「ミスタープロ野球」と国民に親しまれた巨人の長嶋茂雄終身名誉監督=報知新聞社客員=が3日、その生涯の幕を閉じた。89歳だった。
長嶋がグラウンドを去った日、王の頭上には連続三冠王の王冠が輝いた。ON時代に栄光のピリオドを打った日にふさわしい花道だった。それは新しい長嶋監督、王時代へのスタートだからだ。
「ぼくはNO2」。王はこういい続けてきた。記録が、成績が長嶋を追い抜いても、王はNO1の座を譲ってきた。「だれがなんと言おうと、ぼくは長嶋さんを目標に追いつき追い越せと励んできた。NO1は長嶋さんしかいない。長嶋さんがいたからこそ、いまの王貞治があるといえるのですから…」。
長嶋が王に頭を下げたのは、だれもいない試合前の外野でのことだった。「きょうはあとで引退の介添え役になってもらう。お世話してもらうよ」と長嶋。「ミスター…」。王は返す言葉に詰まった。「ミスター、長い間本当にご苦労さまでした」。
バットマンの栄誉を二分してきた2人が手を握り合った。お互いの胸の内はわかりすぎている。短い言葉で十分だったのだろう。
「きょうはひとつ、パッとアベックホーマーといきましょう」。開始直前の王の約束を、4回長嶋が左翼席へアーチをかけて実行してみせた。そして―。
ON時代から“O時代”へ。プロ野球に新しい一ぺーじがしるされる。「今シーズンはオフの休養がとれないままキャンプに入った。田淵に8本差までホームランを離されたときは、正直いってタイトルなしを覚悟した」と王は、今シーズンを振り返る。体の手入れが十分でなかった。一本足の宿命と言われる右ひざの故障、史上最多の四球、敬遠…。ゆくてをはばむ数多くの障害をすべて乗り越えて王は勝った、今年もまた。
張りさけんばかりの声で、その史上最強打者が泣いた。土で汚れた手で頭中を覆った。