◆JERA セ・リーグ ヤクルト2ー3巨人(10日・神宮)
巨人の浅野翔吾外野手(20)に待望の今季1号ソロが飛び出した。ヤクルト戦で今季初スタメン。
浅野らしい、全身を大きく使ったフルスイングだった。高めの変化球を捉えた打球がグングン伸び、中堅左に着弾した。今季初スタメンで迎えた8回先頭の第3打席、今季初安打を1号ソロで飾った。「いい風が吹いてくれたと思うので、風に感謝したい。最近まで3軍にいたので、ここで野球ができていることがちょっと信じられない」。3軍落ちした15日前には想像もできなかった光景が、目の前に広がった。
野球人生の中でも、どん底と言える日々を過ごした。2軍戦で打率0割台と低迷し、「バットが振れない」と関係者に漏らすほどの不振で4月25日に3軍降格。
4月下旬には、貪欲に駒田3軍監督に質問をぶつけた。「調子が悪い時にどんな考えで打席に入っていましたか?」。通算2006安打の名打者は、遊撃手の頭上を狙って打つことで調子を上げたこと。原前監督のような長距離砲は1本の本塁打で調子が戻ることもあり、考え方は人によって違うことを説明してくれた。
その上で、浅野に逆方向を狙う打撃をさせようとは思わないこと。そして重要な心構えを説かれた。「今後の成功体験の中で『自分はこれだ』というものが絶対に身についてくる。だから今は自分らしくバットを振ろう。取り組む中で新しい考えが浮かんで、それができるようになれば一段階レベルが上がったと思えるから」。シンプルな助言は、悩める若者の心に響いた。
巨人では松井秀喜以来4人目の高卒1年目から3年連続のアーチを放った20歳を、阿部監督は「大きかったね。いいきっかけにしてくれればうれしい」とたたえた。囲み取材の終盤、迷いのない表情で浅野は言った。「うれしいですけど、これだけで終わらないように。本塁打にこだわらず、安打を量産してレギュラーを取れるように」。取り戻した自分らしさを発揮して、一気に外野の一角を奪いにいく。苦しみを乗り越えた分だけ、喜びがあると信じて。(小島 和之)