ドジャースの左腕アンソニー・バンダ投手(31)は、救援陣の縁の下の力持ちだ。スリークオーター気味のフォームから最速154キロの直球を投げ込み、スライダーやチェンジアップ、シンカーも操って打者を抑える。

今季はここまで24試合で4勝1敗、防御率4.01。場面を問わずマウンドに上がる万能ぶりも大きな魅力だ。

 メジャー8球団を渡り歩いてきた苦労人。昨季5月にド軍に移籍してから飛躍的に伸び、ポストシーズンでも活躍。ド軍ブルペンに欠かせない存在となった。ファンからの信頼も厚く、登板となればスタジアムが大きく沸く人気者だ。マウンドに立つ度に「俺はこの瞬間のために全ての準備をしてきた」と心で繰り返し、自分の力でコントロールできることである投球に集中する。

 短く刈り上げた髪に、首や腕から手首、足首まで全身に入ったタトゥー…。道ですれ違ったら思わず道を空けてしまうような威圧感のある風貌(ふうぼう)だが、根は笑顔がかわいい話好き。

 「自己表現の方法で、全てのタトゥーには意味がある。家族の物語と自分の好きなものを彫っている。人はタトゥーを見て俺のことを知ろうとしてくれる」

 ポケモン好きでも知られ、3月の日本開幕シリーズで来日した際には港区の「ポケモン」本社にも足を運んだほど。

左足には、そのポケモンや人気漫画「ドラゴンボール」のキャラクターのタトゥーも入っている。知らない人とも「そのポケモンのタトゥー、いいね」「ありがとう。俺はポケモンが大好きなんだ」と会話が始まり、長いコミュニケーションに発展することもある。「もし俺のタトゥーを見て緊張しているような人がいたら、俺は自分から積極的に声をかけるよ」。バンダにとって、タトゥーは人の心を開くきっかけだ。

自宅に理髪室作った さらに意外な“特技”が「人の髪を切ること」。好きが高じて、自宅に理髪室を作ったほど。理髪店のような椅子に大きな鏡、いくつもの照明、各種のハサミやバリカンなど必要な器具は全てそろえた。「最初に人の髪を切ったのは高校2年生の時。ネットの動画を見てたくさん勉強したよ。4人、兄弟がいるんだが、みんなが練習台になってくれた。今はうまくなったから家族や友達、俺自身の髪も切っている」。

春季キャンプ中に長髪がトレードマークだったチームメートのゴンソリンをスキンヘッドにしたのもバンダだ。

 以前は人と話すのが苦手だったが、タトゥーと散髪を通してコミュニケーションの楽しさを知ったという。積み重ねの部分は野球にも、人生観にも重なる。「俺はこの競技の予測不可能な部分が好きだ。身体的にも精神的にも非常にタフな上、次に何が起こるか分からない難しさがあるのが魅力。そして誰にでも勝つ可能性があるのが野球だ。どんなに困難な状況や厳しい瞬間でも一歩一歩、前に進むことで乗り越えていく。それが俺の人生の哲学だから」。バンダのさらなる活躍に期待したい。(村山みち通信員)

 ◆アンソニー・バンダ(Anthony Banda)1993年8月10日、テキサス州生まれ。31歳。2012年のドラフト10巡目(全体335位)でブルワーズ入り。

14年トレードでDバックスへ移籍し、17年にメジャーデビュー。その後、レイズ、ジャイアンツ、メッツ、パイレーツ、ブルージェイズ、ヤンキース、ナショナルズ、ガーディアンズを経て24年5月にドジャース入り。メジャー通算162試合に登板し、14勝9敗、防御率4.80。188センチ、100キロ。左投左打。

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