白菜が1玉1000円を超える――。長雨と日照不足の影響で、都内の店でも、そんな値段がつく事態になっているという。
鍋料理の季節を迎えるというのに、今年は白菜を入れることさえ、ためらう家庭もあるだろう。いつもの食卓を、いつもの値段で守ることが難しくなってきた。
 値札を見てため息をつく場面は今後も増えるだろう。そんななか、10月6日放送の『あさイチ』(NHK)が取り上げた特集も、暮らしの苦しさとのスズレを感じさせるものだった。

 火曜の定番コーナーは、暮らしに役立つ便利な裏技やアイデアを紹介している「ときめき!ハピ技」。この日のテーマは「家計の味方!『訳あり品』の見極め&活用術」だった。

 家計を圧迫する値上げへの対処が、“ときめくお得情報”として届けられていくことを予感させた。

 その言葉通り、番組は冒頭から、訳あり品の専門店に潜入。驚きの安さを次々と紹介した。2000円のうどんセットが399円、ペットボトルのレモネードは1円。アパレルショップでは、Tシャツが100円で売られているという。

NHK『あさイチ』訳あり品特集に「耐える側の工夫ばっかり」と...の画像はこちら >>

賞味期限と消費期限

 案内役として登場したのは、会社経営のかたわら、年間100日以上、全国の訳あり品の店をめぐっているという女性。声を弾ませて言う。


 「訳ありは一期一会」「宝さがしみたいでワクワクする」――。

 女性は商品のパッケージを裏返しては、賞味期限を確認。「賞味期限って(この日まで)おいしく食べられますということなので」と、期限までに食べなければ絶対にダメというわけではない、と説明した。

 賞味期限はおいしく食べられる目安で、過ぎてもすぐ食べられなくなるわけではない。一方、肉や魚などの消費期限は安全に食べられる期限で、過ぎたら食べないほうがいい、と伝えた。

 この区別を知ることは大切だ。ただ、その説明が「安く買うために、どこまで自分が許容できるか」という“せめぎ合い”に引っかかった視聴者もいたのだろう。

まさに情報番組の面目躍如

 続いて出されたのは、賞味期限が1年以上残っているグラタンソースが、なぜ半額以下なのかというクイズだった。

 選択肢は「A.季節限定の販売期間が終わった」と「B.新しいパッケージが販売されるようになった」。出演者が答えを選び、Aを答えて正解した博多大吉を、天の声のナレーターが「大吉さん、一人正解、やったー!」と祝う。

 商品は、“白菜”が旬を迎える秋冬だけの季節限定品。販売期間が終わり、残った在庫が訳あり品になったという。だが、ソースは安く買えても、もはや肝心の白菜には手が伸びない。
そんな強烈な皮肉も浮かんだが、あまり笑えない。

 その後も、値引きに驚く展開が続いた。輸送中に箱がつぶれたクッキーの詰め合わせは、2500円が499円。少し割れたものもあったが、「自分用だったら、ありかも」と紹介された。

 災害時の保存食セットは、5000円が499円。自治体が賞味期限を迎える前に入れ替えた備蓄食品だという。自治体は廃棄コストを減らせ、消費者は安く買える。食品ロスを減らす取り組みとしても、意味のある話だった。

 さらに、不ぞろいや傷のある野菜、ハンドクリームやシートマスクなど、さまざまな商品の安さを紹介。

余裕があるからこそ「宝さがし」になる

 こうしたVTRを受け、スタジオにいた北陽の虻川美穂子は「すごいお得ですね~!テンションあがっちゃいました!」と声を弾ませた。もちろん安く買えるならうれしいし、驚くほどの値引きには気持ちも上がるだろう。だが、買い物に楽しさを求める余裕がなく、少しでも支出を減らすために店を探している人には、まったく違う景色に見えたはずだ。

 同じ「安く買えた」でも、浮いたお金で何かを楽しめる人と、ようやく今日の食費をギリギリ予算内に収められた人とでは、その意味が違う。
後者にとって、生活を続けるための最低条件だ。この女性経営者は「宝さがし」と呼んでいたが、それは、見つからなくても困らない余裕があってこそである。

