2004年アテネ五輪で、谷(旧姓・田村)亮子さん(49)は日本柔道女子史上初の連覇を果たした。谷さんを家族のように愛してくれた長嶋茂雄さんは、03年暮れに行われた元オリックス、巨人外野手の谷佳知氏(52)との結婚披露宴に主賓として出席。

後編では祝辞として贈られ、谷さんが今でも大切にしている言葉を明かした。(取材・構成=谷口 隆俊)

 2003年12月20日、谷佳知氏との結婚披露宴。主賓の長嶋さんとともに、次女の三奈さんも出席。16歳の時から取材を通じて知り合い、「亮子ちゃん」「お姉ちゃん」と呼び合う仲。長嶋父娘は家族のようにかわいがってくれた。

 「親子で出席してくださり、本当に幸せでした。主人(佳知氏)もアテネ五輪予選から長嶋ジャパンの一員としてプレーして、私は11月の札幌予選も応援に行きました。ここで抜けたらピンチという打球を主人が背面キャッチして…。試合のインタビューで勝因にその守備を挙げて、たたえてくれたことを覚えている」

 長嶋さんの披露宴の祝辞は今も忘れない。「野球が金メダルを取って、亮子さんは連覇を」と五輪への熱い思いを口にした。

 「結婚の祝辞なんですが、まるで五輪の結団式を交えたような…。最高の祝辞を披露してくださいました」

 “燃える男”の異名通り、何事にも情熱を示す。

贈られた言葉は今でも大切にしている。「自重自愛」―。自分の心と体を大切にするという意味だ。

 「長嶋さんは、超越した存在であり、常に期待を超えた姿がある。そしてファンは、最も洗練されたプレーを期待してくれる。だからこそ、自分を大切にすることの意味も痛感されていた。ファンを大切にする長嶋さんならではの祝辞に心が大きく動きました」

 谷さんは、その金言とともに「田村で金、谷でも金」を達成。表彰式でアテネの空の一番近いところに日の丸を揚げた。

 中3で初対面した姿を思い出した。当時身長143センチの谷さんは一瞬で魅了された。

 「180センチ近くあって、すごく体が大きいのに、腰を落として目線を私に合わせて話をしてくれた。こうでなければならないんだなって15歳の私は感じ取りました。

目配り、気配りができて、心配りもできる方。だから、皆さんに愛されると思った。ファンの数だけ、その期待に応えようとしてくださるんです」

 谷さんが感じる長嶋さんの巨大なオーラは、ファンを愛する気持ちから発せられているとその時、分かった。

 ◆谷さんの04年アテネ五輪 柔道女子48キロ級で初戦の2回戦から3試合連続の一本勝ち。迎えた決勝ではジョシネ(フランス)に優勢勝ちし、00年シドニー五輪に続く金メダル。結婚後に迎えた大舞台で「田村で金、谷でも金」との公約通りの連覇となった。

 ◆04年アテネ五輪の野球 日本は長嶋監督が同年3月に病気のため入院し、中畑清ヘッドコーチが指揮を執った。1次リーグを6勝1敗で1位通過したが、準決勝でオーストラリアに敗戦。カナダとの3位決定戦を制し、銅メダルを獲得した。主力に高橋由、城島、松坂、上原らがいた。

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