長嶋さんは生前、スポーツ報知にコラム「勝つ勝つ勝~つ」を寄稿していた。近年は月に一回、入院先の部屋からテレビ観戦し、気になった選手や監督采配を、自身の経験を交えながら評論した。
阿部巨人が誕生した2024年、ミスターは「阿部監督も名将になれる」と大きな期待を寄せた。22年9月に緊急入院して以降は療養生活を送っていたが、昨年は東京ドームに幾度となく足を運んだ。病院の医師と入念な打ち合わせをした上での訪問だ。周囲は体調面を心配しながらも「ミスターは阿部監督が心配なんだろうな」と心中を察した。選手が集まるミーティングにも時々参加し「勝つ勝つ勝~つ」と声を張った。勝ってほしい思いが強く、でも、病気の後遺症で選手とうまく会話ができない。だからと、本紙紙面からも、メッセージを送り続けた。
コラムを振り返ると、ミスターは巨人への移籍組に優しかった。中田翔には21年9月13日と22年6月12日の二度、ジャイアンツ球場まで出向いて直接指導した。昨季限りで引退した梶谷には「プレースタイルが一番好きな選手なんだ」などと伝えて驚かせた。
長嶋さんは「巨人は勝ち続けないといけない。それが使命なんだ。いい選手がいないとチームは衰退する。チームはそうやって循環していく。勝つためにはスター選手は必要なんだ」と言い続けた。自身が監督時に清原和博や工藤公康、江藤智などを獲得した経緯もあり、移籍に伴うリスクも承知。新天地で思い切ってプレーしてもらうためにも、あえて自身のコラムで名前を出し、ミスターなりの愛を送っていた。
試合に負ければ監督の采配を指摘し、勝てば選手に賛辞を贈った。病に倒れ、それでもリハビリを続け、東京ドームに行くことを目標に頑張ったミスター。今年は3月28日の開幕戦に体調面を考慮して訪問できなかったが、「今年は巨人が日本一になる番だ。必ずなれるぞ」と強調した。
常に巨人のことを考え、勝利を祈る日々。今の巨人はどう映っているだろうか。「勝つ勝つ勝~つ」は、もう聞けない。読むこともできない。ただ、阿部巨人にはすでに、ミスター魂が宿っている。(長嶋茂雄担当・水井 基博)