 そんなことを知ってか知らずか、鈴木奈穂子アナウンサーは、視聴者にも参加を呼びかけ、追い打ちをかける。

「こんな訳あり品を買ってお得だったとか、逆に安いと思って買ったら大失敗だったという体験談、お寄せください」

 お得だった話も、失敗した話も、番組を盛り上げる材料になる。だが、そのメッセージを書くうちに、自分はなぜここまで買い物に工夫を重ねているのかと、むなしくなる人もいるのではないか。

訳あり品がぎっしりの戸棚

 番組は、ネットで訳あり品を探す達人の家も訪ねた。夫と小学生の娘との3人暮らし。戸棚には、洗剤やシャンプー、飲み物、食品まで、ネットで購入した訳あり品がぎっしり並んでいた。

 家族のために情報を集め、安く買える機会を逃さない。その努力には頭が下がる。ただ、たくさんの商品が並ぶ戸棚を見て、誰もがうらやましいと思えるだろうか。

 開始から30分ほどたっても、特集は続く。今度は、大量に買った食材を最後までおいしく使い切るための料理だった。


 料理研究家で食品ロスアドバイザーの女性が、隠れていたキッチンから勢いよく顔を出し、「訳ありだって工夫次第!最後まで美味しく使い切りましょう!」とエールを送る。

 古いパスタをおいしくゆでるため、ゆで湯に加えるものは何か。牛乳、氷、しょうが汁の選択肢に、出演者たちは頭を悩ませた。正解は牛乳。安く買う方法だけでなく、買った後においしく食べる方法まで、明るいクイズで伝えられた。

物価高の構造をスルー…空虚さが浮き彫りに

 途中にニュースを挟みながら、特集は約1時間に及んだ。それだけ力を入れた内容だったからこそ、生活苦への視点が薄いことも、目立ってしまったのだろう。

 訳あり品を買うことも、食品を無駄にしないことも、価値のある選択だ。楽しんで買っている人の気持ちまで否定する必要はない。番組が紹介した知識に助けられた人もいるはずだ。

 ただ、物価高を前に、買う側ができることばかりを並べると、暮らしを守る責任が、その人の工夫だけに委ねられているようにも見える。

 生活情報番組だから、すぐに使える節約術を伝える。
それは番組の役割だろう。だが、物価高時代の生活苦への視点を持つことも、同じくらい大切ではないか。「こうすれば安く買える」と教えるだけでは、なぜ普通に買うことが難しくなったのかという問いが残る。

 食費を削るために店を回り、通販の価格を比べ、買ったものを無駄にしないよう献立を考える。その時間と労力も、家計を守る側が負担している。工夫をほめる言葉に加え、そこまでしなければ暮らしが成り立たない厳しさを受け止める言葉が、一言でもほしかった。

 Xには、こんな声が寄せられていた。

《節約しないと普通の生活も送れない事を問題視してほしい》

《ほんとに、、耐える側の工夫ばっかり求められるのしんどい》

 “耐える側の工夫ばっかり”というのは、節約術がいらないという意味ではないだろう。もう十分に工夫しているのに、まだ努力が必要なのか。そんな息苦しさがにじんでいる。

 博多華丸・大吉をはじめとする出演者は、リニューアルされたポップなスタジオでお得な情報に喜び、専門家は役立つ知識を伝える。誰かに悪意があるわけではない。
それでも、明るい相づちが重なるほど、暮らしの苦しさを受け止める言葉が聞こえない。そこに、この特集の空虚さがあった。

 値札の前でため息をつく顔を、政治家は知っているのだろうか。

<TEXT/川瀬孝雄>

【川瀬孝雄】
テレビ業界に身を置く傍ら、フリーライターとして芸能・テレビ番組を中心にコラムや分析記事を執筆。テレビ番組のトレンドやドラマの傾向、芸能人の動向などを独自の視点で読み解き、ニュースサイトを中心に寄稿している。
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