舞い踊りながらアウフグースが実施される。入浴客も手拍子で盛り上げ、さながらライブ会場のような雰囲気に包まれることもしばしばだ。

サウナブームの契機とされるのは、タナカタツキ氏の漫画『サ道』がテレビドラマ化された2019年のこと。しかし、筆者の体感ではアウフグースはそのブームにやや遅れた時期に広まったように思う。

この点について、西生氏は次のように話す。

「コロナの影響で、飲み屋などに集まれなくなった若者がサウナに来るようになりました。新しいもの好きのその世代の子たちが、一部の施設でやられていたアウフグースを面白がったんですよ。それで、彼らはSNSを活発にやりますから『こんな面白いものがある』と発信するんですよね。
それで広まっていきました」

なぜアウフグースは「ショー」になったのか? 背景にはリーマンショック

コロナ禍では、飲食店はもちろんだが外出をためらう雰囲気だったため温浴施設も、集客に苦戦していた。それを、サウナとアウフグースのブームが救った形になったのだ。

アウフグースは元々、単に熱風を送るサービスだったが、それがショーアップされるようになった背景にも、コロナのような世界的な危機があったと西生氏。

「2008年に起きたリーマンショックで、ヨーロッパのスパがかなり集客を落としました。そこで集客の施策として、スパ協会がアウフグースの大会を始めたんですよ。そこから派手なパフォーマンスが入るようになりましたね」

かつて、温浴施設でのイベントといえば宴会場でのカラオケ大会やビンゴ大会、クラシックのコンサートや演劇だった。西生氏も「今は、宴会場のイベントはかなり減って、アウフグースがメインという施設が増えましたよね」と、時代の変化を口にする。

サウナはなぜ「テーマパーク化」したのか? 西の聖地・湯らっくす代表が明かす“ブームの裏側と終焉”
湯らっくすAMBIENT 福岡今泉


サウナは個人の体験からソーシャルな存在に変わった

サウナはなぜ「テーマパーク化」したのか? 西の聖地・湯らっくす代表が明かす“ブームの裏側と終焉”
アウフグース中に手拍子が起きるなど、他者と関わりながら派手な演出をする施設が増えることに、眉をひそめる古参のサウナ好きも少なくない。

そうした層は、サウナは「個人的なリラックス」の場であると捉えている場合が多いようで、かつての健康ランドなどでは男性の一人客が多かった。

しかし、西生氏はサウナのあり方も大きく変わってきているという。

「ソーシャルな場としてのサウナになってきました。だから、アウフグースなどで楽しく解放的な雰囲気を求める層が増えましたね。これは、日本だけではなくてアメリカやイギリスのサウナでも同じ傾向が見られます」

筆者も長くサウナ好きで、サウナは「個人的な体験」だと感じてきた。そのため、サウナに行ったことをSNSに投稿することは少なかったが、世間の認識は「サウナはソーシャルなもの」へと変化しているようだ。


「気持ちいい」だけではSNSに投稿できない? サウナに求められる物語性

サウナがソーシャルな存在になり、さらにSNSで体験が共有されるようになると、「気持ちよかった」だけではなく、「誰かに話したくなる何か」が求められるようになった。そのひとつが、施設のコンセプトや背景にある「物語」なのかもしれない。

そうした需要もあってか、サウナブーム以降にはコンセプチュアルなサウナが次々に開業し、サウナの口コミサイトにも「コンセプトが良かった」などのコメントが並ぶ。

「湯らっくす」では、西生氏が愛する映画『マッドマックス』や芥川龍之介の小説『蜘蛛の糸』をモチーフにした仕掛けがある。

また、8月28日にオープンした『湯らっくすAMBIENT福岡今泉』も、映画『七人の侍』をイメージさせる水風呂を作っており、コンセプトを前面に打ち出している。

そして利用者が施設の背景にある物語に共鳴することも。「湯らっくす」は、2016年の熊本地震で被災し、そこから復興していく姿が話題になった。

「復興とともに、がむしゃらに改装に取り組んでその様子をTwitter(現X)に投稿していたら、『熊本の湯らっくすって店がすげー改装してる!』って話題になり始めて。それまでは、全国的には知られていない地元のスーパー銭湯って感じだったんですけど、そこから一気に広がりましたね」

震災から復興していく過程そのものがSNSで共有され、それが「湯らっくす」の認知拡大につながった。

サウナはなぜ「テーマパーク化」したのか? 西の聖地・湯らっくす代表が明かす“ブームの裏側と終焉”
湯らっくすAMBIENT 福岡今泉


「物語性の時代は終わる」? 湯らっくす店主が語るサウナの現在地

サウナはなぜ「テーマパーク化」したのか? 西の聖地・湯らっくす代表が明かす“ブームの裏側と終焉”
湯らっくすAMBIENT 福岡今泉
ただ、「物語を重要視する時代は、もう終わり始めてると思いますよ」と西生氏はその理由を次のように話す。

「若いお客さんに、『サ道』の作者タナカタツキ先生の話をしてもポカーンとしてるんですよ。今の大学生の多くは、サウナブームが始まった頃は中学生くらいだから全然知らないんです。今の子たちはもうストーリーは求めてないように感じますね」

サウナブームが始まって7年ほど、「もうサウナが一般化したんだと思います」と西生氏。


ブームの中で、コンセプトを打ち出すサウナが林立し、時代が進んだことで物語性を求めない層が現れた時代に、新たに福岡に店舗をオープンさせたことになる。

コンセプトのパターンも出尽くしたように見えるが、他店との差別化をどのようにしているのか。

「都心の住宅ということもあって、騒がしいだけじゃなく静かな部分を打ち出そうと思っていました。だけど、プレオープンでたくさんの方に来ていただいてアンケートを見ると静けさの部分には誰も触れてないんですよ!(笑)みんな、エンタメ性のことばっかりで(笑)」

その上で語ったことは、西生氏のポリシーであるようにも感じられた。

「好きなことはどうやっても出ちゃうから、もう仕方ない。好きだから『こんなコンセプトがあります!』と言っちゃうけど、お客さんがそれを受け取るかどうかも好きにしてもらえばいいというだけです」

サウナは今、誰かと楽しみ、誰かに伝えたくなる「体験の場」へと変化している。エンタメ化は、その象徴ともいえるだろう。

一方で、「物語を重要視する時代は終わり始めている」と語る西生氏。サウナが一般化した今、奇抜なコンセプトそのものも珍しくなくなっている。そうした中で、最後に残るのは、作り手が本当に好きなものを形にすることなのかもしれない。<取材・文・撮影/Mr.tsubaking>

【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。
そのほか、旅行会社などで仏像解説も。
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