ミスターとの「ON砲」でプロ野球史に大きな足跡を残した王貞治ソフトバンク球団会長(85)が3日、都内で取材に応じた。プロ野球最多となる通算106回のアベックアーチを放ち、指揮官として日本一を争った盟友との別れに「存在感ではかなわないので、僕はホームランを追いかけた」などと思い出を語った。
「こうなってみて、改めて存在の大きさを思い知らされましたね」
こみあげる悲しみや寂しさを振り払うかのように、王さんは時折大きな身ぶり手ぶりも交えながら、ミスターへのあふれる思いを口にした。
記録の王と記憶の長嶋。通算868本塁打の世界記録を持つ自身と、圧倒的な勝負強さでファンの心を躍らせた長嶋さんを比べるキーワードとして、王さんは何度も「存在」という言葉を繰り返した。
「ユーモラスなところもあったし、明るいし、まぁ長嶋さんなら何でも許されちゃうっていう存在でした。打てなくても落ち込むわけじゃないし、打ったからって偉そうにするわけじゃない。不思議な魅力っていうか。だからファンにもメディアのみなさんにも特別な存在と扱われてたんじゃないかな」と、長嶋さんの持つカリスマ性を評した。「存在感では全然かないませんから、僕はホームランをとにかく追っかけた。数字でしか争えませんから、追いつけ追い越せって思いでした」と、盟友であると同時にライバルでもあった若き日を振り返った。
尽きることのない思い出。監督としても00年の「ONシリーズ」で日本一を争った。結果は2勝4敗。
そんな「特別な存在」は晩年、病との長い闘いを強いられた。「何であれだけ世の中に尽くした人が苦労しなきゃいけないのかっていうのが、私の正直な気持ち」と天命を恨みながらも、「つらいリハビリにも前向きだった。野球をやっていた時もそうだったけど、退くってことのない人生だった」と、「特別な存在」であり続けた89年に思いをはせた。
訃報(ふほう)を受け、いち早く長嶋家を弔問に訪れた。「顔を見てホッとしました。長嶋茂雄が昔と変わらずそこにいる。残念なことではあるけど、長嶋さんがいたってことに僕はホッとした」。最後にもう一度、強烈な光を放つ「存在感」をかみしめた。(星野 和明)