◆JERA セ・リーグ ヤクルト5ー2巨人(9日・神宮)

 久しぶりの感触が全身を貫いた。1点リードの4回1死。

初球だ。巨人の増田陸内野手(24)は両腕を畳みながら、高梨の投じた内角高め直球を振り抜いた。白球は小粒の雨を切り裂き、左翼席に着弾。「しっかりさばけました」。今季1号ソロは22年8月4日の阪神戦(東京D)以来、1009日ぶりのアーチ。軽やかな足取りでダイヤモンドを一周すると、顔をほころばせた。

 長い道のりだった。22年に69試合で打率2割5分、5本塁打、16打点の成績を残したが、23年は極度の打撃不振に陥り、1軍出場なし。昨年も1軍出場4試合で無安打に終わった。「情けないな、と」。浮上のきっかけの一つになったのは、坂本を参考にして新たに取り組んだ胸郭のエクササイズだ。「柔らかさが出て、いい感覚になった」と、スイング時の可動域が広がり、バットがスムーズに出るようになった。

4月22日に1軍へ昇格してから12試合の出場で打率3割と好調。待望の一発もついに飛び出した。G球場で1時間以上バットを振り込んでから神宮入りしていた背番号61は「僕の中で、すごいでかい」と誇らしげに言った。

 巡ってきたチャンスで結果を残せている要因は精神面の安定にもある。「僕自身、これまでメンタルにムラがあった」と自覚。今季から打席内での思考を変えた。「最高の結果を出すことも大事ですけど、それよりもまずは最低限やるべきことをやるということを大事にしている」。欲張らずに「最低限」の意識が安定した成績に結びついている。

 主砲の岡本が左肘を負傷して戦列を離れており、増田陸の攻守での活躍は大きい。2回1死二塁では右前安打を放つなど今季初のマルチ安打。一塁の守備では4回無死で岩田の痛烈なゴロを好捕してアウトにした。阿部監督は「どんどんね、チャンスだと思ってやってもらいたい」とさらなる活躍を願った。

「チームの4番が抜けてみんなでカバーしないといけない。若い選手が働けたら勝つと思うので頑張りたい」と背番号61。もう迷いはない。どん底からはい上がった男が不動の居場所を築いていく。(宮内 孝太)

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